フィンランドのコーポレートガバナンスを弁護士が解説

北欧に位置するフィンランド共和国(以下、フィンランド)は、高度な技術力と安定した経済基盤を有し、デジタルトランスフォーメーションやサステナビリティを推進する環境が整っていることから、日本企業にとって欧州市場への進出や事業展開の拠点として非常に魅力的な国です。しかしながら、フィンランドにおいて企業経営を成功させ、コンプライアンスを遵守しつつ持続的な成長を遂げるためには、同国特有の法律に基づくコーポレートガバナンスの仕組みを正確に理解することが不可欠です。フィンランドにおけるコーポレートガバナンスは、株主への利益還元という伝統的な目的に加え、環境保護や労働者の権利保護といった多様なステークホルダーの利益を重んじる北欧型福祉国家ならではの強い社会的責任の要請によって形作られています。
フィンランドのコーポレートガバナンスは、フィンランド会社法に基づく「株主総会」「取締役会」「業務執行者(CEO)」の構造を基本としており、日本の監査役制度に代わって、取締役会が経営の監視と責任を強力に負う点に大きな特徴があります。次に、日本企業が現地法人を設立する際に最大の障壁となり得るのが厳格な居住要件であり、取締役および業務執行者のうち少なくとも1名は欧州経済領域(EEA)の居住者でなければなりません。さらに、フィンランドには明示的な「経営判断の原則(Business Judgment Rule)」の規定が存在せず、環境破壊やインサイダー取引などの事案において、取締役の監督責任や親会社の責任を極めて厳しく問う最高裁判例が確立されています。加えて、一定規模以上の企業における従業員代表制による経営参加や、2025年に施行された最新のコーポレートガバナンス・コードによる透明性の要請、そして2035年のカーボンニュートラル達成に向けた気候変動法など、ステークホルダー全体の利益を重視する姿勢が企業行動に強く求められている点から、日本企業は現地の法規制に適合した高度なコンプライアンス体制の構築が必要であるということが言えるでしょう。
本記事では、フィンランドでのビジネス展開を検討している日本人の経営者や法務部員の皆様に向けて、フィンランドのコーポレートガバナンスに関する詳細な解説を行います。想定される主要な読者が日本人であることを前提として、日本の会社法に基づくガバナンス構造との異同に焦点を当て、特に日本法との間に存在する重要な違いについては、その背景にある法的な理念や具体的な法令の根拠とともに詳しく説明します。
この記事の目次
フィンランド会社法に基づく機関設計の基本構造
フィンランドにおいて最も一般的な企業形態は有限責任会社(Osakeyhtiö、略称Oy)であり、証券取引所に上場している企業は公開有限責任会社(Julkinen osakeyhtiö、略称Oyj)として区分されます。フィンランドのコーポレートガバナンスに関する主要な法的根拠は、2006年に制定されたフィンランド会社法(Osakeyhtiölaki、624/2006)です。この法律は、企業の機関設計、取締役や業務執行者の役割、株主の権利、そしてそれぞれの義務と責任を詳細かつ強制的に定めています。
株主総会と原則的な権限分配
フィンランド会社法第1章第6条によれば、株主は「株主総会(General Meeting)」においてその決定権を行使します。株主総会は会社の最高意思決定機関であり、取締役の選任や解任、定款の変更、監査人の選任、および財務諸表の承認といった企業の根幹に関わる事項を決定します。同法第1章第7条には平等原則が規定されており、すべての株式は定款に別段の定めがない限り同等の権利を持ち、特定の株主や第三者に不当な利益をもたらすような決定を下してはならないとされています。この規定は、少数株主の権利を保護し、透明性の高い経営を維持するための基盤となっています。
取締役会と業務執行者の厳格な分離
フィンランドのガバナンスにおいて、日本の会社法における一般的な構造と大きく異なるのが、経営の意思決定および監督機能を担う「取締役会(Board of Directors)」と、日常の業務遂行を担う「業務執行者(Managing Director / CEO)」の明確な分離です。フィンランド会社法第6章に基づき、取締役会は会社の管理および業務の適切な組織化について包括的な責任を負います。取締役会は最低1名以上の正メンバーで構成されますが、実際の運用や定款の規定により、特に公開会社においては複数名(多くは3名以上)で構成されることが一般的です。取締役会は、後述する監査機関としての役割も兼ねており、会社の会計および財務管理が適切に監視されるよう手配する義務があります。
