ロシアの許認可を弁護士が解説

ロシア連邦(以下、ロシア)におけるビジネスの展開や現地への渡航を検討する際、現地の法令に基づく各種許認可制度を正確に把握することは、企業のコンプライアンスの観点のみならず、事業の継続性を確保する上で極めて重要です。ロシアの許認可制度は、外国人労働者の受け入れから特定の事業分野におけるライセンスの取得、製品の輸入販売に必要な認証、さらには国家の安全保障に関わる外国投資の制限に至るまで、極めて広範な領域を網羅しています。特に近年は国際情勢の急激な変化に伴い、日本を含む非友好国に対する厳しい投資規制や資金移動の制限が導入されるなど、法令の改正がかつてない規模と速度で行われています。
本記事では、ロシアにおけるビジネスや渡航に関する許認可の実務的な詳細と最新の動向について、日本法との比較を交えながら詳細に解説します。記事全体の要点として、以下の事項が挙げられます。
第一に、ロシアへの入国と就労に関しては、ビザや一般的な労働許可の取得が必須である一方、高技能専門家(VKS)やIT専門家向けの優遇制度が整備されています。日本のポイント制による高度専門職制度とは異なり、ロシアの制度は給与水準に重点を置いており、近年は給与要件の引き上げと引き換えに手続きの簡素化や永住権への道が拡充されています。
第二に、事業活動に必要なライセンスと製品認証については、連邦法に基づく特定の事業分野での許認可や、GOST規格およびユーラシア経済連合(EAEU)基準に基づく適合宣言が厳格に求められ、違反時の罰則は事業閉鎖など致命的なものとなります。
第三に、戦略的産業への外国投資規制は著しく強化されており、事前の承認要件の拡大や承認を経ない取引に対する国家による株式没収といった厳しい司法判断が下されています。
第四に、外国代理人法などの新たな法的枠組みや、日本側でのロシア向け送金・現金持ち出し制限が、事業環境や現地での提携関係に予期せぬ影響を及ぼす可能性がある点にも深い留意が必要です。
以上の要点を踏まえ、各テーマの具体的な法規制と実務上の留意点について順を追って確認していきましょう。
この記事の目次
ロシアへの入国と就労を巡る許認可制度
査証と労働許可および滞在許可の基本構造
外国人がロシアに入国し事業活動や就労を行うためには、ロシアの出入国管理に関する法律および「ロシアにおける外国市民の法的地位に関する連邦法(連邦法第115-FZ号)」に基づく厳格な手続きを経る必要があります。原則として、日本国籍を有する者がロシアに入国するには、目的に合致したビザ(査証)の取得が必須となります。近年は特定の要件を満たす旅行者に向けて電子ビザ(e-Visa)制度が導入され、短期的な商用目的や観光目的での入国手続きは一部簡素化されました。しかしながら、就労を目的とする場合は依然として厳密な労働許可と滞在許可が求められます。
外国人が労働する場合、通常は1年間の有効期限を持つ労働許可と一時的滞在許可を取得し、必要に応じて更新を行う必要があります。また、より長期の滞在を見込む場合には、3年間有効な一時的居住許可を取得する道も存在します。ここで留意すべき点として、旧ソ連圏の独立国家共同体(CIS)諸国からビザなしで入国する外国人労働者に対しては「特許(Patent)」と呼ばれる労働許可証の取得が義務付けられています。この特許制度は、ビザ免除国からの労働移民を合法化し、毎月一定の税金を前払いさせることで労働を認める仕組みです。日本国籍の就労者には直接適用されませんが、現地で現業部門の従業員を雇用する際には、この特許制度の枠組みを理解しておく必要があります。
さらに、ロシア連邦政府は移民管理の厳格化を推進しています。2025年1月1日からは、ビザなしで入国する外国人の滞在期間が暦年で最大90日までに制限される法改正が施行されました。また、ロシア連邦大統領令第1126号により、ロシア国内に合法的な滞在根拠を持たない一部の外国人に対して、2025年9月10日までに法的地位を適正化するか自発的に出国することを義務付ける「追放レジーム」が導入されています。こうした一連の動きから、ロシアにおける入国および滞在管理は国家の安全保障政策と密接に連動して運用されているということが言えるでしょう。
