キャラクターの著作権はどこまで保護されるのか?「紋次郎いか」事件の実務的意味

甘じょっぱいタレと噛みごたえで、長年親しまれてきた駄菓子、「紋次郎いか」。そのパッケージ図柄が人気時代劇「木枯し紋次郎」著作権を侵害しているとして、小説『木枯らし紋次郎』の著者の遺族が訴えを起こしました。結果的に、被告の駄菓子メーカーが知財高裁で敗訴、約5600万円の支払いを命じられました。(知的財産高等裁判所令和7年9月24日判決、以下「本判決」)
約50年にわたって使用されてきた「紋次郎いか」のラベルに印刷されていた旅人風のイラストはなぜ、著作権侵害となるに至ったのでしょうか。
この事案は、一話完結形式の小説におけるキャラクターの著作物性や、原著作物の著作者による二次的著作物の利用に関する権利行使といった、非常に重要な論点を含んでいます。第一審では否定された著作権侵害が、控訴審で一転して認められた背景には、企業が注目すべき緻密な論理構成があります。
本稿では、本判決の意義と企業が直面し得るリスク、求められる実務的な対応策について詳説いたします。
この記事の目次
人気キャラクターの特徴を組み合わせた図柄は著作権侵害か
本件は、「木枯し紋次郎」シリーズの小説(以下「本件小説」といいます)を端緒としています。本件小説は、渡世人である「紋次郎」を主人公とし、昭和47年にはこれを原作とするテレビドラマ(以下「本件テレビ作品」といいます)や漫画、映画が制作され、社会現象を巻き起こしました。
一方、被告となったのは駄菓子メーカーです。同社は、本件テレビ作品の放映開始から間もない昭和47年6月以降、甘辛いするめを竹串に刺した食品を「紋次郎いか」等の名称で販売し、その容器や包装に特定の図柄(以下「被告図柄」といいます)を使用してきました。この被告図柄には、三度笠を目深にかぶり、道中合羽を身にまとい、口に長い楊枝をくわえた渡世人の姿が描かれています。
原告(控訴人)は、故人である筆者の著作権を相続した遺族ら、および著作権の独占的利用許諾を受けたIP管理会社です。原告らは、被告図柄の使用が本件小説や本件テレビ作品に係る著作権を侵害するとともに、不正競争防止法上の不正競争行為に該当すると主張し、製品の製造販売の差止めや廃棄、損害賠償を求めました。
本件の最大の争点は、言語著作物である小説の中のキャラクターがどのように保護されるかという点にありました。
第一審である東京地方裁判所(令和5年12月7日判決)は、著作権の侵害を認めませんでした。その理由として、原告が主張した「通常より大きい三度笠」「長い道中合羽」「長い竹の楊枝」「長脇差」といった特徴の組み合わせについて、江戸時代の渡世人の姿として「ありふれた事実や記述」であるいうのが大きな理由です。
原告は、この一審判決を不服として控訴しました。
「特徴の組み合わせ」に著作権侵害を認めた高裁

原審では著作権侵害が認められませんでしたが、高裁ではその判断は覆されました。
判旨について、具体的な内容を解説していきます。
二次的著作物における原著作者の権利
本判決において、裁判所はまず権利関係を整理しました。本件テレビ作品は本件小説を原作とする「二次的著作物」に該当します。著作権法第28条は、二次的著作物の利用に関し、原著作物の著作者が、二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有すると規定しています。
本判決は、この規定に基づき、原著作者であるB氏(およびその相続人)は、二次的著作物である本件テレビ作品についての複製権や翻案権等を専有していると判示しました。これにより、原告らは本件小説そのものだけでなく、テレビ作品の具体的な画像についても権利行使が可能となりました。
著作物の特定と創作性
第一審で問題となった「特定性」について、本判決は巧みな判断を示しました。本判決は、本件テレビ作品の特定の回の一場面(本件画像)を対比の対象として取り上げました。この画像には、俳優が演じる具体的な紋次郎の姿が描写されています。
裁判所は、本件画像の紋次郎が有する以下の4つの特徴に着目しました。
- 通常のテレビドラマ等よりも大きな三度笠をかぶっている。
- 通常のテレビドラマ等よりも長く、縦縞模様の道中合羽を身に着けている。
- 細長い楊枝をくわえている。
- 長脇差を携えている。
本判決は、これらの各要素が単独で創作的であるか否かを論じるのではなく、1から4の全ての特徴を兼ね備えるという点に創作性を認めました。放映以前にこれら全ての特徴を備えた人物が登場するドラマ等が存在したとは認められないことから、これを本件画像の「創作的な表現をなす部分」であり「表現上の本質的な特徴」であると断定しました。
複製・翻案の成否(類似性の判断)
次に、被告図柄がこの本質的な特徴を維持しているかが検討されました。被告図柄は手書きのイラストであり、実写である本件画像とは表現手法が異なりますが、裁判所は以下の理由から「翻案」を認めました。
- 三度笠について、被告図柄ではさらに誇張されているが、これは「大きい」という特徴を強調したものであり、特徴の感得をむしろ容易にしている。
- 道中合羽についても、地面に届くほどの長さや太い縦縞として描かれており、同様に「長い」「縦縞」という特徴を強調している。
- 口にくわえた棒状のものについても、楊枝であると容易に推測可能であり、その特徴を感得できる。
被告の反論と裁判所の判断
被告は、これらの特徴は江戸時代の渡世人のありふれた姿(アイデア)にすぎないと反論しました。しかし本判決は、個々の要素を取り出して創作性を否定するのは相当ではなく、組み合わせとしての特異性を重視すべきであると退けました。
また、被告がウェブサイト上で「名前の由来は、その頃テレビで流行っていた木枯らし紋次郎がくわえていた長い楊枝を串に見立てたことによる」と記載していた事実に触れ、本件テレビ作品への「依拠」を認めました。
損害賠償額の算定
裁判所は、損害賠償額算定の基礎となる販売額については、小売価格(上代)ではなく、証拠により把握可能な卸売額を採用しました。
特筆すべきは、使用料率の判断です。本件テレビ作品の放映から30年以上が経過し、作品の影響力や図柄が売上げに寄与する程度は限定的であると評価されました。その結果、一般的なキャラクターライセンスの相場よりも低い「1%」を相当な料率とし、最終的に約5630万円の賠償額を認容しました。
一方で、不正競争防止法違反については、特定の図柄と名称の組み合わせが商品等表示として周知・著名であるとは認められないとして排斥しています。
キャラクターの著作権について企業に求められる対応