一方、業務執行者は取締役会によって選任され、取締役会が定めた指示や命令に従って会社の日常的な業務を遂行します。日本では「代表取締役」が取締役会の構成員であることが前提であり、取締役の中から業務執行を行う代表者が選定されます。しかし、フィンランドにおける業務執行者は必ずしも取締役会のメンバーである必要はなく、取締役会の下に置かれる独立した機関として位置づけられています。
重要な違いとして、フィンランドにおける業務執行者は労働法上の保護を受ける従業員とはみなされません。そのため、取締役会は業務執行者に対して信任を失ったと判断した場合、いつでも即座に解任することが可能であり、当事者間で特別な契約がない限り、退職金や補償金を支払う法的な義務を負いません。この仕組みにより、取締役会は業務執行者のパフォーマンスを厳格に監視・評価し、必要に応じて迅速に経営体制を刷新することができるようになっています。
事業監視委員会の役割と任意の二層構造
フィンランド会社法第6章第21条は、定款で定めることにより「事業監視委員会(Hallintoneuvosto / Supervisory Board)」という任意の機関を設置することを認めています。事業監視委員会の主な職務は、取締役会および業務執行者が担う会社の管理体制を監督することです。定款の規定によっては、事業監視委員会に対して取締役の選任権やその報酬の決定権を付与することも可能です。ただし、事業監視委員会自体が会社を代表する権限を持つことは禁じられています。
このような二層型のボード構造(Two-tier board structure)は、ドイツの監査役会制度に類似していますが、現在のフィンランドにおいて事業監視委員会を設置しているのは一部の大企業や協同組合に限られており、大多数の有限責任会社は取締役会と業務執行者のみからなる一層型(One-tier board structure)を採用しています。
フィンランドと日本の法律比較によるガバナンスの特徴

日本企業がフィンランドにおいて法人を設立し、または現地企業を買収して経営に参加する場合、日本法に固有の制度とフィンランド法の制度設計の違いを正確に理解しておく必要があります。以下に、日本とフィンランドのコーポレートガバナンス構造の主要な違いを比較表として整理します。
| 比較項目 | 日本のコーポレートガバナンス(一般的な取締役会設置会社) | フィンランドのコーポレートガバナンス(一般的な一層型構造) |
| 業務執行の主体 | 代表取締役(取締役会の構成員であることが必須) | 業務執行者(CEO)(取締役会の構成員である必要はない) |
| 監査・監督機関 | 監査役、監査等委員会、または指名委員会等(機関設計の選択が可能) | 取締役会が直接監督機能を担う(別途、外部の公認会計士による会計監査が必須) |
| 役員の労働法上の保護 | 委任関係であり労働法上の保護はないが、不当解任には損害賠償請求が可能 | 業務執行者は労働法上の保護を受けず、取締役会はいつでも無補償で解任可能 |
| 役員の居住要件 | 代表取締役の日本居住要件は撤廃されており、全員が非居住者でも登記可能 | 取締役(正メンバー)のうち少なくとも1名、および業務執行者はEEA居住者であることが必須 |
| 労働者の経営参加 | 法的な義務としての従業員代表の取締役会への参加制度はない | 150人以上の企業において、従業員の要求により会社の管理機関に従業員代表を参加させる義務がある |
監査役制度の不在と取締役会の監督機能
日本の会社法においては、取締役の職務執行を監査する独立の機関として「監査役」を置くことが長らくガバナンスの中心的な役割を担ってきました。近年では監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社への移行も進んでいますが、いずれにせよ業務執行を行う取締役に対する独立した監査機関の存在が制度上確保されています。
これに対し、フィンランドの機関設計には日本の監査役に完全に相当する常設の独任制監査機関は存在しません。フィンランドのガバナンスにおいて監督の主体となるのは「取締役会」そのものです。上場企業や公益性の高い企業においては、フィンランド会社法第6章第16a条に基づき、取締役会が財務報告システム、内部統制、リスク管理の効率性を直接監視し、評価することが求められます。
会計監査については、外部の公認会計士(HTまたはKHT)を選任することが法的に義務付けられており、外部監査人が財務の正確性と透明性を担保する仕組みとなっています。企業規模が極めて小さい場合には監査人の選任を免除される例外規定もありますが、一定規模以上の企業では必須となります。
取締役および業務執行者の欧州経済領域居住義務
日本企業がフィンランドに進出する際、実務上最も大きな障壁となり得るのがフィンランド会社法に規定される厳格な居住要件です。日本法では、かつて存在した代表取締役の日本居住要件が現在では撤廃されており、役員全員が海外に居住していても日本法人の設立や登記が可能です。
