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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

不正競争防止法に基づく営業秘密管理指針のポイント:最新実務と企業のガバナンス対応

営業秘密が守られていなければ、どれだけ優れた技術やノウハウを持っていても、企業の競争力は簡単に失われてしまいます。

こうしたリスクに対して、企業がどのような管理体制を構築すべきかを示しているのが、経済産業省の「営業秘密管理指針」です。本指針は、不正競争防止法に基づき、営業秘密として法的保護を受けるための具体的な要件や管理方法を整理したものであり、実務にも大きな影響を与えています。

2003年の制定以降、社会環境の変化に応じて改訂が重ねられてきましたが、2025年3月には、デジタル化や働き方の多様化を踏まえた重要な見直し(以下「令和7年改訂」といいます)を経て、現在は新たな実務フェーズへと移行しています。

本記事では、営業秘密管理指針の基本的な役割を整理したうえで、指針の重要ポイントと、企業の法務担当者が押さえておくべき最新の実務上の要点を解説します。。

営業秘密の漏洩リスクが高まる背景と不正競争防止法上の課題

改訂の背景

近年、企業を取り巻く業務環境の変化により、営業秘密の管理を巡るリスクも大きく変化しています。

社会情勢の変化に伴う新たな営業秘密漏洩リスク

企業の業務環境の変化が秘密管理に大きな影響を与えています。

従来、営業秘密は企業の施設内で管理されることが前提とされていましたが、テレワークの普及により社外で情報に接する機会が一般化しました。物理的な管理が及ばない環境での業務は、漏洩リスクを高める要因となっています。さらに、クラウドサービスの利用拡大や生成AI・自律型AIエージェントの普及といった急速な技術革新も、従来の管理手法の見直しを迫る要因となりました。

雇用形態の多様化も、営業秘密管理に新たな課題をもたらしています。外部から派遣される労働者が営業秘密に接する場面が増えているほか、兼業・副業の普及により、従業員が他社の秘密情報に関与する機会も広がっています。

物理的な管理に依存してきた従来の秘密管理手法には限界が生じており、外部人材との間での適切な秘密保持契約(NDA)の運用が不可欠となっています。

参考:経済産業省|営業秘密~営業秘密を守り活用する~

情報セキュリティの3要素と営業秘密管理のバランス

従来の情報管理では、機密性が過度に重視される傾向にありました。

しかし、国際的な規格では、機密性・完全性・可用性の3要素(CIA)のバランスを取ることが求められています。機密性を過度に高めた結果、情報の可用性が損なわれ、従業員が業務遂行のために規程を逸脱して情報を持ち出すといった行動を誘発し、かえって漏洩リスクが高まるという実務上の課題が指摘されています。

指針では、こうした現場の実態を踏まえ、過度な機密性偏重から脱却し、実効性と持続可能性を両立させた管理水準が示されています。

本指針は法的拘束力こそ有しませんが、裁判所が個別事案を判断する際の重要な参照基準となり、実務にも強い影響を及ぼします。平成15年(2015年)の全面改訂では、それまで曖昧だった「最低限求められる管理水準」が具体化されました。今回の令和7年(2025年)改訂は、この平成15年改訂の方向性を踏まえつつ、デジタル環境の進展や近時の裁判例を反映し、実務に即した基準へとアップデートしたものと位置づけられます。

参考:経済産業省|営業秘密管理指針

不正競争防止法における営業秘密の要件と管理指針の主要ポイント

営業秘密として法的保護を受けるための中核要件である「秘密管理性」を中心に、裁判例を踏まえた具体的な判断基準の明確化が図られています。

不正競争防止法における営業秘密の要件と「秘密管理性」の明確化

法において営業秘密として認められるためには、「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3要件を満たす必要があります。

このうち実務上最も争点となる「秘密管理性」について、客観的な解釈が示されています。まず重要なのは、秘密管理性の判断が、従業員個々の主観ではなく、組織全体として認識可能な状態にあるかという「客観的観点」で評価される点です。これにより、個々の従業員の認識の有無によって要件充足が左右されるものではないと整理されました。

また、アクセス制限の考え方についても実務に即した柔軟な整理が示されています。業務上の必要性から特定の部署に広くアクセス権限が付与されている場合であっても、その範囲が限定されていれば秘密管理性は否定されず、個人単位での厳密な限定までは求められないことが明確化されています。

さらに、媒体ごとの具体的な管理措置も例示されています。紙媒体では「マル秘」表示や施錠保管、電子媒体ではファイル名への表示やアクセス制御、クラウド上での権限管理などが挙げられています。

大学・研究機関における営業秘密と不正競争防止法の適用

民間企業のみならず、大学や研究機関も実質的に同様の規律の対象であることが明確化されています。
具体的には、大学等が不正競争防止法上の「事業者」に該当することを前提とした裁判例を踏まえ、研究成果や実験データといった情報についても、指針に基づく適切な管理が求められます。

