暗号資産(仮想通貨)の節税対策とは?課税のタイミングと注意点について解説
暗号資産(仮想通貨)の取引量は近年急速に増加していますが、一方で暗号資産の税法上の取り扱いは頻繁に改正され、その内容も複雑です。例えば、2023年度税制改正においては、法人が保有する暗号資産の期末評価に関する改正が行われました。暗号資産を取り扱う法人は、これらの税制改正を迅速にキャッチアップしていかなければなりません。
この記事では、暗号資産の課税のタイミングや法人税と所得税の違い、節税の手段やその注意点などの、暗号資産の税制について解説します。
この記事の目次
暗号資産(仮想通貨)の課税の仕組みとは?
暗号資産(仮想通貨)には、どのような形で課税がされているのでしょうか?ここでは、さまざまなケースにおける暗号資産の課税の仕組みについて解説します。
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暗号資産(仮想通貨)を売却した場合
まず、暗号資産(仮想通貨)を売却したことによって生じた利益はどのように処理されるのでしょうか。
例えば、100万円で1ビットコインを購入し、その後150万円で売却した場合、利益は(売却収入ー取得原価)によって算定されるため、150万円ー100万円=50万円が利益となります。そして、この利益に対して所得税が課されるわけですが、所得税法上は、原則として「雑所得」として処理されます(所得税法第35条)。
参考:国税庁|暗号資産に関する税務上の取扱い及び計算書について(令和4年12月)
この雑所得は総合課税のため、所得額に応じて税金が課せられることになります。我が国では総合課税の税率は超過累進税率が採用されていることから、所得金額が増えるほど税率が上がります。そのため4千万円を超えた所得金額には最高税率の45%がかかることになり、さらにここに住民税が一律10%加わるため相当の負担増となります。
上記の例では、仮に課税所得金額が50万円であれば50万円×5%で2万5千円の所得税を確定申告において申告し、納付する必要があります。
法人税法上も売却収入と取得原価との差額が益金又は損金に算入されます。上記の例であれば、差額の50万円が益金に算入されることになります。
消費税法上、支払手段及びこれに類するものの譲渡は非課税とされています。国内の暗号資産交換業者を通じた譲渡は、この支払手段等の譲渡に該当し、消費税は非課税となります。また消費税の確定申告を一般課税により行う場合には、仕入控除税額を計算する際、非課税売上高に含めて計算する必要はありません。
一方、暗号資産交換業者に対して暗号資産(仮想通貨)の売買に係る仲介料として支払う手数料は、消費税の課税対象になります。そしてその手数料は、消費税の申告において個別対応方式を採用する場合、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ(いわゆる非課税売上げに対応する課税仕入れ)に該当することとなります。
暗号資産(仮想通貨)を他の暗号資産と交換した場合
先述の暗号資産(仮想通貨)を売却した場合に、その利益に対し税金がかるのはイメージしやすいかと思いますが、それ以外にも他の暗号資産(仮想通貨)と交換した場合にも、(交換によって得た暗号資産(仮想通貨)の時価ー交換した暗号資産(仮想通貨)の取得原価=利益)として当該所得に対して所得税が課されることには注意が必要です。
例えば、先程の100万円で取得した1ビットコインが値上がりし、150万円相当の10イーサリアムと交換したとします。すると、100万円のビットコインで150万円のイーサリアムを手にしたわけですから、交換しただけで150万円ー100万円=50万円の利益が生じたことになり、この50万円に対して所得税が課せられます。
ここで留意すべき点は、交換しただけなので実際に現金を獲得したわけではないことです。確定申告において所得税の納付が求められるため、納税を見越して必要な資金は手元に残しておく必要があります。
法人税の場合、上記の例では50万円の利益が益金に算入され課税所得の計算に含まれます。
暗号資産(仮想通貨)を期末まで保有し続け、期末評価する場合
