ICOに対する法規制と合法的に行うための方法とは
ICOとは、Initial Coin Offeringの頭文字をとった略称であり、一般的には、企業が公衆から暗号資産(仮想通貨)を調達して、その対価として電子的なトークンを新規発行する行為をさします。
ICOは、2017年5月頃、暗号資産の価格急騰を受け、資金調達の手段として爆発的に増えました。当時はICOを明確に規制する法律がなかったため、株式の新規公開(IPO)による資金調達に比べて簡易・迅速に巨額の資金調達が可能である点で、日本でも注目されました。
他方で、詐欺的な事案も散見されたことから、中国を筆頭に世界各国でICOに対する規制の動きが強くなり、日本でも、令和元年(2019年)の金融商品取引法の改正で、ICOを規制することが明確化されました。
では、ICOに対する法規制が明確化された現在において、ICOを行うためにはどうすればよいのでしょうか。本記事では、ICOに対する法規制の概要とともに、合法的にICOを行うための方法について解説します。
この記事の目次
ICOとは
ICOとは、前述のとおり、企業が公衆から暗号資産(仮想通貨)を調達するために、電子的なトークンを新規発行する行為です。
一般的に、株式等の法律上に列挙された「有価証券」を用いた資金調達に対しては、金融商品取引法(以下「金商法」)の規制が及びます。しかし、ICOトークンは、発行者がその内容を自由に定められることから、いすれの有価証券にあたるのか(もしくはそもそも有価証券にあたらないのか)が法律上明らかではない、という特徴があります。
そこで、まずはICOトークンの内容に応じて事実上の分類をしたうえで、各類型に対してどのような法規制が関わってくるのかという観点から、以下解説します。
ICOトークンの類型
金融庁の報告書によれば、ICOトークンの内容は、次の3つに分類されます。
投資型 | 発行者が将来的な事業収益等を分配する債務を負っているとされるもの |
その他の権利型 | 発行者が将来的に物・サービス等を提供するなど、上記以外の債務を負っているとされるもの |
無権利型 | 発行者が何ら債務を負っていないとされるもの |
では、上記分類を前提に、法規制の適用関係を考えていきます。
ICOに対する法規制の全体像
ICOに対して適用される可能性がある法律としては、主に金融商品取引法と資金決済法が考えられます。
金融商品取引法 | 投資性のある有価証券の発行や金融商品等の取引等の公平性を確保し、投資家を保護するための法律 |
資金決済法 | 情報通信技術等の発達により、銀行が提供してきた従来のサービスとは異なる新たなサービスに対処し、イノベーションを促進するとともに利用者を保護するための法律 |
金商法と資金決済法の適用を分ける大まかな視点は「投資性があるか否か」です。
関連記事:暗号資産に関する規制とは?資金決済法と金融商品取引法との関係を解説
ICOと金商法
金商法は、その適用対象となる投資性のある金融商品を「有価証券」として個別に明文で列挙しています。株式や社債等は、その代表例です。金商法の適用対象となる場合、有価証券の類型に応じて、その発行や売買等の一定の行為に対して、投資家保護のための情報開示や業規制等の様々な規制がかかります。
また、金商法は、明文で列挙されていないが投資性のある新たな金融商品についても対処するために、有価証券を包括的に定義する規定として2条2項5号を置いており、同号に該当する有価証券を一般的に「集団投資スキーム持分」といいます。
前述のとおり、ICOトークンは、有価証券として個別に明文で列挙されているわけではありません。したがって、ICOが金商法の適用対象となるかどうかは、当該ICOトークンの内容に応じて、集団投資スキーム持分に該当するか否かを個別具体的に判断する必要があります。
集団投資スキーム持分に該当する場合
集団投資スキーム持分の要件は、次のとおりです。
- 権利を有する者が金銭等を出資または拠出すること
- 拠出された金銭等を充てて事業(出資対象事業)が営まれること
- 権利者が出資対象事業から生じる収益の配当または当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利を有すること
なお、上記要件を満たす限り、いかなる法形式(組合や社員権等)であっても、集団投資スキーム持分に該当します。
さらに、上記要件1の「金銭」には暗号資産が含まれること(2条の2)が令和元年改正により明文化され、これにより、暗号資産を出資する行為についても金商法の適用対象となることが明確化されました。
前述のICOの類型に従っていえば、投資型のICOトークンは基本的に集団投資スキーム持分に該当し、金商法の適用対象となることが明らかになった、ということです。
他方で、「その他の権利型」や「無権利型」のICOトークンは、出資対象事業からの収益の配当や財産の分配を求めることができる権利を有するものではない(上記要件3を満たさない)ため、金商法の適用対象ではありません。したがって、「その他の権利型」や「無権利型」については、資金決済法の適用対象となるかを別途検討する余地があります。
ICOと資金決済法
資金決済法は、投資性のない支払・決済手段について、「暗号資産」や「前払式支払手段」等の類型に応じて種々の規制を課しています。
したがって、「その他の権利型」や「無権利型」のICOトークンに対して資金決済法の適用があるか否かは、当該トークンが「暗号資産」や「前払式支払手段」にあたるかを個別具体的に判断する必要があります。
「暗号資産」に該当する場合
法律上、「暗号資産」(2条5項1号:1号暗号資産)とは、次の要件を満たすものをいいます。
- 不特定の者に対して物品の購入や役務の提供に対する代価の弁済に使用でき、かつ、不特定の者を相手に法定通貨と相互に交換できること