本判決は、キャラクターを扱う企業にとって、これまでの実務慣行を見直す必要性を迫るものです。以下に具体的な対応策を提言します。
「アイデア」と「表現」の境界線の再認識
これまで、キャラクターの設定や性格といった抽象的な特徴は「アイデア」にすぎず、具体的な絵やコマを離れては保護されないというのが通説的な理解でした(最高裁平成9年7月17日判決「ポパイ事件」参照)。しかし本判決は、言語著作物である小説の記述に基づいて実写化された画像の「特徴の組み合わせ」に創作性を認め、その翻案を認定しました。
企業が新商品を開発する際、「特定の有名キャラクターを彷彿とさせるが、直接のコピーではないから大丈夫だろう」と安易に判断するのは極めて危険です。複数の特徴が重なり、それによって既存の著作物の本質的特徴を感得できる場合には、著作権侵害を構成し得ます。
このため、企画段階での「インスピレーション」が、法的リスクを孕んでいないかなどの厳格なチェックが求められます。
二次的著作物の権利構造への留意
本判決は、原著作者が著作権法第28条を介して、二次的著作物(テレビ作品等)の権利を自ら行使できることを明確に示しました。これは、例えばアニメーション制作会社や映画会社との間で利用許諾を得ていたとしても、原作者との関係で別途問題が生じる可能性を示唆しています。
キャラクターを利用するライセンス契約を締結する際には、原著作者の権利がどのように処理されているか、紛争が生じた際の補償条項が十分かを確認することが不可欠といえます。
長期使用による「黙示の許諾」の限界
本件において、被告は50年以上にわたり図柄を使用してきましたが、裁判所は「黙示の許諾」や「権利の失効」の主張を認めませんでした。権利者がその存在を認識していなかった以上、長期間の放置が直ちに許諾とはみなされないためです。
自社が長年継続している事業であっても、その権利関係に疑義がある場合は、改めてルーツを調査し、必要であれば遡ってライセンス契約を締結する等の権利の正常化を検討すべきです。「長年問題にならなかったから今後も大丈夫」という思い込みは、高額な賠償請求を招く元凶となり得ます。
広報・宣伝資料の法的管理
本判決では、被告自身のウェブサイトにおける由来の記載が、侵害の主観的要件である「依拠」を裏付ける有力な証拠となりました。広報担当者が親しみやすさを狙って過去の作品へのオマージュを公言することは、法務の観点からは自ら侵害を認める“自白”になりかねません。
公式ウェブサイトやSNSでの発信内容について、知財侵害のリスクがないかレビューする体制を構築する必要があります。
まとめ:キャラクターの著作権については専門家に相談を
本判決は、キャラクターという抽象的な概念が、具体的な画像としての表現を介して、極めて強力に保護され得ることを示しました。特に、個別の要素がありふれていても、その組み合わせに個性が宿るという判断は、クリエイティブな活動に従事する全ての企業にとっての指針となります。
本判決は最高裁判所に上告受理申立てがなされており、今後の判断も注視されますが、現時点では紋次郎事件が投げかけたこの警鐘を真摯に受け止め、自社の知財コンプライアンスを再点検することが賢明と言えるでしょう。
上記の再点検にあたっては、企業内でのチェックで済ませるのではなく、キャラクタービジネスをはじめとする知的財産に精通した弁護士等の法律の専門家の助言を得ることをお勧めします。
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