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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

ストーカー規制法改正のポイントを解説~連続して手紙を投函する行為の是非~

風評被害対策

GPS機器等を利用するなどストーカーの手口は年々巧妙化しています。

そうしたストーカー行為に効果的に対処するために、規制について早急に検討する「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会」が設置されました。

また、2021年1月、「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書(案)」が取りまとめられました。

これを受けて、2021年5月18日、3度目のストーカー規制法改正が衆院本会議で可決、成立し、8月に全面的に施行されました

今回は、次の4点について改正が行われました。

  1. GPS機器を用いた位置情報の無承諾取得
  2. 相手方が現に所在する場所の付近における見張り等
  3. 拒まれたにもかかわらず連続して文書を送付する行為
  4. 禁止命令等の方法に係る規定の整備

前篇では、「GPS機器を用いた位置情報の無承諾取得」と「相手方が現に所在する場所の付近における見張り等」に関する改正を解説しました。

本記事では、「拒まれたにもかかわらず連続して文書を送付する行為」と「禁止命令等の方法に係る規定の整備」について、解説します

拒まれたにもかかわらず連続して文書を送付する行為

現行のストーカー規制法では、第2条第1項第5号で、拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけたり、ファックスや電子メールを送信等する行為を規制しています。

ストーカー行為等の規制等に関する法律
この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
5. 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。

(禁止命令等)第2条

一方、現行法では、「文書の連続送付を規制する規定」は設けられておらず、当該文書の内容が他の号(面会や交際などの要求、名誉を傷つける、性的羞恥心を侵害する等)の規定に抵触するものでなければ、規制の対象となりませんでした

しかしながら、文書の連続送付行為は、ストーカー事案における典型的な行為の1例としてみられるものです。

例えば、拒まれているにもかかわらず、一方的に好意感情を伝える文書を連続して送付するなどという行為は、恐怖を感じさせる場合が多くあります。また、毎日白紙の手紙が投函されたり、何も入っていない手紙がくるなどというつきまとい行為も見られます。こうした行為も執着している、監視しているというメッセージを送られているようで、気味の悪いものです。

「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書(案)」では、文書を連続して送付する行為については、文書を郵便等により送付する場合のみならず、相手方の郵便受けに直接投函する場合も規制することが適当であるとしています。

さらに文書とは一般に文字や記号で人の思想を表示したものをいうと解され、行為者から相手方に対して送付される手紙(はがきや封書)のほか、相手方の氏名のみが記載されている封筒等についても、便箋等が入っていない場合や白紙、写真等文書に当たらない物が同封されている場合を含め、文書に含まれると考えられるとしています。これらを受け、「拒まれたにもかかわらず連続して文書を送付する行為」が、新たに規制されることとなりました

嫌がる相手に連続して文書を送付する行為も、「つきまとい等」に含まれたわけで、歓迎すべき改正と言えるでしょう。

禁止命令等の方法に係る規定の整備

ストーカー規制法第5条第1項は、都道府県公安員会は同法第3条の規定に違反する行為があった場合において、当該行為をした者がさらに反復して当該行為をするおそれがあると認められるときには、当該行為をした者に対し、国家公安委員会規則の定めにより、さらに反復して当該行為をしてはならないこと等の禁止命令等を出すことができ、この禁止命令等の有効期間については、同法第5条第8項及び第9項において1年と定められており、また、これを延長することができます。

ストーカー行為等の規制等に関する法律
都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は、第3条の規定に違反する行為があった場合において、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは、その相手方の申出により、又は職権で、当該行為をした者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、次に掲げる事項を命ずることができる。
1. 更に反復して当該行為をしてはならないこと。
2. 更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項

(禁止命令等)第5条 

また、禁止命令等の方法についてはストーカー規制法施行規則第5条により禁止等命令書を交付して行うと規定されており、交付するいとまがない場合は口頭で行うことができますが、可能な限り速やかにこれを交付するものとされています。また、同規則第10条により禁止命令等の有効期間を延長する際にも、処分書を交付して行うとされています。

しかし、禁止命令等を巡っては、正当な理由なく、禁止等命令書及び禁止命令等有効期間延長処分書の受領を拒否したり、交付の相手方が所在不明であったりする場合があり、問題とされてきました

