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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

YouTuber・VTuber法務

バーチャルYouTuber・VTuberの事務所所属用の契約書

YouTuber・VTuber法務

バーチャルYouTuber・VTuberの事務所所属用の契約書

2017年頃から急速に注目を集めている職業にバーチャルYouTuber・VTuber という職業があります。 バーチャルYouTuber・VTuberとは、YouTuberやYouTubeクリエイターに代わって動画に登場させるモーションキャプチャー技術で作成した3Dバーチャルモデル(アバター)キャラクターのことで、バーチャルYouTuber・Vtuberという言葉は、ネット流行語大賞にも選ばれました。近年になって急速に話題となった職業のため、バーチャルYouTuber・ VTuberに関する法律問題を理解している人は少ないと思います。

バーチャルYouTuber・Vtuberは、キャラクターのデザインや設定、キャラクターの作成の技術や動画作成の技術など多くのスキルが要求される職業ですので、バーチャルYouTuber・VTuberのマネジメント事務所に所属し、マネジメントを受けていることも少なくありません。

そのため、バーチャルYouTuber・VTuberに関する法律問題は、バーチャルYouTuber・VTuberと同じく芸能事務所からのマネジメントを受ける契約であるタレント専属契約と共通する部分が多くあり、芸能人やタレントのケースで締結されるいわゆるタレント専属契約書をベースに考えることができます。

そこで本記事では、そもそも「タレント専属契約書」とはどのような契約書なのかということを説明し、タレント専属契約書のうち、バーチャルYouTuber・VTuberの事務所所属用の契約書でも重要な条項を説明します。

また、バーチャルYouTuber・VTuberの場合には、芸能人やタレントのケースとは違い、キャラクターが登場するなどの違いもあるため、バーチャルYouTuber・VTuberの事務所所属用の契約書に特有な条項についても説明します。

「タレント専属契約書」とは

タレント専属契約書の法的性質及び重要な事項について説明していきます。

タレント専属契約書の目的

「タレント専属契約書」とは、一般的に、タレントが芸能事務所に所属する際に締結する契約書のことをいいます。

「タレント専属契約書」は、タレントが所属する芸能事務所のために専属的に芸能活動を行うことを約し、一方で、芸能事務所はタレントの芸能活動を支援することを約し、そのような契約の存在および内容を明確にするために締結されることとなります。

タレント専属契約の法的性質

タレント専属契約という類型の契約は、民法上規定されていません。そこで、どのような法的性質であるかを考える必要がありますが、タレント専属契約書の法的性質については、以下のような考え方があります。

  1. 委任と雇用または請負の性質の混合した無名契約とする考え方(東京地判平成 13・7・18)
  2. 準委任またはこれに類似する無名契約とする考え方(東京地判平成 12・6・13)

このように裁判例は、タレント専属契約の法的性質決定の点において考え方が分かれており、これに応じて、タレント専属契約の終了の要件や契約の解除にやむを得ない事由を必要かという点が変わってくることとなります。

裁判例でも、タレント専属契約の法的性質の考え方が分かれている以上、契約内容を具体的に検討し、個別具体的に判断していくということが必要になります。

タレント専属契約書において重要な条項

タレントの名称や芸名に関する条項

芸能事務所は、所属するタレントの活動のマネジメントのために、肖像や芸名を自由に使うことができる契約条項を設けることが多いです。芸能事務所とタレントの関係が良好であれば、タレントに肖像や芸名を自由に使用させても問題がないことがほとんどだと思います。

ただ、タレントの独立などにより、タレント専属契約が終了した場合には、別に考える必要があります。タレントの名称や芸名は、もちろんタレントの努力によるものも大きいですが、芸能事務所のマネジメントにより顧客吸引力を獲得するに至ったといえます。それにもかかわらず、契約終了後もタレントが自由に名称や芸名を使用できてしまうと、芸能事務所が行ったマネジメントが無駄になってしまいます。ただ、当然、芸能事務所とタレントの話し合いによりお互いが納得できるような条項とすることが望ましいです。

