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スクレイピングは違法?注目を集める便利なデータ収集方法の法的課題を解説

スクレイピング

スクレイピングは、Web上から必要なデータを取得することができる便利な技術です。スクレイピングで収集した大量のデータは、AIの機械学習にも利用されています。

しかし、その一方で、スクレイピングには法的な課題があります。スクレイピングによって、著作権法や個人情報保護法などの法律に違反する可能性があるためです。これを知らないままにスクレイピングでデータを収集すると、違法となって責任を追及されるおそれもあります。

この記事では、スクレイピングが注目を集める理由と、その法的課題について解説します。

スクレイピングとは

スクレイピングとは、「こする」や「かき集める」を意味する「Scraping」という英語から転じたコンピュータ用語です。特定のウェブサイトやプログラムなどから、大量の情報を抽出、取得、収集する技術のことをいいます。ウェブスクレイピング、ウェブクローラー、ウェブスパイダーなどと言われることもあります。

近年、データや情報の価値の高まりから、スクレイピングを利用し、データ収集や分析を行う企業も増えてきました。

スクレイピングで得られた大量のデータは、さまざまな方法で活用されます。例えば、マーケティングにおいては、競合他社の動向チェックやリードジェネレーション、検索エンジン最適化(SEO)などに利用されます。また、電子商取引(EC)や小売業においては、市場調査や価格調査などに利用されます。さらに、スクレイピングで収集された大量のデータはChatGPT等のAIの機械学習などに利用されることもあります。

スクレイピングが法的に問題となるケース

スクレイピングについては、法的な問題が生じることもあります。以下では、法的な問題が生じるおそれのあるケースを紹介します。

スクレイピングを禁止する利用規約に違反するケース

特定のウェブサイトを利用するにあたり、当該ウェブサイトの利用規約に同意している場合には、利用者は、利用規約にしたがって当該ウェブサイトを利用をする必要があります。

利用規約の中にスクレイピングを禁止する条項が含まれている場合、利用規約に同意した者は、利用規約に違反してスクレイピングを行うことはできません。

利用規約には、違反した場合の制裁措置が定められていることが多いです。例えば、アカウントの停止や強制退会などの措置が定められている場合があります。また、利用規約違反により事業者に損害が発生した場合、事業者は違反者に対して損害賠償請求をすることができます。または、スクレイピングの差止が請求されることもあります。

関連記事:ウェブサービスの利用規約を作成する際のポイント(前編)

関連記事:ウェブサービスの等の利用規約を作成する際のポイント(後編)

著作権法に違反するケース

ウェブサイト上のデータやコンテンツには著作権が認められるケースがあります。そのため、スクレイピングを行う場合、著作権法に違反しないように注意をする必要があります。

著作権とは

著作権とは、著作物を保護するための権利のことをいいます。

なお、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいいます(著作権法第2条第1項第1号)。

スクレイピングを行うデータやコンテンツに著作権が認められない場合

特定のウェブサイト上のデータやコンテンツに著作権が認められる場合には、著作権法による保護を受けますが、他方、単なるデータなどに過ぎず、著作権が認められないときには、著作権法による保護を受けません。

そのため、スクレイピングを利用する際には、いかなる内容のデータを収集するかを確認し、著作権が認められるか否かを検討する必要があります。

スクレイピングを行うデータやコンテンツに著作権が認められる場合

スクレイピングを行うデータやコンテンツに著作権が認められる場合、著作権法で保護されることとなります。

スクレイピングを行う際、データやコンテンツをコピーする作業が介在する場合、著作権者の同意を得ずに進めてしまうと、権利者の複製権(著作権法第21条)などの権利を侵害してしまう可能性があります。著作権法第30条の4で認められている利用法については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

関連記事:ネット上の画像のクローリングは著作権法違反?機械学習の法的問題を解説

ただし、著作権法の改正により追加された著作権法第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)に該当する場合には、著作権の侵害にはなりません。

また、著作権法第47条の5(電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)に該当する場合にも、著作権の侵害にはなりません。

サーバーへに大きな負荷がかかるケース

スクレイピングは、短時間に多数のリクエストを送信するため、サーバーの負荷が大きくなり、サーバーダウンにつながる可能性があります。そのため、スクレイピングを行う際には、相手サーバーに負荷をかけ過ぎないように注意する必要があります。

例えば、リクエストの間隔を空けることで、サーバーの負荷を軽減する方法などがあります。

スクレイピングによってサーバーがダウンした場合、当該ウェブサイトを運営している企業等は業務を行うことができなくなってしまうため、偽計業務妨害罪(刑法第233条)や電子計算機損壊等業務妨害(刑法234条の2)に問われてしまう可能性があります。

個人情報保護法に違反するケース

スクレイピングにより、個人情報を取得するというケースが考えられます。

個人情報を取得する際には、本人に対し、利用目的を明らかにしておくことが必要となります。ただ、特定の者に対し、個別に利用目的を明示することは現実的ではないものと考えられます。

そのため、スクレイピングを行うことで個人情報を取得することが想定される場合には、プライバシー・ポリシーや個人情報保護方針等を公表し、利用目的を明らかにしておく必要があります。

なお、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴等の取扱いに特に配慮を要する個人情報(要配慮個人情報)については、プライバシー・ポリシーや個人情報保護方針等を公表しているだけでは取得をすることができず、本人の同意が必要となるため、注意が必要です。

また、スクレイピングにより取得した個人情報を第三者に提供するというケースも想定されます。個人情報を第三者に提供する場合には、原則としてあらかじめ本人の同意を得る必要があります(個人情報保護法第27条)ので、この点も注意が必要です。

関連記事:個人情報保護法を踏まえたプライバシーポリシー作成時のポイントとは?

スクレイピングが実際に問題となった事例

スクレイピングが実際に問題となった事例として、2010年3月頃に発生した岡崎市立中央図書館事件があります。

これは、岡崎市立中央図書館の蔵書検索システムにアクセス障害が発生し、アクセス障害の原因がスクレイピングであったと後に判明し、スクレイピングをした男性が、偽計業務妨害の容疑で逮捕された事件です。

逮捕された男性は、岡崎市立中央図書館の利用者でしたが、岡崎市立中央図書館の蔵書システムの使い勝手に不満があり、蔵書システムにアクセスし、蔵書システムのデータを引き出すという行為を行っていました。

逮捕された男性は、20日間勾留されましたが、最終的に、岡崎市立中央図書館の業務を妨害する強い意図が認められないとして、起訴猶予処分となりました。

この事件では、起訴猶予処分という比較的軽い処分となりましたが、場合によっては、重い処分となってしまう可能性もありますので、注意が必要です。

まとめ:スクレイピングの法的問題については弁護士に相談を

以上、スクレイピングを利用してデータの収集や分析をしようとお考えの事業者の方を対象に、スクレイピングに関する法的課題について説明をしました。

スクレイピングについては、利用法によっては、法律上の問題が生じる可能性があります。スクレイピングに法律上の問題が生じるか否かの判断には、専門的な知識が必要となりますので、専門的な知識を有する弁護士に相談をすることをオススメいたします。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に豊富な経験を有する法律事務所です。昨今、注目を集めるスクレイピングの利用には注意が必要です。リーガルチェックの必要性はますます増加しています。当事務所はさまざまな法律の規制を踏まえた上で、現に開始したビジネス、開始しようとしたビジネスに関する法的リスクを分析し、可能な限りビジネスを止めることなく適法化を図ります。下記記事にて詳細を記載しております。

モノリス法律事務所の取扱分野:システム開発関連法務

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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