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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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フリーランス新法に違反したときの罰則を3つの事例をもとに解説

フリーランス新法

令和6年(2024年)11月に施行されたフリーランス新法は、フリーランスの働き方を大きく変えるものとして注目を集めています。この法律では、フリーランスに対する不当な待遇を禁止し、働きやすい環境を整えることが目的とされています。しかし、この新法に違反した場合、企業にはどのような罰則が科されるのでしょうか?

本記事では、フリーランス新法の主な内容と、施行直前に公正取引委員会が行った下請法にもとづく勧告等の事例をもとに具体的な罰則について解説します。フリーランスに仕事を依頼している企業の方は必見です。

フリーランス新法の概要

フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、契約条件や取引ルールを明確に定めることで、フリーランスが安心して業務に取り組める環境を整備するための法律です。フリーランス新法では以下の内容が定められています。

参考:特定受託事業者係る取引の適正化等に関する法律の概要

フリーランス新法の対象となる当事者と取引の定義

フリーランス新法の対象となる当事者は以下のとおり定義されています。

  • 特定受託事業者:従業員を雇用せず、業務委託を受ける事業者
  • 特定業務委託事業者:特定受託事業者に業務を発注する従業員を有する企業

また、ここでいう「業務委託」とは、物品製造、情報成果物の作成、役務提供などの事業目的の委託を指します。

フリーランス新法の主な規制内容

フリーランス新法の規制内容は、大きくわけて以下の3つのポイントがあります。

  1. 取引条件の明示義務(法3条)
    契約内容や報酬、支払期日などを事前に文書または電磁的に明示することを義務化します。
  2. 報酬の60日以内支払い義務(法4条)
    業務完了から60日以内に報酬を支払うことを義務化します。また、再委託の場合は、委託元からの受領日から30日以内に支払う必要があります。
  3. 不当行為の禁止
    • 正当な理由なしに報酬減額、受領拒否、返品を行うことを禁止しています。
    • 不当な低報酬設定や不合理な変更要求を規制しています。
    • ハラスメントや不正要求も禁止しています。

特定受託業務従事者の就業環境整備義務

フリーランス新法では、フリーランスの就業環境の整備も、企業に義務付けています。主な内容は以下の通りです。

  • 虚偽の広告を禁止し、正確な募集情報の提供。
  • 育児・介護との両立を配慮し、必要に応じた措置を講じること。
  • 相談窓口や社内体制の整備を義務化し、ハラスメントを防止すること。
  • 中途解除をする場合には、30日前までに通知が必要。

違反への対応と罰則

フリーランス新法は、フリーランスの働く権利を保護することを目的とする法律です。そのため、新法の規制に違反する企業に対しては、関係省庁からさまざまな罰則が科されることとなります。具体的な罰則の内容は以下の通りです。

  • 公正取引委員会や中小企業庁からの助言、指導、調査、勧告
  • 違反行為に対し、50万円以下の罰金が科される

関連記事:【令和6年11月施行】フリーランス保護法とは?企業がとるべき対応について解説

このように、フリーランス新法の施行により、企業は契約プロセスや管理体制の見直しが求められることとなりました。そこで、以下では、企業がとるべき対応と、実際に違反した場合にはどのような罰則が科されることになるのかについて、カバー株式会社に対する是正勧告措置を取り上げて解説します。

「無償でやり直し」カバー株式会社の3つの違反事例

「無償でやり直し」カバー株式会社の3つの違反実例

VTuberタレント事務所大手の「ホロライブプロダクション」を運営するカバー株式会社が、VTuber動画に使うイラストや動画用2D・3Dモデルの作成を委託している下請事業者に対し、無償でやり直しをさせていた行為が下請法違反にあたるとして、公正取引委員会は2024年10月25日、勧告と指導をしました。

カバー株式会社に対する規制は、フリーランス新法ではなく下請法に基づくものです。しかし、フリーランス新法と下請法は同様の規制を定めているため、フリーランス新法に違反した場合に企業に科される罰則の参考事例として、本件を解説していきます。

参考:公正取引委員会「(令和6年10月25日)カバー株式会社に対する勧告等について」

問題となった行為

今回、カバー是正勧告及び指導の対象となった行為は以下の通りです。

  • 下請法第4条第2項第4号(不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止)の規定に違反する行為
  • 下請法第4条第1項第2号(下請代金の支払遅延の禁止)の規定に違反する行為

