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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

IT企業が芸能人等と結ぶ広告出演契約書の要チェックポイント

IT企業が成長しステップアップする際に、社会的な信用、認知度、ブランドイメージ等を高めるための有効な手段として「企業広告」や「商品広告」等があります。

その際には、人気のある芸能人や俳優を起用すれば、広告の注目度を高め企業・商品のイメージを向上させる効果が見込めます。その反面、写真や動画の使い方を間違えると損害賠償等を請求されることもあります。

そこで、今回はIT企業が芸能人等と結ぶ広告出演契約書の重要な条項について注意しなければならないポイントを詳しく解説します。

広告出演契約で重要なのは「パブリシティ権」

人気のある芸能人が商品のCM出ると、その商品の売上げがアップします。これは、芸能人の氏名や肖像等には顧客を吸引する力、すなわち「経済的価値」があるからです。

個人の氏名や肖像等を法的に保護し、無断で使用させない権利のことを「パブリシティ権」といいますが、第三者が本人の許可なく写真等を商品の広告に使用するとパブリシティ権の侵害として損害賠償、販売の差止め、商品の廃棄、謝罪広告等を請求される可能性があります

広告出演契約は、直接的には芸能人等の広告出演に関する対価やその他条件を定めるものですが、最も重要なのはパブリシティ権の範囲・期間・地域等について権利者である本人(または所属マネジメント会社)の使用許諾を得ることです。

「パブリシティ権の侵害」について詳しく知りたい方は、下記の記事にて詳述していますので本記事と合わせてご覧ください。

広告出演契約のチェックポイント

ここからは重要な条項について、サンプル契約書を基にチェックポイントを詳しく解説しますが、一般的な形態は、広告主・芸能プロダクション・広告会社(広告代理店)の三者契約となります。

※ 契約当事者は、広告主(甲)、芸能プロダクション(乙)、広告会社(丙)の三者、契約書の中に登場する乙の所属芸能人は(丁)と記載。

肖像や氏名等の使用許諾の範囲

第4条 (広告の使用許諾)

乙は、本件広告に関し甲および丙が、丁の音声、氏名(署名を含む)、肖像(乙が了承した似顔絵、フィギュア等を含む)、略歴等(以下、これらの総称を「丁の肖像権等」という)を、以下の各号に掲げる媒体に使用することを承諾する。 但し、ダウンロード可能な媒体、公序良俗に反する内容を含んだ有害サイトは除外とする。
① テレビ・ラジオ広告(BS放送、CS放送、CATV等を含む)
② 屋内・屋外広告、交通広告(街頭ビジョン、シネアド、電車車両内トレインチャンネル等を含む)
③ 通信ネットワーク広告(WEBサイト、バナー広告、スマホアプリ等を含む)
④ 新聞、雑誌、ポスター、カタログ、パンフレット、POP、ダイレクトメール等の印刷体広告物
⑤ 映画・スライド広告
⑥ パブリシティ
⑦ プレミアム・ノベルティ
⑧ 甲の会社案内・事業報告書・会社年史等の記録物
⑨ 各種コマーシャルコンベンションへの出展・応募、CM特集等の番組・記事への提供等
⒉ 甲は、前項各号で使用する丁の肖像権等は、使用用途ごとにその都度、丙を通して乙 へ事前承諾を得ることとする。

この条項は、広告出演契約の中でも特に重要な条項の一つで、芸能プロダクションとのトラブルを避けるためにも利用可能性のある媒体は全てリストアップする必要があります。

チェックポイント1

本条の前段で「以下の各号に掲げる媒体に使用することを承諾する。」としていますが、このままでは使用料や使用回数が明確ではありません。

広告出演契約では「出演」に対しては対価を支払いますが、制作した「広告の利用」は無償とするのが一般的ですから、「以下の各号に掲げる媒体について、無償で自由に(又は使用頻度の制限なしに)使用することを承諾する」のように修正すると良いでしょう。

チェックポイント2

第1項第6号「パブリシティ」について、現在ではSNSの活用は広報活動に欠かせないものとなっていますので、「Twitter 、YouTube、Facebook、LINE等のSNSへの投稿等を含む」と付け加えることをおすすめします。

チェックポイント3

第2項で、「丁の肖像権等」に関して「使用用途ごとにその都度事前承諾を得る」と定めていますが、前段で既に使用許諾は得ていますから本項は削除すべきと考えます。

仮に、報告義務についての規定であれば「甲は、前項各号で定める丁の肖像権等の使用について○ヶ月ごとに、丙を通して乙へ報告することとする。」等と、広告主の負担が少ない方法を選択してください。

