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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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イタリア共和国の法律の全体像とその概要を弁護士が解説

イタリアの法制度の歴史的ルーツは、古代ローマにまで遡ります。ローマ帝国で体系化された「ローマ法」の概念は、中世以降のヨーロッパ大陸の法形成に決定的な影響を与え、現代イタリアの法体系の礎となっています。こうした歴史的経緯より、イタリアは成文法主義(Civil Law)を堅固に採用しています。法律は、包括的な法典に体系的に編纂され、裁判官はその法典を解釈・適用することで紛争を解決します。これは、日本の法制度とも共通するものであり、個別の判例を重視する英米法系とは対照的な特徴です。

また、イタリアの法制度は、中央集権的な日本とは異なり、多層的な地方分権という側面も持っています。行政区画は、中央政府、20の州(Regione)、そして県(Provincia)やコムーネ(Comune)という3つの階層で構成されています。この地方分権は、単に行政サービスを分担するだけでなく、税法や観光業の許認可など、ビジネスに直接影響を与える法律の制定・適用にも及んでいます。そのため、イタリアで事業を展開する際には、中央政府の法律だけでなく、事業を行う地域の州やコムーネの規制も詳細に確認する必要があります。この多層的な構造により、法律は複雑になりますが、地域ごとの特性に応じた柔軟な対応が可能になっています。

本記事では、イタリアの法律の全体像とその概要について、弁護士が詳しく解説します。

イタリアの法源と裁判所の構造

イタリアの法制度は、その根幹を成す法源と、それを執行する司法機関の構造によって成り立っています。法源は階層的に構成されており、最上位には1948年に制定されたイタリア共和国憲法が位置づけられます。憲法の下には、民法典、刑法典、商法典といった主要な法典が整備されており、これらがイタリアの成文法主義の中心を形成しています。

近年では、欧州連合(EU)の法令がイタリアの法源としてますます重要な役割を担っています。例えば、EUのPSD2(Payment Services Directive 2)が国内法である資金決済法(Decreto Legislativo 11/2010)に、またAI(人工知能)の利用を規制するEU AI ActがAI法案(Bill No. 1146/2024)として国内法に転換される動きが見られます。これらの事例は、イタリアの法規制が国内だけでなく、EU全体の動向と密接に連動しており、今後も欧州レベルの法改正を継続的に監視する必要があることを示唆しています。

司法制度は、第一審、第二審(控訴)、第三審(最終審)の三審制を基本としています。第一審の裁判所には、軽微な民事・刑事事件を扱う名誉職の平和判事(Giudice di Pace)と、より重大な事案を扱う地方裁判所(Tribunale)があります。地方裁判所は、通常の民事・刑事事件に加えて、企業、破産、労働、未成年者に関する専門的な事件を扱うための専門部門を内部に設けており、複雑な事案に対する専門的な知見に基づいた迅速な解決を目指しています。第二審は控訴裁判所(Corte d’Appello)が担当し、第一審の判決に対する事実認定や法律解釈の不服を審査します。そして、法律の解釈を統一し、司法判断の一貫性を保つための最終審として、ローマに拠点を置く最高裁判所(Corte di Cassazione)が存在します。さらに、通常の司法制度とは別に、行政紛争を扱う地域行政裁判所(Tribunali Amministrativi Regionali – TAR)や、公的資金の監査・管理を扱う会計検査院(Corte dei conti)のような専門裁判所も存在します。

日本の裁判制度が当事者主導で進められる当事者主義を基本とするのに対し、イタリアでは裁判官が事実認定や証拠収集に積極的に関与する、職権探知主義的な側面が強い傾向があります。この違いは、裁判の進行や結果の予測可能性に影響を及ぼす可能性があります。また、イタリアでは個々の判決が直接的な法的拘束力を持たず、あくまで助言的な目的で用いられるに留まるという点も、最高裁判所の判例が下級審を実質的に強く拘束する日本の法慣行とは異なります。日本企業がイタリアで事業を展開する際には、過去の判例を絶対的な根拠として法的判断を予測することが難しいため、より個別事案ごとの詳細な法的分析が求められます。

イタリア民法典の概要と日本民法との比較

イタリア民法典の概要と日本民法との比較

イタリア民法典は1942年3月16日の国王令第262号によって制定され、人、家族、相続、財産、債権、労働、権利の保護といった私法規範を網羅する法典です。この法典は6つの「編」で構成されており、特に第5編に会社に関する規定を含む「労働」の分野が統合されている点が特徴です。これは、日本の法制度上で、民法から会社法や労働法が独立しているのとは異なる設計となります。

