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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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ベトナムの税法を弁護士が解説

ベトナムの税法を弁護士が解説

東南アジアにおいて目覚ましい経済成長を遂げているベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)は、豊富な労働力と積極的な外資誘致政策を背景に、多くの日本企業にとって極めて重要な投資拠点となっています。日本企業がベトナムへの進出や事業展開を検討する上で、現地の税務コンプライアンスの正確な理解は避けて通れない経営課題です。ベトナムの税制は、法人所得税、付加価値税、個人所得税を中心としながら、外国法人のサービス提供に対して課される外国契約者税や、多国籍企業の取引を監視する移転価格税制など、独特かつ複雑な構造を有しています。政府は製造業やハイテク産業に対して長期間の免税措置を含む強力な優遇税制を提供する一方で、電子インボイス制度の完全義務化など税務行政のデジタル化を急速に進め、徴税の網の目をかつてないほど厳格化させています。

ベトナムの税法は優遇税制による外資誘致という側面を持つ一方で、損金算入要件の厳格さや関連当事者取引に対する監視の強化など、独自の複雑な規制を有しています。特に2025年以降に施行される新たな法人所得税法や付加価値税法、そして2026年施行の改正個人所得税法は、税率階層の簡素化や控除額の引き上げなど制度の近代化を図る一方で、デジタルプラットフォーム取引への課税強化など、網羅的な徴税体制の構築を目指しています。日本法と比較すると、実体的な経済活動以上にインボイス等の形式的な要件が極めて重視される点や、グループ内役務提供に対する源泉徴収の実務において重大な違いが存在します。

本記事では、これらの複雑な税務リスクを適切に管理し、現地の法規制に準拠した事業運営を実現するための指針を提示します。

ベトナム法人所得税の実務と日本法との異同

ベトナムの法人所得税は、企業が国内外で得たすべての所得に対して一元的に課される国税であり、地方税との多層的な構造を持つ日本の法人税制と比較すると、制度の基本骨格は比較的シンプルに設計されています。しかし、その適用要件や損金算入の基準、そして頻繁に更新される優遇措置の細部には、実務上の高度な専門知識を要する複雑な取り決めが存在します。

税率構造と中小企業への新たな優遇措置

ベトナムにおける法人所得税の標準税率は原則として20%に設定されています。日本の法定実効税率が国税と地方税を合わせて約30%弱であることと比較すると、ベトナムの標準税率は総じて低く設定されており、東南アジア諸国連合の中でも十分な競争力を持っています。さらに特筆すべき動向として、2025年6月にベトナム国会で可決され、2025年10月1日より施行された新たな法人所得税法(法律第67/2025/QH15号)により、中小企業向けの軽減税率が抜本的に見直されました。

この新法では、前年の総売上高が30億ベトナムドン以下の零細企業に対しては15%の軽減税率が適用され、総売上高が30億ベトナムドンを超え500億ベトナムドン以下の中小企業に対しては17%の税率が適用されることが明確に法定化されました。日本の法人税においても資本金1億円以下の中小法人に対する年800万円以下の所得に対する軽減税率(15%)が設けられていますが、ベトナムの新制度は売上高という明確な外形基準を用いて税率を段階的に引き下げることで、小規模事業者の内部留保の拡充と事業成長を強力に後押しする構造となっています。

一方で、石油や天然ガスの探査および採掘などの特定産業に対しては、契約内容や採掘条件に応じて25%から最高50%という高水準の税率が課されます。また、プラチナや金などの貴金属やレアアースなどの希少資源の採掘に対しても原則50%の税率が適用され、採掘エリアの70%以上が経済的困難地域に指定されている場合にのみ40%に軽減されるという厳格な規定が設けられています。これらの規定の存在から、国家の重要な天然資源から得られる利益を国庫に確実に取り込むというベトナム政府の強い意図があるということが言えるでしょう。

投資優遇税制とグローバルミニマム課税の導入による変革

日本企業をはじめとする多国籍企業がベトナムへの直接投資を決定する最大のインセンティブとなってきたのが、法人所得税の優遇税制です。投資法に基づくハイテク産業や農業分野、教育インフラの整備、あるいは政府が指定する経済的困難地域に設立された投資プロジェクトに対しては、一定期間の免税措置(タックスホリデー)やその後の50%減税措置が適用されます。特定の条件を満たした事業では、標準税率の20%ではなく、10%や15%といった特別優遇税率がプロジェクトの開始から10年ないし15年という長期間にわたって保証されるケースも少なくありません。

