弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

知らないではすまされない画像の無断転載。SNSで蔓延する著作権侵害を解説

無断転載

ネット上にある写真や画像は簡単にダウンロードやコピーができてしまうため、SNSやまとめサイトなどでは無断転載が後を絶ちません。

写真やイラストなどの著作物の著作権者には「複製権」や「送信可能化権」があり、原則として他人が無断で複製して公開することは著作権侵害になります。軽い気持ちで転載した投稿が、著作権を侵害したとして損害賠償を請求されるケースもあります。

ここでは、実際にあったイラストの無断転載事件を取り上げて、転載の法的リスクについて解説します。

「引用」と「転載」の違い

「引用」と「転載」は、どちらも他人の著作物を複製・コピーする行為です。

他者の著作物であっても、「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれる」(著作権法第32条第1項)ものであれば、公表されている他人の著作物を引用して利用することができると認められています。

一方、転載とは、自身の著作物の「従である範囲を超え」て、他人の著作物を複製し、別の場所に掲載することを意味します。引用とは異なるため、その著作権者の許諾が必要です。「好きな作品だから」「大勢でシェアしたいから」などという目的で、無断で複製して転載することはできません。

関連記事:引用がNGとされる「著作権法」の事例について(文章・画像編)

転載は著作権侵害か?

ここでは、実際にあった無断転載事件をもとに解説します。

事件の発端は、原告であるイラストレーターが著作権を有するイラスト3点がウェブサイト「ガールズVIPまとめ」に転載されたことです。2018年、原告は、この転載行為が、各イラストについての原告の著作権(送信可能化権・著作権法第23条第1項)を侵害するものであると主張し、著作権法114条3項で定められている損害の額の推定に基づいて、サイトの運営者を被告として損害賠償金を請求しました。いわゆる「壁ドンイラスト無断転載事件」です。

壁ドンイラスト無断転載事件の概要

事案の概要

原告は、本件各イラストをTwitter(現在のX)及び原告が運営するウェブサイトに掲載していました。そのイラストは、「どの壁ドンがお好き?」と題する、左側に壁があり、壁側に女性、反対側に男性が立ち、向かい合っている4つの場面が描かれたもので、各場面についてそれぞれ説明文が付されているものでした。これらのイラストなどの3点が被告の運営するウェブサイトに無断転載されました。

被告は、原告は被告が本件各イラストを掲載することを許諾していた、と主張しました。その根拠として、原告は、掲載直後にTwitterにおいて、「私はどっちかというと作者名さえ消されなければ無断転載?どんどんやってくれたまえガハハ!というタイプなんですが」とのコメントを載せており、被告がイラストを転載した当時、原告は、被告を含む第三者が原告のイラストを掲載することについて許諾していた、と主張しました。

これに対し、原告は「被告は原告のTwitterにおける言動を恣意的に切り取っており、原告は当該コメントに続けて、無断転載を放置していると無断転載者に不当に利益を与えてしまうことになるとコメントしており、むしろ無断転載を許容しない旨の意見を表明している」と主張して争いました。

裁判所の判断:著作権侵害を認定

裁判所はまず、被告による「本件各イラストを掲載することを許諾していた」と主張するコメントを検討しました。その結果、発言の切り取りであって、原告が被告による本件各イラストを本件サイトに掲載することを許諾していたと認めることはできないとして、送信可能化権侵害を認めました。また、被告には当該侵害行為につき故意又は少なくとも過失が認められる、としました。

その上で、裁判所は著作権侵害による損害額を検討し、1イラストの1年の使用料を3万円と算出しました。また、被告が本件サイト上に本件各イラストを掲載していた期間は、およそ3年間と認定。原告が本件各イラストの使用に対して受けるべき金銭の額は合計27万円(1年当たりの使用料3万円×3点×3年分)とし、弁護士費用3万円と合わせて合計30万円の支払いを被告に命じました。

被告はTwitterのサービス利用規約上、ツイート自体を埋め込む方法によって他のウェブサイトに掲載することが認められている点を損害額の算定において考慮すべきであると主張しました。ですが、裁判所は、それを前提としても、本件における被告の掲載行為が適法となる余地はなく、閲覧数に応じて被告が収入を得るという本件サイトの性質等に照らしても、被告の主張は採用することができない、としました(東京地方裁判所平成30年6月7日判決)。

X(旧Twitter)の利用規約は転載を許容しているのか

Twitterの利用規約は転載を許容しているのか

この「壁ドン事件」において、原告であるイラストレーターは無断転載14サイトに連絡し、うち6サイトはすぐに損害賠償請求に応じたため、残り8サイトへの対応を弁護士に依頼しました。その後は各サイトの運営元に対し内容証明を送付し、さらに4件と示談が成立しましたが、それでも反応がなかった「VIPPER速報」「ガールズVIPまとめ」「腹痛い速報まとねた」「ニュースちゃんねる」の4サイトに対して裁判で争う形となりました。