イタリア契約法におけるCausa(原因)

イタリア契約法における「Causa」(原因)の概念は、日本企業が契約を締結する際に特に注意すべき点です。これは、単に契約当事者の合意(日本の「合意」にあたる概念)だけでなく、契約が社会経済的に持つ正当な理由を意味します。例えば、売買契約においては、売主が所有権を移転する義務と、買主が代金を支払う義務という相互の約束そのものが「Causa」となります。この「Causa」が適法かつ存在しなければ、たとえ形式的に契約が成立しているように見えても、契約全体が無効と判断されるリスクがあります。日本の契約法には「Causa」のような直接的な概念は存在しないため、契約の有効性を判断する際に、単に公序良俗に反しないかといった観点だけでなく、契約の「目的」がイタリア法における「Causa」の要件を満たしているかをより慎重に検討する必要があります。

イタリアの不動産法

イタリアの不動産は、土地と、その上または地下に建設された建物や非可動の人工物を指します。主要な準拠法はイタリア民法典の関連規定ですが、賃貸借や文化遺産に関する特別法も存在します。不動産取引は、公証人の前で実行され、不動産登記簿(Registri immobiliari)に登録されることで効力を生じます。所有権の証明は、20年間の公証人報告書(relazione notarile ventennale)によって高い確実性で可能とされています。日本企業がイタリアで不動産を取得する際には、土地の所有者と建物の所有者が異なる場合があるため、土地の利用権原が適切に確保されているかを確認するなど、より綿密な調査と専門家の助言が不可欠です。

イタリアにおける会社設立と法人形態の選択

イタリアで事業を始める際、どの法人形態を選択するかは、事業の規模、リスク許容度、資金調達の計画に大きな影響を与えます。主要な法人形態は有限責任会社(Società a Responsabilità Limitata, S.r.l.)と株式会社(Società per Azioni, S.p.A.)の2つで、日本の合同会社と株式会社にそれぞれ対応します。

S.r.l.(有限責任会社)は、イタリアで最も広く利用されている法人形態であり、特に中小企業やスタートアップに適しています。その設立要件の柔軟性が大きな特徴です。最低資本金は法律上1ユーロから設立が可能ですが、10,000ユーロ未満の場合、出資は現金に限定され、設立時に全額を払い込む必要があります。10,000ユーロ以上の資本金で設立する場合は、現金出資額の25%を設立時に払い込むことになります。出資は現金だけでなく、経済的価値が評価できるものであれば、労務や役務の提供も可能です。社員は出資した範囲で有限責任を負い、経営は1名または複数名の取締役(Amministratori)が行います。

S.r.l.の全持分が1名の社員に帰属した場合、その事実を会社登記簿に公示しなければ、その単独社員は、その期間に発生した会社の債務について個人資産で弁済する無限責任を負うことになります。これは、会社の法人格と個人の資産が完全に分離されるという有限責任の原則が、特定の状況下で解除されるという重要な規定であり、日本の同様の制度には見られない厳格な点です。

S.p.A.(株式会社)は、大規模な事業や、株式を公開して多数の投資家から広く資金を調達する上場企業に適した法人形態です。設立には50,000ユーロ以上の最低資本金が必要です。設立時に払込が義務付けられているのは、現金出資額の25%ですが、S.r.l.と同様に単独株主で設立する場合は全額の払込が必須となります。資本は株式(azioni)に分割され、各株主は株式数に応じた権利を持ち、有限責任を負います。株式は自由に譲渡できるのが原則で、S.r.l.の持分に比べて流動性が高いのが特徴です。S.p.A.の全株式が1名の株主に帰属した場合、法律で定められた公示義務を怠ると、その単独株主は無限責任を負います。この厳格な規定は、イタリアの会社法が形式的な要件の遵守を重視していることを示しています。

関連記事:イタリア共和国における会社形態と会社設立のプロセス

イタリアにおけるコーポレートガバナンス

イタリアのコーポレートガバナンスは、主に民法典の会社法関連規定(Articoli 2380-2409 c.c.)にその法的基盤を置いています。上場企業には、統合金融法(Consolidated Law on Finance)や、ボルサ・イタリアーナ(Borsa Italiana)が発行するコーポレートガバナンス・コードといった追加の規制が適用されます。後者は「Comply or Explain」(遵守せよ、さもなくば説明せよ)という原則を採用しており、画一的なルールを強制するのではなく、コードの原則を遵守しない場合にその理由を市場に説明することを求めています。

