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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

ITシステムの著作権問題の全体像とは

ITシステムの著作権問題の全体像とは

ITシステムの開発に関する法律問題の多くは、プロジェクトの「炎上」に関連するものです。そしてそこでは、「プロジェクトマネジメント義務」しかり、「ユーザーの協力義務」しかり、プロジェクトの円滑な進行のために両当事者がなにをなすべきかという問題が主な争点となることが多いものです。

しかし、忘れてはならないのが、著作権をはじめとする知的財産に関連する問題です。本記事では、ITシステムの開発プロジェクトにおける各工程・ITシステムの各部品ごとに、関連のある著作権問題を解説するとともに、当該領域の全体的な見取り図の整理を行なっています。

ITシステムと著作権はどう関連するのか

著作権法とは

そもそも著作権法というものがなにを目的とした法分野かという点については、何よりも著作権法第一条の目的規定(その法律がなにを目的に制定されたものであるかを理念的に説明したもの)が参考になります。

第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

すなわち、著作物を生み出した作者に一定の権利を認め、個人の権利を保護しながらも、社会全体としては個人の創作活動を推進し、「文化の発展」を目指していくための法分野であるといえます。言い換えるなら、著作者がもつ個人の権利の保護と、社会全体での著作物の活用の推進との間で、適切なバランスを維持することを目的としています。

また、著作権を認めうる対象としては、例示として以下のものが挙げられています。ポイントは9号に「プログラムの著作物」と明確に記載があることです。ITシステムの開発においても、著作権は当然に認められ、それゆえ著作権関連の問題は当然に起こりうるのはこうした事情によるものです。

第10条1項

この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物

著作物に権利が及ぶとはどういうことか

また、著作権法の目的と、それが及ぶ影響について知ったとして、やはり重要なのは「著作権が認められることになんの意味があるのか」ということでしょう。著作権を有する場合、複製(同法21条)や、ネット経由での配信である公衆送信(同法23条1項目)、譲渡(同法27条)などが権利として認められます。

反対に、著作権を有しない人がこれらを行なった場合には、差し止め請求(同法112条)や、民事上の不法行為責任(民法709条)の追及を行うことも認められます。これがすなわち「著作権侵害」の問題です。

なお、著作権は、それ自体がその他の通常の物権や債権などと同様に、移転や譲渡がなされることが当然に想定される権利となっています。

  1. 著作権は、権利の存否・移転の事実の有無を争う法律問題がある
  2. 著作権には、権利者に対する権利侵害の成否を争う法律問題がある

という二つの点をここでは理解しておきましょう。

著作物としてのITシステムの構造

ところで、著作権法との関連で、ITシステムと、その開発の工程も整理しておくことが当該領域の整理には有用です。ITシステムとはある側面では、プログラミング言語をはじめとする、コンピュータ言語の総体です。

また別の見方として構成要素ごとに分割してみれば、「画面」の話、「データベース」の話、そしてサーバーサイドで駆動することで全体構造を取り仕切る「プログラム」の話という3層に分かれているともいえます。この3つの層に対してITシステムの著作権の問題は展開されていくものです。

ITシステムをめぐる著作権上の法律論点

著作権侵害に該当する論点とは?

以上の内容を踏まえて、ITシステムに関する著作権問題の全体像を整理していきます。

ITシステム全体に及ぶ論点

権利の存否に関する争い

ひとつは、権利の「存否」に関する争いです。すなわち、著作権の有無や移転の事実を争う種類のトラブルです。これについては、以下の記事にて詳細に解説を行なっています。

本記事では、著作権を一番最初に取得(法律上は、「原始的取得」という)するのが誰かという問題から、その移転の成否をどのようにして決するべきかを解説しています。

なにが著作権侵害に該当するかの争い

また、著作権があること(もしくはないこと)を前提として、なにができるのか(もしくは、なにが禁じられているのか)をめぐる争いもあります。たとえば、”よく似た”二つの二つの作品が、「参考にしただけ」にすぎないのか「パクっている」とまで言えるのかといった争いです。これについては、以下の記事で詳細に解説しています。

本記事では、プログラムのソースコードを例にとって、著作権侵害の成否を裁判所がどのように行なっていこうとしているのかを解説しています。

以上の全般的な著作権の問題が、「画面」、「プログラム」、「データベース」といった三層に分かれて展開していきます。このうち「プログラム」については上記記事に譲るとして、「画面」と「データベース」について、著作権法上どのような特色があるのかを整理することで、当該分野の全体把握が可能となります。

画面・UIに対する著作権保護

画面レイアウト・UIについても、著作権は認められます。もっとも、ITシステムの外観については、著作権侵害の成立を認められることはそう多くはありません。特定の機能性・操作感を実現するために必要な外観・レイアウトを整えようとすれば、自ずと類似してくることは自然なことであるからです。

「他人の創作物を剽窃した」とまでいうためのハードルは極めて高く、「ありふれた表現が個々に採用された」という話になってくるものがほとんどです。デッドコピーともいうべき酷似度合いでもないかぎり、裁判所は著作権侵害の認定をすることはまずないと考えるべきです。

データベースに対する著作権保護

また、データベースのテーブル構造などにも、著作権は認められます。しかしこれについても、著作権侵害の認定はきわめて消極的にしか行われません。データベースの構造は、端的に言ってしまえば、「情報を整理するための枠組み」に他なりません。こうした単なる「枠組み」それ自体が「創作物」といえるためには、緻密な体系性を要します。簡単にいうと、一定の規模を持ち、かつ詳細に設計されたデータベースに対してでなければ、「ごくありふれた表現だから各々が独自に採用した」という話にしかなりえず、「一方が他方をパクった」という話になることはないということです。

もっとも、この話題に関連して注意すべきなのは、データベースに格納された「データ」そのものには著作権は認められないということです。データは人間の著作物などではなく、抽象的な「情報」以上のなにものでもありません。したがってどれほど希少で有益なデータであっても、その保護は著作権ではなしえません。

もしデータを盗むことによって相手方に損害をもたらしたような場合であれば、それは著作権侵害の問題ではなく、民事上の不法行為の問題を構成することになります。

まとめ

以上がITシステムの全体像を踏まえた著作権問題の概観となります。なお、著作権の有無や侵害の成否は、それが「芸術的な価値があるか否か」や、「成果物としてどれほど高い完成度をもつえのか」といった問題とは無関係に決まるものです。そのため、バグや仕様上の誤りを含めた類似度が著作権侵害の成否を決定づける場合もあるという点も理解しておくべきでしょう。

クリエイターや技術者とは異なる尺度で、「創作的であるとはどういうことか」を論じていくことの難しさが、法領域としての著作権問題の特徴であるようにも思われます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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