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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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ノルウェーの税法を弁護士が解説

ノルウェーの税法を弁護士が解説

北欧諸国の一角を占めるノルウェー王国(以下、ノルウェー)は、豊富な天然資源と高度な社会福祉制度を背景に、独自の経済圏を形成しています。日本企業がノルウェーへ進出する際、あるいは経営者や法務担当者が現地の法制度を理解しようとする際、最も大きな障壁の一つとなるのが、その独特な税法体系です。ノルウェーの税制は「高福祉・高負担」という社会契約を前提としつつも、企業の国際競争力を維持するために極めて論理的かつ効率的に設計されています。

本記事では、2025年度の最新の税制改正を反映し、ノルウェーの税法の全体像を解説します。特に、所得を「資本」と「労働」に二分して課税する「二元的所得税」という概念、外国人労働者のための簡素化された課税制度(PAYE)、そして近年の富裕層の国外流出を受けて厳格化された出国税(Exit Tax)など、日本法とは大きく異なる法的論点に焦点を当てます。また、2024年から2025年にかけて下された重要な最高裁判決についても触れ、実務上のリスクと対策を提示します。これらを通じて、ノルウェーでのビジネス展開における法的な羅針盤を提供することが本稿の目的です。

ノルウェーの二元的所得税と日本法との比較

ノルウェーの個人所得税制を理解する上で最も重要な概念は、1992年の税制改革で導入された「二元的所得税(Dual Income Tax)」です。日本の所得税法が、原則としてすべての所得を合算して累進税率を適用する「総合課税」を採用しているのに対し、ノルウェーでは所得の性質に応じて課税方法を根本から区別しています。

この制度下では、所得は「一般所得(General Income)」と「個人所得(Personal Income)」の二つに分類されます。まず、一般所得とは、労働、事業、資本(利子、配当、不動産賃貸など)から得られるすべての所得から、法的に認められた控除を差し引いた純所得を指します。ここには、日本の制度と同様に、基礎控除や住宅ローン利子などの費用控除が適用されます。2025年において、この一般所得に対しては22%の一律税率が課されます。資本所得については、原則としてこの22%の課税のみで完結するため、投資に対する税負担は比較的低く抑えられています。

一方で、労働所得や年金所得などの「個人所得」に対しては、一般所得税への上乗せとして「段階税(Bracket Tax)」と呼ばれる累進課税が適用されます。これは、控除前の総所得に対して課されるものであり、担税力に応じた負担を求めるものです。日本法における超過累進税率と類似していますが、資本所得を完全に切り離して労働所得のみに累進税を課す点が決定的に異なります。

日本とノルウェーの所得課税方式の比較

比較項目日本 (Japan)ノルウェー (Norway)
基本原則総合課税
給与、事業、不動産所得等を合算し、超過累進税率(5%~45%)を適用。
二元的所得税
資本所得は比例税率、労働所得は比例税率+累進税率の二階建て構造。
資本所得への課税分離課税(約20%)が主流だが、あくまで特例措置という位置づけ。原則として一般所得税(22%)のみ。ただし株式配当等は調整係数により実効税率が高くなる。
労働所得への課税総合課税として最大55%(住民税含む)の累進課税。一般所得税(22%)+ 段階税(0%~17.7%)+ 社会保険料。

2025年の段階税(Trinnskatt)は、所得の増加に応じて5つのステップで税率が上昇します。例えば、年収が697,150ノルウェークローネ(NOK)を超える部分(ステップ3)には13.7%が加算され、1,410,750 NOKを超える超富裕層(ステップ5)には17.7%が加算されます。これに一般所得税と社会保険料(7.7%)を合わせると、最高限界税率は約47.4%となります。

また、会社経営者が自身の報酬を給与ではなく配当として受け取ることで租税回避を図ることを防ぐため、「株主モデル」という調整メカニズムが存在します。個人が受け取る配当所得は、課税ベースを1.72倍に割り増した上で22%が課税されます。これにより、配当の実効税率は約37.84%となり、労働所得の税負担と均衡するように設計されています。