そこで、タレント専属契約終了後に、タレントが同じ芸名を使い続ける場合に、旧所属芸能事務所の許可を得る必要があるとする条項が記載されることがあります。

第○条(名称等の使用)
1 芸能事務所(以下「甲」という。)または甲の指定する者は、その製作または販売・頒布する製品および販売促進物、その他において販売、広告、宣伝のためにタレント(以下「乙」という。)の氏名、芸名、略称、写真、肖像、筆跡、経歴その他乙に係る一切の事項(以下「名称等」という)を無償で使用することができるものとし、乙はこれに積極的に協力するものとする。また、乙は本契約期間中、甲または甲の指定する者以外の者の製作、販売、頒布する製品、サービス、販売促進物、その他のために乙の名称等の使用を許諾しないものとする。
2 商品化権(乙の名称等を商品に付して使用する権利)の第三者に対する許諾権および使用料を受ける権利は甲に独占的に帰属するものとする。
3 甲または甲の指定する者は、本契約終了後においても、本契約期間中に制作した原盤の利用およびその販売促進物等のために、乙の名称等を無償で自由に使用することができるものとする。
第○条(事前の承認)
乙は、本契約終了後において、名称等の使用することはできないものとする。ただし、名称等の使用について甲の承諾がある場合にはこの限りでない。

タレント活動の費用の負担に関する条項

タレント活動を行う場合、レッスン費用、衣装の費用、移動の費用など多くの費用がかかります。これらの費用の負担について、契約書に明記されていないと、芸能事務所とタレントのどちらが負担をするかということについて、トラブルに発展することがあり得ます。

そこで、タレント専属契約書の中で、費用負担について明確に規定しておくことが必要です。

芸能事務所が費用を負担するか、タレントが費用を負担するかは、両当事者の交渉により決定されることになりますが、下記の規定は、基本的に芸能事務所が費用を負担する内容となっています。

第○条 (費用の負担)
1甲は、本契約に基づいた役務の提供、使用の許諾などに関連する経費(レッスン代、衣装代を含む)を負担する。
2その他の費用は乙の負担とする。

報酬に関する条項

芸能事務所からみれば、どの程度タレントに報酬を与えるのか、一方、タレントにとっては、どの程度報酬がもらえるのかということは大きな関心事です。金銭が絡む場合には、トラブルに発展する場合が大きく、しっかりと内容を明確にしておくことが重要です。

報酬に関しては、完全歩合制、定額報酬制、定額報酬プラス歩合制などがありますが、タレント専属契約書で一般的だと思われる完全歩合制による条項例を以下に記載します。

第○条(タレントに対する報酬)
1 タレント業務に関連し第三者から支払われる一切の金銭(以下「本件売上」という。)は甲に帰属するものとする。乙または乙の管理する口座に本件売上が入金された場合、乙は1週間以内にその全額を甲に対し、甲の指定する口座への振込によって支払うものとする。
2 甲は乙に対し、乙のタレント業務の対価として、別紙で記載された報酬を支払うものとする。

報酬については、芸能事務所がクライアントから受け取った金額に対してどの程度の取り分であるか、また、タレントの取り分がどの程度かが明確でない場合があります。

なお、この条項は、当該バーチャルYouTuber・VTuberが、クライアントである第三者企業からの、いわゆるクライアント案件を手がける想定です。クライアント案件用の契約書に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

タレントが報酬額に納得しているのであれば、報酬に関するトラブルは起きづらいですが、タレントの報酬が極端に低いとトラブルとなることもあります。そのため、個別契約書において、芸能事務所がクライアントからいくらを受取り、そのうちいくらをタレントに報酬として支払っているかを明記しておくという方法も考えられます。

専属性に関する条項

タレント専属契約書において、専属性に関する条項も非常に重要な条項になります。まず、専属性が認められると、芸能事務所に所属するタレントは、タレント活動を行う場合、所属する芸能事務所を通してしかタレント活動を行うことができなくなり、他の芸能事務所を介してタレント活動を行うことや、タレントが芸能事務所を介さずに芸能活動を行うことができなくなります。

芸能事務所としては、タレントに時間、労力や費用などをかけてマネジメントを行ったにもかかわらず、他の芸能事務所を介した仕事や芸能事務所を介さないタレント活動をタレントに行われてしまうと、芸能事務所としての利益がほとんど見込めないという状況が生じることもありえます。

そこで、芸能事務所としては、専属性に関する条項を記載しておくことが必要です。 具体的には、以下のような条項を記載することが考えられます。

第○条(専属性)
乙は、本契約の有効期間中、甲のためにのみ、第○条で規定されるタレント業務を行うものとし、自己のためまたは甲以外の第三者のためにこれをなしてはならないものとする。

専属性に関する条項は、芸能事務所とタレントとの間でトラブルとなることが多い条項ですので、トラブルが生じることを未然に防ぐため、芸能事務所はタレントに対し、専属性についての説明を十分行っておくことが必要になります。

バーチャルYouTuber・VTuberの契約書において重要な条項

バーチャルYouTuber・VTuberとして使用されるキャラクターの商標権やライセンスに関する契約書とは?