例えば、行為者が警察からの電話を無視したため、接触に至るまでに時間を要し、面接時にあっても、行為者が処分書の受け取りを拒否するなどしたため、説得後に同書を交付する必要が生じ、最終的に同書を交付するまでにさらに時間を要したという事案が見られます。

また、留置中に禁止命令を出された被疑者が釈放後所在不明となったため、禁止命令の有効期間を延長することができなかったなどという事案もあります。

これらのような事案への対応として、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律上の規定が参照されました。同法においては、中止命令等について正当な理由なく書類の受領を拒んだり、住居等に行為者がいないといった禁止命令書等の交付が困難な場合、書類の送達すべき場所(行為者の住居等)に差し置くことを認める「送達」や、行為者の住居が不明な場合に禁止命令書等の交付の効果を生じさせることを可能とする「公示送達」ができると規定されています。

公示送達とは、相手方の住所等がわからない場合に行う手続きであり、裁判所に申し立てると、裁判所は一定期間これを掲示し、官報に少なくとも1回掲示すれば、送達されたとみなされる制度です。

これらを受け、今回の改正では、禁止命令等については書類を送達して行うこととし、住所及び居所が明らかでない場合には、公示送達ができることとなりました。受け取りを拒んだり、拒否したりはできないこととなったわけです

残された課題

ストーカー規制法の今回の改正につき、前篇で「GPS機器を用いた位置情報の無承諾取得」と「相手方が現に所在する場所の付近における見張り等」に関する改正を解説し、後編で「拒まれたにもかかわらず連続して文書を送付する行為」と「禁止命令等の方法に係る規定の整備」について、解説してきました。

時代の変化に合わせた改正であり、歓迎できるものではありますが、これで十分というわけではなく、問題も残されていると思われます。例えば、今回の改正案を審議した国会では、ストーカー規制法が「恋愛感情その他好意の感情を満たす目的」と要件を限定し、単なるトラブルによる付きまといなどを対象外としている点を疑問視する意見が議員から相次ぎました

実際、ストーカー行為を裁く裁判では被疑者側は、

ストーカー行為等の規制等に関する法律
この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

(定義)第二条 

を引用し、自己の行動は「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」を有していなかったと、度々主張します。

今回問題となったGPSを利用したストーカー事案の被疑者側も、被告人は被害者に別れを告げられた理由を知って納得を得るため、浮気調査として交際期間中の被害者の異性関係の手がかりを得たいと考えて本件に及んだものであり、「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」を有してはいなかったと、主張しています。

これに対し、裁判所は、

本件犯行は2016年4月23日から2017年2月23日までの約10か月間に及んでおり、被告人は、その間600回以上も位置情報の検索を行っている上、取り付けたGPS機器のバッテリーが満タンの場合であっても1週間から10日程しかもたないため、その都度被害者の自動車を探し出してGPS機器を回収して再充電してから被害者の自動車に付け直すことを繰り返すなどしている。
被告人の上記一連の行動には男女間のトラブルに端を発する偏執的な執拗さが看取されることに徴すると、本件当時、被告人には上記目的があったと認めるのが相当であり、仮に浮気調査の目的が併存していたとしてもこの結論は左右されない

佐賀地方裁判所2018年1月22日判決

と一蹴しています。今回は裁判所は被疑者の主張を退けましたが今後は、「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」とは認めるのが難しい場合が、出てくるかもしれません。

ストーカーとは、もともと妄執なのですから、必ずしも、「恋愛感情その他の好意の感情」に起因するとは限りません。

例えば差別に端を発する「怨恨の感情を充足する目的」もあり得ますし、恋愛感情ではなくても、相手の発言等に対する歪んだ正義感などがエスカレートし、「偏執的な執拗さが看取されるような行動に発展する場合もあります。危惧する声が多い「恋愛要件」が、次の改正のポイントになるかもしれません

まとめ

ストーカー規制法は、時代の変化に合わせて改正が行われてきましたが、今回の改正が最後になるわけではなく、今後も改正が行われ、その時代に合わせたものとなって行くでしょう。その際、対応がいつも後手に回ることがないよう、法整備は情報通信技術の進展等に対応してほしいものです

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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