しかし、フィンランドにおいては、取締役会の正メンバーのうち少なくとも1名、および業務執行者(CEO)は、欧州経済領域(EEA)の居住者でなければなりません。これは国籍を問うものではなく、実際にEEA圏内に生活の本拠を置いているかどうかが問われます。したがって、日本の本社から日本人役員をフィンランド子会社の取締役に就任させる場合、その全員が日本に居住している状態ではこの法的な要件を満たすことができません。
EEA圏外の居住者のみで機関を構成したい場合、フィンランド特許登録庁(PRH)に対して特別な許可(Permit)を申請し、取得する必要があります。この許可申請には、申請者の氏名、国籍、居住地、対象となるフィンランド企業の詳細などを記載した書面による申請が求められ、所定の手数料を納付する必要があります。このPRHからの許可申請に関する要件や手続きの詳細な案内は、フィンランド特許登録庁の公式ウェブサイトで確認することができます。
許可が得られない場合は、EEA圏内に居住する適格な人物を現地で採用して取締役や業務執行者に選任するか、あるいは最低限、訴状や公的な通知を受領するための「フィンランド国内に居住する代表者」を別途選任して商業登記簿に登録するなどの代替措置が必要となります。
フィンランドにおける経営判断の原則と役員責任に関する司法判断
フィンランド会社法第1章第8条は、「経営陣は十分な注意をもって行動し、会社の利益を促進しなければならない」と定めており、取締役および業務執行者に極めて高い水準の善管注意義務と忠実義務を課しています。この義務に違反して会社や株主、あるいは第三者に損害を与えた場合、取締役等は個人としてその損害を賠償する責任を負います。
アメリカ合衆国やドイツ、そして日本においても判例法理として認識されている「経営判断の原則(Business Judgment Rule)」は、経営陣が誠実に、利益相反なく、十分な情報に基づいて下した合理的なビジネス上の意思決定については、事後的に損害が発生したとしても法的な過失責任を問わないとする枠組みです。しかし、フィンランドの法律には経営判断の原則を明示的に認める規定は存在しません。フィンランドの司法実務においては、行為当時の客観的な基準に照らして十分な注意義務が尽くされていたかどうかが厳格に審査されます。フィンランド最高裁判所(Korkein oikeus、略称KKO)の判例は、この役員の責任について厳しい判断基準を示しています。以下に、日本企業が留意すべき重要な判例を解説します。
環境保護義務違反における取締役の過失責任(KKO 2016:58)
2016年9月9日に下されたフィンランド最高裁判所の判決(KKO 2016:58)は、企業の環境問題に関する取締役の監視・監督責任の重さを決定づける非常に重要な事案です。この事件は、ポテトフレークを製造する有限責任会社の工場から有害な廃水(ジャガイモの汚泥)が排出され、周辺環境を著しく汚染したというものです。当該企業は事業運営に必要な環境許可証を保有していましたが、許可証に記載された詳細な遵守条件を満たすための措置を怠っていました。
裁判において、被告となった取締役らは、工場の日常的な運営や廃水処理の具体的な管理は業務執行者(CEO)や現場の管理職に委ねられており、取締役会としての責任はないと主張しました。しかし最高裁は、取締役会のメンバーは会社の環境問題が適切に管理されているかを監督する法的な義務があるとし、環境許可証の内容すら十分に把握していなかった取締役らの怠慢は「重過失」に該当すると認定しました。実務上の役割分担があったとしても、会社法に基づく取締役の監督義務が免除されるわけではないと判断されたのです。この判例から、日本企業がフィンランドの現地法人の取締役に自社の役職員を派遣する場合、単なる名義貸しや、現場からの報告を受動的に待つだけの姿勢では許容されず、現地の環境規制などの法的要件に対して自ら積極的に情報を取得し、遵守体制を構築する義務があるということが言えるでしょう。
法人格否認の法理と親会社の責任(KKO 2015:17)
北欧諸国の会社法制においては、伝統的に株主の有限責任原則が極めて強く保護されており、親会社が子会社の債務や不法行為の責任を負う「法人格否認の法理(Piercing the corporate veil)」が裁判所で認められることはほとんどありませんでした。しかし、2015年に下された最高裁判決(KKO 2015:17)は、この原則に重要な例外を設けました。
この事案では、フィンランドの上場企業である親会社が、自国におけるフィンランド著作権法(404/1961)に基づく著作権料の支払い義務を免れる目的で、完全子会社であるエストニアの法人を意図的に利用して事業活動を行っていました。最高裁は、この複雑な企業構造が専ら法的な義務の潜脱を目的として濫用的に設定されたものであると認定し、エストニア子会社の行為に対する責任をフィンランドの親会社に直接問う判断を下しました。この画期的な判決により、フィンランドにおいても英米法に由来する法人格否認の法理が採用されることが明確になりました。コスト削減や税務上の理由で他国に子会社を設立すること自体は合法ですが、法の潜脱のみを目的とするようなガバナンス構造は厳しく制裁されるリスクがあります。