取締役の義務と責任

イタリア民法典第2392条は、取締役の注意義務を明確に規定しています。取締役は、職務の性質と個々の専門的能力に見合った「プロフェッショナルの注意義務」(Diligenza professionale)をもって職務を遂行することが求められます。これは、一般的な「善良な管理者の注意義務」よりも厳格な基準であり、取締役が専門家として、情報に基づいた合理的な意思決定を行うことを強く要求するものです。この義務は、取締役が事業活動の成功だけでなく、リスク管理や法令遵守を含む広範な職務を適切に遂行するために不可欠であると位置付けられています。

この義務違反から会社に損害が生じた場合、取締役は会社に対して連帯責任を負います。この責任は契約上の責任と解釈されており、会社が義務違反と損害の因果関係を証明すれば、取締役は自らの過失がないことを証明しなければ責任を免れません。この厳格な挙証責任の転換は、日本法における「経営判断の原則」の適用よりも、取締役により重い立証責任を課す側面があります。したがって、イタリアで取締役を務める者は、意思決定の過程で十分な情報を収集・分析し、そのプロセスを適切に文書化しておくことが極めて重要になります。

ただし、取締役の経営判断そのものについては、「経営判断の原則」(Business Judgment Rule)がイタリアの法体系でも認められています。この原則は、取締役が、自己の利益のためではなく、善意で、十分に情報に基づいた上で、会社の最善の利益を追求するために行った判断については、その結果が思わしくなかったとしても、責任を追及されないというものです。この原則は、取締役が不確実な事業活動において、萎縮することなくリスクを取ることを奨励するために存在します。しかし、意思決定プロセスに不備があった場合や、その判断が明らかに不合理であると判断された場合には、この保護は適用されません。

監査役および会計監査人の役割

イタリアのS.p.A.は、原則として監査役会(Collegio Sindacale)を設置することが義務付けられています。監査役会の主な役割は、取締役が法令および定款を遵守しているか、また会社の組織・会計体制が適切に機能しているかを監督することです。財務諸表の適正性については、会計監査人(Revisore Legale)が外部の専門家として意見を表明します。会計監査人は、会社の会計記録を検証し、財務諸表が真実かつ公正に表示されているかを確認する責任を負います。これらの監査機関は、互いに協力し、情報を交換することで、会社の健全な運営を多角的に監督する体制が構築されています。

株主の権利と監督

株主は、株主総会を通じて、取締役の選任や解任、財務諸表の承認、配当政策に関する決議など、会社の運営における重要な意思決定に参加します。さらに、取締役が会社に損害を与えた場合、株主は会社に代わって責任追及訴訟(Azione sociale di responsabilità)を提起することが認められています。これにより、取締役の不正行為や職務懈怠をチェックする機能が株主にも与えられています。

イタリアにおける主要なビジネス関連法規と規制

主要なビジネス関連法規と規制

イタリアにおける一般広告規制

イタリアの広告規制は、消費者保護を主目的とし、消費者法典(Codice del Consumo, Legislative Decree 206/2005)に定められる不公正な商慣行を禁止しています。不公正な商慣行は、「欺瞞的行為」(deceptive actions)と「攻撃的行為」(aggressive practices)に分類されます。欺瞞的行為は、虚偽または誤解を招く広告を指し、価格や優位性に関する不正確な表示、競合製品との混同を招くマーケティング活動などが含まれます。攻撃的行為は、ハラスメントや不当な影響を通じて消費者の選択の自由を制限する慣行を指し、繰り返しの商業的勧誘などが含まれます。管轄機関はイタリア競争当局(AGCM)であり、違反に対しては5,000ユーロから1,000万ユーロの行政罰が科される可能性があります。

イタリアの医療広告における事前承認制度

イタリアでは、医薬品および医療機器の広告に対し、日本の薬機法よりも厳格な事前承認制度が設けられています。

一般向けの医薬品広告は、販売承認(Marketing Authorization, AIC)を取得済みであっても、保健省(Ministry of Health)からの明示的な事前承認が必須です。処方箋を必要とする医薬品や、国家医療サービスによって償還される医薬品の広告は、一般向けには厳しく禁止されています。また、保健省の承認を受けていない医薬品の広告は一切禁止されます。一方、医療従事者向けの広告は、事前の承認は不要ですが、AIFA(イタリア医薬品庁)への資料提出義務があります。提出から10日後には提供可能となりますが、AIFAはいつでも、規制に反するプロモーション資料の配布を禁止または停止できます。

