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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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インドにおける工場用地の取得と不動産規制(RERA)を解説

インドにおける工場用地の取得と不動産規制(RERA)を解説

インドにおける不動産市場は、急速な経済成長とともに拡大を続けており、製造業における工場用地の取得は、ビジネス展開の根幹をなす重要なプロセスです。しかし、インドでの不動産取引や土地取得手続きには、日本の法律とは根本的に異なる複雑な規制が多数存在します。州ごとに異なる農地から工業用地への土地使用目的の変更手続きや、インフラ整備完了前の土地売却制限などは、その典型例です。加えて、近年施行された不動産規制法(RERA法)の適用範囲を巡る議論や、土地の権利関係調査において陥りやすい特有の罠を正確に理解しておくことは、大規模な初期投資を伴う不動産取引の安全性を確保する上で不可欠です。

本記事では、インドで製造拠点を設立する際に必要となる最新の法令や制度、および手続きに関する情報を網羅的に解説し、事業成功のための法務指針を提示します。

インド不動産法制の基礎と日本の法律との違い

インドで不動産を取得するにあたり、日本の法律と最も大きく異なるのが、土地の所有権を証明する制度の根幹です。日本では、不動産登記法に基づく登記制度が整備されており、法務局で登記簿を確認することで、所有者や抵当権の有無を正確に把握することができます。日本の登記には公信力はないものの、対抗要件として機能し、実務上は登記記録に対する極めて高い信頼が担保されています。

一方、インドの不動産取引は主に1882年財産譲渡法および1908年登録法によって規律されていますが、インドの登記制度は「推定的権原」と呼ばれる仕組みを採用しています。インドにおける不動産の登記は、単に当事者間で作成された譲渡証書などの文書が登録されたという事実を公的に記録する機能しか持ちません。国家がその土地の真の所有者が誰であるかを最終的に保証する確定的権原の制度ではないため、登記簿に名前があるからといって、その人物が完全かつ瑕疵のない所有権を有しているとは限らないという決定的な違いがあります。

比較項目日本の不動産法制インドの不動産法制
登記制度の性質権利の対抗要件としての機能が強い取引文書の登録記録に過ぎない(推定的権原)
所有権の絶対性登記簿の信頼性が極めて高い登記があっても、真の所有者である保証はない
過去の権利調査登記簿の現在事項および過去の履歴で通常は完結過去30年間に遡る権利の連鎖の徹底的な調査が必須
タイトル保険一般的ではない外資系企業を中心に利用が検討されるが普及途上

このような法体系の違いから、インドの不動産実務では、単に現在の登記記録を確認するだけでは不十分であり、過去に遡って権利の移転過程を徹底的に調査する権原調査が絶対的な要件となります。インドの出訴期限法(1963年)では、政府が土地の回復を求める請求権の時効が30年(Article 112)と定められており、過去の取引に起因する潜在的請求リスクを網羅的に排除する観点から、実務上は最低でも過去30年間にわたる権利の連鎖を切れ目なく追跡し、権利の瑕疵や隠れた紛争がないかを検証しなければなりません。過去の取引において未登録の権利移転があった場合や、相続に伴う権利関係の不備が潜んでいた場合、購入後に真の権利者を名乗る第三者から訴訟を起こされ、土地を失うリスクが常に存在するためです。

インドの土地収用における連邦法と州法の交錯

インドの土地収用における連邦法と州法の交錯

工場建設のために大規模なまとまった土地を取得する場合、民間同士の売買だけでなく、政府による土地収用手続きが関わるケースが多々あります。インドの土地収用における基本法は、2013年に制定された「土地収用・リハビリテーション・再定住における公正な補償および透明性の権利法(LARR法)」という連邦法です。この法律は、過去の植民地時代の法律を抜本的に改正したもので、土地所有者の権利保護に極めて重きを置いています。

LARR法では、民間プロジェクトのために政府が土地を収用する場合、対象となる土地所有者の80パーセント以上の同意を得ることが義務付けられています。さらに、官民連携プロジェクトであっても70パーセントの同意が必要です。また、土地収用が地域社会に与える影響を評価する社会的影響評価の実施や、市場価格を大幅に上回る手厚い補償金の支払い、立ち退きを余儀なくされる住民の再定住支援などが厳格に定められています。これにより透明性は飛躍的に向上しましたが、一方で工場用地を迅速に確保することが極めて困難となり、大規模なインフラ開発や工業化の足かせとなっているという指摘も存在します。

