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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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フィリピンのM&Aを弁護士が解説

フィリピンのM&Aを弁護士が解説

フィリピン共和国(以下、フィリピン)におけるM&Aは、同国の持続的な人口増加と堅調なマクロ経済成長を背景として、消費財、物流インフラ、デジタル通信、そして再生可能エネルギー分野などを中心に近年急速な活発化を見せています。特に日本企業によるフィリピン現地法人の取得や資本参加の事例は増加の一途を辿っており、2024年時点での関連案件数は113件にのぼり、その後も取引規模や件数は拡大傾向にあります。フィリピンは高い経済成長率を維持しているだけでなく、英語が公用語として広く普及しているため、ビジネスの現場において言語の障壁が低くコミュニケーションがスムーズに進行しやすいという大きな利点があります。

さらに、比較的安価でありながら質の高い労働力が豊富に存在することは、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域での事業拠点の再構築やサプライチェーンの多角化を模索する日本企業にとって、極めて魅力的な投資環境を提供しています。現地での事業継続が困難となった日系企業が保有する資産を売却し、それを他の企業が買収するケースや、反対に現地の有力企業を買収して市場シェアを一気に獲得するケースなど、投資の目的も多様化しており、2026年時点においてもその動向は極めて活発です。

フィリピンにおけるM&Aを成功に導くためには、日本の法律や実務慣行とは大きく異なる特有の法規制と手続きを深く理解し、それらに適応した緻密な取引設計を行う必要があるということが言えるでしょう。フィリピンでの主なM&A手法としては、株式譲渡や第三者割当増資(新株発行)、吸収・新設合併、そして事業・資産譲渡が挙げられます。これらの中でも株式譲渡と第三者割当増資が主流を占めていますが、たとえば買収側企業が発行する新株を売却側企業が引き受ける場合、日本法とは異なり、単なる社内機関の決議だけでなくフィリピン証券取引委員会(SEC)による厳格な事前承認手続が必須となります。

さらに、フィリピン特有の重大な留意点として、外資規制と競争法に基づく規制が存在します。外資規制においては、定期的に更新される「ネガティブリスト」によって、メディアや小規模小売業といった特定の分野に対する外国資本の出資比率が厳しく制限されており、憲法上の「資本」の解釈に関する重要な最高裁判所判例も取引の枠組みに直接的な影響を与えます。また、競争法に関しては、フィリピン競争委員会(PCC)への事前届出義務があり、2026年3月に施行された最新の基準では取引価値等の閾値が大幅に引き上げられましたが、確定契約締結後に届出を行うという日本にはない独自の手続きプロセスに細心の注意を払わなければなりません。

このように、フィリピンでのビジネス展開を検討している日本人の経営者や法務部員の皆様にとって、現地の法務、財務、税務、コンプライアンスの各側面における徹底したデューデリジェンス(DD)の実施は、買収後の事業統合を円滑に進めるための絶対条件となります。本記事では、想定される読者が日本人であることを前提に、具体的な法令の条文や重要判例を根拠としながら、フィリピンにおけるM&Aの全体像と日本法との違いについて詳細かつ網羅的に解説いたします。

フィリピンにおけるM&A市場の動向と背景

フィリピンのM&A市場は、堅調な国内消費と政府主導のインフラ投資の拡大により、アジア太平洋地域においても極めて有望な投資対象として位置づけられています。2024年から2025年にかけて、日本企業によるアジア太平洋地域を対象としたクロスボーダーM&Aは加速しており、2025年のデータによれば日本企業が関与した同地域でのM&A案件は361件に達しました。

シンガポールや中国、ベトナムに続き、フィリピン市場でも多くの取引が実行されており、特に情報通信、化学・素材、金融サービス、消費財、ヘルスケア、そして物流分野への投資が顕著です。このような動向の背景には、日本企業が成長機会の獲得と地政学的なリスク分散の双方を同時に追求している状況から、積極的な資本投下が行われているということが言えるでしょう。

アジア太平洋地域における日本企業のM&A動向(2025年)件数およびシェア主要な投資対象セクター
アジア太平洋全体での取引総数361件(100%)情報通信(18.0%)、化学・素材(13.9%)、金融サービス(10.0%)
フィリピン市場における特徴的な傾向消費財や輸送・物流分野で活発な取引デジタルインフラストラクチャー、再生可能エネルギー、不動産分野への戦略的投資

