2021年F1ベルギーGP「たった2周でレース成立」の是非──雨とルールに翻弄されたベルギーGPの顛末

モータースポーツにおける「レース」とは何か──2021年F1第12戦ベルギーGPは、まさにこの根本的な問いを私たちに突きつけた出来事でした。悪天候により本格的なレースが行われなかったにもかかわらず、正式なレース結果とチャンピオンシップポイントが認定されたこのGPは、F1のレギュレーションと運用、そしてスポーツとしての公正性に改めて目を向けさせるものでした。
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霧と豪雨で「2周」で終わったベルギーGP
2021年8月29日、F1ベルギーGP決勝日。舞台は伝統のスパ・フランコルシャンでしたが、天候は最悪でした。濃霧と断続的な豪雨により、視界は極端に悪化し、ドライバーの安全が確保できない状況が続いていました。
定刻通りのレース開始は不可能と判断され、スタートは延期されました。その後も天候の回復を待ってセーフティーカー先導で数度の走行が試みられましたが、コースコンディションは改善しませんでした。
それでもFIAはセーフティーカー先導で2周を走行させた時点でレース成立を宣言しました。セーフティーカーとは、事故や悪天候などでコース上の安全確保が難しい場合に出動し、全車を一定速度で先導する車両です。セーフティーカーが導入されている間は追い越しが原則禁止され、ドライバーは隊列を維持したまま周回することになります。
セーフティーカーに先導された「たった2周」のレースで、ポールポジションからスタートしたマックス・フェルスタッペン選手が優勝、2位にはウィリアムズのジョージ・ラッセル選手が入り、同チームにとって8年ぶりとなる表彰台を獲得することとなりました。
規則の適用とその反発

この判断の根拠となったのは「2021年F1スポーティング・レギュレーション」第6.5条および第6.6条でした。
第41条に基づきレースが中断され、再開できない場合には、第6.6条に従ってポイントが与えられる
2周未満で終了した場合はポイントは付与されません。2周以上かつ全体距離の75%未満で終了した場合は、ハーフポイントが付与される
2021年F1スポーティング・レギュレーション 6.5 レースの中断と成立条件 6.6 ポイントの配分
FIAはこの規則を根拠に、セーフティーカー先導でも「2周以上」が成立したとして、ハーフポイントを付与しました。
規則を字面通りに適用した結果であったとはいえ、実際にはオーバーテイクも競り合いもない“名目上の2周”だけで順位が確定し、ポイントが配分されたことに対して、多くの批判が寄せられました。
とりわけ問題視されたのは以下の3点でした:
- 観客とファンに対する説明責任:観客は現地で何時間も待機した末、実質的なレースを見られないまま終了を迎えてしまった点
- レースの定義と成立要件:セーフティーカー先導のみで「レース成立」とすることへの違和感
- チャンピオンシップへの影響:ポイントがタイトル争いに影響を及ぼす可能性があった点
実際、F1の多くのチーム関係者やドライバー、ファンは「レースが行われていないのにポイントが付与されるのはおかしい」と強く抗議し、FIAに対して制度の見直しを求める声が高まりました。
FIAの見解と制度改正
FIAは、当初「現行レギュレーションに従って運用した結果」として判断を正当化しましたが、その後の批判を受け、翌2022年から以下の改正を導入しました:
- 2周以上を走行しても「グリーンフラッグ(=レースとしての競争状態)」が掲示されなければ、ポイントは付与されない
- レース成立の定義を明確化し、セーフティーカー先導のみの周回では成立しない
これにより、今後は「名目上のレース」でチャンピオンシップのポイントが動く事態は避けられることになりました。
このレースのチャンピオン争いへの影響

このベルギーGPでフェルスタッペン選手は12.5ポイントを獲得し、ランキング上でハミルトン選手との差を一時的に縮める結果となりました。
もしこのレースが成立しなかった場合、ハーフポイントは与えられず、最終戦アブダビGPでの2人の得点差は異なっていた可能性があります。実際、アブダビでは両者が同点で最終戦に臨んだため、ベルギーでのこの“半レース”がタイトル争いの展開に少なからぬ影響を及ぼしたともいえます。
結論:ルールの「想定外」にどう向き合うか
ベルギーGPは、レース運営とルールのあり方、そして「スポーツの公正性」に対するF1の姿勢が問われる出来事となりました。規則通りではありましたが、結果としてスポーツとしての信頼性や観客との信頼関係に大きなダメージを与えました。
F1は、この教訓を踏まえて制度を改正し、将来の再発防止に向けた一歩を踏み出しました。規則は厳格であるべきですが、同時にその「趣旨」や「競技の本質」にも常に立ち返る必要があることを、2021年のスパは私たちに教えてくれました。
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