しかし、この強力な優遇税制の恩恵は、グローバルミニマム課税の導入により歴史的な転換期を迎えています。ベトナム国会は経済協力開発機構(OECD)が主導する国際課税ルールの見直しに同調し、国会決議第107/2023/QH15号を通じて2024年1月1日よりグローバルミニマム課税制度を正式に国内法制化しました。これにより、過去4年間のうち2年以上においてグループ全体の連結売上高が7億5000万ユーロ以上となる多国籍企業は、ベトナム国内での実効税率が15%を下回る場合、その差額分を国内トップアップ税(QDMTT)としてベトナム政府に納付する義務が生じます。

この制度の導入により、大規模な日本企業がベトナムの経済特区等で享受してきた10%以下の実効税率や完全免税といった過度な恩恵は事実上相殺されることになります。今後は単なる税負担の軽減という表面的なメリットにとどまらず、サプライチェーンの強靭さ、インフラの充実度、労働力の質といった事業環境そのものの本質的な価値が、ベトナム進出の成否を分けるということが言えるでしょう。グローバルミニマム課税の詳細なガイダンスについては以下の情報源で確認することができます。

参考:アーンスト・アンド・ヤング公式ウェブサイト

損金算入の厳格な要件と電子インボイス制度の徹底

ベトナムの税務実務において日本企業の現地法人が最も直面しやすい困難が、経費の損金算入要件の極めて厳格な運用です。日本の税務実務においては、事業への関連性が実質的に証明できれば比較的柔軟に経費として認められる傾向にありますが、ベトナムの法人所得税法第9条では、費用が事業活動に直接関連していることに加え、法定の要件を完全に満たしたインボイス(適格請求書)と適切な支払証憑が伴っていなければ、税務上の損金として一切認められません。

特に近年、ベトナム政府は税務管理のデジタル化を強力に推進しており、政令第123/2020/ND-CP号に基づき2022年7月よりすべての企業に対して電子インボイスの導入が完全義務付けられました。電子インボイスは発行の都度、あるいは日次でベトナム税務総局のシステムと直接連携してデータ送信される仕組みとなっており、フォーマットの不備や発行タイミングの遅れがあると即座にシステム上で不正とみなされます。電子インボイスに関する規定違反は、法人所得税における費用の損金不算入だけでなく、付加価値税の仕入税額控除の否認にも直結します。さらに、1回の取引額が2000万ベトナムドン以上となる取引については、銀行を通じた非現金決済(振込等)であることが損金算入の絶対条件となっており、現金による支払いは無効化されます。

ベトナムにおけるインボイス管理の厳格さを示す重要な司法判断として、フート省人民裁判所が下した第一審判決が存在します。裁判所名フート省人民裁判所、判決年月日2023年、判決番号115/2023/HS-STの事件では、複数の省にまたがる違法な電子インボイスの売買ネットワークが摘発され、合計637社もの企業が架空取引やインボイスの不正利用に関与した事実が認定されました。この判決は、実態のないインボイスの発行や受領に対して、ベトナムの税務当局および司法機関が刑事罰を伴う極めて厳格な態度で臨んでいることを明確に示しています。

日本の領収書の延長線上の感覚でベトナムのインボイスを取り扱うことは、税務調査時の莫大な追徴課税や延滞税の賦課、さらには刑事告発へと直結する危険性があるということが言えるでしょう。フート省人民裁判所の判決に関する言及は以下の情報源で確認することができます。

参考:BLawyers Vietnam公式ウェブサイト

ベトナム付加価値税の基本構造と最新の法改正

ベトナム付加価値税の基本構造と最新の法改正

ベトナムの付加価値税(VAT)は、日本の消費税に相当する多段階の一般消費税であり、商品の生産から流通、そして最終消費に至るすべての段階で生じる付加価値に対して課税されます。2025年7月1日より施行される新たな付加価値税法(法律第48/2024/QH15号)により、課税対象や控除要件がさらに精緻化されました。