2026年に向けても、フィリピンのM&A環境は健全な成長を続けると予測されています。一部の超大型案件(メガディール)の件数は落ち着きを見せているものの、中規模のディールが多数成立しており、ソブリン・ウェルス・ファンドやプライベート・キャピタルによるインバウンドおよびアウトバウンドの取引が市場を牽引しています。日本国内における金利政策の変化や株主アクティビズムの台頭により、日本企業は手元資金を活用した海外の優良資産の獲得にこれまで以上に積極的になっており、その投資先として人口ボーナス期にあるフィリピンが強く意識されています

フィリピンにおけるM&Aの主な手法と日本法との比較

フィリピンにおけるM&Aの主な手法と日本法との比較

フィリピンでのM&Aを実行する手法は、基本的には日本と同様に株式譲渡第三者割当増資(新株引受)合併、そして事業・資産譲渡に大別されます。これら企業組織の再編に関するルールは、2019年2月に施行された改正会社法(Republic Act No.)によって規律されています。この改正会社法により、取締役の過半数がフィリピン居住者でなければならないという要件や、最低5名の発起人が必要という要件が撤廃され、単独株主による会社(One Person Corporation)の設立が可能になるなど、外国投資家にとっての利便性が大幅に向上しました。しかしながら、具体的なM&Aの手続きの各論においては日本の会社法制と重大な違いが存在するため、法務手続きの設計には細心の注意が必要です。

株式譲渡における法務と最新の税務動向

株式譲渡は、フィリピンにおいてもM&Aの最も一般的な手法として広く活用されています。既存の株主から株式を買い受けることで、対象企業の法人格をそのまま維持しながら支配権を獲得することができます。手続き自体は、株式譲渡契約(Share Purchase Agreement)の締結、株式の裏書交付、および対象企業の株主名簿の書換えという流れで進行し、この点において日本法における非公開会社の株式譲渡の手続きと大きな違いはありません。

一方で、税務上の取り扱いには多大な注意を要します。日本の居住者や内国法人がフィリピンの非上場内国法人の株式を譲渡して得たキャピタルゲインに対しては、フィリピンの国内法に基づき原則として15%のキャピタルゲイン税が課されます。この点に関連し、2026年1月27日から30日にかけて、日本とフィリピンの両政府間で租税条約の全面的な改正に向けた交渉が行われ、実質的な合意に至りました。この新たな条約は、二重課税の排除や国際的な脱税の防止、そして投資環境の安定化を目的としており、正式な署名と批准を経て発効した暁には、株式譲渡益に対する課税範囲や源泉徴収税率の取り扱いが変更される可能性があります。日本企業が株式譲渡の手法を用いてフィリピン企業を買収し、将来的にイグジット(資本回収)を行う際の経済性に直結するため、最新の条約の動向を注視する必要があります。

この日・フィリピン租税条約の実質合意に関する公式なプレスリリースは、日本の外務省の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:外務省の公式ウェブサイト

第三者割当増資(新株引受)における厳格な承認手続き

対象企業が新たに発行する株式を買収側の日本企業が引き受ける手法です。買収資金が既存株主ではなく対象企業そのものに直接注入されるため、対象企業の成長資金や運転資金を確保しつつ経営に参画するケースで頻繁に利用されます。日本法(会社法)の下では、定款に定められた発行可能株式総数(授権資本)の枠内であれば、非公開会社の場合は株主総会の特別決議、公開会社の場合は取締役会の決議のみをもって、機動的に新株を発行し第三者に割り当てることが可能です。しかし、フィリピン法においては、日本よりもはるかに厳格な手続きが要求されます。

フィリピン会社法第37条によれば、新株発行に伴い授権資本枠(Authorized Capital Stock)を増加させる場合、取締役会の過半数の賛成に加えて、発行済株式総数の3分の2以上を有する株主による承認決議が必要です。さらに、日本法との最大の違いとして、資本金増加の効力を法的に発生させるためには、フィリピン証券取引委員会(SEC)への申請と事前の承認(Certificate of Filingの取得)が不可欠となります。このSECへの申請の際、対象会社の財務担当役員は、「増加する資本金の少なくとも25%が引き受けられ、かつ、その引受金額の少なくとも25%が現金または財産によって会社に実際に払い込まれたこと」を証明する宣誓供述書を提出しなければなりません。SECによる審査と承認プロセスには数か月から半年程度を要することが一般的であり、ディールのクロージングまでのスケジュール管理において、この行政手続きにかかる期間を見込むことが最大の懸案事項となります。

