SNSでバイトテロを起こされた場合の対策は?解雇や損害賠償請求は可能か
SNSの普及に伴い、飲食店などのアルバイト従業員が悪ふざけをしている写真や動画をSNSに投稿する行為(通称:バイトテロ)が相次いで起きています。いったんネット上にアップされたバイトテロの写真や動画は、たとえ投稿者が削除してもネット上に残り続けて炎上することがあります。2021年6月にはドミノピザのアルバイト従業員がヘラで直接シェイクをなめている動画をInstagramに投稿し、炎上しました。この事件は一例ですが、他にも多くのバイトテロ事件が起きています。
本記事では、自社の従業員がバイトテロを起こした場合にどのような制裁を課すことができるのか、法律に基づいたバイトテロ対策について解説します。
ネット炎上した際に企業がとるべき対応については、下記の記事で詳しく解説していますので、ご参考になさってください。
この記事の目次
バイトテロとは
アルバイト従業員が店舗の商品や什器を使って悪ふざけをする様子を写真や動画に撮影し、TwitterなどのSNSへ投稿する、バイトテロ。悪ふざけは、商品の食べ物をゴミ箱に入れたり、なめたりするなど不衛生な行為であることが多く、写真や動画を見た人の購買意欲を削ぐものです。バイトテロ動画が拡散されて炎上すれば、企業のイメージを損なうだけでなく、売上や株価の低下など経営に大きな悪影響を及ぼすこともあります。中にはお店が倒産してしまうケースもあり、被害は深刻です。
バイトテロを防ぐためには、しっかりと研修や教育を行う必要があります。SNS使用に関する注意点の指導や、店舗内へのスマホ持ち込み禁止などの対策も効果的でしょう。ただ、バイトテロの多くは軽い気持ちで行われることが多く、完全に予防するのは難しいかもしれません。
バイトテロをしたアルバイト従業員に対し、どのような制裁が可能か
実際にバイトテロが起きてしまった場合、バイトテロを起こしたアルバイト従業員に対して何らかの制裁を課すことはできるのでしょうか。
解雇や契約解除
雇用契約の場合:解雇
就業規則の懲戒解雇事由に該当する場合、懲戒解雇ができます。
例えば、
- 都内のステーキ店で、アルバイトの従業員が冷蔵庫に入る写真をTwitterに投稿した事件
- 神奈川県のコンビニで、アルバイトの従業員が「おでん」を吐き出す動画をTwitterに投稿した事件
等では、当該従業員が解雇された旨が報道されました。
厚生労働省のモデル就業規則には
(遵守事項)
第11条 労働者は、以下の事項を守らなければならない。会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
モデル就業規則について |厚生労働省
という記載があります。こうした条項に該当するとして懲戒処分を行うことも考えられますが、「バイトテロ」が現実的に危惧される業種・企業の場合、可能であれば、該当性が明確な条項を、最初から就業規則に加えておくべきでしょう。
ただ、アルバイトの場合、懲戒解雇されたことによるダメージはそこまで大きくないかもしれません。そこで、さらに民事責任や刑事責任を追及していくことになります。
業務委託社員の場合:契約解除
また、雇用契約ではなく業務委託契約の場合は、「解雇」ではなく、当該業務委託契約の違反を理由とした契約解除を行う事になります。
一般的に、業務委託社員は、法律上、準委任契約に基づき、「善管注意義務」を負って業務を行う事になります。バイトテロ行為は、この「善管注意義務」に違反するものであると主張できるケースが多いと言えます。ただ、雇用契約の場合と同様、該当性が明確な条項を、最初から契約書に入れておく方がベターではあります。
なお、先に紹介した、
都内のステーキ店で、アルバイトの従業員が冷蔵庫に入る写真をTwitterに投稿した事件
では、解雇後、批判を受けた従業員がネット上で反論を行ったため、店舗を巻き込んだ「炎上」が更に大きくなってしまった、という経緯があります。こうした行為を行わないよう、終局的な処分を決定する必要があります。
損害賠償請求
バイトテロを行った従業員に対して、損害賠償を請求することも考えられます。一般論として、従業員に対する損害賠償請求については、従業員は企業と比べて資力が乏しく、対等な力関係の相手方に対するのと同じ損害賠償を認めることが過酷であることより、信義則に基づく「責任制限法理」というものが考慮されます。ただ、故意に行われた悪質なバイトテロ行為であれば、こうした法理の上でも、一定の損害賠償請求が認められるケースも多いと思われます。
損害の範囲は、バイトテロに使われた商品の費用、什器が故障した場合はその修理費用、消毒や清掃が必要になった場合はその費用などになるでしょう。これらの費用は損害として明らかなため認められやすいと言えます。