課税対象と税率の仕組み

付加価値税の標準税率は原則として10%です。しかし、国民生活に不可欠な飲料水、肥料、農薬、医療機器、教育サービスなどの特定の生活必需品や公共性の高いサービスには5%の軽減税率が適用されます。さらに、輸出される物品や国際輸送サービスに対しては0%の税率が適用され、輸出企業は仕入時に支払った付加価値税の全額還付を受けることが可能です。ただし、0%税率の適用を受けるためには、適法な輸出通関書類、外国の顧客との契約書、そして銀行を通じた外貨での代金受領証明が完備されている必要があり、これらの書類に不備がある場合は標準税率による追徴課税のリスクが生じます。

控除方式と直接方式の適用要件

ベトナムの付加価値税の計算方法には、日本の原則課税と簡易課税に似た「控除方式」と「直接方式」の2種類が存在します。大部分の法人企業は控除方式を採用しており、売上に対する付加価値税額から、電子インボイスによって証明された仕入時の付加価値税額を差し引いて納付額を算出します。

一方で、会計帳簿の整備が不十分な個人事業主や、ベトナム国内に恒久的施設を持たない外国企業に対しては、売上高に対して直接一定の割合を乗じて税額を算出する直接方式が適用されます。新たな付加価値税法によれば、年間売上高が10億ベトナムドン未満の中小企業や協同組合もこの直接方式の対象として明記されており、商品の流通業であれば1%、建設やサービス業であれば5%といったみなし税率が適用される仕組みとなっています。

電子商取引およびデジタルプラットフォームへの課税強化

新しい付加価値税法および関連する法人所得税法の改正において特筆すべきは、海外の電子商取引プラットフォームやデジタルサービス提供者に対する課税要件の厳格化です。ベトナム国内に物理的な拠点を持たない日本企業であっても、越境ECを通じた商品の販売や、SaaSなどのデジタルサービスをベトナムの消費者や企業に対して提供する場合、ベトナムの税務当局が運営する専用の電子ポータルを通じて直接税務登録を行い、付加価値税および法人所得税の申告と納付を行う義務が明確化されました。この規制強化から、ベトナム政府が国内事業者と外国企業との間の競争条件の公平性を担保し、デジタル経済から生じる税収を逃さず捕捉しようとしているということが言えるでしょう。

付加価値税法の新規定に関する条文は以下の情報源で確認することができます。

参考:LuatVietnam公式ウェブサイト

ベトナムにおける外国契約者税の特異性と実務上の留意点

日本の税法とベトナムの税法を比較する上で、日本企業の担当者が最も戸惑う独自の制度がベトナムの外国契約者税(FC税)です。この税金は、ベトナム国内に現地法人や支店といった恒久的施設を有していない外国の企業や個人が、ベトナムの顧客(ベトナム企業または外資系ベトナム法人)との間で契約を結び、ベトナムを源泉とする所得を得る場合に課される税金です。

制度の概要と日本法における源泉徴収税との違い

日本の非居住者に対する源泉徴収制度は、主として配当、利息、特許権等の使用料(ロイヤルティ)といった受動的所得に対して適用されるのが一般的です。しかし、ベトナムの外国契約者税は、これらの受動的所得にとどまらず、一般的なコンサルティングサービス、システムの保守管理、機械設備のリース、さらには据付作業やトレーニングを伴う物品の販売など、実体的な能動的事業活動に対しても極めて広範に適用されます。

この税制の最大の特徴は、単一の税目ではなく、付加価値税の要素と法人所得税の要素が組み合わされた複合的な徴税メカニズムであるという点です。例えば、日本の親会社がベトナムの現地子会社に対してITシステムのライセンスとそれに伴う導入サポートサービスを提供した場合、日本企業が受け取る対価に対して、付加価値税と法人所得税の両方が外国契約者税として課税されます。

申告納付方式の選択と適用税率

外国契約者税の申告方式には、直接方式、控除方式、そしてハイブリッド方式(混合方式)の3つが存在します。実務上、日本の親会社を含めほとんどの外国企業が採用しているのが直接方式(源泉徴収方式)です。この方式では、ベトナム国内の支払い手である現地法人が外国企業に代わって税金を計算し、請求金額から税額を控除(源泉徴収)して税務当局に直接納付します。