合併および事業・資産譲渡と労働法上の承継責任

吸収合併(Merger)新設合併(Consolidation)もフィリピン会社法によって法的に認められていますが、実務上、クロスボーダーのM&Aで直接利用される頻度は株式譲渡に比べて低くなっています。フィリピン会社法第76条および第77条によれば、合併契約(Plan of Merger)を締結したのち、各当事会社の取締役会の過半数の承認、およびそれぞれの発行済株式総数の3分の2以上の株主による承認が必要です。その後、作成された合併定款(Articles of Merger)をSECに提出し、SECからの承認を得ることで初めて合併の効力が発生します。合併に反対する株主には、会社に対して自己の株式の買取を請求する権利(Appraisal Right)が保障されています。日本の合併手続きと同様に債権者保護手続きが必要ですが、SECの許認可プロセスが介在する点で時間的コストが高くなります

対象企業が抱える潜在的な簿外債務や法的リスクを遮断する目的で、特定の事業部門や優良資産のみを買い受ける事業・資産譲渡(Asset Transfer)も有力な選択肢です。日本法においては、事業譲渡は個別の資産・負債の移転行為であり、労働契約を移転させるためには個々の労働者の同意が必要となります。フィリピンにおいても事業譲渡は個別の資産移転という位置づけですが、労働契約の取り扱いは極めて厳格であり、強い労働者保護の法理が働きます。

フィリピンでは、ある企業が別の企業にすべての資産を譲渡した場合、買受企業は原則として譲渡企業の債務や労働法上の義務を引き継ぎません。しかし、フィリピン最高裁判所は以下の4つの例外的な状況においては、買受企業に労働者に対する法的責任(サクセサー・ライアビリティ)が及ぶと判示しています。第一に、買受企業が明示的または黙示的に債務を引き受けることに同意した場合、第二に、当該取引が実質的に両社の合併または統合に該当する場合(事実上の合併)、第三に、買受企業が譲渡企業の単なる継続(Mere Continuation)にすぎない場合、第四に、当該取引が債務からの逃れを目的として詐欺的に行われた場合です。

労働者の雇用継続に関して、フィリピン最高裁判所は過去の判例において、資産の譲渡企業と買受企業が実質的に同一であるとみなされる場合、買受企業は旧雇用主の労働法上の義務を免れないと判断しています。この法理を確立した重要な判例として、フィリピン最高裁判所、1991年8月16日判決、G.R. No.、当事者名Filipinas Port Services, Inc. vs. National Labor Relations Commission事件が挙げられます。この事件では、複数の港湾運営会社が統合されて設立された新会社(Filport社)に対し、旧会社時代の従業員の退職金支払義務の承継が争点となりました。最高裁判所は、新会社が実質的に旧会社のアルター・エゴ(分身)として機能しており、事業の継続性が認められる場合には、承継企業として労働法上の義務(過去の勤続年数に基づく退職金の支払いなど)を引き継ぐと判断しました。したがって、資産譲渡を用いて対象事業を獲得する場合であっても、従業員の継続雇用や退職金、未払い賃金の支払い義務について、デューデリジェンスで徹底的に調査し、譲渡企業との間で明確な責任分担を契約書に規定しておく必要があります。

さらに、事業・資産の譲渡においては債権者保護を目的としたバルクセール法(Bulk Sales Law、Act No.)の遵守が求められます。事業の全部または実質的に全部の資産を通常の営業範囲外で一括譲渡する場合、譲渡企業は事前に全債権者のリストを作成し、譲渡の事実を通知する義務があります。この手続きを怠った場合、その資産譲渡は債権者に対して詐欺的と推定され、取引自体が無効と判断される重大なリスクがあります。近年、フィリピン議会においてこのバルクセール法を時代遅れの規制として廃止する法案(下院法案第4950号など)が提出され議論が進められていますが、完全な廃止に至るまでは現行法の適用状況を慎重に確認する必要があります。

フィリピン独特の法規制に関する深い理解

外資規制と最高裁判所判例が与える影響

フィリピンは東南アジアの中でも比較的厳格な外資規制を維持している国の一つです。外国投資法(Republic Act No.)に基づき、外国資本が参入できない、あるいは出資比率が制限される業種をまとめた「外国投資ネガティブリスト(Foreign Investment Negative List)」が定期的に大統領令によって公布されます。2022年に公布された第12次ネガティブリスト(大統領令第175号)、および策定が進められている第13次ネガティブリスト案によれば、規制は大きく「リストA」と「リストB」に分類されています。

