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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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フィンランドの許認可を弁護士が解説

フィンランドの許認可を弁護士が解説

フィンランド共和国(以下、フィンランド)への事業展開を検討する日本企業の経営者や法務担当者にとって、現地の法規制、とりわけ「許認可」に関する制度を正確かつ網羅的に理解することは、北欧および欧州市場参入の成否を分ける極めて重要な要素となります。「許認可」とは、特定の事業や行為を行う際に、法令に基づき行政機関から取得しなければならない「許可」「認可」「登録」「届出」などの総称を指します。本来であれば一般に禁止または制限されている行為を、一定の要件を満たすことで可能にする行政手続きであり、これらを適法に取得せずに営業活動を行うと、事業停止などの重い行政処分や刑事罰の対象となる重大なリスクを伴います。世界トップクラスの透明性と行政のデジタル化を誇るフィンランドの行政手続きは、ビジネス情報システム(YTJ)などを通じて非常に合理的かつ効率的に設計されています。しかしながら、欧州経済領域(EEA)域外の企業や個人に対しては、域内秩序を維持し、マネーロンダリングを防止するための厳格な居住要件や許可要件が課されています。

本記事では、フィンランドにおける許認可制度の全体像と、特定のビジネス分野における個別の規制要件について詳細に解説を行います。まず、事業活動の根幹をなす「営業の権利に関する法律(Act on the Right to Carry on a Trade)」に基づく基本的枠組みと、日本企業などの非EEA居住者に対する特有の要件について、日本の会社法制との比較を交えながら深く考察します。次に、アルコール販売、運輸、ヘルスケア、民間警備業といった高度に規制された特定産業における許認可の実務と関連法令を紐解きます。さらに、法解釈の指針となる最高行政裁判所(KHO)の最新の判例分析を通じて、行政当局の裁量と事業者の権利保護の境界線を明らかにします。最後に、日EU経済連携協定(EPA)がもたらす影響と実務上の留意点を総括し、安全かつ適法な市場参入に向けた道筋を提示します。これらの体系的な理解は、フィンランドにおけるビジネスの持続的な成長を実現するための強固な法的基盤となるはずです。

フィンランドにおける許認可制度の法的枠組みと基本原則

フィンランドにおけるビジネスの許認可や法人登録制度の根幹を形成しているのは、「営業の権利に関する法律(Laki elinkeinon harjoittamisen oikeudesta、122/1919)」です。この法律は、制定から1世紀以上が経過しているものの、幾度もの改正を経て現代の欧州連合(EU)法制と調和しており、フィンランド内で商業活動を行うための基本的な要件と権利を定めています。同法の基本原則として、欧州経済領域(EEA)内に居住する自然人や、EEA内に本店を置く法人は、公の秩序や善良な風俗に反しない限り、原則として個別の特別な許可を必要とせずに合法的な事業を自由に営む権利を有しています。

しかしながら、日本企業のようにEEA域外に本拠を置く法人や、EEA域外に居住する自然人がフィンランドで事業を営む場合には、状況が大きく異なります。フィンランドの法制度は、EUおよびEEAの域内市場の統合と、現地当局による法執行の実効性を確保することを強く企図しています。管轄当局からの通知や召喚状が確実に送達され、事業上の法的責任を追及できる体制を担保するために、EEA域内居住者の関与や特有の許認可の取得が法的に義務付けられています。

比較項目日本法(会社法・商業登記規則等)フィンランド法(営業の権利に関する法律等)
代表者の居住要件2015年の規制緩和により、代表取締役全員が日本非居住者であっても設立・登記が可能。取締役社長(Managing Director)は原則EEA居住者である必要があり、非居住者の場合は特許登録庁の許可が必須。
支店代表者の要件日本における代表者を1名以上定める必要があり、そのうち1名は日本に住所を有する必要があった(現在は段階的に緩和傾向)。親会社がEEA域外にある場合、支店の代表者は必ずフィンランド内に居住地を有していなければならない。
規制の根底にある思想外国からの対内直接投資(FDI)の促進と、市場参入障壁の撤廃を重視。外国投資の誘致と同時に、域内における法的責任の追及可能性や法執行の確実性を極めて重視。

日本法が外資誘致のために代表者の居住要件を撤廃したのとは対照的に、フィンランドは現在においても経営陣や代表者の地理的制限を厳格に維持しています。このことから、フィンランドは市場の透明性と責任の所在を極めて重視しているということが言えるでしょう。日本企業が同国に進出する際には、この根底にある法思想の違いを十分に理解し、適切な人材配置を行う必要があります。