競合企業・商品に関する出演等の禁止

第6条 (競合禁止)

乙は、本契約締結日より本件使用期間が満了するまでの期間、次の各号に定める広告宣伝および販促活動に関し、丁を出演させ、もしくは丁の肖像権等の使用許諾をしないものとする。
① 甲の主力事業である会計システムの開発・運営・販売と同種または類似する事業を営む第三者の広告宣伝
② 甲の主力商品である〇〇会計システムと同種または類似する商品を対象とした第三者の広告宣伝。

乙は、丁の肖像権等を第三者の広告宣伝に使用許諾する場合、当該広告宣伝が前項各号に該当するかどうかの判断が微妙なときには事前に丙に連絡しその可否について甲、乙、丙間で協議のうえ決定する。

本来の丁としてのテレビ・ラジオ番組・演劇・コンサート等への出演は、甲と競合する第三者の単独提供を除き本条の制限は受けないものとする。

チェックポイント1

第1項第1号における「競合企業に対する制限」は、言い換えると1つの業界において丁の肖像権等を甲が独占使用することになります。

この規定は芸能人丁の経済活動を大きく制限し、対価とは別に「専属契約料」を要求される可能性があるため、費用対効果を十分検討の上判断することをおすすめします。

チェックポイント2

第1項第2号における「競合商品に対する制限」は、「競合企業に関する制限」よりも制限範囲は限定的ですが、やはり芸能人丁の経済活動に影響を与えるので「専属契約料」よりは金額が低いですが「拘束料」等を要求される可能性があります。

「専属契約料」や「拘束料」等を要求されるかどうかは、芸能人の知名度や対価の金額によっても異なりますので、広告戦略と予算を考慮し事前に乙や丙と十分協議することが必要です

契約料及び出演料

第7条 (対価)

丙は乙に、本契約の契約料として金〇〇万円(消費税および地方消費税別)、TVCM撮影、スチール撮影の出演料として金〇〇万円(消費税および地方消費税別)を、〇〇年〇〇月〇〇日までに乙の指定する銀行口座に振り込み支払う。

第4条第1項第8号及び第9号の用途については、本件使用期間終了後においても使用料は発生しないものとする。
(以下省略)

チェックポイント

「第4条第1項第8号及び第9号」は、甲の会社案内等の資料への使用や各種CMコンベンションへの出展等での使用のことですが、第2項の「本件使用期間終了後においても使用料は発生しない」という条文では、使用期間終了後の使用許諾については触れられていません。

会社案内等は新たに作り直すことも考えられるので「本件使用期間終了後においても無償で使用できる」と明記した方が良いでしょう。

損害賠償について

第10条 (損害賠償)

甲、乙(丁を含む)、および丙のいずれかが次の各号の一に該当するときは、当該違反当事者の相手側は、本契約を解除して、または解除せずに蒙った損害の賠償を請求することができる。
(ア) 乙(丁を含む)が、甲及び甲の商品のイメージや社会的信用を失墜させるような行為を行った場合
(イ) 乙(丁を含む)の責に帰すべき事由によって丁の出演が不能となった場合
(ウ) 本契約に違反した場合
(エ) その他本契約の履行に支障をきたす行為を行った場合

チェックポイント1

冒頭の条文で「当該違反当事者の相手側」とありますが、2者間あるいは2グループ間の契約においては「相手側」は明確ですが、立場の異なる三者以上の契約当事者いる場合には「他の当事者」や「他方当事者」を使用しましょう。

また、丁は契約当事者ではありませんから、丁の行為で損害が発生したとしても所属芸能プロダクション(乙)に対して損害賠償請求を行うことになります。

チェックポイント2

最近ではタレントのスキャンダルや深く考えずに行ったTwitterが大きな問題となるケースもあるので、広告主や広告会社のリスクを最小にするために予測できるケースはできる限り網羅することが重要です。

まとめ

今回はIT企業が芸能人等と結ぶ広告出演契約書の要チェックポイントを、「肖像や氏名等の使用許諾の範囲」「競合企業・商品に関する出演等の禁止」「契約料及び出演料」「損害賠償について」と重要条項を中心に解説してきました。

使用した契約書サンプルは、広告主、芸能プロダクション、広告会社の三者契約でしたが、制作会社を入れた四者契約等いろいろなケースがあるので、契約書の作成や相手と協議する際には、独自に判断するのではなく専門的な知識や経験が豊富な弁護士に事前に相談することをおすすめします

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。

補助金代行業の安全な活用にあたっては契約書の作成が必要です。当事務所では、東証プライム上場企業からベンチャー企業まで、様々な案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。もし契約書についてお困りであれば、下記記事をご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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