しかし、たとえば売上や評判の低下などによって被った営業利益の損失、さらには株価の下落については、立証の難易度は上がります。営業利益の損失や株価の下落などについて、バイトテロとの因果関係が認められるケースは少ないものと思われます。
また、訴訟で損害を認めてもらえたとしても、当該従業員の財産が少ない場合は、全て支払ってもらえないこともあるため、注意が必要です。
刑法上の罪
バイトテロ行為が刑法上の罪に該当する場合には、被害届や告訴により、刑事手続を求めることも、視野に入れるべきでしょう。
バイトテロが該当する可能性のある刑法上の罪は、以下の通りです。バイトテロの内容によっては、この他の罪が該当する可能性もあります。
名誉毀損罪(刑法230条)
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」と認められた場合は、名誉毀損罪に該当し、「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する」ものとされています(刑法230条)。
名誉毀損罪には、罪にあたらないと認められる特例として「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」(刑法230条の2)などが定められていますが、バイトテロ行為がこの特例にあたる可能性は低いといえるでしょう。
名誉毀損について、詳しくは以下の記事をご参照ください。
侮辱罪(刑法231条)
「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」場合、侮辱罪に該当し、「拘留又は科料に処する」ものとされています(刑法231条)。バイトテロで投稿された写真や動画によって企業の社会的な名誉や評価が害されたと認められる場合は、この侮辱罪に該当する可能性があります。名誉毀損罪と異なる点は、「事実を摘示しなくても」罪に該当する点、つまり、客観的な評価ではなく抽象的な文言などで侮辱するような行為を行った場合にも適用される点です。
偽計業務妨害罪(刑法233条)
バイトテロ行為が、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した」と認められた場合は偽計業務妨害罪にあたり、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金が科されます。大手回転ずしチェーンで、ごみ箱に捨てた切り身をまな板に戻す動画を投稿した元アルバイト従業員が偽計業務妨害の疑いで書類送検された事例もあります。
威力業務妨害罪(刑法234条)
刑法234条によれば、「威力を用いて人の業務を妨害した者も、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」ものとされています。従業員ではありませんが、コンビニのおでんを指で何度も触った男性が威力妨害容疑で逮捕されたケースがあります。
器物損壊罪(刑法261条)
バイトテロ動画の中で店の商品や什器などを壊している場合は、器物損壊罪に問われる可能性があります。器物損壊罪とは、刑法261条に定められており、「他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する」ものとされています。バイトテロではなく、客が起こした事件ですが、スーパーやコンビニのアイスクリームケースに入って写真を撮影し、器物損壊罪で逮捕された事例があります。
まとめ
バイトテロは、特に飲食店やコンビニエンスストアを運営する企業にとっては大きな脅威となりえます。いったん投稿された不適切な写真や動画はネット上に残り続けることも多く、信頼回復には長い時間がかかります。バイトテロを起こされてしまった場合は、その従業員を解雇するだけでなく、損害賠償請求を起こすことができます。また、ケースによっては刑事責任が問われることもあります。なるべく多くの証拠を保存し、すぐに弁護士へ相談しましょう。
当事務所による対策のご案内
モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。バイトテロ動画など、ネット上に拡散された風評被害や誹謗中傷に関する情報は「デジタルタトゥー」として深刻な被害をもたらしています。当事務所では「デジタルタトゥー」対策を行うソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。
カテゴリー: 風評被害対策