期末に保有する暗号資産(仮想通貨)は会計上、実務対応報告第38号に基づき、活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額(期末時価)をもって当該暗号資産(仮想通貨)の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理するとされています。活発な市場が存在しない場合、取得価格をもって貸借対照表価額とします。
なお、期末における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)が取得原価を下回る場合には、当該処分見込価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価と当該処分見込価額との差額は当期の損失として処理します。この部分に関しては、棚卸資産の商品評価損の処理(企業会計基準第9号)と類似の処理と考えてください。
法人税においては会計上の処理に準拠し、活発な市場が存在する場合には、時価法により評価した金額を暗号資産の評価額とします。そして、評価益又は評価損が生じた場合には、それぞれ益金又は損金に算入します。対して、活発な市場が存在しない場合には、その暗号資産は原価法により評価して金額を評価額とします。そのため益金又は損金は生じません。
所得税法においては、法人税法とは異なりこのような取り扱いはなく、期末に時価評価は行わないことになっています。つまり、個人が暗号資産を保有しているだけでは課税されず、暗号資産の取引によって利益があった年度のみ、その利益が雑所得として処理されることになります。
暗号資産(仮想通貨)で他の資産を取得した場合
暗号資産で商品を購入した場合には、保有している暗号資産を譲渡したと考えられるため、購入した商品の価額と譲渡した暗号資産の取得原価との差額を所得金額として計算します。これは法人税、所得税共通の処理となっています。
また、消費税の確定申告を一般課税により行う場合には、仕入控除税額を計算する際、商品の購入に際し支払った額を課税売上高に含めて計算します。
暗号資産(仮想通貨)にかかる税金を節税するには?
暗号資産(仮想通貨)による所得は、所得税法上雑所得に分類され、課税所得に含められ、そこから算定された所得税額を支払う必要があります。では、節税するにはどのような方法があるのでしょうか。
所得税と法人税の税率の違い
個人が節税する方法としては法人成り、すなわち法人を設立してしまうことが考えられます。法人には所得税ではなく法人税が課せられます。資本金1億円以上の法人には、課税所得に対して一律23.2%が、資本金1億円以下の中小法人では800万円以下の課税所得には15%、それを超える課税所得には23.2%の法人税が課せられます。
なお、所得税の場合の税率は、以下の所得税の速算表を参照してください。
計算例:課税総所得金額が700万円(所得控除額はないものとする)の場合、23%の税率と、636,000円の控除額が適用されるため、納付税額は以下のように計算します(所得税法第89条第1項)。
7,000,000円×23%-636,000円 = 974,000円
所得税では4千万円を超えた所得金額には最高税率の45%の所得税を支払うことを考えると、所得金額によっては法人成りという「節税」が可能になるわけです。
このほかにも、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税、暗号資産取引だけでなく商品の売買を行う場合には消費税などが課せられます。
一般に暗号資産(仮想通貨)による所得が500万から600万円以上であれば、法人成りした方が有利といわれています。現在は資本金1円から会社を設立することができるため、法人成りも以前より容易になっています。法人設立に際してはさまざまな費用がかかりますが、暗号資産(仮想通貨)による所得が大きい場合には、法人成りをするという選択肢もあるでしょう。
また、所得税法上は、暗号資産(仮想通貨)の取引で損失が発生した場合でも同じ雑所得の中でしか損益通算できず、他の所得と通算することはできません。
一方で、法人税は課税年度の益金から損金を引いた課税所得に対して課されるため、益金と損金を通算することができます。よって、暗号資産(仮想通貨)の運用によって損失が発生した場合には、課税所得を押し下げることができます。
さらに、法人税は、利益以上の損失が発生した場合には、その年から10年間の繰越控除を行うことができ、翌期以降発生した課税所得と相殺し、税負担を減らすことも可能です。
