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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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Instagramでの誹謗中傷を証拠に残すには?裁判で使える証拠を保存する方法を解説

SNSの普及により、人権侵犯事件の中でも、ネット投稿による被害が後を絶ちません。

令和4年(2022年)の「プロバイダ責任制限法」(現在の「情報流通プラットフォーム対処法」)の改正により、円滑に被害者救済を図るため「発信者情報開示請求」に新たな裁判手続(非訟手続)を創設するなど制度的見直しがなされ、個人でも損害賠償を求めるケースが増えました。

ネット上の人権侵害に対して法的手続を取るには「証拠」が必要です。証拠としてスクリーンショットを撮ったとしても、「証拠力」がなければ、発信者情報開示請求などの法的措置をとることは困難になります。

本記事では、SNSの中でも証拠保全が難しいとされるInstagramについて、「裁判上の証拠」としての要件を満たす証拠保全のポイントを弁護士が解説します。

Instagram上の誹謗中傷への対処方法

Instagramでの誹謗中傷などに対する主な対処方法には、以下の方法があります。

  • 運営会社へ発信者を特定してもらい(発信者情報開示請求)、問題投稿の削除を請求する
  • 警察へ告訴し、刑罰を求める
  • 弁護士へ法的措置について相談し、損害賠償請求を依頼する

いずれの場合も、InstagramなどのSNSのログの保存期間が約3か月程度と短いこと、名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪であり告訴期間が短いこと(加害者を特定できた時から6か月以内)、などから迅速な対応が求められます。

発信者情報開示請求の法的要件

発信者情報開示請求の法的要件

「情報流通プラットフォーム対処法」(正式名称:「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」)の第5条で定められている「発信者情報開示請求」の要件を解説します。

権利侵害の明白性

権利侵害がなされたことが「明らか」であること、すなわち、不法行為の成立(構成要件に該当)及びこれを阻却する事由がないことを意味します。

改正前はプロバイダの判断に依存し、厳格に解釈され消極的な対応でしたが、改正後は非訟手続きにより裁判所の判断で客観的に解釈され、正当な理由があれば認められやすくなりました。

以下では、権利侵害の中でも多いとされる誹謗中傷の種類と、その要件について解説します。

  • プライバシー侵害

本人の許可なく私生活上の情報を暴露する行為で、憲法第13条の人格権を侵害し、民法第709条の不法行為責任を負います。

  • 名誉毀損罪

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

(刑法第230条第1項,第2項)

「公然と」とは、DMや個人間のやりとりではなく、不特定多数に閲覧可能で伝搬性があるSNSでの投稿やウェブサイトの掲示版などが対象となります。

「事実を摘示し、その事実の有無にかかわらず」とは、真実か虚偽かは問わず、不名誉となるような事実を具体的に示すことです。

名誉毀損とは、その人の社会的評価を低下させる行為のことを指します。

名誉を毀損する投稿を原因として発信者情報開示請求をする場合には、当該投稿が不法行為(民法第709条)にあたることに加え、真実でないあるいは公共の利害に関する事実でないといった、真実性の抗弁が成立しないことを主張・立証する必要があります。(最高裁昭和41年6月23日判決)

  • 侮辱罪

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

(刑法第231条)
  • 信用毀損罪及び業務妨害罪

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(刑法第233条)

「信用」とは、「経済的な側面における個人・法人の社会的な評価」すなわち「社会的信用」のことを指し、この信用を低下させる虚偽の情報や行為をして、職業上の事業活動を妨害することです。

正当な理由(必要性の立証)

権利侵害に対する民事責任(損害賠償・投稿削除・差止請求)や刑事責任を追及するために、発信者情報開示請求が必要であるという、正当な理由を有していなければなりません。

侵害情報が特定されていること

発信者情報開示請求には、証拠力のある以下の「侵害情報」が必要です。

  • 誹謗中傷の投稿内容
  • 投稿日時(HTMLソース)
  • URL
  • アカウント名

Instagramの証拠保全のポイントについては、後ほど解説します。

適正な手続

「発信者情報開示請求」は、プロバイダのルールに則る必要がありますが、任意で応じてもらうことは難しいことから、被告(プロバイダ)の住所地を管轄する裁判所での非訟手続を経る必要があります。

Instagramの場合は、国際裁判管轄のある東京地裁か、被害者住所地の地裁への申立てが必要です。Instagram側の書類対応や実務の都合で、弁護士の場合は東京地裁を選ぶことが一般的です。

被告住所は、Instagram(Meta社)には日本法人(支社)は存在しないため、米国本社所在地カリフォルニア州住所、あるいはアイルランド法人住所を記載することになります。

通常、データ管理会社があるアイルランド法人(Meta Platforms Ireland Limited)とやりとりする形になり、英語での書面作成・送達が必要です。