ノルウェーの居住形態と納税義務の発生要件

ノルウェーの居住形態と納税義務の発生要件

国際税務において、誰がその国の居住者として全世界所得への課税義務を負うかは極めて重要な問題です。ノルウェーの税法(Skatteloven § 2-1)は、物理的な滞在日数に基づく形式的基準を厳格に適用しており、日本法における「生活の本拠(住所)」という実質的判断とはアプローチが異なります。

具体的には、任意の12ヶ月間に183日を超えて滞在するか、あるいは任意の36ヶ月間に270日を超えて滞在する場合、その時点から居住者と認定されます。特に注意すべきは「36ヶ月で270日」という基準です。これは年平均90日の滞在で要件を満たすことを意味し、頻繁に出張する日本企業の役員などが意図せず居住者認定を受けるリスクがあります。一度居住者となれば、日本の銀行利子や不動産収入を含む全世界所得が課税対象となります。

出国税(Exit Tax)の厳格化

近年、富裕層の国外移住が増加したことを受け、ノルウェーは出国税(Latent Capital Gains Tax upon Emigration)を強化しました。これは、居住者が国外へ移住する際、保有する株式等の未実現利益(含み益)に対して課税する制度です。2024年3月20日以降の改正により、従来存在した「出国後5年経過すれば納税義務が消滅する」というルールが廃止されました。

新制度下では、未実現利益に対する税額は出国時に確定し、株式を売却するか否かに関わらず、原則として12年以内に納税しなければなりません。12年間の納税猶予を選択することは可能ですが、その場合は利子が付されるか、あるいは十分な担保の提供が求められる場合があります。日本へ帰任する駐在員であっても、ノルウェー滞在中に取得した株式等の価値が上昇している場合、この適用の可否を慎重に検討する必要があります。

ノルウェーの外国人労働者向けPAYE制度

日本企業が従業員を派遣する際、実務上最もメリットが大きいのが「PAYE(Pay As You Earn)」制度です。これは、特定の条件を満たす外国人労働者に対し、確定申告を不要とし、源泉徴収のみで課税関係を完結させる制度です。

本制度が適用される場合、所得に対して一律25%の税率が課されます。この25%には所得税だけでなく社会保険料も含まれています。さらに、日ノルウェー社会保障協定に基づき日本の社会保険に継続加入する場合(A1証明書等の提出が必要)、ノルウェーの社会保険料は免除され、税率は17.3%まで低下します[2]。これは通常の所得税率と比較して極めて有利な水準です。

ただし、この制度を利用するためには所得制限があります。2025年の基準では、年間の総所得が段階税のステップ3の下限である697,150 NOKを超えないことが条件となります。この金額を超過した場合、その年の全所得について遡及して一般の税制が適用され、確定申告義務が生じるため注意が必要です。

PAYE制度の要件と特徴

項目内容
対象者ノルウェーの居住者となった初年度等の外国人労働者
税率25%(標準)
17.3%(日本の社会保険継続加入者)
所得制限年間 697,150 NOK 以下(2025年基準)
控除適用なし(通勤費や住宅ローン控除などは利用不可)
申告義務なし(源泉徴収のみで完結)

ノルウェーの法人税制と金融セクターへの特別課税

ノルウェーの法人税率は、国際的な投資誘致の観点から22%に設定されており、これは日本の実効税率と比較しても低い水準です。また、欠損金の繰越期間に制限がなく、将来の利益と無期限に相殺できる点は、初期投資が嵩む事業にとって大きな利点と言えます。

しかし、銀行や保険会社などの金融セクターに対しては、「金融活動税(Financial Activity Tax)」と呼ばれる追加負担が課されています。金融サービスがVAT(付加価値税)の対象外となっていることの代替措置として、金融機関の法人税率は通常より高い25%とされ、さらに従業員の給与総額に対して5%の特別税が課されます。フィンテック企業や金融機関の現地法人を設立する場合、この人件費コスト増は見落とせない要素です。

なお、2023年に導入された、年収850,000 NOKを超える高額所得者に対する雇用主税の追加分(5%)については、2025年1月1日をもって廃止されることが決定しています。これにより、専門性の高い人材を雇用する企業の負担は軽減される見通しです。

ノルウェーにおける富裕税のメカニズム

ノルウェー富裕税のメカニズム

日本には存在しない税目として、ノルウェーには「富裕税(Net Wealth Tax)」が存在します。これは個人の純資産(全世界の不動産、預金、株式等から負債を引いた額)に対して毎年課されるものです。