なお、法令上の制度とは別に、物理的な安全確保の観点も不可欠です。2024年7月現在、日本政府はロシア全土に対して「渡航中止・退避勧告」を発出しており、日本企業の駐在員の新規派遣や出張は事実上極めて困難な状況にあります。出入国管理の厳格化に関する法令の詳細は、ロシア連邦大統領府の公式ウェブサイトで確認することができます。
高技能専門家およびIT専門家に対する優遇制度
一般の労働許可を取得する手続きが煩雑であり、ロシア語能力、ロシアの歴史、および基本法令に関する知識を証明する試験の合格が義務付けられている一方で、ロシアには高度な専門知識や技術を持つ外国人を誘致するための「高技能専門家(VKS:Highly Qualified Specialist)」制度が存在します。また、国家的に不足しているIT専門家に対しても、労働許可の取得を簡素化する特別な手続きが設けられています。これらの優遇制度を利用する場合、前述の言語や歴史に関する試験が免除されるほか、家族の帯同や居住許可の取得において大幅な優遇措置が与えられます。
日本法においても、高度な資質や能力を有する外国人を受け入れるための「高度専門職(HSP)」ビザが存在します。日本の高度専門職ビザとロシアの高技能専門家制度には、その認定基準において決定的な違いがあります。日本の制度は、学歴、職歴、年収、年齢、日本語能力などの項目ごとに細かくポイントを付与し、合計が一定点数(原則70点)に達した者に在留資格を付与する「ポイント制」を採用しています。これに対し、ロシアの高技能専門家制度は、原則として「雇用主から支払われる給与水準」という単一の明確な基準によって認定されます。
| 比較項目 | 日本の「高度専門職(HSP)」 | ロシアの「高技能専門家(VKS)」 |
| 認定の主たる基準 | ポイント制(学歴、職歴、年収などの総合評価) | 給与水準(四半期ごとに定められた最低給与額) |
| 語学・知識要件 | 日本語能力は加点要素となる | ロシア語・歴史等の試験は完全に免除 |
| 永住権への道 | 1年または3年で永住許可申請が可能 | 2024年より無期限の居住許可(PRP)申請が可能に |
| 手続きの簡素化 | 在留資格認定証明書(COE)により円滑化 | 雇用契約書の公証コピーでの申請が可能 |
この給与要件について、2024年3月1日に施行された法改正により、高技能専門家に求められる最低給与額は従来の月額16万7000ルーブルから、四半期で75万ルーブル(月額換算で25万ルーブル)へと大幅に引き上げられました。一部の医療従事者や研究者、あるいはスコルコボなどの特別経済特区で働く専門家については例外が設けられていますが、一般的なビジネスにおいて高技能専門家を雇用する際のハードルは上昇しています。
一方で、要件を満たした高技能専門家に対する優遇措置は近年さらに拡充されています。2024年1月7日以降、一定の条件を満たす高技能専門家とその家族は、高技能専門家としてのステータスに縛られない無期限の居住許可(PRP)を申請することが可能となりました。さらに、労働許可の申請や更新時に、従来求められていた雇用契約書の原本ではなく公証されたコピーの提出が認められるようになり、行政手続きの簡素化が図られています。ただし、医療診断の要件については厳格化されており、労働許可の更新決定から30日以内に新たな医療証明書を管轄の移民局に提出する義務が課されています。
給与要件を引き上げる一方で永住権への道を開き行政手続を簡素化する政策から、真にロシア経済に貢献する高所得層のみを的確に選別して定住を促すという、ロシアの明確な人材獲得戦略を読み取ることができるでしょう。高技能専門家の要件変更や実務的な手続きの詳細は、国際的な法務サービスであるFragomen社のウェブサイトで確認することができます。
参考:2024年施行:ロシアの高技能専門家(VKS)ビザ要件と実務手続きの変更点
ロシアでの事業活動に不可欠なライセンスと製品認証

特定の事業活動に対するライセンス要件
ロシアにおいて特定の事業を営む場合には、「特定の事業活動のライセンスに関する連邦法(連邦法第99-FZ号)」に基づくライセンスの取得が義務付けられています。この連邦法は2011年に施行され、かつて105種類存在したライセンス対象事業を49種類に削減することで、ビジネス環境の改善と行政手続きの透明化を図りました。