暗号資産(仮想通貨)を出資・保有するときの注意点
法人成りをする場合、暗号資産(仮想通貨)を設立した法人に譲渡するか現物出資すれば、法人に暗号資産を引き継ぐことが可能ですが、譲渡資産は原則として時価で譲渡したものとして所得税が計算されます。よって時価が帳簿価額を上回る場合は譲渡所得が生じ、所得税が生じることに注意が必要です。
また、企業が暗号資産(仮想通貨)を保有している場合には、売却や交換のみならず、保有している場合にもその保有損益が益金又は損金の額に加算されるという点に注意が必要です。特に取引が始まってすぐの暗号資産は値動きが激しい傾向にあるため、こまめに相場をチェックしておく必要があります。
例えば、2017年に取引が開始されたエイダコインは、翌年の1月には470倍に急騰しました。もしこの暗号資産を法人が保有していた場合には、保有し続けているだけで法人税の負担は大きなものになります。
このような暗号資産の急激な値動きに対応するためには、他の金融資産を含めた適切なポートフォリオを組んで投資を行うことで過剰な利益や損失を生み出さないようリスクヘッジを行うことが必要だと考えられます。
節税を考える際の注意点
ここまで節税方法について検討してきましたが、それが脱税に繋がることがないよう注意しなければなりません。インターネット上には多くの「節税案」が載っていますが、それらの中には違法ともとれる行為もあり、鵜呑みにするのは危険です。以下で紹介する事例のように、勘違いによる申告漏れのため、後日追徴課税されるケースもあります。
暗号資産の税金については、専門家に相談することをおすすめします。
脱税や申告漏れの事例
監視の強化
近年、国税局や税務署は暗号資産(仮想通貨)にかかる所得の監視を強化しています。実際、国税局は2018年から暗号資産にかかる取引の監視を強化しており、2020年には改正国税通則法が施行され、暗号資産交換業者等への情報照会が可能となりました。
この改正によって、国税局等は必要に応じて個人の暗号資産取引を把握することができるようになり、個人・法人、故意過失を問わず税務申告の監視が強化されています。
また、2021年には関東信越国税局が主導して暗号資産エイダコインの取引によって利益を得た個人に対し、大規模な税務調査が行われました。その結果、数十人に計14億円の申告漏れが指摘され、申告漏れに対して過少申告加算税などを含め、約6億7,000万円の追徴税が課されました。
脱税の事例
ビットコインで1億9千万円相当の利益を得ていながら、税務申告では120万円の利益であると申告した石川県の会社役員の男性に対して、金沢地裁は懲役1年、執行猶予3年、罰金1,800万円の有罪判決を言い渡しました。
この事件では、莫大な利益を誠実に申告しなかったことが問題視され、暗号資産(仮想通貨)関連での脱税事件として日本国内で初めての判例となりました。
申告漏れの事案
都内の男性が暗号資産(仮想通貨)リップルを購入し、その後リップルの価値が急騰し、急騰したリップルを他の暗号資産と交換した事によって、雑所得が生じました。
しかし、この男性は暗号資産の税制についての知識が乏しく、譲渡しただけでは課税関係は生じないと誤解していました。その結果、申告漏れとして約2億円の追徴課税を求められました。
昨今、SNSを中心に暗号資産による取引には税金がかからないとの間違った認識が広まっています。しかし、暗号資産は暗号資産同士での取引であっても課税所得が生じている場合には所得税または法人税が課されることに注意が必要です。
まとめ:改正が多い暗号資産の税制は専門家に相談を
暗号資産(仮想通貨)の法整備は始まったばかりで、今後も実務に合わせて法整備が進んでいくでしょう。こうした不確実な状況に対応するには、実務経験が豊富でさまざまな事案に対応できる専門家に相談するのが良いでしょう。
また、暗号資産(仮想通貨)に関する税制だけではなく、その他の法整備も進められています。暗号資産やブロックチェーンの法務に関しては、その分野の経験豊富な弁護士へ相談することをおすすめします。
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モノリス法律事務所の取扱分野:暗号資産・ブロックチェーン
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務