上述の事件のほか、「ニュースちゃんねる」を相手取った訴訟においても、本件と同様に、被告は、各イラストは原告がTwitter(現在のX)上に公開したことによって、Twitterの利用規約に基づいて第三者による公表等を許可したことになる、として原告の著作権を侵害していないと反論しています。

確かにTwitterの利用規約には、以下のように、ユーザーの著作権に対して一定の留保事項が定められています。

  • ユーザーは、本サービス上にまたは本サービスを介して自ら送信、ポスト、または表示するあらゆるコンテンツに対する権利を留保するものとします。
  • ユーザーは、本サービス上にまたは本サービスを介してコンテンツを送信、ポストまたは表示することによって、当社が既知のものか今後開発されるものかを問わず、あらゆる媒体または配信方法を使ってかかるコンテンツを使用、コピー、複製、処理、改変、修正、公表、送信、表示および配信するための、世界的かつ非独占的ライセンスを(中略)当社に対し無償で許諾することになります。
  • ユーザーは、このライセンスには、当社が、コンテンツ利用に関する当社の条件に従うことを前提に、本サービスを提供、宣伝および改善させるための権利ならびに本サービスに対しまたは本サービスを介して送信されたコンテンツを他の媒体やサービスで配給、放送、配信、リポスト、プロモーションまたは公表することを目的として、その他の企業、組織または個人に提供する権利が含まれていることに同意するものとします。
  • ユーザーが本サービスを介して送信、ポスト、伝送またはそれ以外で閲覧可能としたコンテンツに関して、当社、またはその他の企業、組織もしくは個人は、ユーザーに報酬を支払うことなく(ユーザーは、ユーザーによる本サービスの利用がコンテンツおよびコンテンツに関する権利の許諾に対する十分な対価であることに同意するものとします)、当該コンテンツを上記のように追加的に使用します。

(以上、Xサービス利用規約より抜粋)

被告はこれを受けて、原告は本件各イラストをTwitter上に公開した以上、Twitterの利用規約によって、第三者が原告に対して報酬を支払うことなく本件各イラストを他の媒体によって公表等をすることについて許可をしていたというべきであると主張しました。よって、被告が原告の許諾を得ないまま本件各イラストを本件サイトに掲載したとしても、そのことには原告の許可があったというべきである、と主張しました。

これに対し原告は、Twitter社に対して利用規約に基づき、本件各イラストに関して一定の条件を前提とした再使用許諾権を含めた使用許諾はしているが、再使用許諾を経ない無断転載を許容するものではない、と主張しました。つまり、Twitterに投稿された画像を第三者が再利用する場合には、同社が定める利用条件に従わなければならないのであって、そのような利用条件が満たされた場合にのみ、当該第三者は同社から適法な再利用許諾を受けたことになるとし、被告はそのような条件を満たしていないと、主張しました。

裁判所はこれに対し、

Twitter社の規約の内容は認定したとおりであるとした上で、当該規約は、コンテンツ利用に関するTwitter社の条件に従うことを前提として、一定の目的のため、Twitter社が第三者に対して当該コンテンツを提供することができ、当該第三者が当該コンテンツを使用することができるという趣旨のものであると解されるが、被告は、Twitter社が上記規約に基づき本件各イラストを被告に提供したことについて具体的な主張、立証をしていない。したがって、原告が、被告に対し、上記規約に基づき本件各イラストを本件サイトに掲載することを許可していたとは認めることはできず、被告の主張は採用することはできない、としました。

東京地方裁判所平成30年9月13日判決

なお、この別件訴訟においても、裁判所は、原告が本件各イラストの使用に対し受けるべき金銭の額を合計27万円(1年当たりの使用料3万円×3点×3年分)とし、弁護士費用3万円との合計30万円の支払いを被告に命じています。

まとめ:ネット上の著作権侵害は弁護士にご相談を

無断転載は、X(旧Twitter)などのSNSにおいて、軽い気持ちで、頻繁に、日常的に行われているのが実情です。が、著作権侵害を問われる可能性が高い、危険な行為です。ここでは、その行為の法的リスクについて、実際の裁判例をもとに解説しました。

引用も同様ですが、転載も著作権法に則って、慎重に行うようにしましょう。

なお、Xに限らず、利用規約を読まずに利用している人が多いのではないでしょうか。利用規約は、分かりにくく冗長に思えるかもしれませんが、目を通しておくことをおすすめします。

無断転載したコンテンツは、ここで解説した損害賠償請求のほかにも、削除を請求されるケースもあります。こちらの記事で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。

関連記事:「まとめサイト」に対する名誉毀損や著作権侵害による削除請求

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に豊富な経験を有する法律事務所です。著作権の問題については高度に専門的な判断が必要です。当事務所では、上場企業からベンチャー企業まで、さまざまな案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。もし著作権に関してお困りであれば、下記記事をご参照ください。

モノリス法律事務所の取扱分野:各種企業のIT・知財法務

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る