インド憲法において、土地の規制は連邦と州の競合管轄事項とされているため、連邦法であるLARR法の厳格な要件を緩和し、投資を呼び込むために独自の州法を制定する動きが活発化しています。例えば、タミル・ナードゥ州では、工業目的やインフラ整備のための土地取得手続きを迅速化するため、LARR法(中央法)自体の改正によりSection 105-Aが設けられ、同州の既存州法(Tamil Nadu Acquisition of Land for Industrial Purposes Act, 1997等)による土地収用についてはLARR法の適用が除外されました。このように、進出予定の州がどのような独自の土地収用プロセスを採用しているかを事前に詳細に分析することが、事業計画の遅延を防ぐための要となります。

インドにおける州ごとの土地使用目的の変更手続き

インドの広大な土地の多くは農地として分類されており、そのままでは工場を建設することはできません。農地を工業用地や商業用地に転用するための土地使用目的の変更手続きは、各州の政府が管轄しており、州ごとに手続きの流れや必要書類、さらに課される手数料が大きく異なります。

近年、多くの州政府は海外からの直接投資を促進し、手続きの透明性を高めるために、土地用途変更のオンラインプラットフォーム化を推進しています。例えばカルナータカ州では、Bhoomiと呼ばれるオンライン土地記録ポータルを通じて、用途変更の申請を行うシステムが導入されています。申請者は、権利・小作・農作物記録や土地の測量図、関連当局からの無異議証明書などの書類をデジタルで提出し、現地の行政長官の承認を得る必要があります。さらに2025年9月に施行されたカルナータカ州土地収益規則の改正により、申請には所定のフォーマットによる公証済みの宣誓供述書を含めることが義務付けられました。これにより申請の真正性が担保されるとともに、承認されたマスタープランのゾーン内にある土地については、副長官の事前の許可を待つことなく計画当局が詳細を検証して、デジタル署名付きの用途変更命令を発行できるようになり、手続きが大幅に迅速化されています。

また、タミル・ナードゥ州においても、Patta(土地の権利証)とChitta(土地の面積や用途を示す記録)を統合したデジタル記録システムが導入されており、州政府のe-Servicesポータルを通じて、土地の記録の確認や、用途変更の前提となる権利確認が迅速に行えるようになっています。このシステムでは、専用ポータル上で対象となる地区や地域を選択し、サブディビジョンや測量番号などの不動産詳細を入力することで、記録をデジタルで確認・取得できます。システム上でワンタイムパスワードを用いた本人認証を行うことで安全にアクセスでき、用途変更の前提となる権利関係の裏付けをスムーズに行うことが可能です。無許可で農地に工場を建設した場合、設備や建物の没収、あるいは多額の罰金といった致命的なペナルティが科されるため、着工前に確実に用途変更命令を取得することが必須です。

インドにおけるインフラ整備完了前の土地売却制限と実務対応

インドにおけるインフラ整備完了前の土地売却制限と実務対応

インドにおいて大規模な工場を設立する場合、各州の産業開発公社が整備した工業団地内の区画を長期リース契約で取得する手法が一般的です。これらの公社から土地を取得する際、企業が最も注意すべきなのが、インフラ整備や生産活動の開始前に土地を転売、あるいは譲渡することに対する極めて厳格な規制です。各州の公社は産業振興と雇用創出を目的として土地を提供しているため、単なる不動産投資や投機目的での土地取得を徹底的に排除しています。