不当な内容の変更及び不当なやり直し行為

カバー株式会社は、フリーランスである下請事業者に対して、「VTuber動画」 等に用いるイラスト、動画用2Dモデル、動画用3Dモデルの作成を委託していました。

しかし、カバー株式会社は令和4年4月から令和5年12月までの間、下請事業者に対して、下請事業者からイラスト等を受け取った後に、発注書等で示された仕様等からは修正が必要であることが分からないやり直しを無償でさせていました(下請事業者23名に対し、合計24回)。

具体的なやり直し指示行為は以下の通りです。

違反事例1 

カバー株式会社は、令和4年4月8日、下請事業者1名に対し、動画用2Dモデルの作成を発注し、同月18日に給付を受領した後、 同年9月15日までの間に、発注書等で示された仕様等からは修正が必要であることが分からないやり直しを無償で7回させていました。 当該7回のやり直しのうちの3回は、検査期間を納入後7営業日以内としていたにもかかわらず、当該期間を経過した後に修正させたものでした。

3回のやり直しのうちの2回は、本発注により作成され た動画用2Dモデルを利用するVTuberが修正を希望していることを理由として、カバーが当該事業者に「制作完了」し たとの通知を行った令和4年7月11日よりも後にやり直しをさせたものでした。カバー株式会社は、その後も経理処理を失念するなどし、本発注の下請代金が支払われたのは、2Dモデルの受領日から619日経過した令和5年12月27日でした。

違反事例2 

カバー株式会社は、令和4年10月27日、下請事業者1名に対し、 動画用2Dモデルの作成を発注しました。しかし、同年11月21日に2Dモデルを受けとった後、令和5年5月23日までの間に、発注書等で示された仕様等からは作業が必要であることが分からないやり直しを無償で5回させていました。

5回のやり直しは、いずれも検査期間を経過した後にさせたものでした。カバー株式会社が下請け事業者に「社内、タレント共に全ての確認が完了」したとの通知を行ったのは、2Dモデルの受領日である令和4年11月21日から277日 経過した令和5年8月25日でした。 

また、本発注の下請代金が支払われたのは、2Dモデルの受領日から312日を経過した後でした。 

違反事例3

カバー株式会社は、令和5年1月24日、下請事業者1名に対し、動画用2Dモデルの作成を発注し、同年2月8日に2Dモデルを受領した後、同年3月22日までの間に、発注書等で示された仕様等からは作業が必要であることが分からないやり直しを無償で3回させていました。

3回のやり直しのうちの2回は、検査期間を経過した後にさせたものでした。カバー株式会社が下請業者に「納品」 完了の通知を行ったのは、2Dモデルの受領日である令和5年2月8日から230日経過した同年9月26日でした。

また、カバー株式会社は、令和5年4月頃には、作成された動画用2Dモデルを使用して動画配信を行っていましたが、下請代金が支払われたのは、2Dモデルの受領日である同年2月8日から266日経過した同年10月31日でした。

公正取引委員会による是正勧告の内容

公正取引委員会による是正勧告の内容

カバー株式会社の違反行為に対して、公正取引委員会は以下の勧告を行いました。

無償でのやり直し費用を支払うこと

公正取引委員会は、カバー株式会社に対して、下請業者から商品を受領した後に、下請業者に無償で修正させた行為に対して、これにより発生した費用相当額を速やかに支払うように義務づけました。

また、費用相当額は、公正取引委員会により確認を得る必要があります。

取締役会による法令順守の確認  

公正取引委員会は、カバー株式会社の取締役会に対して、以下の事項について取締役会決議により確認することを求めました。

  • 無償やり直し行為が下請法第4条第2項第4号に違反していること。  
  • 今後、下請事業者に対し、責任がないにもかかわらず業務のやり直しを強要して利益を不当に害することがないよう徹底すること。

この手続きにより、カバー株式会社が法令違反を組織全体で認識し、今後のトラブルを未然に防ぐ体制を構築することが期待されています。

過去の取引の徹底調査  

また、公正取引委員会は、カバー株式会社に対して、令和4年4月1日から令和6年10月25日の間に行われたすべての下請取引に対し、無償のやり直しが含まれていないか調査することを求めました。その結果、違法行為が認められた場合には、下請事業者の利益を保護するために必要な措置を講じることも、公正取引委員会によって勧告を受けました。