- 電子的に記録され、移転できること
- 法定通貨または通貨建資産ではないこと
- 金商法2条3項に規定する「電子記録移転権利」を表示するものでないこと
要件4の「電子記録移転権利」とは、簡潔に言えば、”電子的に記録・移転可能な集団投資スキーム持分”です。このように、法律上の「暗号資産」は、投資対象となる金融商品とは明確に区別され、支払・決済手段として規律されています。
なお、上記2~4の要件を満たし、不特定の者と相互に交換可能な財産的価値も暗号資産(2条5項2号:2号暗号資産)に該当します。
関連記事:暗号資産(仮想通貨)とは?法律上の定義や電子マネーなどとの違いを解説
暗号資産に該当する場合、「暗号資産交換業」の登録を受けなければ、次の行為を業として行うことはできません(63条の2)。
一 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換 二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理 三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること。 四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。
資金決済法2条7項
暗号資産交換業は、暗号資産の発行自体を規制の対象としていませんが、ICOトークンが暗号資産に該当する場合、当該ICOトークンを発行して、その対価として暗号資産を調達することになるため、「他の暗号資産との交換」に該当し、暗号資産交換業の登録が必要となります。
関連記事:カストディ業務とは?暗号資産交換業者に対する規制について解説
「前払式支払手段」に該当する場合
「前払式支払手段」(3条1項)とは、次の要件を満たすものをいいます。
- 金額・数量等の財産的価値が記載・記録されていること
- 金額・数量等に応ずる対価を得て発行される証票等または番号等であること
- 特定の者に対して代価の弁済に使用できること
前払式支払手段に該当する場合、「自家型」か「第三者型」かに応じて、発行者に対して、登録や届出、発行保証金の供託等の義務が課されます。
発行保証金の供託義務は、基準日における未使用残高(総発行額=総回収額)が1000万円を超えた場合に、当該残高の50%に相当する現金を発行保証金として供託しなければならない(法14条1項、施行令6条)ため、資金調達というICOの目的にそもそも沿わない可能性があります。
もっとも、発行日から6か月以内に限り使用できるものなど、一定の要件を満たしたものについては例外的に資金決済法の適用除外とされています(法4条2号、施行令4条2項)。
なお、暗号資産交換業ガイドラインⅠー1-1によれば、暗号資産と前払式支払手段は、不特定の者に対して使用できるものが暗号資産、特定の者にしか使用できないものが前払式支払手段、という点に違いがあります。
違法なICOに対する罰則
ICOが集団投資スキームに該当し、金商法の適用対象であるにもかかわらず、金融商品取引業の登録を受けずに無登録でICOを行った場合には、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はこれを併科する、とされています(金商法197条の2)。
また、資金決済法に違反して、暗号資産交換業の登録を受けずに規制対象の行為を行った場合や、供託義務等を履行せずに前払式支払手段を発行した場合には、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこれを併科する、とされています(資金決済法107条)。
さらに、事案によっては、これらに加えて詐欺罪、出資法違反、特定商取引法違反等に問われる可能性も高く、とても重い罰則となります。
合法的にICOを行うための方法
ICOを行うにあたっては各種法規制を遵守する必要がありますが、暗号資産交換業の登録を受けている第三者を利用して実施する以外には、金商法や資金決済法の適用を全く受けずに自社だけでICOを行う方法は、現状、次の1つしかありません。
- 資金決済法の適用除外要件を満たす(使用期限を発行日から6か月以内とする)前払式支払手段としてICOトークンを発行する
しかし、そもそもICOを実施するのは、これから進める新たなプロジェクトのための資金調達である場合がほとんどであると考えられることから、6か月という使用期限は、購入者にとって、当該トークンを価値のないものとしてしまうでしょう。
もちろん、金融商品取引業や暗号資産交換業の登録を受け、正面から適法にICOを行う方法も考えられますが、いずれも登録要件が厳しく、中小企業がこれらの要件を満たすことは現実的ではありません。
また、適用除外要件を満たさない前払式支払手段を発行することも考えられますが、前述のとおり、登録や届出、発行保証金の供託義務等が課される可能性があり、資金調達というICOの目的にそもそも沿わないおそれがあります。
したがって、暗号資産交換業の登録を受けている第三者を利用する以外には、合法的かつ実効的にICOを実施する方法はない、といえるでしょう。
まとめ:ICOを行う場合は弁護士に相談を
以上のように、ICOは、従来、簡易・迅速な資金到達手段として注目されましたが、法改正等により広く規制の対象となっています。また、ICOを一括りに論じることはできず、発行されるICOトークンの内容に応じて、法律の適用関係も複雑です。
したがって、ICOの実施を検討される際は、暗号資産や金融規制に詳しい専門の弁護士に相談することをおすすめします。
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