現在、この連邦法の下でライセンスが必要とされる主要な事業分野には、医療行為、医薬品の製造および流通、通信サービスの提供、暗号化技術に関する事業、建設、武器や麻薬関連の取り扱い、危険物の輸送、消火設備の設置などが含まれます。法人の設立や店舗の運営に際して、これらの事業領域に該当するにもかかわらず適切なライセンスを取得していない場合、事業の即時停止、罰金の賦課、最悪の場合は法人の強制閉鎖といった極めて重い罰則が科される恐れがあります。
これらのライセンス要件は、日本の許認可制度(例えば建設業許可、宅地建物取引業免許、医療法人の許可、電気通信事業の登録など)と類似した機能を持っています。日本法と共通する点は、人々の生命、健康、財産、および国家の安全に重大な影響を及ぼす可能性のある事業に対して、事前の厳格な審査を課している点です。しかし、重要な違いも存在します。日本の事業許認可の多くは有効期間が定められており、数年ごとの更新手続きが義務付けられています。これに対し、ロシアの連邦法第99-FZ号に基づく事業ライセンスの多くは、一度取得すれば原則として有効期限が設けられておらず、更新手続きを要しません。
その代わり、ライセンス要件を持続的に満たしているかどうかの厳格な監査(コントロール)が定期的に行われます。2024年9月1日までにライセンスを取得した企業は、2025年3月1日以降、規定の期間内にライセンス要件への適合性を再確認する手続きを経なければならないとする法改正も行われており、事後的な監督機能が強化されています。なお、銀行業、保険業、証券業などの金融関連事業や、大規模な天然資源の開発、民間年金基金の運営などについては、この連邦法第99-FZ号の適用範囲外とされており、より厳格な別の特別法(例えば銀行法など)によってライセンス要件が独立して規定されています。
ライセンス対象事業のリストや最新の法令改正については、独立国家共同体の法制データベースなどで確認することができます。
製品認証における国家標準とユーラシア経済連合基準
ロシア国内に医薬品、洗剤、医療機器、通信機器などの製品を輸入し販売するためには、製品の安全性と品質を証明する認証の取得が法律で義務付けられています。長年にわたり、ロシアにおける製品認証の基幹となってきたのは「GOST-R(ロシア国家規格)」と呼ばれる制度でした。しかし近年は、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギスの5カ国で構成されるユーラシア経済連合(EAEU)の枠組みの中で、共通の技術要件に基づく「EAC認証(適合証明書)」または「EAC適合宣言」への移行が強力に推し進められています。
現在、大部分の消費財や産業用機械類はEAC認証の対象となっており、一度EACマークを取得すれば、ユーラシア経済連合内の全加盟国で自由に製品を流通させることが可能です。一方で、家庭用の化学品や合成洗剤、一部の塗料、食器、特定の蓄電池などについては、現在も政府政令第2425号に基づくGOST-R適合宣言が必要とされています。日本企業の法務担当者が特に留意すべき点は、日本の製品安全法制との構造的な違いです。日本の電気用品安全法(PSE)や消費生活用製品安全法(PSC)においても、輸入事業者に対する技術基準適合義務が課されますが、特定の条件を満たせば外国の製造事業者が自ら日本の登録検査機関の検査を受け、適合性同等証明書を取得することが可能です。
これに対し、ロシアおよびEAEUの制度においては、外国企業が直接製品認証(GOST-R宣言やEAC認証)の保持者(申請者)になることは法律上一切認められていません。認証を取得するためには、必ずロシア連邦内(またはEAEU加盟国内)に登記された法人、すなわち現地の輸入代理店、販売会社、あるいは現地法人が申請者となる必要があります。この「申請者要件(Applicant Rule)」が存在するため、日本から製品を輸出する場合、現地の信頼できるパートナー企業との間で、認証の取得費用の負担割合、技術文書の共有方法、および法的な責任分担に関する綿密な契約を事前に締結することが不可欠となります。万が一、現地代理店との関係が悪化した場合、その代理店名義で取得した認証を別の輸入業者に流用することが困難になるケースもあるため、法務部門による厳格な契約管理が求められます。