社内体制の強化と研修の実施  

公正取引委員会は、カバー株式会社に対し、法令順守を徹底するための社内体制強化を求めています。その一環として、発注担当者に向けた下請法の研修を実施することなどの必要な措置を講じることが勧告されています。

カバー株式会社は、公正取引委員会から、法令の内容や、適正な取引慣行について社員全員が深く理解することが期待されています。

取引先と従業員への周知徹底  

公正取引委員会はカバー株式会社に対して、改善措置を社内外に広く通知することを求めました。具体的には、以下の対応が求められています

  • 社内の役員や従業員に対し、勧告を受けた事項に対する改善措置を周知すること。  
  • 取引先の下請事業者にも上記改善内容を通知すること。  

これにより、取引先や従業員への信頼を確保し、再発防止の意識を高める狙いがあります。

改善措置の公正取引委員会への報告  

カバー株式会社は、上記の措置を講じた上で、公正取引委員会にその結果を報告することを義務付けられました。

これら、公正取引委員会による是正勧告は、カバー株式会社が行ってきた違法行為を明らかにし、下請事業者を保護する重要性を再確認させるものです。

同社が迅速かつ適切な対応を行うことは、信頼回復とともに、今後のフリーランス新法の施行を視野に入れた取引環境の適正化にも繋がることが期待されています。

下請代金の支払い遅延行為

カバー株式会社は、2Dモデル等の作成を委託している下請事業者に対し、令和4年7月から令和6年2月までの間、下請事業者から2Dモデル等を受領しているにもかかわらず、あらかじめ定められた支払期日までに下請代金を支払っていませんでした。

カバー株式会社の支払遅延による遅延利息の額は、下請事業者29名に対し、総額115万2642円にのぼります。

もっとも、カバー株式会社は、令和6年9月17日までに、当該支払遅延による遅延利息の額を支払っています。

公正取引委員会による指導の内容

カバー株式会社の違反行為に対して、公正取引委員会は以下の指導を行いました。

  1. 違反行為について、所要の改善措置を講ずること。
  2. 勧告に基づく過去の違法取引に関する調査において、下請法第4条第1項第2号の問題が認められた場合には、下請事業者の利益を保護するために必要な措置を講ずること。
  3. 今後、同様の違反行為を行わないこと。
  4. カバー株式会社は上記⒉の指導に基づいて採った措置を、速やかに公正取引委員会に報告すること。

是正勧告、指導の影響

是正勧告、指導の影響

カバー株式会社は、今回の公正取引委員会からの勧告、指導を受けて、公式サイトでコメントを発表しました。

カバー株式会社:公正取引委員会からの下請代金支払遅延等防止法に基づく勧告について

このように下請法の規制に違反すると、勧告、指導に従って必要な措置を講じなければならないことはもちろん、取締役会の実施やメディア対応が求められるなど、通常の業務に影響を及ぼすリスクがあります。

また、インターネット上の意見が企業評価を左右しうる昨今の状況下では、違反行為による是正勧告を受け、メディアに公表されてしまうという、レピュテーションリスクについても企業等は考える必要があります。

まとめ:フリーランス新法の規制も含めた今後の対策

本記事では、下請法違反により公正取引委員会から是正勧告を受けた、カバー株式会社の事例を踏まえて違反した場合の罰則等を解説してきました。

本事例は下請法による規制でしたが、令和6年11月に施行されるフリーランス新法では、下請法以上に厳しくフリーランスの権利を守るための規制がなされています。企業には新法に関する知識を、従業員に対して広く普及させることが必要です。

このような事例をきっかけに、他の事業者も自社の取引慣行を見直す必要性が高まっています。この記事を通じて、下請事業者との適切な関係構築が、持続可能な事業運営においていかに重要であるかを考えるきっかけとなれば幸いです。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。フリーランス新法を遵守するにあたっては、ときには契約書の作成が必要になることもあります。当事務所では、東証プライム上場企業からベンチャー企業まで、様々な案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。もし契約書についてお困りであれば、下記記事をご参照ください。

モノリス法律事務所の取扱分野:契約書作成・レビュー等

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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