他人の住所を特定して晒すと犯罪になる?投稿者の特定方法も解説

住所を特定されネット上で公開されると、誰しもが恐怖と不安に襲われます。住所の特定行為が法的にどのように扱われるかを知っておくことで、不測の事態に陥った時に冷静な対処ができるようになります。
本記事では、特定された住所が公開された場合に、犯罪にあたるかどうかを解説します。判断にあたって弁護士へ相談する重要性に触れつつ、法的手続きを通じた対策も紹介します。プライバシーが侵害されたと感じたときこそ、適切な対応を心がけましょう。
この記事の目次
住所が特定され晒された場合は犯罪になるのか

個人情報である自分の住所をネットに晒された場合、その情報が悪用されて、あなたの実生活に被害をおよぼすリスクがあります。そのため「当然、犯罪になる」と思われがちですが、罪を問うにはさまざまな要件を満たさなければなりません。
ここでは、特定された住所がネットに晒されたときに、犯罪と認められるケースと認められない場合を詳しく解説していきます。
刑法上は犯罪として認められない
氏名や住所を公開する行為は、刑法上の犯罪としては扱われません。なぜなら、法律に明記された犯罪以外は罪を問わないとする原則があるからで、その考え方を「罪刑法定主義」と呼びます。
氏名や住所の公開は、それが不快な行為であったとしても、法律に規定されたどの犯罪にも該当しません。名誉毀損罪を主張するケースをよく耳にしますが、名誉毀損罪は社会的評価の低下が必須要件であるため、氏名や住所の公開だけでは名誉毀損は成立しないのが通例です。
ただし、氏名や住所の公開が、他の犯罪行為(脅迫、ストーカー行為など)を伴う場合は、別の罪に問われる可能性があります。
「住所を特定するぞ」は脅迫になるのか
「住所を特定するぞ」という発言が脅迫罪にあたるかどうかは、その内容や文脈によって判断が分かれます。脅迫罪が成立するには、生命や身体、自由、名誉または財産に対して害悪の告知がされることが要件となります。
単に「住所を特定する」という表現だけでは、法的保護の対象となる害悪の告知にあたらないため、一般的には脅迫罪として扱われません。
ただし、「住所を特定して家に行く」「仕返ししてやる」といった発言が加わると相手に恐怖を与えていると判断され、脅迫罪が成立する可能性もあります。
住所特定に伴うプライバシー侵害と法的責任の境界線
刑法上は罪に問いにくい住所の特定や公開行為も、民事ではプライバシー権の侵害として責任を問える可能性があります。ここでは、Web上で住所を公開する行為がどのような場合に違法と判断されるのか、また違法とまではいえないケースについても解説します。
プライバシー権の侵害は認められる
氏名や住所はプライバシーとして保護されるべき情報であり、本人の同意なく公開された場合、プライバシー権の侵害として認められる可能性があります。
たとえ刑法上の犯罪には該当しなくても、プライバシー権の侵害は民法上の不法行為に該当するため、損害賠償請求の対象となる場合があります。
特に、インターネット上での住所の公開は、プライバシーの侵害として認められる可能性が高い事案の一つです。ただし、住所や氏名が公開されただけでは、賠償額は高額にはなりません。
また、損害賠償請求を行うには、投稿者の特定が必要です。それには、発信者情報開示請求の手続きが必要となり、法律の知識がない方にとっては容易な手続きではありません。
プライバシーに関する権利は、法律で明確に定められた権利ではありませんが、日本国憲法第13条が定める幸福追求権により認められる基本的人権の一つです。
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
e-Gov法令検索|日本国憲法
個人情報の公開がプライバシー権侵害と認められないケースもある
プライバシー権は重要な権利ですが、個人情報が公開されたとしても常に侵害が認められるわけではありません。以下のケースでは、プライバシー権の侵害が認められない場合もあります。
- 本人が情報公開を承諾している場合:本人の同意があれば、プライバシー権の侵害にはなりません。
- 公開された情報に公共性があり、公開が公益に資する場合:例えば、政治家の汚職疑惑など、社会的に重要な情報であれば、公開が公益に資すると判断されることがあります。
- 情報公開に正当事由がある場合:報道機関が正当な取材活動の一環として情報を公開する場合など、正当な理由があればプライバシー権の侵害にはなりません。
- 個人のプライバシー情報を公表されない利益よりも、一般国民が当該情報を知る権利の方が優越する場合:特に公共性・公益性が高い情報に該当します。例えば、個人の犯罪歴は、国民の知る権利がプライバシー権よりも優先される場合が多く、公表・公開してもプライバシー権の侵害とならないケースがあります。
特に、公共性・公益性が高い情報は、プライバシー権と国民の知る権利が衝突する難しい問題です。個人の犯罪歴は、その代表的な例であり、公表・公開してもプライバシー権の侵害とならないケースが多く存在します。
プライバシー権は重要な権利ですが、常に保護されるわけではありません。情報の内容や公開の状況によって、プライバシー権が制限される事例を理解しておく必要があります。プライバシー権に関しては以下の記事でも解説しています。
住所特定・公開された場合の対処方法