ロシアにおける製品認証の手順や対象品目についての詳細は、現地の認証専門機関のウェブサイトで確認することができます。
ロシア戦略的産業への外国投資規制
外国投資の事前承認制度の全体像
外国企業がロシアでビジネスを展開し、現地企業を買収または合弁会社を設立する上で最も重大な障壁となるのが、国家の安全保障を理由とした外国投資規制です。ロシアでは「国防及び国家の安全保障にとって戦略的な重要性を有する事業体に対する外国投資の手続に関する連邦法(連邦法第57-FZ号)」により、戦略的産業に対する外資の参入が厳格に管理されています。連邦法において「戦略的産業」と定義されている分野は非常に幅広く、およそ40以上の活動区分が指定されています。防衛産業、核兵器・放射性物質の取り扱い、航空宇宙産業といった明白な安全保障分野に限らず、連邦的意義を有する地質調査や鉱物資源の採掘、メディア(テレビ・ラジオ放送や出版)、通信事業、大規模な漁業活動、さらには暗号化技術を用いるIT事業に至るまで多岐にわたります。
これらの戦略的企業に対して、外国投資家が一定の出資比率を超える株式を取得し、あるいは企業を実質的に支配しようとする場合、外国投資統制政府委員会(以下、FDI委員会)からの事前の承認を得ることが義務付けられています。出資比率の上限は業種によって異なり、例えばメディア企業への外資出資は20%に制限され、航空会社は49%、銀行セクターは中央銀行の許可を前提として50%超の取得が規制されています。
日本の外為法(外国為替及び外国貿易法)においても、国の安全等を損なう恐れのある指定業種への対内直接投資等を行う場合には事前の届出が必要とされています。日本の外為法では、対象となる指定業種(武器、航空機、原子力、宇宙開発、サイバーセキュリティ関連など)が細かく規定されており、上場会社の場合、株式取得比率が1%に達する時点で事前届出の対象となるなど、閾値が明確に設定されています。
| 比較項目 | 日本の「外為法」に基づく対内直接投資規制 | ロシアの「連邦法第57-FZ号」に基づく外国投資規制 |
| 規制の主たる目的 | 国家の安全、公の秩序の維持、公衆の安全の保護 | 国防および国家の安全保障の維持 |
| 対象となる主要産業 | 武器、航空、宇宙、原子力、半導体関連、重要インフラ | 防衛、資源開発、メディア、通信、漁業、暗号技術など |
| 事前審査の要否 | 指定業種に該当する場合、事前の届出と審査が必要 | 戦略的企業に対する支配権の取得等に事前の承認が必要 |
| 審査機関 | 財務省および事業所管省庁 | 外国投資統制政府委員会(事実上のトップは首相) |
両国の制度は「国家の安全保障を理由とした投資規制」という目的を共有していますが、ロシアの規制はFDI委員会に広範な裁量権を与えており、連邦反独占庁(FAS)が実務的な予備審査を担うものの、最終的な決定には政治的な判断が介入しやすい構造になっています。特に、首相には特定の基準を満たす企業(市場で支配的地位にある企業や特定の技術を持つ企業など)の買収案件について、戦略的企業に該当しない場合であっても、職権でFDI委員会の審査対象に引き上げる権限が与えられており、外国投資家にとって予測可能性が低下する要因となっています。
非友好国に対する特別な制限と近年の法改正
2022年以降の地政学的危機を受けて、ロシアの外国投資規制は未曾有の厳格化を見せています。2023年には外国投資に関する連邦法が大幅に改正され、規制の対象となる「外国投資家」の定義が拡張されました。これにより、外国の居住許可や類似の文書を有するロシア市民や、ロシア政府から「外国代理人(Foreign Agent)」に指定された個人や団体も、外国投資家として扱われ、厳格な審査の対象に含まれることになりました。
さらに、日本を含む「非友好国」の投資家に対しては、連邦法第57-FZ号の枠を超えた大統領令に基づく強力な制限が網の目のように張り巡らされています。例えば、大統領令第618号などに基づき、非友好国の居住者が関連する有限会社(LLC)や株式会社(JSC)の株式の売買取引を行う場合、それが戦略的企業に該当しなくとも、政府委員会の特別な許可が必須となっています。