欧州経済領域外の居住者に対するフィンランド特許登録庁の特別許可

欧州経済領域外の居住者に対するフィンランド特許登録庁の特別許可

日本企業がフィンランドで現地法人(有限責任会社等)を設立する場合、または日本の居住者が現地の役員に就任する場合、フィンランド特許登録庁(PRH)からの特別な許可(Permit)を取得しなければならないケースが多々あります。この許可制度において極めて重要なポイントは、国籍ではなく「恒久的な居住地(Permanent place of residence)」を基準として適用されるという点です。したがって、日本国籍を有する者であっても、EEA加盟国(例えばドイツやフランス)に恒久的な居住地を有し、適切な滞在資格を持っている場合は、この特許登録庁からの特別許可は不要となります。逆に、フィンランド国籍を持つ者であっても、日本に生活の拠点がある場合は許可の対象となり得ます。居住地の認定に関しては、デジタル・人口データサービス庁(DVV)の基準が適用されます。

有限責任会社における取締役および取締役社長の居住要件

フィンランドにおいて最も一般的な法人形態である有限責任会社(Osakeyhtiö、略称Oy)を設立または運営する際、取締役会(Board of Directors)の構成員に関する要件が細かく規定されています。原則として、通常の取締役(Ordinary members)のうち少なくとも1名、および補欠取締役(Deputy members)のうち少なくとも1名が、EEA内に居住している必要があります。

仮に、取締役会の通常メンバー全員が日本などEEA域外に居住している場合、その全員がフィンランド特許登録庁から役員就任に関する許可を取得しなければなりません。この審査は、通常メンバーと補欠メンバーで独立して計算されます。具体的な事例を挙げると、通常メンバー3名のうち1名がEEA内であるポルトガルに居住し、残り2名が日本に居住している場合、日本に居住する2名は特許登録庁からの許可を取得することなく取締役に就任できます。しかし、補欠メンバーが設定されており、その全員が日本に居住している場合は、当該補欠メンバー全員に対して特許登録庁からの許可が必要となります。これらの原則は、監査役会(Supervisory board)のメンバーや清算人(Liquidators)に対しても同様に適用されます。

また、会社の日常的な業務執行を統括する取締役社長(Managing Director)および副社長については、さらに厳格な要件が課されています。これらの役職に就く者は、原則としてEEA内に居住地を有していなければなりません。EEA域外に居住する日本人が取締役社長に就任しようとする場合は、例外なくフィンランド特許登録庁へ許可を申請し、承認を得る必要があります。

外国法人の支店設立と代表者選任義務

日本企業が現地法人(子会社)を設立するのではなく、日本の法人の「支店(Branch of a foreign enterprise)」としてフィンランドに進出する場合、「営業の権利に関する法律」第6条3項の規定が直接的に適用されます。同条項によれば、EEA域外の法律に基づいて設立され、かつEEA域外に本店を置く外国企業がフィンランドに支店を設置する場合、フィンランド特許登録庁から支店設立のための許可(Trade permit)を取得しなければなりません。

さらに、当該支店はフィンランド国内において行政機関からの召喚状や公式な通知を受け取る権限を持つ「代表者(Representative)」を選任し、商業登記簿に登録する義務を負います。親会社がEEA域内の法人である場合、この代表者はEEA域内のどこかに居住していれば要件を満たしますが、日本企業のように親会社がEEA域外にある場合、この代表者は必ず「フィンランド共和国内に居住地を有する者」でなければなりません。この規定は、現地における法的責任の所在を明確にし、消費者や取引先、行政機関を保護するための強力なセーフガードとして機能しています。

これらの許可申請は、指定の書式または自由形式の申請書を用いて、フィンランド語またはスウェーデン語で行う必要があります。申請時には、申請者の氏名、国籍、居住地、対象となる会社の情報などを明記し、フィンランドの個人識別番号を持たない場合はパスポートのコピーを添付します。また、外国語で作成された定款や取締役会議事録などの添付書類には、フィンランド語またはスウェーデン語への公式な翻訳が求められます。これらの手続きの詳細や申請書のフォーマットは、フィンランド特許登録庁のウェブサイトで確認することができます。

参考:フィンランド特許登録庁の公式ウェブサイト

フィンランド移民局による起業家向け在留許可の要件

法人の登記や役員就任の許可とは別に、日本人が実際にフィンランドに移住して事業を運営する場合には、個人の在留資格(ビザ)に関する許認可を取得する必要があります。EU市民やノルディック諸国の市民は事前の在留許可なしに居住と就労が可能ですが、日本国籍の起業家は、フィンランド移民局(Migri)から「起業家のための在留許可(Residence permit for an entrepreneur)」を取得しなければなりません。