ここでは、ネット上に自分の住所が晒されたら、どう対処すればよいのかについて解説します。具体的には「削除依頼をする」「投稿者を特定する」「損害賠償(賠償金・慰謝料)を請求する」の対処法が有効です。
公開された媒体へ住所特定情報の削除依頼をする
ネット上に住所等が晒された場合、まず行うべきは、その情報が公開されている媒体(SNS、掲示板、Webサイトなど)に対する削除依頼です。多くのサイトでは、個人情報の書き込みを禁止する利用規約を設けています。サイトのルールに則って削除依頼を行えば、応じてもらえる可能性は高いです。
削除依頼の手続きやルールは、サイトによって異なります。まずは、問題の書き込みがあるサイトの利用規約を確認し、そこに記載されている削除依頼の方法にしたがって削除依頼をしてください。多くの場合、削除依頼専用のフォームが用意されています。
削除依頼の際には、以下を具体的に記載してください。
- 自分の住所が晒されている書き込みのURL
- 自分の住所がわかる証明書(免許証など)
- 削除してほしい理由
サイトによっては、対応に時間のかかる場合もありますが、粘り強く削除を求め続ける姿勢が大切です。
発信者情報開示請求にて投稿者を特定する
ネット上に住所を晒した人物に対して責任を追及するには、まず、投稿者を特定する必要があります。特定には、書き込みがあったサイトと投稿者が利用したプロバイダに対して、情報開示請求を行うのが一般的です。
情報開示請求の手続は、裁判所を通じた法的プロセスであり、個人で対応するのは難しい場合があります。弁護士に相談し、専門的なサポートを受けてください。
投稿者特定までの流れは以下のとおりです。
- 住所が晒されたサイトへの投稿者のIPアドレス開示請求:まず、書き込みがあったサイトに対して、投稿者のIPアドレスの開示を請求します。サイトによっては、裁判所の仮処分決定が必要になる場合があります。
- IPアドレスからプロバイダの特定:開示されたIPアドレスから、投稿者が利用しているプロバイダを特定します。
- プロバイダへ投稿者の個人情報開示請求:特定したプロバイダに対して、投稿者の個人情報(氏名、住所など)の開示を請求します。こちらも、裁判所の判決が必要になるケースがほとんどです。
- 投稿者の特定:開示された情報から、投稿者を特定します。
令和4年(2022年)10月1日以降は、改正プロバイダ責任制限法により、発信者情報開示請求の手続が簡素化され、被害者側の負担が軽減されました。投稿者の特定は、損害賠償請求などの法的措置を取る上で非常に重要です。専門家のサポートを受けながら適切な手続きを進めてください。開示請求に関する詳しい内容については、以下の記事でも解説しています。
関連記事:令和4年10月1日開始の「発信者情報開示命令事件」を解説 投稿者特定が迅速化される
住所特定情報の公開によるプライバシー侵害の民事責任と慰謝料を請求する
プライバシーが侵害された場合、侵害によって受けた精神的苦痛や金銭的損失に対して、賠償金や慰謝料の請求が可能です。
特に、住所等の投稿が繰り返し行われる場合や、公開により実害が出ている場合は、抑止力の一つとしても賠償金・慰謝料の請求は効果があります。プライバシーの侵害を受けた場合は、弁護士に相談して、適切な対応をとることをおすすめします。
住所特定に関する法的責任を追及する際の注意点
被害に遭った場合、投稿者の住所を特定し、法的責任を追及することは可能ですが、そう簡単にはいかないこともあります。法的責任を追求する際の注意点を解説します。
住所特定の投稿者を追及するには時間がかかる
ネット上に住所を晒した投稿者を特定し、法的責任を追及するためには、プロバイダに対して発信者情報開示請求を行う必要があります。
しかし、この手続きには時間がかかるため、発信者情報開示請求から投稿者の特定までには、6か月から1年程度の期間を要するのが一般的です。裁判所を通じた手続きが必要となるため、どうしても時間がかかってしまいます。
一方で、プロバイダが通信ログを保管している期間は、一般的に3~6か月程度です。携帯電話会社の場合はさらに短く、3か月程度しか保管されない傾向があります。
つまり、投稿者特定のためには、投稿からできるだけ早くIPアドレスの開示請求に着手しなければなりません。もし通信ログの保存期間を過ぎてしまうと、投稿者の身元特定は非常に困難になるからです。
住所特定によるプライバシー侵害の相談は弁護士へ
先述のとおり、インターネット上に住所を晒す行為はプライバシーの侵害に該当しますが、刑法上の犯罪とは認められません。そのため、警察に相談しても被害届を受理してもらえないのが通常です。
プライバシーの侵害への対処は、発信者情報開示請求や損害賠償請求など、多くの法的手続が必要となるため、専門知識を持つ弁護士への相談が解決の早道です。個人でも情報開示請求などの手続きを行うことは可能ですが、法律の知識や経験がないと手続きが難航したり、不十分な結果になったりする可能性が高まります。
弁護士に相談すると、以下のさまざまなサポートを受けられます。
- 状況に応じた適切な法的手段の選択
- 煩雑な手続の代行
- 加害者との交渉
- 損害賠償請求のサポート
ネット上に住所を晒されてお困りの方は、まずは弁護士に相談し、専門家のアドバイスを受けてください。
まとめ:特定された住所が公開された場合は弁護士へ相談をしましょう
住所を特定されネット上に晒されることは、被害者にとって精神的な苦痛だけでなく、ストーカー行為や脅迫などにつながる深刻な問題です。刑事責任を問えないケースでも、民事上の責任追及や損害賠償請求が認められる可能性があります。
重要なのは、こうした事態に直面した際に泣き寝入りせず、速やかに証拠を確保して適切な手続きをとることです。投稿者を特定するには法的な手続きが求められ、削除依頼や損害賠償請求には専門的な知識も求められます。
そのため、早い段階で弁護士に相談することが状況の悪化を防ぎ、自身の権利を守るうえで最善の方法となるでしょう。誰にも相談できずに悩んでいる方も、ひとりで抱え込まずに一歩踏み出してみてください。
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