州・管轄機関開発義務および土地売却・譲渡に関する主要な規制内容
マハーラーシュトラ州 (MIDC)割り当てから定められた開発期間内に最低40% FSI(2段階で各20%ずつ)を消費して建設を完了し、建築完了証明書(BCC)を取得する義務がある。BCC未取得・生産未開始の段階での譲渡やサブリースに対しては差額プレミアムの30%相当(BCC取得済みの場合は10%)が課され、実質的に転売目的での保有は困難な制度となっている。
グジャラート州 (GIDC)電力の引き込みと一定割合の建設を終えて「利用済み」と認定される前の譲渡は厳格に禁止される。利用開始後の譲渡であっても、利用期間が5年未満の場合は割当価格の15%、5年以上10年未満の場合は10%、10年超の場合は5%の譲渡手数料が徴収される。(利用状況に応じた非利用ペナルティは別途)
タミル・ナードゥ州 (SIPCOT)99年間のリース契約が基本であり、割当面積の50%を利用した後に、プラグアンドプレイ施設の建設やサブリースが許可される場合がある。無許可での非公式な権利移転や目的外使用は、契約解除および土地没収の対象となる。

グジャラート州産業開発公社が発表した2024年の土地割り当てポリシーでは、未利用の区画を譲渡することは原則として不可能であると明記されています。例外として認められるのは、割り当てを受けた個人が死亡し、法定相続人に権利を移転する場合などに限定されており、これに違反する非公式な権利移転が発覚した場合、直ちにリース契約が解除され、土地が没収されるという厳しい措置がとられます。マハーラーシュトラ州産業開発公社の規定においても、定められた期間内に建設を完了し、建築完了証明書を取得した上で、実際の生産活動を開始する義務を負っており、日本の不動産取引のように、土地を更地のまま自由に売買することは認められていません

インドにおける土地の権利関係調査で注意すべきポイント

インドでの土地取得において最も警戒すべき罠の一つが、ヒンドゥー教の家族法に基づく「先祖伝来の財産」に関する権利主張です。ヒンドゥー教の法制下では、曾祖父の代から4世代にわたって分割されずに継承されてきた不動産に対して、その家系に生まれた子孫が誕生と同時に共同所有権を取得するという特有のルールが存在します。このルールにより、インドの不動産実務において、登記簿上は単独名義であっても、売主の家族が「先祖伝来の財産(coparcenary property)」として権利を主張し、売買の無効を訴えるケースが現実に生じています。親族全員の明確な同意と署名を得ずに土地を購入した場合、後になって権利を主張する親族から、売買契約の無効を訴えられる危険性があります。

インド最高裁において2025年に判決が下されたAngadi Chandranna v. Shankar事件(Civil Appeal No. 5401 of 2025、2025年4月22日判決)は、こうしたリスクの典型的な構造を示しています。本件では、1986年に共有家族財産を正式な分割協議書(registered partition deed)により分割した後、被告(後の売主)が兄弟から当該土地を購入し、1993年に買主へ転売しました。これに対し売主の子らが「資金は共有財産から拠出されたものであり、土地は先祖伝来の性質を保持している」として売買の無効・持分分割を求めて提訴しました。最高裁は、共有財産の分割が有効に完了した後に取得された不動産は、共有家族の資金の使用または共有財産への意図的な組み入れ(blending)が明確な証拠をもって立証されない限り、売主の独自取得財産として扱われ、買主への売却は有効であると判示しました。この判例は、買主側が土地の取得資金の出所や権利の連鎖を示す歳入記録・登記文書を徹底的に精査することの重要性を裏付けるとともに、先祖伝来の財産性の主張には単なる親族関係の存在や口頭証言では不十分であり、具体的な証拠が要求されることを明らかにしています。

さらに、指定カーストや指定部族に属する人々が所有する土地の取得には、極めて厳格な保護規制が存在します。社会的弱者である彼らの土地が不当に搾取されることを防ぐため、非部族民や一般企業がこれらの土地を購入することは法律で固く禁じられているか、あるいは州政府の特別かつ例外的な許可がない限り無効とされます。対象地の権利履歴に少しでもこれらの保護対象者の名前が含まれていた場合、取引そのものが根本から覆るリスクがあるため、デューデリジェンスの初期段階でのスクリーニングが欠かせません。

インド不動産規制法(RERA法)の適用範囲と最新の実務対応

インド不動産規制法(RERA法)の適用範囲と最新の実務対応

インドの不動産市場における不透明な取引慣行を是正し、購入者の権利を強力に保護することを目的として、2016年に不動産規制法(RERA法)が制定されました。RERA法は、開発業者に対し、プロジェクトの事前登録や詳細な情報の開示、さらには厳格な資金管理を義務付けており、インドの不動産取引に革命的な変化をもたらしました。インドの実地不動産規制法(The Real Estate (Regulation and Development) Act,)の公式テキストは、インド政府の法令データベースウェブサイトで確認することができます。