医療機器の広告も同様に、一般向けには保健省の事前承認が必要です。特に2025年6月27日から施行された新たなガイドラインでは、デジタルコミュニケーションに特化した規制が導入されています。このガイドラインは、Facebook、Instagram、YouTubeに加え、初めてTikTokを明示的に規制対象としました。特に、製品やブランドの宣伝を行うプロフィールでは、コメント、いいね、シェアなどのインタラクティブ機能をすべて無効にする必要があり、各投稿には事前承認が必須とされています。

イタリアの資金決済法

イタリアの資金決済サービスは、EUの決済サービス指令(Payment Services Directive, PSD)に準拠した国内法(Decreto Legislativo 11/2010)によって規律されています。この法律は、EU域内での決済サービス市場の競争促進と消費者保護の強化を目的とし、銀行口座情報へのアクセスを可能にする新たなサービスプロバイダーを定義しています。消費者保護の面では、不正な決済取引の場合、利用者は直ちに払い戻しを受ける権利があり、盗難や不正使用による損失に対する利用者の責任は最大50ユーロに制限されます。また、加盟店が特定の決済方法に対して追加料金を課すことを禁止する規定も設けられています。

イタリアの個人情報保護法(GDPR)

イタリアの個人情報保護は、EUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation, GDPR)によって厳格に規律されており、これは世界で最も厳格なデータ保護法の一つとして知られています。GDPRは、EU域外の企業に対しても、EU居住者向けに商品やサービスを提供する場合などに適用される越境適用性を持っています。GDPRは「個人データ」と、人種、健康情報、遺伝子データなどの「機微な個人データ」を明確に区別し、後者にはより厳格な保護要件を課します。データ主体(個人)には、自身のデータにアクセスし、訂正、消去(「忘れられる権利」)、データポータビリティ、異議申立など、日本の個人情報保護法(APPI)には明示的に存在しない、より広範な権利が認められています。違反した場合、最大で年間グローバル売上高の4%または2,000万ユーロのいずれか高い方の罰金が科される可能性があります。

イタリアの税法

イタリアの税法は、法人税(IRES)と地方生産税(IRAP)が中心となります。IRESの標準税率は24%で、IRAPの標準税率は3.9%です。IRAPは地域ごとの変動や、銀行、金融機関(4.65%)、保険会社(5.90%)といった特定の業種に対してはより高い税率が適用されることがあります。

税制優遇措置として、イタリアは産業4.0関連投資に対する最大20%の税額控除や、研究開発費に関するパテントボックス制度を提供しています。また、イタリアに移住する外国人労働者向けに、課税所得が70%(南イタリア居住者は90%)削減される帰国者優遇制度や、高額所得者が外国源泉所得に対し年間20万ユーロの固定税額を支払うフラットタックス制度があり、これらは優秀な人材の誘致やヨーロッパの拠点選定において、大きな魅力となり得ます。

日本の法人税は国税と地方税の合算で実効税率が決まりますが、イタリアのIRESとIRAPの合計標準税率(27.9%)と単純比較はできません。IRAPは人件費の控除に制限があるなど、計算方法に違いがあり注意が必要です。

イタリアの労働法

イタリアの労働法は、憲法の基本原則に深く根ざし、労働者の権利を強力に保護しています。この保護は、雇用契約の成立から解雇に至るまで、雇用関係のあらゆる側面に及んでいます。

イタリアの雇用関係は、主に無期限契約(Contratto a tempo indeterminato)と有期契約(Contratto a tempo determinato)に大別されます。無期限契約の従業員の解雇は、「正当な原因」(Giusta Causa)または「正当な理由」(Giustificato Motivo)がある場合にのみ認められます。

  • 正当な原因(Just Cause):窃盗、暴力、重大な職務怠慢など、雇用関係の即時継続を不可能にする極めて重大な非行を指し、この場合、予告期間なしの即時解雇が可能です。
  • 正当な理由(Giustificato Motivo):これはさらに主観的正当理由(継続的な業務不振や軽微な非行など)と客観的正当理由(会社の再編や部門閉鎖など、経済的・組織的理由)に分類されます。これらには、通常、通知期間が必要です。

日本の労働法における「解雇権濫用の法理」は、判例によって形成された概念であり、客観的・合理的な理由と社会的相当性が要求されます。これに対し、イタリアでは「正当な原因/理由」という成文法上の明確な概念が解雇を規制しています。その上で、イタリアでは不当解雇が認められた場合、復職が一般的な救済策となる傾向があり、日本で主流の和解金による解決とは異なります。この違いは、イタリア憲法が労働者の権利を特に強く保護する歴史的・文化的背景に起因すると考えられます。