この在留許可の審査プロセスは、大きく2つの段階に分かれています。第一段階として、経済開発・交通・環境センター(ELY Centre)が、提出された事業計画書を基に、そのビジネスが継続的に利益を生み出す可能性があるか、起業家自身の生計を維持するのに十分な収入が得られるかを厳格に審査します。資金計画、市場分析、予想される売上高などが詳細にチェックされます。第二段階として、フィンランド移民局が申請者の身元確認、犯罪歴の有無、総合的な適格性を審査し、最終的な許可の決定を下します。

また、革新的な技術やビジネスモデルを持つスタートアップ企業を設立する場合には、「スタートアップ起業家向け在留許可(Startup Entrepreneur’s Residence Permit)」という別の枠組みを利用することが推奨されます。この許可を申請するためには、事前に政府機関であるBusiness Finlandから、そのビジネスモデルが国際的な急成長の可能性を秘めているという「適格性ステートメント(Eligibility Statement)」を取得する必要があります。このように、入国管理の側面からも、事業の実現可能性と国家経済への貢献度が許認可の重要な判断基準となっているということが言えるでしょう。

フィンランド特定ビジネス分野における個別産業向けの許認可

フィンランド特定ビジネス分野における個別産業向けの許認可

一般的な法人設立や役員の居住要件に加えて、特定の事業分野においては、所管の行政機関から個別の許認可(ライセンス)を取得するか、事前の届出(通知)を行う必要があります。フィンランドでは、国民の健康、安全、環境保護に直結する分野や、国家の根幹に関わるインフラストラクチャー事業において、非常に厳格な許認可制度が敷かれています。

事業分野規制の類型所管当局主な要件および特徴
アルコール提供・販売ライセンス(許可)Valvira / 地域国家行政機関(AVI)従業員のアルコールパスポート所持、適格性審査。小売は度数制限あり。
運輸・海事・物流ライセンス(許可)交通通信省 / 警察当局等海上輸送補助サービスはフィンランド・EU・ノルウェー国旗船に限定。
民間警備業ライセンス(許可)国家警察庁(National Police Board)経営陣全員の身元調査、破産歴の不在、十分な資金力の証明。
不動産仲介業登録・届出(通知)地域国家行政機関(AVI)等事業開始前の公式な届出。要件を満たせば事業開始可能だが事後監督あり。

アルコール販売および提供における厳格な統制と規制緩和

フィンランドは、歴史的に公衆衛生の観点からアルコール消費に対して厳格な規制を敷いてきた北欧諸国の一つです。アルコールの製造、輸入、販売、提供に関する包括的なルールは「アルコール法(Alkoholilaki、1102/2017)」によって規定されています。

同国のアルコール市場の最大の特徴は、一定の度数を超えるアルコール飲料の小売販売が、国営企業である「Alko(アルコ)」によって独占されている点です。EU加盟国間では商品の自由な移動が基本原則とされていますが、公衆の健康と安全を保護し、アルコール関連の社会的弊害を軽減するという正当な目的がある場合、例外的にこのような国家独占がEU法の下でも許容されています。

しかし近年、この規制は徐々に自由化の方向へ進んでいます。2018年に施行されたアルコール法の抜本的改正により、通常のスーパーマーケットや食料品店等の小売業者が販売できるアルコール度数の上限が4.7%から5.5%へと引き上げられました。さらに直近の法改正案等により、発酵アルコール飲料については最大8.0%まで一般小売店での販売が許可されるなど、段階的な規制緩和が進められています。

レストランやバーなどでアルコールを顧客に提供する場合には、所轄の地域国家行政機関(Regional State Administrative Agencies、略称AVI)からアルコール提供ライセンス(Serving licence)を取得する必要があります。ライセンスの取得にあたっては、申請法人の経済的安定性や過去の法令遵守状況が審査されるほか、店舗でアルコールを提供する従業員がアルコールパスポート(アルコール法に関する知識を証明する公式な資格)を保持していることが求められます。また、社会保健福祉国家監督機関(Valvira)が中央機関として、アルコール行政の全国的な指導と監督、統計データの管理を担っています。