直接方式における適用税率は、財務省通達第103/2014/TT-BTC号により、提供する事業の性質に応じて細かく規定されています。代表的な税率は以下の表の通りです。

取引の区分付加価値税率法人所得税率
一般的なサービス提供、機械設備の賃貸5%5%
材料供給を伴わない建設、据付工事5%2%
レストラン、ホテル、カジノの管理サービス5%10%
ロイヤルティ、ライセンス料の支払い免除10%
貸付金に対する利息の支払い免除5%
役務提供を伴う商品供給(インコタームズを含む)1%1%

ロイヤルティや貸付金利息に対して付加価値税が免除される一方で法人所得税がそれぞれ10%および5%課される構造は、国際的な源泉税の概念と整合しています。しかし、一般的な経営指導や技術サポートなどの役務提供に対して、5%の付加価値税と5%の法人所得税が同時に課される仕組みは、契約金額から実質的に10%近い手取り額の減少を意味し、サービスを提供する日本企業の利益率を大きく圧迫する要因となります。

租税条約の適用と実務上のハードル

日本とベトナムの間には二重課税を回避するための租税条約が締結されています。この条約の規定を援用することで、外国契約者税のうち法人所得税部分の免除や軽減を受けることが理論上は可能です。たとえば、ベトナム国内に恒久的施設を持たない日本企業が提供する一般的なサービス収益は、条約上の事業所得に該当し、ベトナムでの課税が免除されるべきと解釈されます。

しかし、ベトナムの実務において租税条約の恩恵を享受するためのハードルは極めて高く設定されています。条約適用の届出を行うためには、日本の国税庁が発行した居住者証明書の原本に加え、ベトナム語への公証翻訳、さらに複雑な申請書類を支払いの都度または定期的に現地の税務当局に提出する必要があります。書類の不備や提出期限の遅延があった場合、税務当局は容赦なく条約の適用を否認し、通常の外国契約者税率による課税を強行します。

このような厳格な運用実態から、ベトナム税務当局は外国契約者税を極めて確実性の高い貴重な税収源として位置づけているということが言えるでしょう。外国契約者税の税率および通達に関する詳細は以下の情報源で確認することができます。

参考:アンデルセン・ベトナム公式ウェブサイト

ベトナム移転価格税制と過少資本税制における規制強化

ベトナム移転価格税制と過少資本税制における規制強化

多国籍企業がベトナムで事業を展開しグループ会社間で取引を行うにあたり、移転価格税制への対応は法務および税務部門の最重要課題の一つです。ベトナム税務当局は外資系企業による不当な利益移転や租税回避を防ぐため、関連当事者間の取引に対する監査体制を年々強化しています。

関連当事者の広範な定義と文書化義務

政令第132/2020/ND-CP号に基づく現行の移転価格税制では、関連当事者の定義が極めて広範かつ厳格に設定されています。一方の企業が他方の企業の資本の25%以上を直接または間接に保有している関係だけでなく、借入金の額が自己資本の25%以上かつ中長期負債の50%以上を占める場合の金融機関との関係や、取締役の過半数を任命できる権限を有している場合なども、実質的な支配関係があるとみなされ関連当事者として扱われます。

関連当事者との間で取引を行う企業は、年次の法人所得税確定申告と同時に、関連当事者取引に関する詳細な申告書(Appendix I)を提出しなければなりません。さらに、取引規模が一定の基準(売上高500億ベトナムドン超かつ関連当事者取引額300億ベトナムドン超)を満たす場合、移転価格文書としてマスターファイル、ローカルファイル、および国別報告書(CbCR)の作成と保存が義務付けられます。

独立企業間価格の算定において、ベトナムの規定は比較対象企業の選定範囲を厳格に定めており、国内の独立企業のデータを最優先で用いることが要求されます。さらに、妥当とされる利益率の範囲(四分位レンジ)も、以前の第25パーセンタイルから第75パーセンタイルという基準から、より厳しい第35パーセンタイルから第75パーセンタイルへと狭められており、意図的な利益率の下方操作を完全に排除する仕組みが構築されています。

