オープンソース・ソフトウェア(OSS)を活用したソフトウェア開発で問題となる8つの法律を解説

オープンソース・ソフトウェア(OSS)は、現代のソフトウェア開発において不可欠な存在です。開発コストの削減や開発スピードの向上といった恩恵をもたらす一方で、OSSを利用するにあたってはさまざまな法的リスクも潜んでいます。
そこで本記事では、OSSをソフトウェア開発に活用する際に関連する8つの法律について、概要とOSSとの関係で問題となりうるケースについて解説します。
この記事の目次
著作権法:OSSライセンス違反による差止め損害賠償請求
OSSライセンス違反した場合、著作権者から差止めや損害賠償請求を受ける可能性があります。特に商用製品にOSSを組み込む場合、ライセンス条項の内容を理解していないと重大な法的リスクに発展するおそれがあります。
著作権法の概要
著作権法とは、創作物を創作した著作者に発生する権利(著作権)を保護する法律です。著作権は自動的に発生し、登録等の手続きは不要で保護される点が特徴で、いわゆる知的財産権法に含まれます。著作物を保護するために著作権や著作者人格権などの権利が規定されており、これを侵害された場合の差止めや損害賠償請求について定められています。
OSSとの関係で問題となるケース
プログラムも著作物として保護されます。OSSライセンスは、この著作権法の下で利用者に特定の利用を許諾するものです。OSSのライセンス条項に違反して利用した場合、著作権侵害に該当することがあります。
例えば、ソースコードの著作権表示やライセンス文書を削除して配布した場合や、GPLライセンスのソフトを使って開発したソフトをソースコード非公開で販売するなどのケースが該当します。著作権者から差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があるため、細心の注意が必要です。
参考:著作権テキスト|文化庁
特許法:OSSを利用して開発したソフトウェアが第三者の特許を侵害するケース
OSSを利用して開発したソフトウェアが第三者の特許権を侵害してしまうケースがあります。このリスクを軽視すると、事業活動自体が差し止められるリスクにつながる恐れがあるので注意が必要です。
特許法の概要
特許法とは、新規性・進歩性を備えた技術的発明を保護する法律です。特許を受けた発明は、一定期間(原則として出願から20年間)、特許権者が独占的に実施できる権利を持ちます。これを侵害すると、損害賠償や使用差止の対象になります。
OSSとの関係で問題となるケース
OSSライセンスによっては、特許の利用を明示的に許諾するものもあります(例:Apache License 2.0)。しかし、OSSを使用することで、第三者の特許権を侵害してしまうケースも考えられます。また、自社が保有する特許を含んだソフトウェアをOSSとして公開する場合には、他者の利用を許す範囲を明確にしておかないと、自社の特許権を不当に利用される可能性もあるでしょう。
商標法:OSSの商標ガイドラインに注意
OSSを活用する際にOSSの商標権を侵害してしまい差止めや損害賠償請求を受けることがあります。この場合に問題となる法律に商標法があります。
商標法の概要
商標法とは、商品やサービスを他のものと区別するための名称やロゴ(商標)を保護し、それを使用する事業者の信用維持と産業の発展に貢献するとともに、消費者の利益を守ることを目的とした法律です。著作権法・特許法とともに知的財産権法の一つの権利です。商標権も侵害によって差止めや損害賠償請求の対象となります。
OSSとの関係で問題となるケース
OSSを利用した製品やサービスを提供する際、元プロジェクトの名称やロゴを無断で使用すると商標権の侵害に該当することがあります。たとえばFirefoxでは商標ガイドラインが策定されており、利用条件が詳細に記載されています、そのためOSSの利用をする際にはガイドライン違反をしないように注意する必要があり、その基礎知識として商標法は欠かせません。
参考:
Mozilla Trademark Guidelines|Mozila
民法:私人間の取引に関する基本の法律