参考:社会保健福祉国家監督機関(Valvira)によるアルコール提供ガイドライン

運輸および海事分野における国籍要件と市場参入障壁

物流や運輸セクターも、特有の許認可と国籍要件が求められる極めて重要な分野です。特に海運業に関しては「海事法(Merilaki、674/1994)」や「営業の権利に関する法律」第4条に基づく厳格な国籍要件が存在します。フィンランドの海域内における海上輸送の補助サービス(カボタージュなど)は、国家の安全保障と国内産業保護の観点から、フィンランド国旗、EU加盟国国旗、またはノルウェー国旗を掲げる船舶に限定して予約されています。

日本企業などの外国投資家が自国の船舶をフィンランドの国家船舶登録簿に登録するためには、フィンランド国内に主たる事務所を有している必要があり、かつフィンランドの国民または企業が当該船舶の60%以上を実質的に所有している場合にのみ、フィンランド国旗を掲げる権利が与えられます。これらの要件を満たさない限り、海上運送業に関わる特定の許認可を取得することはできず、実質的な市場参入障壁として機能しています。

民間警備業や不動産仲介業に対するライセンスと事前届出

民間警備業(Private security services)は、公権力の一部を補完する性質を持つため、「民間警備サービス法(Private Security Services Act)」に基づき、国家警察庁(National Police Board)からのライセンス取得が義務付けられています。このライセンスの付与にあたっては、法人が事業を適切に運営するための十分な資金力を有していることが求められます。さらに、法人の管理機関のメンバー、取締役社長、ゼネラルパートナーなど、経営に関与する全ての者が18歳以上であり、誠実かつ信頼に足る人物であり、過去に破産手続きを受けておらず、行動能力に制限がないことが厳格なバックグラウンドチェックを通じて審査されます。

一方で、不動産仲介業やパッケージ旅行の手配業などは、事前の厳格なライセンス(許可)までは求められないものの、事業開始前に所管の監督官庁に対する公式な「届出(Notification)」や「登録(Registration)」を行う義務があります。これにより、当局は市場に参入する事業者を正確に把握し、消費者保護の観点から事後的な監督を行う体制を整えています。許認可の種類によって手続きの重さが異なるため、進出予定の事業がどのカテゴリに属するかを、Suomi.fiなどの政府公式ポータルを通じて事前に確認することが不可欠です。

許認可をめぐるフィンランド行政当局と事業者の対立

フィンランドにおいて、行政機関が下した許認可に関する決定に不服がある場合、事業者は行政裁判所に不服申し立て(控訴)を行う権利を有しています。フィンランドの行政司法制度は、第一審としての地域行政裁判所(Regional Administrative Courts)と、最終審である最高行政裁判所(Korkein hallinto-oikeus、略称KHO)の二審制を基本としています。行政裁判所は、行政機関の決定の合法性と手続きの妥当性を審査しますが、原則として事実認定自体を最初からやり直すことはしません。最高行政裁判所(KHO)の判決は確定的なものであり、同国の行政法の解釈において強力な先例拘束力を持ちます。

ここでは、ビジネスの現場における規制当局の権限の限界と、法律の解釈をめぐって争われた、極めて重要なKHOの判例を分析します。これらの判例は、フィンランドにおける行政の透明性と法治主義の原則を理解する上で非常に有益です。

小売店におけるアルコール販売免許の条件付与に関する判例

2024年に言い渡された判決(KHO:2024:90、2024年6月19日判決、当事者:Kesko Oyj等 対 地域国家行政機関等)は、アルコール販売における規制当局の過度な介入を退け、事業者の営業の自由と最新のテクノロジー導入を保護した画期的な事例です。事案の発端は、フィンランドの大手小売企業であるKesko Oyjおよびその系列のK-Citymarket店舗に対して、地域国家行政機関(AVI)と社会保健福祉国家監督機関(Valvira)がアルコールの小売販売ライセンスを付与・更新する際、極めて厳しい条件を付加したことにありました。

当局は、未成年者への販売防止などの目的から、「アルコール飲料を顧客に物理的に引き渡すことができるのは、ライセンス保持者またはその直接の雇用関係にあるスタッフのみである」「アルコール飲料の代金決済は、ライセンス保持者または法的に決済処理を許可された事業体のみが受け取ることができる」という厳格な条件をライセンスに強制的に盛り込みました。これは実質的に、店舗内でのサードパーティ製セルフレジシステムの柔軟な運用や、決済業務の一部委託などを制限するものでした。Kesko Oyj側は、この条件付加は法律の範囲を超越した違法なものであるとして提訴し、第一審の北部フィンランド行政裁判所は事業者の主張を認めました。当局側はこれを不服として最高行政裁判所(KHO)に上訴しました。