リストAは、憲法や特別法によって明確に外資規制が定められている分野です。マスメディア(録音やインターネットベースのビジネスを除く)や特定の要件を満たさない小規模な小売業、協同組合などは外国資本の参加が一切認められず(外資比率0%)、土地の所有、深海商業漁船の運航、広告業、私設ラジオ通信網の運営などについては外資比率の上限が40%に制限されています。リストBは、国防や公衆衛生、国内の中小企業保護を目的として外資比率を制限する分野であり、武器弾薬の製造などが含まれます。対象企業がこれらの規制分野で事業を行っている場合、日本企業は株式の過半数を取得することができず、マイノリティ出資に留めるか、現地の信頼できるパートナーとのジョイントベンチャーを組成するなどの対応を迫られます。

この外資比率の算定に関連して、フィリピン最高裁判所はフィリピンの会社法制とM&A実務を根本から揺るがす重要な判断を下しています。「Wilson P. Gamboa vs. Finance Secretary Margarito B. Tevesら」事件(フィリピン最高裁判所、2011年6月28日判決、G.R. No.)において、原告の株主は、公益事業における外資上限40%の規制に違反しているとして、大手通信会社PLDTの株式譲渡の無効を訴えました。最高裁判所は、フィリピン国憲法第12条第11項における「資本(Capital)」という用語は、総発行済株式数(普通株式と無議決権優先株式の合計)を意味するのではなく、「取締役の選任において議決権を行使できる株式(すなわち普通株式)」のみを指すと判示しました。

この判決により、議決権を持たない優先株式を大量に発行して形式上の外資比率を合法に見せかけつつ、議決権株式の大部分を外国投資家が握って実質的に会社を支配するという伝統的なスキームは違憲であるという厳格な法理が確立しました。この歴史的な判断は、その後の「Jose M. Roy III vs. Chairperson Teresita Herbosaら」事件(フィリピン最高裁判所、2016年11月22日判決、G.R. No.)においても再確認されており、フィリピンにおけるM&Aの資本構成の設計において絶対に無視できない制約条件となっています。

フィリピン競争委員会(PCC)への企業結合届出の実務

フィリピン競争法(Republic Act No.)に基づく企業結合届出の制度は、フィリピンでの大規模なM&Aにおけるもう一つの大きなハードルです。一定の規模を超える合併や買収については、独占禁止当局であるフィリピン競争委員会(PCC)への事前の届出と、競争制限的でないことの審査クリアが義務付けられています。

PCCは経済成長やインフレーションの状況を反映して届出の閾値を定期的に見直しており、直近では2026年3月1日に新たな閾値が施行されました。最新の規制規則によれば、以下の「当事者要件(Size of Party)」と「取引要件(Size of Transaction)」の双方を満たすM&Aは、PCCへの届出が必須となります。

要件の名称2026年3月1日以降の最新閾値基準となる定義・内容
当事者要件(Size of Party)91億フィリピンペソ取引当事者のいずれかの最終親会社(Ultimate Parent Entity)が有する資産総額または売上高の合計額。
取引要件(Size of Transaction)38億フィリピンペソ対象企業(子会社等を含む)の有する資産総額、または対象企業の売上高。

※旧閾値は当事者要件85億ペソ、取引要件35億ペソでした。経済実態に合わせて約7%から8%程度の引き上げが行われています。

日本における独占禁止法上の企業結合届出は、原則として最終契約の締結前または効力発生前に行い、30日間の待機期間を経過した後にクロージングを行うというルールで運用されています。一方、フィリピン競争法の実施規則(PCA-IRR)および企業結合審査手続規則によれば、届出は「確定契約(Definitive Agreement)の署名から30日以内、かつ取引の完了(Consummation)前」に行う必要があります。つまり、当事者間で最終的なM&A契約書に調印した後に初めてPCCへの公式な届出を行うという、日本法とは異なる独自の手順になります。