キャラクターの名称や芸名に関する条項

バーチャルYouTuber・VTuberとして使用されるキャラクターの名称や芸名については、自然人と異なり商標登録ができるという特徴があります。キャラクターの名称や芸名について商標登録がされると、商標権を有している者以外の者が、商標登録がされている区分と同様の区分でキャラクターの名称や芸名を使用することができなくなります。そのため、バーチャルYouTuber・VTuberとして使用されるキャラクターの名称や芸名を商標登録することは絶対に必要ですが、次の問題として、商標権の帰属を明確にし、場合によっては、商標のライセンスについての条項を契約書に記載する必要があります。

バーチャルYouTuber・VTuberについては、マネジメント事務所が商標権を有し、その商標権をバーチャルYouTuber・VTuberに対してライセンスするという方法が一般的です。商標権のライセンスに関する条項については、いかなる範囲で商標の利用を認めるか、ライセンス料および支払方法はどうするか、いかなる行為が行われたらライセンス契約の解除を認めるかなど検討すべき事項が多岐にわたるため、条項の内容をしっかり精査する必要があります。

キャラクターの画像や動画などの著作権に関する条項

バーチャルYouTuber・VTuberのキャラクターに関する権利として、商標権の他に、著作権があります。著作権は、商標権と異なり、登録のための申請等を行う必要はなく、原則として、著作物が作られた時に、その著作物を作り出した者に認められます。バーチャルYouTuber・VTuberのキャラクターの著作権については、発生時にマネジメント会社に帰属している場合と、発生時にバーチャルYouTuber・VTuberに帰属している場合が考えられます。

発生時にマネジメント会社に帰属している場合には、商標権と同様に、マネジメント会社からバーチャルYouTuber・VTuberに対してライセンスを行うこととなり、商標の場合と同様に考えることになります。

一方、発生時にバーチャルYouTuber・VTuberに帰属している場合、マネジメント会社としては、バーチャルYouTuber・VTuberから著作権の譲渡を受けておく必要があります。もし、キャラクターの著作権がバーチャルYouTuber・VTuberに帰属したままであるとバーチャルYouTuber・VTuberが自由にキャラクターを使用できるということになりますので、マネジメント会社として、十分なマネジメントをすることができないという状況になってしまいます。

キャラクターに「著作権」はあるのか

ただ、キャラクターにおいては、そもそも著作物として認められるかという点について争いがあります。

判例(最判平成9年7月17日民集51巻6号2714頁)では、マンガにおいて、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有するものとして反復して描かれている登場人物のいわゆるキャラクターは著作物にはあたらないと判断されています。この判例に沿って考えると、キャラクターそのものに著作権は発生しないとも考えられます。そのため、キャラクターの著作権の譲渡を考える場合には、抽象的なキャラクターそのものを譲渡するという内容では不十分であり、具現化された著作物のみが、著作権譲渡の対象物となり得ることとなります。

そこでキャラクターの著作権を有するバーチャルYouTuber・VTuberから、マネジメント事務所がキャラクターに関する一切の著作権の譲渡を受けるためには、契約書において具体的に著作物を特定することが必要になります。

具体的には、以下の2つの内容を、著作権の譲渡に関する条項に記載する必要があります。

  1. 既にイラスト、動画および画像等に描画され著作物として具現化されているものに関する権利の譲渡に関する内容(過去の一切の著作権の譲渡)
  2. 今後イラスト、動画および画像等に描画され、著作物として作成されるものに関する権利の譲渡に関する内容(将来の一切の著作権の譲渡)

第○条(著作権の譲渡)
乙は、甲に対し、本契約締結日に、乙の著作物「○○」(以下「本著作物」という。)のすべての著作権(複製権、放送権、翻訳権、映画化権、本著作物を原著作物とする二次的著作物についての利用権等並びに著作権法27条および28条に規定する権利を含むがそれらに限られない。以下「本著作権」という。)および乙が本契約に関連し、本契約期間中に作成することとなる乙の著作物の本著作権を甲に譲渡し、甲はこれを譲り受けた。