2025年の制度では、純資産が1,760,000 NOK(単身者の場合)を超える部分に対し、国税と地方税を合わせて1.0%の税率が適用されます。さらに、純資産が20,000,000 NOKを超える部分については税率が1.1%に引き上げられます。ただし、株式や主たる住居については、評価額を時価の一定割合(株式は80%など)に割り引く措置があり、過度な負担とならないよう配慮されています。日本から派遣された駐在員が居住者となった場合、日本国内に残した資産も合算対象となるため、事前のプランニングが不可欠です。

2025年 富裕税率表

純資産額 (Net Wealth)税率 (Tax Rate)
0 – 1,760,000 NOK0% (非課税)
1,760,000 – 20,700,000 NOK1.0%
20,700,000 NOK 超1.1%

ノルウェー最高裁判決と実務への影響

ノルウェーの税法解釈において、近年の最高裁判決は実務に多大な影響を与えています。ここでは、特に重要な2つの判決を紹介します。

一つ目は、DNB Bank ASA判決(HR-2024-1989-A)です。この事案では、ノルウェーの大手銀行DNBのニューヨーク支店における預金利子の損金算入額が争点となりました。税務当局は、支店から本店への内部貸付を「資産」として計算式に組み込むことで、ノルウェー国内での利子控除額を減額しようとしました。しかし最高裁は、法人の内部における資金移動は法的な「債権・債務」や「資産」を構成しないとし、納税者であるDNB側の主張を認めました。この判決は、海外支店を持つ企業の利子控除計算において、当局の恣意的な解釈を制限する重要な先例となります。

二つ目は、PRA Group AS判決(HR-2024-1168-A)です。ここでは、多国籍企業グループ内での利子控除制限ルールが、EEA(欧州経済領域)協定における「設立の自由」を侵害しているかどうかが問われました。最高裁は、国内グループ会社間ではグループ貢献制度を通じて利子控除の実質的な恩恵を受けられる一方で、国境を越えるグループ会社間ではそれが認められない現状は差別的であり、正当化できないと判断しました。これにより、EEA域内に親会社を持つノルウェー法人は、過去に否認された利子控除を取り戻せる可能性があります。

日ノルウェー租税条約と源泉税

日ノルウェー租税条約と源泉税

日本企業がノルウェーの子会社から配当を受け取る場合、日ノルウェー租税条約の規定が適用されます。ノルウェーの国内法では、非居住者への配当に対して25%の源泉徴収税が課されますが、租税条約によりこの税率は軽減されます

具体的には、配当の受益者が配当支払法人の議決権の特定の割合(多くの場合25%以上、条約の規定により異なる場合がありますが、日ノルウェー条約では親子会社間配当の軽減税率が設定されています)を所有する親子会社間配当の場合、税率は5%に制限されます。それ以外のポートフォリオ投資の場合は15%となります。なお、英国などの一部の国との条約では0%の税率が認められていますが、日本との条約では5%が下限となっている点に留意が必要です。

また、利子および使用料(ロイヤリティ)については、租税条約上は10%を上限とする課税権が認められています。ノルウェーは長らく利子・使用料に対して源泉税を課していませんでしたが、近年、低税率国への支払いに対しては源泉税を課す規定を導入しました。日本は低税率国には該当しないため実務上の影響は限定的ですが、条約の適用関係については常に最新の状況を確認することが推奨されます。

まとめ

ノルウェーの税法は、「二元的所得税」という合理的な設計と思想に基づき、法人活動の効率性を担保しつつ、個人所得と資産に対して厳格な再分配を求めるシステムと言えます。

日本企業にとっては、22%という競争力のある法人税率や、欠損金の無期限繰越といったメリットを享受できる一方で、駐在員の個人所得税や富裕税、そして厳格化された出国税といったリスク管理が求められます。特に、赴任初年度の外国人に対するPAYE制度(17.3%)の活用はコスト削減の有効な手段となりますが、所得制限の管理と一般課税へ移行するタイミングの見極めが重要です。

モノリス法律事務所では、ノルウェー進出企業の法的・税務的課題の解決をサポートいたします。現地の最新の法令や判例に基づいた適切なアドバイスを提供することで、貴社のビジネス展開を支援いたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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