OSSライセンスの法的性質は契約とされるのが一般的であり、その根拠となるのが民法です。民法は、OSS利用における契約違反や損害賠償請求の根拠としても重要な位置づけにあります。
民法の概要
民法とは、私人間の法律関係を規律する基本法であり、契約・債務・不法行為などを定めています。OSSライセンスも、著作権者が提示する条件を受諾して初めて成立する契約とされることが多く、ライセンス違反は契約違反として民法上の責任を問われる可能性があります。
OSSとの関係で問題となるケース
OSSライセンスの条文には免責事項や責任の限定が記載されていることが多く、これが民法上有効かどうかの判断が必要です。また、ライセンスの条文には法的に曖昧な表現も含まれていることもあり、法務部門が事前に検討・整理すべきポイントとなります。
さらに、OSSを外部ベンダーと共同開発する場合などには、民法上の契約義務や責任分担を明確にする契約書の整備が欠かせません。実際の利用だけでなく、業務委託や再委託など複雑な契約構造においても、民法は基盤となる法律として機能します。
参考:民法|e-Gov法令検索
不正競争防止法:OSS利用時は営業秘密の侵害に注意
OSSを活用する際に問題となりうる法律に不正競争防止法があります。
不正競争防止法の概要
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保し、営業秘密の不正な取得・使用や、他社の周知な商品・営業表示の模倣、原産地の虚偽表示といった不正な競争行為を規制することで、健全な国民経済の発展に寄与することを目的とした法律です。OSSを活用する際に、意図せず営業秘密を含んだコードを開示してしまうと、不正競争防止法違反に問われる可能性があります。特に社内開発コードとの混在には要注意です。
OSSとの関係で問題となるケース
ソフトウェアのソースコードは不正競争防止法上の営業秘密として保護されるとされた判例があります(大阪地裁平成25年7月16日判決)。
OSSとしてソースコードを公開した際に、意図せず営業秘密を含んでいた場合、それが不正開示とみなされる可能性があります。また、社外から入手したOSSの中に他社の営業秘密が含まれていた場合、知らずに不正競争防止法違反に問われる可能性も否定できません。利用前にライセンスだけでなく、コードの出所にも注意する必要があります。
独占禁止法:OSSの開発側で問題になるケースがある
主にOSS開発側で、競合を排除するような場合などに問題となる法律が独占禁止法です。
独占禁止法の概要
独占禁止法とは、公正な市場競争を維持するために、不当な取引制限や私的独占などを禁止する法律です。日本だけではなく諸外国にも同様の制度があります(例:アメリカの「シャーマン法」「クレイトン法」「連邦取引委員会法」の3つからなる反トラスト法)。
OSSとの関係で問題となるケース
特定のOSSライセンスが商用利用を極端に制限する場合や、ある企業がOSSコミュニティを実質的に支配し、競合他社を排除するようなケースでは、独禁法上の問題が生じることがあります。特許権を行使してOSSの利用を妨げる行為も、独禁法の規制対象となり得ます。
「Linux」では独占禁止法順守ポリシーが置かれるなどしているほか、日本で、市区町村や特別区にOSSに基づくCMSを利用した事業者がホームページ作成業務の受注競争に参加することを困難にさせる要件を盛り込むよう働き掛たことについて、事業者に確約計画を認定したことがあります。
製造物責任法(PL法):プログラムで損害を与えた場合
OSSを活用する際に問題となりうる法律に製造物責任法があります。
製造物責任法の概要
製造物責任法(PL法)とは、欠陥のある製品によって消費者が損害を受けた場合に、製造者が無過失でも損害賠償責任を負うとする法律です。民法が定める損害賠償の原則についての特別法という役割があります。
OSSとの関係で問題となるケース
製造物責任法は主に物理的な製品を念頭にしたものですが、製品がソフトウェアにおいても適用される余地があります。製品に組み込まれたOSSの不具合が原因で事故や損害が発生した場合には、販売者がPL法の責任を問われる可能性があります。OSSライセンスには多くの場合「現状有姿(AS IS)」といった免責条項が含まれますが、PL法上はその効果に限界があるため、リスクを見越した契約や保険対応が求められます。
外国為替及び外国貿易法(外為法):暗号化技術を含む場合

OSSに含まれる暗号化技術を国外に公開する際には、外為法の遵守が欠かせません。
外為法の概要
外国為替及び外国貿易法(外為法)とは、安全保障や国際的な秩序を守るために、特定の技術や製品の輸出を制限する法律です。違反者には行政指導や刑事罰が科されます。刑事罰は、2,000 万円以下または対象となる貨物や技術の価格の5倍以下の罰金または10年以下の懲役と非常に重い罰則です。
さらに、行政処分としても3年以内の貨物の輸出・技術の提供が禁止され、違反の事実を経済産業省から公表され、違反したときのリスクは非常に大きく、事業の継続にも影響を与える法律です。
OSSとの関係で問題となるケース
外為法には、OSSに含まれる暗号化技術を国外に公開する場合、たとえ無償であっても輸出管理の対象になる可能性があります。GitHubなどの海外サービスでソースコードを公開する際には、外為法違反とならないように、開発者はあらかじめ経済産業省のガイドラインなどを確認し、必要に応じて届出を行う必要があります。またプログラムを含む技術提供も規制対象としているので注意が必要です。
また、アメリカ製のOSSを利用する場合には、米国輸出管理法(EAA)の遵守も欠かせないので併せて注意しましょう。
まとめ:オープンソース・ソフトウェア(OSS)に関する法律は弁護士に相談を
OSSは、現代のソフトウェア開発現場において大きな価値を持つ一方で、さまざまな法律との関係性を正しく理解しなければ予期せぬ法的リスクを招きます。著作権法や特許法などの知的財産権法や、不正競争防止法・PL法・外為法など、難解で広範囲の法律が問題になる上に、エンジニアとしての知識も必要です。自己判断せずに、弁護士に相談することをおすすめします。
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