この届出を怠った場合、または虚偽の情報を提出した場合には、取引金額の1%から最大5%という非常に高額な罰金が科され、さらに取引自体が無効とされる強力な制裁が用意されています。一定の要件を満たす場合には審査期間が短縮される迅速審査(Expedited Merger Review)の制度も存在しますが、届出に必要な情報のボリュームは膨大であるため、契約交渉と並行して早期から届出書類の準備に着手することが不可欠です。この2026年のPCC閾値引き上げに関する公式な発表や詳細な条件は、現地の主要な経済メディアの報道等でも広く周知されており、法務実務において常に最新の情報を参照することが求められます。

参考:フィリピンにおける主要メディアの報道事例

フィリピンにおけるM&A成功のためのステップと支援体制

フィリピンにおけるM&A成功のためのステップと支援体制

フィリピンにおけるM&Aを成功に導き、期待されるシナジー効果を創出するためには、緻密な事前準備と多角的なアプローチが要求されます。最初のステップは、フィリピン独自の法規制の網羅的な確認です。前述した外資規制(ネガティブリスト)への該当性を精査し、出資比率の制限に抵触しない安全な投資スキームを構築する必要があります。もし規制業種に該当する場合には、議決権株式と無議決権株式の適法な配分バランスの検討や、現地の信頼できる合弁パートナーの選定が不可欠となります。

次に、包括的かつ徹底したデューデリジェンス(DD)の実施が求められます。フィリピン企業を対象とする場合、コーポレートガバナンスが未成熟であり、財務諸表の透明性や税務申告の正確性に課題を抱えているケースも少なくありません。財務・税務面の実態調査に加えて、法務・コンプライアンス面でのDDが極めて重要です。過去の労働紛争の有無、社会保険料の未納状況、事業に必要な各種許認可の有効性、環境規制への対応状況など、買収後にサクセサー・ライアビリティとして日本企業に深刻な影響を及ぼす潜在的リスクを網羅的に洗い出し、株式譲渡契約書(SPA)における表明保証条項(Representations and Warranties)や補償条項(Indemnification)によって、売り手と買い手の間でリスクを適切に配分しなければなりません。

これらの複雑かつ高度な専門性を要するプロセスを、自社の社内リソースのみで完結させることは現実的ではなく、現地の法務、税務、ビジネス慣行に精通した外部の専門家の積極的な活用が強く推奨されます。案件の発掘や初期的なスクリーニングの段階においては、Digima〜出島〜BATONZ(バトンズ)といったクロスボーダーM&Aプラットフォームを活用して効率的に現地の案件情報を収集することが有益です。そして、実際の実行フェーズにおいては、信頼のおけるコンサルティング会社や国際的なネットワークを持つ法律事務所を起用することで、法務リスクを極小化しつつ、SECやPCCといった規制当局との折衝を含めたスムーズなM&Aの進行が可能となります。

まとめ

フィリピンのM&A市場は、巨大な内需と持続的な経済成長を背景に、消費財や物流分野を中心として日本企業にとって極めて魅力的な投資機会を提供し続けています。2026年現在も活発な取引が行われていますが、本記事で解説したとおり、フィリピンにおけるM&Aの実行にあたっては、日本の会社法や独占禁止法とは根本的に異なる法規制や実務慣行への対応が強く求められます。特に、第三者割当増資におけるSEC(証券取引委員会)による厳格な承認プロセス、憲法解釈およびネガティブリストに基づく厳格な外資参入制限、事業・資産譲渡時における判例法理に基づく労働者保護とサクセサー・ライアビリティのリスク、さらには最新の閾値が適用されるPCC(フィリピン競争委員会)への確定契約締結後の事後届出プロセスなどは、ディールを組成する上で絶対に避けては通れない関門です。

また、日・フィリピン租税条約の改定動向を睨んだ将来のタックス・プランニングも、ディール全体の経済性に直結する重大な要素となります。これらの多様な情報を統合的に解釈し、的確な経営判断と契約条件に落とし込むことが、フィリピン市場でのM&Aを成功させるための最大の鍵となります。モノリス法律事務所は、フィリピンを含むクロスボーダーでのビジネス展開やM&Aを通じた事業拡大を検討されている日本企業の経営者様および法務部員の皆様に対し、複雑な現地法制の解釈からリスク分析、デューデリジェンスの実行支援、そして各種契約書面の作成・交渉まで、ディール全体を通じた包括的な法務面でのサポートいたします。海外市場での確実かつ安全な第一歩を踏み出し、事業目標を達成するために、我々は最新の法的知見に基づきサポートいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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