内部情報の取り扱いとインサイダー取引の厳格化(KKO 2024:25)
近年の判例として、2024年4月5日に下された最高裁判決(KKO 2024:25)は、役員による自社株取引とインサイダー情報の該当性について厳格な基準を示しました。この事件では、B社(Oyj、公開会社)の業務執行者であるCEO(A氏)が、自社が重要な顧客(X社)から大規模な受注案件を獲得するための交渉を行っている期間中に、自社の株式を購入しました。その後、この受注に関するプレスリリースが発表されました。地方裁判所はインサイダー取引による有罪としましたが、控訴院は「交渉段階での情報は確実性が低く、株価への影響を正確に見積もることはできなかった」として無罪としました。
しかし、最高裁は控訴院の判断を覆し、有罪判決を下しました。最高裁は、受注に向けたプロジェクトが実現する「現実的な可能性(real possibility)」があった時点で、それはインサイダー情報としての「正確性」の要件を満たすと判断しました。A氏が事前に社内の法務顧問に相談していたことや、会社側が社内規定に基づきこの案件を正式なインサイダープロジェクトとして登録していなかったという事実は、個人の刑事責任を免除する理由にはならないとされました。日本法においてもインサイダー取引規制は存在しますが、このフィンランドの判決は、情報が完全に確定する前の段階であっても、その重要性に関する客観的な評価基準が非常に低く設定されており、経営陣に対するコンプライアンスの要求水準が極めて高いことを示しています。
フィンランドにおけるステークホルダー重視と従業員の経営参加

フィンランド会社法第1章第5条には「会社の目的は株主に利益をもたらすことである」と規定されており、条文上は伝統的な株主至上主義(Shareholder primacy)の立場をとっているように見えます。しかしながら、実際のフィンランドのビジネス環境、司法判断、および法改正の動向においては、株主以外の多様なステークホルダー(従業員、地域社会、環境保護など)の利益を積極的に考慮するステークホルダー主義の姿勢が深く浸透しています。
従業員代表制の導入要件と実務的影響
フィンランドのガバナンス構造において、ステークホルダー主義を具体的に体現しているのが従業員の経営参加制度です。「事業所における協力に関する法律(Act on Co-operation within Undertakings、新しい協力法は2022年1月1日施行)」に基づき、フィンランド国内で150人以上の従業員を雇用する企業においては、従業員側(少なくとも2つの従業員グループ)からの要求があった場合、会社の管理機関(取締役会や経営会議など)に従業員代表を参加させなければなりません。
この従業員代表は、経営陣に対して現場の労働者の視点を提供し、事業の再編、リストラ、企業買収など、雇用に重大な影響を及ぼす意思決定が行われる際に、事前の協議や情報共有を行う重要な役割を担います。日本においては、労働組合法に基づく団体交渉権や、労働基準法上の過半数代表者との労使協定などの仕組みはありますが、取締役会等の経営機関そのものに労働者の代表を参加させることを義務付ける法律はありません。フィンランドのこの制度は、労使の対立を未然に防ぎ、透明性の高い対話を通じて長期的な信頼関係を構築しようとする北欧特有のコーポレートガバナンスのあり方を示しています。
最新のコーポレートガバナンス・コードと持続可能性への対応
フィンランドの上場企業においては、会社法や証券市場法(Securities Markets Act、746/2012)といったハードローに加えて、フィンランド証券市場協会(Securities Market Association)が策定する「フィンランド・コーポレートガバナンス・コード(Corporate Governance Code)」が重要な規範となっています。このコードはナスダック・ヘルシンキ等の公式市場に上場する企業に適用され、「遵守するか、さもなくば説明せよ(Comply or Explain)」という国際的な原則に基づいて運用されています。
コーポレートガバナンス・コード2025の適用と透明性