また、2023年1月に発出された大統領令第16号により、エネルギー、機械工学、貿易などの特定分野において、非友好国の株主や参加者の議決権を停止し、定足数や議決結果の算定から除外することが可能となりました。さらに、連邦法第320-FZ号により、ガスインフラや地下資源利用などの重要企業において、非友好国の株主(25%以上の株式を保有する者)が事業活動を妨害しているとみなされた場合、裁判所の決定により当該株主の議決権行使や配当金の受け取りを一時的に停止する措置が合法化されました。
加えて、非友好国に関連する投資家への利益配当や債務の返済は、大統領令第95号に基づき、ロシア国内の銀行に開設された特別な「タイプC口座(Type C Account)」を通じてルーブル建てで行うことが義務付けられています。タイプC口座に振り込まれた資金は厳格に凍結されており、国外への送金や自由な引き出しは事実上不可能です。これらの規制は、既存の日本企業がロシア市場から資本を回収して撤退することを極めて困難にしており、資産の国有化や没収に等しい結果をもたらすリスクを内包しています。
外国投資規制に関する裁判例の分析
ロシアにおける外国投資規制の運用実態を深く理解するためには、実際の裁判例を分析することが不可欠です。近年、連邦反独占庁(FAS)の主導により、外資規制違反を理由に取引を無効化する訴訟が頻発しています。以下に、実務上極めて重要な示唆を与える裁判例を取り上げます。
第一に、連邦法第57-FZ号(戦略的企業法)への違反が厳格に処断された事例です。北西管区連邦仲裁裁判所が2023年6月13日に下した判決(事件番号:А42-7217/2021)では、ロシアの戦略的企業において、政府委員会の事前の承認を得ることなく外国の支配が確立されたと認定されました。この事案では、FASが複雑な状況証拠の組み合わせから外国による実質的支配を立証しました。その結果、裁判所は関連する契約を無効と判断し、当該戦略的企業の株式をロシア国家の利益のために没収する命令を下しました。この判決から、戦略的企業に対する事前の承認手続きを回避するいかなる試みに対しても、ロシア政府が「株式の没収」という極めて苛烈な手段を用いて対処するということが言えるでしょう。
第二に、「非友好国」の当事者に対する司法保護のあり方について判断した事例です。西シベリア管区連邦仲裁裁判所が2022年9月5日に下した判決(当事者:Krasnobrodskiy Yuzhniy LLC 対 Nitro Siberia-Kuzbass JSC、事件番号:A27-9400/2019)では、債権者の最終的な受益者が非友好国(スウェーデン)の居住者であるという事実のみをもって、直ちにその者の司法保護を受ける権利を否定することはできないとの判断が示されました。この判決は、すべての事案において非友好国の当事者が自動的に敗訴するわけではないことを示しています。
第三に、大統領令による対抗措置と契約上の義務履行に関する事例です。西シベリア管区連邦仲裁裁判所の2023年2月27日の判決(当事者:Airfleet Resources Ltd 対 Yakutia Airlines JSC、事件番号:A58-10682/2019)において、被告のロシア企業は、非友好国に対する対抗措置を定めた大統領令第79号を根拠に契約上の義務の不履行を正当化しようとしました。しかし裁判所は、当該大統領令は被告が引き受けた債務を免除するものではなく、原告の権利濫用にも当たらないとして被告の主張を退けました。
第四に、国際仲裁条項の有効性に関する事例です。沿海地方の仲裁裁判所が2025年9月16日に下した決定(事件番号:А51-22733/2024)では、契約における仲裁条項の文言に曖昧な点があったにもかかわらず、当事者間の合意の意図を尊重し、事件を韓国での国際仲裁に付託することを認めました。
これらの裁判例を総合すると、ロシアの裁判所は国家の安全保障や戦略的産業の保護に関する事案(FASが主導する外資規制違反など)においては政府の方針に沿って極めて厳格な判断を下す一方で、純粋な商事紛争や国際仲裁の枠組みにおいては、依然として法の支配に基づく一定の法的予測可能性を維持しようとするアプローチも併せ持っているということが言えるでしょう。
