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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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ブロックチェーンはいかなる意味で新しい技術なのか

ブロックチェーンはいかなる意味で新しい技術なのか

仮想通貨に関する話題にニュースメディア等で触れる機会が近年多くなりました。ところで、仮想通貨の流通を支えているのは、ブロックチェーンと呼ばれる新たなIT技術です。ブロックチェーンという新たな技術が考案された今日だからこそ、仮想通貨の実装は可能となったのです。

仮想通貨に対する一般的なイメージは、相場の急落や暴騰の可能性を多分に孕んでおり、リスクもリターンも大きな投機先といったところでしょう。また、詐欺事件の話題がたびたび世間を騒がせていることもあり、仮想通貨そのものに対する否定的な心象も、まだまだ根強いことでしょう。たしかに仮想通貨は、金融資産の新たな形であることから、法整備が追いついていない点も多く、なにかと犯罪に利用されやすい点があるのは否めません。

仮想通貨をめぐる今日の社会の動向

しかし、今日の仮想通貨が内包する様々なリスク、ないしは胡散臭い側面がなにに由来するものなのかについて考えてみることも重要でしょう。ブロックチェーンに限らず、歴史的に、新たな技術・新たな発明品は、同時に新たな社会問題も生み出してきました。善悪はともかく、技術の進歩とともに、その活用をめぐって法制度の整備も同時に進めながら発展を続けてきたのが、人類史だと言うこともできるでしょう。

新たに考案された技術に対し、感情的に拒絶することも、盲目的な信頼を寄せることも決して難しいことではありません。しかし最も建設的なのは、それがいかなる意味でで新しい技術なのかを知り、適切な活用法を検討していくことでしょう。これには何より、既存の技術についての理解や、新しい技術が生まれてき歴史的経緯についての知識が問われてきます。

ブロックチェーン=仮想通貨ではない

ブロックチェーンはたしかに、沿革を紐解くならば、仮想通貨であるビットコインを実装するための技術として考案されたものです。2008年に発表された論文で、その理論が解説されたことがブロックチェーンの始まりです。

しかし、ブロックチェーンという技術の応用範囲は、なにも仮想通貨に限定されるものではありません。むしろ、仮想通貨自体も、ブロックチェーン技術の活用例の一つにすぎないものと位置付けたほうがよいでしょう。ブロックチェーンそれ自体は、仮想通貨に限らず、多数の人や組織が関与することで成り立つ領域で広く応用することが可能です。

したがって、「ブロックチェーン=仮想通貨」といった表層的なイメージにとらわれるのではなく、その技術の根本がなんであるかを知ることが重要なのです。そのためにはむしろ、「分散型台帳」とも呼ばれる新しい情報管理の考え方を知ることが大切になるでしょう。

台帳は通常、分散してはならない

では分散型台帳とはなんでしょうか。実はこの分散型台帳について適切に理解をするためには、そもそも分散型ではない、従来の普通の台帳について知っておく必要があります。台帳はそもそも基本的には分散型ではなく、中枢にあるデータセンターのようなところで一元管理されるのが通常です。このことは、大企業や官公庁などの大規模な組織の活動を見ると、誰にとっても理解がしやすいところでしょう。活動の規模が一定以上に巨大化・複雑化した組織は通常、データベースの活用を進めていくものだからです。

データベースというツールの詳細はここでは割愛しますが、興味のある方は、Oracle、MySQLといった主要なデータベースについても調べてみるとよいでしょう。これらは非常に大雑把にいうならば、紙の帳簿やエクセルなどで扱いきれないような膨大な量の情報を扱うための、専門的なITツールだと思っておけばよいでしょう。多くの企業はデータベースに精通したエンジニアを採用し、高い処理能力を誇るコンピューターをサーバーサイドに配備することによって、情報の一元管理を成し遂げているのです。情報を管理するためのITシステムを充実させることで、扱うデータの件数がたとえ数億件にまで増えようが、管理し続けることが可能になるというわけです。

あえてわかり易い例をあげるなら、日夜大量の取引を記録しつづける金融業、世界を股にかけて物流を取り仕切る貿易業、大量の求職者と企業情報を扱う人材ビジネスなどの業態を思い浮かべてみるとよいでしょう。データベースを用いて、巨大なサーバーによって情報管理をするというのが、今日までの情報管理のあり方のセオリーでもあったのです。

分散型台帳の場合はどのように情報を管理するのか

分散型台帳の情報管理について説明していきます。

では反対に、分散型台帳を用いた方式の場合、情報はどのように管理されることになるのでしょうか。分散型台帳の場合には、中枢のデータセンターで一元的にデータを保管し、必要なときにデータセンタからデータを抽出するというような方式は摂りません。