直近の規制環境の大きな変化に対応するため、フィンランドでは2025年1月1日に最新の「コーポレートガバナンス・コード2025」が施行されました。この新しいコードの最大の特徴は、欧州連合(EU)が主導する最新の法制度を国内のガバナンス原則に全面的に統合した点にあります。具体的には、「上場企業の取締役会における男女の均衡に関する指令(Board Gender Balance Directive)」や、「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」、「企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)」の要請が反映されています。
新コードの下では、取締役会の構成におけるダイバーシティ(多様性)の確保が厳しく求められるとともに、取締役の独立性の評価基準がより明確化されました。例えば、主要株主(議決権の10%以上を保有する株主)からの独立性や、過去10年以上にわたって在任している取締役の独立性については、取締役会が慎重に評価し、その根拠を開示することが求められます。また、情報開示の枠組みも変更され、従来は管理報告書とは別に独立した文書として作成することが推奨されていたコーポレートガバナンス声明(CG Statement)について、サステナビリティ報告を管理報告書の一部として統合すべきとするフィンランド会計法および証券市場法の改正に伴い、より統合的な情報開示が推進されています。
カーボンニュートラルと企業の社会的責任
フィンランドにおける企業の社会的責任(CSR)とサステナビリティへの取り組みは、もはや単なる倫理的な指針ではなく、強力な法的裏付けを持った経営課題となっています。フィンランド政府は、EU全体の目標である2050年を15年も前倒しし、「2035年までのカーボンニュートラル達成」という極めて野心的な国家目標を掲げています。
この目標は、2022年に改正された「気候変動法(Climate Change Act)」によって法的な拘束力を伴って定められており、産業界全体に対しても温室効果ガスの排出削減やグリーン・トランジションへの積極的な貢献が求められています。これに伴い、EUの企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)の影響を受け、フィンランドの企業行動においても、自社の事業活動だけでなくサプライチェーン全体における人権侵害や環境破壊のリスクを特定し、予防および是正措置を講じることが、取締役の法的な義務として組み込まれつつあります。
日本においてもESG(環境・社会・ガバナンス)経営の重要性が叫ばれていますが、フィンランドにおいては、環境保護や社会貢献が気候変動法や環境保護法に基づく厳格な規制として機能しており、先述の最高裁判例(KKO 2016:58)に見られるように、コンプライアンス違反が直ちに取締役個人の刑事責任や巨額の損害賠償に直結する仕組みが確立されています。したがって、フィンランドで活動する企業から見れば、サステナビリティへの対応は投資家向けのアピールにとどまらず、法的リスクを回避し企業を存続させるための必須要件であるということが言えるでしょう。
まとめ
本記事では、フィンランドのコーポレートガバナンスについて、会社法に基づく機関設計、日本法との重要な違い、最新の判例、そして持続可能性に向けた法的動向を網羅的に解説しました。記事全体の要点として、フィンランドの会社法は取締役会と業務執行者の役割を明確に分離することで、経営の機動性と監督機能を両立させる合理的な構造を採用しています。また、日本の監査役制度が存在しない代わりに、取締役会自体が会計や業務執行に対する強力な監視責任を負っています。日本企業がフィンランドに進出する際には、EEA居住要件という法的ハードルをクリアするための適切な人員配置や許可申請が不可欠です。さらに、最高裁判例が示すように、フィンランドでは経営判断の原則による安易な免責は認められず、環境保護やインサイダー規制の遵守に関して取締役の監視責任が極めて厳しく問われます。2025年施行の最新のコーポレートガバナンス・コードや2035年カーボンニュートラル目標の法制化に象徴される通り、多様なステークホルダーの利益を重んじる高い倫理観とコンプライアンス体制の構築が企業経営の前提となっています。
日本企業がフィンランドで事業を成功させるためには、日本の常識や法的な慣行をそのまま持ち込むのではなく、こうした現地の厳格な法規制と北欧特有の社会的要請を正確に把握し、それに適合したガバナンス体制を現地で構築することが求められます。モノリス法律事務所では、フィンランドをはじめとする欧州各国における現地法人の設立サポートから、居住要件を満たすための特許登録庁への許認可申請、現地の会社法に準拠したコーポレートガバナンス体制の設計、さらには環境規制や労働法制を含む最新のコンプライアンス対応に至るまで、日本企業の皆様の安全かつ持続可能なグローバルビジネスの展開を総合的にサポートいたします。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務

