発信者情報開示請求の非訟手続の流れは下の図のようになります。

CP(コンテンツプロバイダ、本記事であればMeta社)から、アクセスプロバイダ(AP、NTTやソフトバンクなどのキャリアをイメージしてください)=インターネットサービスプロバイダ(ISP)の名前と住所が提供されたら、APへの「発信者情報開示命令申立て」と併せて「消去禁止命令申立て」をし、その旨をCPへ通知する必要があります。

参考:総務省「裁判所による3つの命令の創設

「特定発信者情報」の請求を行う場合の要件

開示の対象となる法定の「発信者情報」の種類と、「特定発信者情報」の要件を解説します。「発信者情報」には14種類の項目があり、開示する場合、これらの項目に該当していなければなりません。

【発信者情報】

  1. 氏名
  2. 住所
  3. 電話番号
  4. メールアドレス
  5. 投稿時のIPアドレスとポート番号
  6. 投稿時のインターネット接続サービス利用者識別符合(ID)
  7. 投稿(侵害情報)の送信に係るSIM識別番号
  8. 投稿(侵害情報)が送信された年月日及び時刻(タイムスタンプ)

【特定発信者情報】

  1. ログイン時のIPアドレスとポート番号
  2. ログイン時のインターネット接続サービス利用者識別符合(ID)
  3. ログイン時のSIM識別番号
  4. ログイン時のSMS電話番号
  5. ログイン時の年月日及び時刻

【発信者情報】

  1. プロバイダ間の利用管理符号

14項目のうち5項目(9~13項)については「特定発信者情報」にあたり、「特定発信者情報」の開示請求を行うためには、上記の要件に加え以下のいずれかの要件が追加されます(同規則第3条)。

  • プロバイダが、「特定発信者情報」以外の「発信者情報」を保有していない場合
  • プロバイダが、「特定発信者情報」以外の「発信者情報」を保有しているが、それのみでは発信者を特定することができない場合
  • 開示を受けた「特定発信者情報」以外の「発信者情報」によっては、発信者を特定することができない場合

Instagramの証拠保全のポイント

インターネット上の権利侵害に遭っても、証拠が残っていないあるいは「証拠力」がないと、発信者情報開示請求で発信者を特定できなくなるおそれがあり、損害賠償などの措置をとることは困難となります。

前述したとおり、ログの保存期間は3か月と短いため迅速性が求められます。

本記事では、SNSの中でも証拠保全が難しいとされるInstagramについて、「裁判上の証拠」としての要件を満たす証拠保全の注意点を解説します。

発信者情報開示請求には、証拠となる以下の「侵害情報」が必要です。

  • 誹謗中傷の投稿内容
  • 投稿日時(HTMLソース)
  • URL
  • アカウント名

参考:裁判所「発信者情報開示命令申立書式

侵害情報は、通常、画面のスクリーンショットを撮って証拠保全をしますが、スクリーンショットを撮ったPCの日時を含めることが、ポイントとなります。

以下に、手順とスクショ画面の見本を掲載します(裁判では左右を2枚にわけて印刷し証拠として提出します)。

■Instagramの投稿の保全方法(IPアドレスの開示を行う場合)

1:パソコンを開いて、Google ChromeでInstagramを開く

2:アカウント名の右側にある投稿日(「●日前」と表示されているところ)を右クリックする。

3:表示されるメニューの通常一番下にある「検証」をクリックすると、投稿日時のみのHTMLソースが表示される

4:HTMLソースの中で、

<time class=”x1p4m5qa” datetime=”2024-10-10T10:00:50.000Z” title=”2024年10月10日”>1日前</time>

と表示されている部分を見つけます。これが投稿された日時ですが、見えている画面では表示されません。右クリックから「検証」をクリックした状態で、当該部分が選択された状態で表示されます。そのソース部分から投稿時間が明らかとなるようにスクリーンショットを作成しましょう。

ただし、ソースは世界標準時(Z)での記載となっているため、表記の時間から+9時間を加えた時間が日本時間となります。

まとめ:Instagramの被害は弁護士へ相談を

以上、Instagramの権利侵害に対して、取り得る手段と証拠保全のポイントを解説しました。

InstagramなどSNS上の被害には、迅速性や要件を満たす等の法的な対応力が求められます。Instagramの場合は、見えている画面上では投稿された日時が表示されないため、普通にスクリーンショットを撮るだけでは裁判で証拠として使えません。裁判で使える証拠を適切に保全する方法がわからない場合には、速やかに弁護士に依頼して適切に証拠を保全してもらいましょう。

SNSなどインターネット上の権利侵害については、専門性の高い弁護士に相談することをお勧めします。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面で豊富な経験を有する法律事務所です。近年、ネット上に拡散された風評被害や誹謗中傷に関する情報は「デジタルタトゥー」として深刻な被害をもたらしています。当事務所では「デジタルタトゥー」対策を行うソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

モノリス法律事務所の取扱分野:デジタルタトゥー

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務

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