AGPLのオープンソースをサーバサイドでのみ利用する場合のライセンス表示の要否

インターネットは、私達の生活に欠かすことができないものになっており、あらゆる場面でソフトウェアが利用されています。
ソフトウェアを利用する際、他者が開発したソフトウェアを利用する場合には、ソフトウェアライセンスを遵守する必要があります。
ソフトウェアライセンスには、さまざまな種類がありますが、本記事では、IT関係の企業の方を対象に、AGPLのソフトウェアを用いて自社プロダクトを開発した場合に、ライセンス表示が必要かという点について、解説します。
この記事の目次
AGPLとは

AGPLとは、GPL(GNU General Public License)を拡張したフリーソフトウェアライセンスで、サーバソフトウェアなどネットワーク経由で利用されるプログラムにもソースコードの開示を義務づけるものです。
AGPLは、GNU Affero General Public Licenseの略称で、Affero GPLやAffero Licenseと呼ばれることもあります。
AGPLとGPLの違い
AGPLとGPLは、どちらもGNUプロジェクトが提供するライセンスですが、ソースコードの公開義務に違いがあります。
GPLがユーザーにソフトウェアを配布した際にソースコード公開を義務付けるのに対し、AGPLは配布時に加えて、ネットワーク経由でユーザーに提供するSaaSの場合においてもソースコードの公開が義務付けられています。
例えば、ある企業がGPLソフトをベースに独自システムを構築し、クラウドサービスとして提供した場合、そのソフトを配布しない限り、ソースコードを公開する義務はありません。一方で、AGPLの場合には、利用者がネット経由でクラウドサービスを使える以上、ソースコードを公開しなければならないという義務が生じます。
AGPL策定の経緯
リチャード・ストールマンにより作成されたフリーソフトウェアライセンスであるGPLv2には、アプリケーションサービスプロバイダ(ASP)ではコピーレフト条項(コピーレフトとは、ソフトウェアの改変や再配布を認めつつ、派生物にも同じライセンス条件を適用させることで自由を守る仕組みをいいます。)が適用されないという課題がありました。
この課題を解決するために、Affero, Inc.が、2002年3月に、AGPLv1を策定しました。
その後、2007年11月19日に、フリーソフトウェア財団がAGPLv3を策定しました。
AGPLv1とAGPLv3は、ともに、ASPでもコピーレフト条項を適用できるという特徴があります。
Ghostscript使用時のライセンス表示の要否について、AGPLv3のソフトウェアに、Ghostscriptがあります。
Ghostscriptとは、アドビが開発したページ記述言語であるPostScriptやPortable Document Format(PDF)などのインタプリタや、それを基に作成されたソフトウェアパッケージのことをいいます。
AGPLのライセンス表示とは、AGPLライセンスに従って配布または提供されるソフトウェアに対して、そのライセンス条件と著作権情報を明示することを指します。これはユーザーに対し、ソフトウェアの自由な利用・改変・再配布の権利を周知するために必要です。
AGPLv3の下では、ソフトウェアの利用方法が、「伝達」(convey)に該当する場合には、ライセンス表示が必要となります。
この「伝達」(convey)とは、第三者が複製すること又は複製物を受領することを可能にする行為のことをいい、以下の著作権法第2条第1項第19号と同様の概念と考えられています。
十九 頒布
有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。
それでは、ソフトウェアの利用が、サーバサイドのみの場合でもライセンス表示が必要でしょうか。
ソフトウェアの利用方法が、「伝達」(convey)に該当する場合、サイドでは利用されておらず、サーバサイドでのみ利用されているときでも、利用方法が、伝達(convey)である以上、ライセンス表示が必要であると考えられます。
Ghostscriptを用いて自社プロダクトを開発することは「伝達」(convey)に該当するか