支払利息の損金算入制限と資本構成への影響

政令第132号において、日本企業に最も甚大かつ直接的な影響を与える規定が、支払利息の損金算入に関する厳格な制限です。同政令によれば、関連当事者取引を有する企業は、当期の純支払利息(支払利息から受取利息を控除した額)の損金算入額が、税引前利益に支払利息と減価償却費を加算した金額(EBITDA)の30%を上限として制限されます。

この規定の特徴は、日本の過大支払利息税制が主に関連会社からの過大な借入に対する利息を規制の対象としているのに対し、ベトナムの規定は関連当事者取引が一つでも存在すれば、親会社からの借入のみならず、独立した第三者の現地金融機関からの借入金に対する利息も含めた「企業全体のすべての支払利息の合計額」に対してこの30%という上限が適用されるという事実です。

この制度設計により、大規模な設備投資のためにベトナム国内の銀行から多額の資金を借り入れている日本の製造業や不動産開発会社は、EBITDAが一時的に落ち込んだ年度において莫大な支払利息が損金不参入となり、法人所得税の負担が急増するという致命的なキャッシュフローの悪化リスクを抱えることになります。損金算入の限度を超えた利息は最長5年間繰り越すことが認められていますが、ベトナムにおいて負債に大きく依存した資本政策をとることは極めて危険であるということが言えるでしょう。

移転価格税制と支払利息制限に関する詳細な解説は以下の情報源で確認することができます。

参考:ベトナム税務解説ウェブサイト

ベトナム個人所得税の抜本的改革と日本人駐在員への影響

ベトナムに赴任する日本人駐在員の給与設計や企業のコスト負担を試算する上で、個人所得税(PIT)の制度理解は不可欠です。ベトナムの個人所得税は、居住者と非居住者で課税の範囲と適用される税率が根本的に異なります。

居住者の判定基準と課税所得の範囲

暦年内、またはベトナムへの初回入国日から継続する12ヶ月間のうち、ベトナムに合計183日以上滞在する個人、あるいはベトナム国内に183日以上の期間にわたる賃貸住宅契約等を有し定住場所を確保している個人は、税務上の居住者とみなされます。居住者と判定された場合、ベトナム国内で支払われる給与や賞与だけでなく、日本国内の銀行口座に留守宅手当として支払われる給与なども含め、全世界で得たすべての所得に対してベトナムの個人所得税が課されます。一方、183日未満の短期滞在である非居住者は、ベトナム国内での活動に起因する源泉所得に対してのみ、一律20%のフラット税率で課税されます。

新個人所得税法による税率階層と控除額の変更

2025年12月に国会で承認され、2026年1月1日より施行された新たな個人所得税法(法律第109/2025/QH15号)により、ベトナムの個人所得税制は長年課題とされてきた税負担の偏りを是正する大きな転換を迎えます。

これまでの現行制度では、居住者の給与所得に対して5%から最高35%までの7段階の超過累進税率が適用されていました。日本の所得税の最高税率である45%と比較すると数値上は低く見えますが、ベトナムでは最高税率の35%が適用される所得の閾値が月額8000万ベトナムドン超(日本円換算で約50万円程度)と極めて低く設定されていました。そのため、一定水準以上の給与を得ている日本人駐在員の多くが容易に最高税率の適用対象となり、結果として企業が負担する手取り保証(グロスアップ計算)に伴う税金コストが膨れ上がるという深刻な問題を抱えていました。

新たな個人所得税法では、この複雑な7段階の税率階層が5段階へと簡素化され、最高税率の35%が適用される所得の閾値も月額1億ベトナムドン超へと大幅に引き上げられました。さらに、納税者本人の基礎控除額が月額1100万ベトナムドンから1550万ベトナムドンへ引き上げられ、扶養家族1人あたりの控除額も月額4400万ベトナムドンから6200万ベトナムドンへと拡充されました。

控除項目2025年までの現行制度2026年以降の新制度
基礎控除(月額)1,100万ベトナムドン1,550万ベトナムドン
扶養控除(月額・1人あたり)440万ベトナムドン620万ベトナムドン
最高税率(35%)適用閾値月額8,000万ドン超月額1億ドン超
税率階層7段階5段階

この法改正により、中間所得層の実質的な税負担が軽減されるだけでなく、日本人駐在員を派遣する日本企業にとっても、給与のグロスアップに要する税務コストの大幅な削減と予測可能性の向上が期待できるということが言えるでしょう。個人所得税法の改正に関する詳細は以下の情報源で確認することができます。