そうではなく、参加者全員が同じ帳簿を持ち合い、新たにデータが登録・変更・追加・削除された場合には、参加者全員が同期をとることになります。もちろん個々の変更内容それ自体は、誰かの個人情報である場合もあるでしょう。そうしたプライバシーが全て筒抜けというわけではありません。暗号化されたうえで、その暗号が参加者全員に開示されることになります。

ブロックチェーンという実装技術の核心は、この点にあるといえるでしょう。

つまり、対等な立場でネットワークに参加する人全てが同じ台帳を持ち、相互に監視しあう体制を作ることで、帳簿の改ざんを防いでいるのです。そしてこの点こそが、分散型による情報管理の大きなメリットであり、また仮想通貨の実装を可能にした理由なのです。

中央集権的な管理体制によらずして台帳のもつ情報に正当性を裏付けることは、ひと昔前までは決して簡単なことではありませんでした。しかし今日では、インターネットを介した通信インフラの整備が急速に進み、Web上での情報のやりとりが非常に低コストかつ高速で行えるようになってきました。通信インフラの拡充という時代の後押しを受けてこそ、中央政府によることなく生み出される仮想通貨にも、帳簿の改ざん、すなわち偽造が起きないという信用を付与することが可能となったのです。

ブロックチェーンの本質は「分散型の登記簿システム」

ここまでの説明で、「ブロックチェーンによる分散型台帳」というものが、必ずしも仮想「通貨」だけのためのものではないことが理解できたでしょう。

少し脱線して法律家向けの説明をすれば、ブロックチェーンという技術の本質は、いわば、「分散型の登記簿システム」です。例えば法務局で不動産の登記簿を確認したとき、我々は、その登記簿の情報を信頼します。この「信頼」は、分析的に言えば、国家に対する信頼に他なりません。つまり、極端なことを言えば、法務局に拳銃を持って押し入って登記簿を書き換えさせることや、賄賂を渡して登記簿を書き換えさせることは、最終的には武力・警察力によって抑止されており、法務局の登記簿には「正しい」情報が保管されていると、我々は(おそらく無意識に)信頼しているのです。

「分散型」とは、国家による信頼付与を要さず、参加者全員の集合知として、これと同じような信頼を創出するシステムです。土地の所有権がどのように移転し、最終的に今誰のものであるのか、分散型の集合知によって信頼に足る登記簿を作る。これが、ブロックチェーンという技術です。そして「仮想通貨」は、上記の「土地の登記簿」の例と同様に、ある貨幣が「採掘」され、どのように転々流通したか、登記簿(台帳)に記載することで、その貨幣の所有者に関する情報に信頼性を付与するシステムです。

ブロックチェーン技術は、Bitcoinのために作られたものであり、現在も「仮想通貨」というキーワードと密接に関わっていますが、必ずしも「通貨」のためだけのものではない訳です。

分散型台帳が可能にするもの

上述のようなブロックチェーンの理解を踏まえれば、その応用範囲にどのような広がりがあるのかも、自然と理解が進むことでしょう。一例をあげるならば、グローバルに活動を行う貿易業務などに応用することが考えられます。ここでは各国の保険会社や金融機関、流通業者、税関や輸出入の監査を行う官公庁の組織など、多数の当事者が関与しあうことになります。

こうした多数の人や組織が関与して進む手続き業務では、なにかミスがあれば、その修正にかかるコストや手間が膨大なものとなる場合があります。また、どこか中枢にデータセンターのようなものを想定し、一元的に情報管理していてもらうというのも現実的な発想ではないでしょう。

こうした業態においては、仲介者を必要とすることなく、直接情報を修正したり参照したりすることが可能な分散型による情報管理の方式には一定のメリットが見込まれるでしょう。

まとめ

ブロックチェーンには改ざんがきわめて起こりにくいというメリットがある一方で、それが通信インフラに大きく依存するシステムであることから、通信にかかる負荷が大きくなりがちであるというデメリットもあります。しかし、近年の仮想通貨にまつわる「リスクがある、胡散臭い」といった風評は、ブロックチェーンとはなんら関係のないものであるという点は、まず第一に共有されておくべき大前提でしょう。

この点をまず踏まえておくことが、ブロックチェーンという新たな技術との適切な関わりを模索するための第一歩となるはずです。

モノリス法律事務所は、旧来から続く日本国の法制度についての専門知識だけでなく、IT系の先端技術と、それがもたらす新たな社会問題を理解し、最新のテクノロジーや、それを扱う事業体をサポートすることで、人類の進化を促すことを、その使命と考えています。

当事務所について – モノリス法律事務所

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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