参考:インド政府法令データベース(India Code)-RERA法

このRERA法に関して、実務上大きな争点となっているのが、住宅や商業用ビルだけでなく、工業団地や工場用地の分譲プロジェクトに対しても同法が適用されるかという問題です。法律の定義上、アパートメントという言葉には居住用だけでなく商業用や工業用の区画も含まれると解釈できる余地があるため、州ごとに規制当局の判断が大きく分かれています。

タミル・ナードゥ州不動産控訴審判所は、この問題に関して画期的な判断を示しました。GMR Krishnagiri SIR Limited v. Tamil Nadu Real Estate Regulatory Authority事件(2019年9月27日判決)において、審判所はTNRERAの判断を支持し、RERA法の立法趣旨は不動産プロジェクト全般の販売を規制することであり、同法は対象となる区画が住宅用であるか、商業用であるか、あるいは工業用であるかを区別していないと指摘しました。その結果、工業目的の区画開発であってもRERA法の適用範囲に含まれ、プロジェクトの登録義務が生じると明確に判示しました。一方でマハーラーシュトラ州の規制当局は、工業用ユニットはRERA法の適用外であるという判断を下すケースがあり、同じインド国内であっても、州によって法解釈が完全に相反する事態が生じています。

RERA法が課す最も強力な規制の一つが、資金の流用防止を目的とした分別管理義務です。同法は、開発業者が購入者から徴収した資金の70パーセントを、プロジェクトの建設費用および土地代金の支払いにのみ使用する専用の銀行口座に保管しなければならないと定めています。これにより、開発業者が集めた資金を別のプロジェクトに流用してしまい、工事が頓挫するといったインド特有のリスクが大幅に軽減されました。

さらにタミル・ナードゥ州では、この資金管理を一層厳格化するため、2026年1月1日以降の新規登録・再提出申請から新たなルールが適用されます。この新制度では、開発業者は同一の銀行・同一支店に「100パーセント回収口座」「70パーセント専用口座」「30パーセント取引口座」という3つの独立した口座を開設することが義務付けられます。購入者からの支払いはすべて回収口座に集約され、そこから自動的に指定された割合で他の口座に振り分けられる仕組みとなります。専用口座からの資金引き出しは、建築士や公認会計士による進捗証明書の提出と厳格な紐付けが行われるため、資金の透明性が向上し、工場用地としての引き渡し遅延リスクに対する防波堤となります。

まとめ

インドにおける工場用地の取得は、単なる不動産の売買契約にとどまらず、複雑な連邦法と州法のネットワークを紐解く高度な法的プロジェクトです。日本の確定的権原に基づく登記制度とは異なり、インドの推定的権原の制度下では、過去30年に及ぶ権利関係の追跡と、先祖伝来の財産や部族指定地に関連する潜在的リスクの排除が絶対に欠かせません。農地からの用途変更に伴う厳格なデジタル手続きや、州ごとに解釈が分かれるRERA法の適用範囲の確認、さらには各州産業開発公社が定める建築完了前の譲渡禁止規定など、実務上留意すべき点は多岐にわたります。こうしたインド特有の法制と商慣行を正確に把握し、事業計画の初期段階から周到なリスクヘッジを行うことが、新興国でのビジネスを成功に導くための基盤となります。

モノリス法律事務所は、特にIT関連に専門性を有する法律事務所として、インドの法律事務所と強固な提携関係を構築しており、現地法令や現地における手続きに迅速かつ的確に対応することができます。複雑な土地の権利関係調査や、州ごとに異なる最新の規制対応、RERA法に基づくコンプライアンス要件の確認など、インドでビジネスを行うにあたり必要になる情報と実践的なサポートを網羅的に提供することが可能です。現地の法務リスクを確実にコントロールし、大規模な初期投資を伴う不動産取引の安全性を確保するための法務パートナーとして、当事務所の専門的知見をぜひご活用ください。

モノリス法律事務所は、インド法務に関する調査および情報提供を目的として、現地法律事務所Quest IP Attorneysと非独占的な提携関係(Associate Firm / Correspondent Firm)にあります。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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