また、イタリアの労働法は、労働者の健康と生活の質を確保するため、労働時間と休暇に関する明確な基準を設けています。法定労働時間は週40時間が標準とされ、残業時間を含めても週48時間を超えてはならないとされています(4ヶ月以内の期間で平均)。年次有給休暇は年間最低4週間が保障されており、これは雇用関係終了時を除き、未消化休暇の金銭補償に代えることはできません。育児関連休暇についても、手厚い制度が設けられています。例えば、女性従業員は出産予定日の2ヶ月前から出産後3ヶ月までの合計5ヶ月間、強制的な有給休暇を取得し、この期間は日給の80%が社会保障機関(INPS)から支払われます。父親には10日間の義務的な育児休暇が認められています。2025年1月1日以降の法改正により、子供が6歳になるまでの期間に、両親は合わせて最大10ヶ月(父親が3ヶ月以上取得する場合は11ヶ月)の育児休業を取得でき、このうち3ヶ月分は賃金の80%が支給されることになりました。

イタリアにおける許認可事業

イタリアで事業を行う際には、業種に応じた許認可が必要です。これらの許認可は、業界ごとに管轄当局や手続きが異なり、複雑なプロセスを伴うことがあります。

  • 金融サービス:銀行業務を行う企業は、イタリア銀行(Bank of Italy)からの許認可が必要です。投資会社やクラウドファンディングサービスプロバイダーは、CONSOB(イタリア証券取引委員会)からの許認可が必要ですが、CONSOBは許認可発行前にイタリア銀行と協議します。
  • 医療・ヘルスケア:医療従事者が医療サービスを提供するには、イタリア保健省(Ministero della Salute)からの医療ライセンスが必要です。特に非EU市民にとっては、出身国での学位の価値を証明する書類の取得や、国家試験(Esame Di Stato)の合格、イタリア語能力の証明などが求められる場合があります。
  • 食品・飲料:食品・飲料業界の企業は、地方の保健局から食品取扱許可(Food Handling Permit)を取得する必要があります。また、包装を使用する事業者は、リサイクルおよび廃棄物管理法を遵守するため、CONAI(Consorzio Nazionale Imballaggi)への登録が必要です。
  • 観光:短期賃貸宿泊施設を提供する個人や事業者は、地域識別コード(Regional Identification Code, CIR)の登録が義務付けられています。旅行代理店業には、イタリア観光庁(ENIT)および商工会議所からの旅行代理店ライセンスが必要です。
  • 環境:特定の計画やプロジェクト(例:エネルギー、輸送、廃棄物管理、産業施設)は、戦略的環境アセスメント(SEA)や環境影響評価(EIA)を受ける必要があります。統合汚染防止管理(IPPC)許可は、大規模な産業施設に必要とされます。また、環境管理者国家登録簿(National Register of Environmental Managers)への登録は、5年間の保証金(surety)を要します。
  • 外国人への要件:非EU市民が会社を設立する場合、事業開始に障害がないことを確認する「Nulla-osta」宣言と、最低17,667ユーロの経済的・財務的パラメータの証明が求められます。

これらの許認可要件と外国人投資家に対する特別要件を調査することが、事業開始とコンプライアンス確保のために不可欠となります。

まとめ

本稿で詳細に解説したように、イタリアの法制度は、ローマ法に由来する成文法主義を基盤とし、現代的なEU法の影響を強く受けていることが特徴です。特に、法人形態の選択、コーポレートガバナンス、および労働法は、日本とは異なる法的・文化的な背景を持つため、事業展開を検討する日本人にとって、特に注意すべき分野です。

有限責任という原則は共通していますが、イタリアでは単独株主・社員が公示義務を怠った場合に無限責任を負うリスクが存在します。また、取締役には「プロフェッショナルの注意義務」という厳格な基準が課せられ、意思決定プロセスにおける情報収集・記録管理の重要性が強調されます。労働法は、憲法に基づく労働者の権利保護が手厚く、特に解雇規制は厳格であり、安易な人員整理は困難です。

これらの法的特性は、イタリアがビジネスに対して厳格な規律と高い倫理性を求めていることの表れだといえるでしょう。イタリアでのビジネスには、これらの法制度や、その背景にある文化的、社会的な文脈を深く理解することが不可欠です。

関連取扱分野:国際法務・海外事業

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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