参考:Reeracoenベトナム公式ウェブサイト

ベトナムの税務に関する判例の動向と司法の判断

ベトナムの税務に関する判例の動向と司法の判断

ベトナムは伝統的に成文法主義を採る国家ですが、法律や政令の規定が抽象的であるために生じる法解釈の不一致を解消するため、最高人民裁判所(Tòa án nhân dân tối cao)が主導して判例(Án lệ)を公式に選定し、下級裁判所がこれに従う法的拘束力を持たせる判例制度を近年積極的に整備しています。税務分野においても、裁判所の判断は税務当局の執行方針に多大な影響を与えています。

前述の通り、ベトナムにおける税務コンプライアンスの厳しさを象徴する代表的な事例として、フート省人民裁判所が下した第一審判決(判決番号115/2023/HS-ST)が挙げられます。この事件は、架空の事業体を設立し、実体を伴わない電子インボイスを組織的に発行・販売して付加価値税の不正還付や法人所得税の意図的な圧縮を図ったという事案です。裁判所は、電子インボイスの真正性を確保するという国家の税務管理体制を根底から揺るがす重大な犯罪であると断じ、首謀者のみならず、違法なインボイスを購入して経費を水増しした多数の一般企業に対しても、多額の追徴課税と罰金、そして悪質なケースには実刑判決を科すなど、極めて厳しい判断を下しました。

このような司法の厳罰化の背景には、ベトナム経済のデジタル化に伴う新たな脱税スキームに対して、司法と行政が一体となって断固たる措置をとるという国家的な意思が存在します。この判決の厳格な量刑から、ベトナム税務当局および司法機関が、実体的な取引の有無だけでなく、電子インボイスの発行手続きや記載要件といった形式的要件の具備を極めて重視しているということが言えるでしょう。日本企業においても、現地スタッフ任せのルーズな経理処理を放置することは、会社そのものを刑事リスクに晒す危険な行為であることを深く認識する必要があります。

まとめ

本稿で詳細に解説してきたように、ベトナムの税法はダイナミックな経済成長と歩調を合わせる形で、急速な近代化とデジタル化を推進しています。2025年に施行される新たな法人所得税法や付加価値税法、そして2026年に施行される改正個人所得税法は、税率構造の簡素化や中小企業への支援策を拡充する一方で、多国籍企業に対するグローバルミニマム課税の導入や、海外のデジタルプラットフォームを通じた取引への課税強化を打ち出しており、国家としての税収基盤をより強固かつ公平にするための戦略的な制度設計となっています。

日本企業がベトナムで事業展開を行う際、これら最新の法令を単なる知識として理解するだけでは不十分であり、現地の税務当局が要求する厳格な形式要件に適応する高度な実務対応能力が求められます。特に法人所得税における損金算入要件の厳しさは日本の実務感覚とは大きく異なり、電子インボイスの些細な不備や外国契約者税の源泉徴収漏れが原因で、税務調査において想定外の莫大な追徴課税と重いペナルティを受ける事例が後を絶ちません。さらに、移転価格税制における支払利息の損金算入制限は、グループ全体の資金調達や財務戦略の抜本的な見直しを迫るほどの影響力を持っています。ベトナムにおける税務コンプライアンスの違反は、単なる金銭的な損失にとどまらず、現地法人の代表者の出国制限や刑事告発の対象となる重大な経営リスクに直結します。

現地の法規制が頻繁に更新され、かつ税務当局による独自の解釈が介入する余地が依然として残されているベトナムにおいて、法令の規定を正確に読み解き、適法かつ効率的な事業運営体制を構築することは決して容易ではありません。モノリス法律事務所では、日本企業が直面するベトナム特有の複雑な税務および法務リスクに対し、最新の法令動向を踏まえた適切な戦略の策定から、現地の商習慣に即した契約書のリーガルチェック、そして当局との折衝に至るまで、企業が安心・安全にグローバルビジネスを展開できるよう包括的な法的助言を通じて手厚くサポートいたします。ベトナム進出に関わるあらゆる法的課題の解決に向けて、当事務所の知見をぜひご活用ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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