以上のように、ソフトウェアの利用方法が、「伝達」(convey)に該当する場合には、ソフトウェアをサーバサイドのみ利用するときでも、ライセンス表示が必要となります。
そこで、Ghostscriptを用いて自社プロダクトを開発する場合、サーバサイドのみで利用するときでも「伝達」(convey)に該当するかを、以下、検討します。
「伝達」(convey)に該当しないと考える理由付け
「伝達」(convey)に該当しないと考える理由付けとしては、以下が考えられます。
そもそも、AGPLv3のライセンス表示が必要とされる趣旨は、「伝達」(convey)を受けたユーザーが、AGPLv3が利用されていることを知らずに、AGPLv3による制限を受けてしまうことが不当と考えられることから、ライセンス表示が必要とされていると考えられます。
この趣旨から考えれば、ユーザーが、AGPLv3による制限を受けない場合には、必ずしもライセンス表示が必要ではないと考えることができます。
Ghostscriptについて考えると、ウェブサイト上でPDFを表示したりダウンロード可能にしたりするために、JPEG画像を生成する目的でサーバ上で稼働しているGhostscript自体は、ユーザーに配布されるものではありません。
また、ユーザーが、AGPLv3によって、何らかの制限を受けるわけでもありません。
以上から、Ghostscriptによってユーザーは何らかの制限を受けるものではなく、AGPLv3のライセンス表示が必要とされる趣旨に反するものではないため、「伝達」(convey)には該当せず、Ghostscriptを用いて自社プロダクトを開発しても、ライセンス表示は必要がないとの考え方がありえます。
「伝達」(convey)に該当すると考える理由付け
他方、「伝達」(convey)に該当すると考える理由付けとしては、以下のような理由付けが考えられます。
前述のように、ソフトウェアの利用方法が、「伝達」(convey)に該当する場合、利用方法が、ユーザー側では利用されておらず、サーバ側でのみ利用されているときでも、利用方法が、伝達(convey)である以上、ライセンス表示が必要であると考えられます。
このように、ユーザーの側での利用がなされていない場合でもライセンス表示が必要であることを重視すれば、Ghostscript自体を、ユーザーに配布しない場合でも、ライセンス表示が必要であるとの考え方もありえます。
現在、AGPLv3に関して、サーバサイドのみで利用されている場合に、ライセンス表示が必要かどうかは、確立した見解があるわけではなく、見解に争いがあるところですが、現在の議論の状況を見ますと、サーバーサイドでの利用は「伝達」(convey)に該当し、ライセンス表示が必要と考える見解が、やや優勢のようです。
以上から、サーバサイドのみで利用されている場合でも、Ghostscriptを用いて自社プロダクトを開発することは「伝達」(convey)に該当すると考えられ、ライセンス表示が必要であるとの考え方がありえます。
結論
以上のような、2つの考え方から考えると、以下のような結論を導くことができます。
Ghostscriptを用いて自社プロダクトを開発する場合には、リンクを添付するなどの方法により、ユーザーが確認できる場所に、AGPLv3の内容を確認できるようにするとともに、Ghostscriptのソースコードを閲覧できるようにするという対応を行うことが、現在の議論の状況下では、リスクが小さい対応であるといえます。
ソースコード開示義務もある

前述のとおり、AGPLの最大の特徴はソフトウェアをネットワーク経由でサービスとして提供する場合においてもソースコードの開示義務があることです。また、利用者が自由にソースコードを入手できるよう、インターネット上に無償でダウンロードできる環境を整えることが求められます。
そして、公開が求められるソースコードの範囲はGPLv3と同様であり、対象のオープンソースソフトウェアを変更した場合は、そのソフトと連携して動作するプログラムにもソース開示の義務が広がる可能性があります。
関連記事:プログラムのソースコードの著作権は誰に帰属するのか
まとめ:AGPLにおけるライセンス表示の要否
以上、AGPLのソフトウェアを用いて自社プロダクトを開発した場合に、サーバサイドのみで利用されるときでもライセンス表示が必要かという点について、解説しました。
AGPLv3に関して、サーバサイドのみで利用されている場合に、ライセンス表示が必要かどうかは、確立した見解はありませんが、企業としては、リスクが最も小さい対応を行っていくべきであると考えられます。
法律的な知識だけでなく、IT関係に関する知識も必要となる分野ですので、専門的な知識を持つ弁護士に相談することをおすすめします。
関連記事:ITシステム(ソフトウェアなど)に関連する著作権法上の論点とは
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