上記の内容を契約書に記載しておくことにより、契約期間中に、例えばTwitterやインスタグラムなどのSNS上で、バーチャルYouTuber・VTuberが公開したイラストなどに関する著作権が、マネジメント事務所に帰属することとなります。

こうした条項を整備しておくことは、当該バーチャルYouTuber・VTuberに関して、売却や事業譲渡が発生し得ることとの関係でも、非常に重要です。バーチャルYouTuber・VTuberは、M&Aや事業譲渡の対象となり得る存在です。これらに関しては下記記事にて詳細に解説しています。

バーチャルYouTuber・VTuberが負う善管注意義務の具体化に関する条項

バーチャルYouTuber・VTuberの基本的な義務は、マネジメント会社との契約内容にしたがい、動画の撮影・編集を行い、動画配信を行うこととなります。ただ、バーチャルYouTuber・VTuberは、キャラクターのデザインなども重要ではありますが、動画配信という特性上、キャラクターのイメージが非常に重要な意味を持ちます。

例えば、マネジメント事務所として、子どもをターゲットとした純粋でかわいらしいイメージで育てたいキャラクターであるにも関わらず、 バーチャルYouTuber・VTuberが、子どもに悪影響を与えるような動画を配信したり、SNSでキャラクターイメージを壊すような書き込みなどを行うと、キャラクターの価値が下がってしまいます。そこで、バーチャルYouTuber・VTuberに、キャラクターのイメージを守ってもらう必要があります。そのため、契約書の中に、バーチャルYouTuber・VTuberは善良な管理者の注意を尽くすべきであり、また、キャラクターのイメージを損なうような一切の行為を禁止するような条項を記載することが重要です。また、キャラクターのイメージは、一度壊されてしまうと、回復をすることが非常に困難です。

そこで、バーチャルYouTuber・VTuberが、キャラクターのイメージを破壊するような一切の行為を行うことを防ぐため、バーチャルYouTuber・VTuberがキャラクターのイメージを破壊するような一切の行為を行った場合には、損害賠償義務を負うことおよび損害賠償額の金額を具体的に定めておくことがよいと考えられます。

秘密保持に関する条項

前述のように、バーチャルYouTuber・VTuberにおけるキャラクターについては、キャラクターのイメージが非常に重要です。そのため、キャラクターの声優を担当しているのは誰か、モーションを担当しているのは誰かといった情報が秘匿されているケースが多いです。

そのため、一般的な秘密保持義務の条項に加え、下記のような内容を、秘密保持に関する条項に記載する必要があります。下記のような内容を記載することにより、キャラクターに関する情報が、視聴者に漏れてしまうことを防止でき、キャラクターのイメージを守ることができます。

第○条(秘密情報)
本契約でいう情報とは、本件業務に関して、文書、口頭および物品のいずれによるものであるかを問わず、甲より乙に対し開示された情報の一切をいい、甲と乙が本契約を締結した事実および乙が本件業務を提供している事実等キャラクターのイメージ形成に関する一切の情報を含むものとする。

まとめ

以上、タレント専属契約書の中でバーチャルYouTuber・VTuberの事務所所属用の契約書と同様に考えることができる条項およびバーチャルYouTuber・VTuberの事務所所属用の契約書について説明をしました。マネジメント事務所とバーチャルYouTuber・VTuberとの契約については、近年登場した新しい契約ですので、トラブルを避けるためにしっかりとした内容の契約書を作成する必要があります。

特に、バーチャルYouTuber・VTuberの場合には、マネジメント事務所として、商標権や著作権を適切に管理することが重要ですので、適切な契約内容の記載に加えて、商標権や著作権をしっかり管理する体制の構築も重要となってきます。

バーチャルYouTuber・VTuberの場合、ネット社会の現代では、いわゆるバズることにより、一気に有名になる可能性もありますので、そのような状況に備えて早めにしっかりとした契約書を締結しておくことが重要です。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。

昨今、YouTuberやVTuberの間でも、チャンネル運用にあたって、肖像権や著作権、広告規制などリーガルチェックの必要性が急増しております

また契約をめぐる問題についても事前にしっかりと下準備をしておくことが不可欠です。下記記事にて詳細を記載しておりますのでご参照ください。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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