不正競争防止法上の営業秘密と限定提供データの関係性

法には、営業秘密とは別に「限定提供データ」という保護類型が存在します。限定提供データとは、特定の者に提供することを前提に、電磁的方法で相当量蓄積・管理されている技術上または営業上の情報を指します。

営業秘密と限定提供データは相互補完的な関係にあります。すなわち、非公知性などの要件を満たさず営業秘密として保護されない情報であっても、限定提供データに該当すれば法的保護の対象となり得ます。

企業としては、自社の保有データをいずれの保護類型で管理するのかを整理し、両制度を前提とした情報管理体制を構築することが重要となります。

クラウドサービス・生成AIと「秘密管理性」

外部のクラウドサービスや生成AIを利用する場合についても、詳細な注記がなされました。クラウド利用にあたっては、外部サーバで保管・管理する場合であっても、階層制限等の適切なアクセス制御がなされていれば、秘密管理性は失われません。

生成AIに関しては、管理単位において秘密管理されている情報を生成AIに利用したとしても、それだけで秘密管理性が否定されることはありません。ただし、当該情報が企業以外の第三者(生成AIベンダー等)に提供される場合は、秘密管理性が否定されるリスクがあるため、十分な注意が必要です。

営業秘密の保護に向けた企業の最新実務対応

改訂後の動向

指針の考え方を前提としつつ、企業は最新のIT・法務動向に対応した現実的な情報管理体制を構築する必要があります。

AI利用における営業秘密アクセス権限の管理

かつては「個人向け無料生成AIへの社内情報入力防止(シャドーAI対策)」が主な課題でしたが、現在は社内データやシステムと直接連携して動作する「自律型AIエージェント」の活用が進んでいます。 単に「入力禁止ルール」を策定するだけでなく、AIエージェントにどの階層の営業秘密までアクセス権限を与えるかという「ID・アクセス管理(IAM)」の設計と、外部ベンダー側に秘密情報が学習・保持されない契約体系の整備が不可欠です。

営業秘密管理規程の点検と「可用性」への配慮

自社の秘密管理規程や情報セキュリティ規程が、「機密性と可用性のバランス」を適切に保てているかを点検する必要があります。 過度に厳格なルールは現場で守られず、形骸化して結果的に情報の不正持ち出しを招くリスクがあります。テレワークやクラウド利用を前提とした実効性のあるアクセス制御を設定し、従業員が業務上無理なく遵守できるルールへと見直すことが重要です。

経済安全保障を踏まえた営業秘密の高度な管理体制

「重要経済安保情報保護活用法」等の施行に伴い、国の安全保障や先端技術に関わる企業では、特定秘密や重要経済安保情報の適切な取扱体制(セキュリティ・クリアランス制度の運用など)が求められています。自社の営業秘密管理と連携させ、より高度なセキュリティ格付けやアクセス制限を適用する階層的管理が必要とされています。

フリーランス・外部人材との営業秘密保持契約の最適化

「フリーランス・個人事業主保護新法」などの定着に伴い、業務委託先や副業人材との契約実務も変化しています。 外部人材を活用する際、競業避止義務や広範すぎる秘密保持義務を過度に課すことは、優越的地位の乱用やトラブルに繋がる恐れがあります。営業秘密の適切な保護措置を講じつつ、契約相手方の権利を不当に害さないバランスの取れた定型契約・NDAを策定することが求められます。

営業秘密漏洩時のフォレンジック調査と不正競争防止法に基づく法的対応

どれほど対策を講じても、退職時の不正持ち出し等のリスクを完全にゼロにすることはできません。 有事の際に迅速に法的措置(仮処分・損害賠償請求など)を講じられるよう、社内PCやネットワークの操作ログを客観的証拠として保全・解析する「デジタルフォレンジック体制」の規程化および手順の整備を事前に進めておくことが実務上きわめて有効です。

まとめ:営業秘密管理の対応は専門家へ相談を

営業秘密管理指針は、企業が守りやすさと守りの堅牢さを両立させるための現実的かつ実効的なガイドラインです。しかし、情報の性質やAI・クラウドといった技術の進展、最新の法的規制(経済安保やフリーランス関連法など)に合わせて、企業の管理体制も常にアップデートしなければなりません。

自社の情報管理体制の構築や社内規程の改訂、AI導入に伴う情報ガバナンスの設計にあたっては、不正競争防止法だけでなく、最新のIT・データ法務に精通した弁護士などの専門家へ相談することをお勧めします。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、インターネット、先端技術分野と法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。不正競争防止法に準拠した営業秘密管理規程の整備、AI利用ガイドラインの策定、秘密保持契約(NDA)の作成・レビュー、情報漏洩発生時の法的対応など、企業のガバナンス強化に向けたソリューションを提供しております。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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