外国投資規制の詳細や裁判例に関する包括的な法的見解は、国際的な法律事務所が公開しているレポートで確認することができます。
その他の事業環境を左右するロシアの重要規制

外国代理人法がもたらすビジネスへの影響
事業活動に直接的な許認可ではありませんが、ロシアで活動する日本企業がコンプライアンス上必ず認識しておくべき法令として「外国代理人(Foreign Agen)法」が挙げられます。この法律(連邦法第121-FZ号およびその後継法)は、当初は政治的活動を行う非政府組織(NGO)を対象としていましたが、法改正によりその適用範囲は劇的に拡大しました。現在では、外国からの資金提供や、広く「外国の影響下にある」とみなされた個人、メディア、営利企業までもが「外国代理人」として登録され、厳格な財務報告やすべての出版物への免責事項の表示を義務付けられています。
2024年から2026年にかけて、この法律の適用範囲と罰則はさらに強化されています。例えば、外国代理人に対する広告配信の全面的な禁止や、2026年1月1日からは外国代理人に指定された個人の所得税率が通常の13〜22%から一律30%に引き上げられ、すべての税制優遇措置が撤廃される税制改正が施行されました。さらに、外国代理人法の要件に一度でも違反した場合に直ちに刑事訴追が可能となる法案も可決されています。
日本企業が自らこの法律の対象となるリスクもさることながら、現地で提携しているコンサルタント、ジャーナリスト、あるいは現地のビジネスパートナーが突然「外国代理人」に指定されるリスクが非常に高く見積もられます。提携先が指定された場合、その個人や団体に広告費を支払うことや取引を継続すること自体が、企業の評判リスクのみならず法令違反に直結する恐れがあるため、取引先のデューデリジェンスにはこれまでにない水準の慎重さが求められます。
日本国境におけるロシアへの送金および現金持ち出し制限
最後に、ロシアの国内法ではありませんが、日本からロシアへ事業資金や経費を送金・持参する際に直面する日本の法規制についても触れておく必要があります。日本の財務省および税関の規定により、2022年4月5日以降、ロシアを仕向地とする現金(銀行券および政府紙幣)や貴金属の輸出(日本からの持ち出し)については、日本の外為法に基づき、原則として財務大臣または税関長の事前の許可が必要となっています。これは事実上の輸出禁止措置として機能しており、現地での事業運営に必要な現金を日本からハンドキャリーで持ち込むことは極めて困難です。
さらに、多くのロシアの主要銀行がSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されているため、通常の銀行送金を通じた事業資金の決済も極めて限定的なルートに依存せざるを得ません。ロシア国内での資金調達や決済手段の確保については、国際的な金融制裁の枠組みを厳格に遵守しつつ、ロシアの現地法にも抵触しない合法的な代替手段を慎重に構築する必要があります。日本の資金持ち出し制限に関する公式な案内は、外務省の海外安全ホームページで確認することができます。
まとめ
ロシアにおける各種の許認可制度や規制は、国際政治の動向と連動して絶え間なく変化しています。入国・就労ビザの取得要件の変更から、製品認証のEACへの移行、そして戦略的産業に対する外国投資規制の強化に至るまで、いずれの制度も違反した場合には法人閉鎖や株式没収といった致命的な結果を招く恐れがあります。特に日本企業は「非友好国」の投資家として扱われるため、平時以上に厳格な法令遵守が求められます。
モノリス法律事務所では、こうした複雑かつ流動的な現地の法令に関する最新情報の提供や、許認可取得に向けた実務的なご相談、事業戦略の適法性審査など、ロシアに関連する法的課題に対して幅広くサポートいたします。法令の解釈や運用実態にご不安がある場合は、専門家の知見を活用し、安全な事業展開を図ることを強くお勧めいたします。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務

