KHO(最高行政裁判所)は判決において、アルコール法(1102/2017)の条文を厳格に文理解釈しました。その結果、同法には「ライセンス保持者またはそのスタッフのみが顧客にアルコール飲料を引き渡さなければならない」という明文の規定は存在しないと判断しました。また、代金の受け取りに関しても、法律上そのような厳格な制約は課されていないと結論付けました。結果としてKHOは、地域国家行政機関が法的根拠を超えてライセンスに独自の制限条件を付加することは違法であり権限の逸脱であるとし、当局側の上訴を棄却してKesko Oyj側の勝訴を確定させました。この判決から、フィンランドの行政司法は、公衆衛生や未成年者保護という大義名分があったとしても、行政機関による恣意的で法形式を超えた規制の拡大解釈を許容せず、明文規定に基づく厳格な法治主義を貫いているということが言えるでしょう。

電気通信インフラにおける市場支配力と事前規制に関する判例

もう一つの重要な事例は、通信インフラなどの許認可および市場規制に関して争われた判決(KHO:2018:96、2018年7月5日判決、当事者:Digita Oy、YLE、MTV Oy 対 フィンランド通信規制庁)です。この事件では、テレビおよびラジオ放送のインフラストラクチャーを提供するDigita Oyに対し、フィンランド通信規制庁(FICORA)が「著しい市場支配力(Significant Market Power、SMP)」を有する事業者として認定し、料金の原価志向性(コストベースの適正な価格設定)などの非常に重い義務を課す決定を下しました。Digita Oyは、この規制の枠組みと投下資本に対する適正報酬率の算定が不当であるとして上訴しました。同時に、顧客である放送局側(YLE、MTV Oyなど)も、規制が十分に厳格ではないという異なる観点から上訴を行いました。

KHOは、この複雑な通信市場の案件に対して、340ページを超える異例の長大な判決文を作成し、多角的な経済的・法的分析を行いました。結果として、通信規制庁がDigita Oyに課した市場支配力に基づく規制義務の大半は適法であり、行政の裁量の範囲内であると判断されました。この判決は、特定の市場において独占的または寡占的な地位にあるインフラ企業に対し、適正な競争環境を維持するための行政による強力な事前規制(料金統制を含む)が、司法によって強く支持されることを示しています。自由なビジネスを保障する一方で、市場の失敗を防ぐための規制当局の介入権限もまた、法的に厚く保護されているのです。この判決に関する公式な情報は、最高行政裁判所の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:最高行政裁判所の公式ウェブサイト

日EU経済連携協定がフィンランドの許認可制度に与える影響

日EU経済連携協定がフィンランドの許認可制度に与える影響

日本企業がフィンランドを含む欧州市場に展開する上で、2019年2月1日に発効した「日EU経済連携協定(EU-Japan Economic Partnership Agreement、略称EPA)」は、極めて重要な法的基盤となります。この協定は、世界のGDPの約30%を占める巨大な自由貿易圏を創出し、関税の撤廃や非関税障壁の削減、政府調達市場の開放、さらにはコーポレートガバナンスや知的財産権の保護に関する最新の規定を盛り込んでいます。

フィンランドとの二国間関係においても、プラスチック、化学品、林産物などの多くの重要品目で関税が撤廃され、日本からの製品輸出やサービス提供のハードルは劇的に下がりました。しかしながら、投資の自由化やサービスの越境提供(Cross-border trade in services)に関しては、協定の附属書(Annex)において各国の「留保措置(Reservations)」が詳細に明記されており、完全に無条件で市場アクセスが認められるわけではない点に強い注意が必要です。フィンランドは、本協定の附属書において、前述した「営業の権利に関する法律(122/1919)」や「協同組合法(1488/2001)」「有限責任会社法(624/2006)」「信用機関法(121/2007)」に基づく厳格な居住要件を、将来にわたって維持する留保措置として明確に規定しています。

具体的には、特許登録庁(PRH)による非EEA居住者に対する役員就任許可の取得義務や、ゼネラル・パートナーシップにおける少なくとも1名のEEA居住要件、外国法人の支店代表者に対するフィンランド居住要件などは、EPA発効後も依然として有効な非関税障壁として機能しています。つまり、物品の貿易に関する関税がゼロになったとしても、法人の設立や運営に関する許認可手続きの手間が免除されるわけではありません。したがって、日本企業はEPAの恩恵を最大限に享受しつつも、企業設立や役員派遣の際には、引き続きフィンランド国内法に基づく厳密な許認可プロセスを一つ一つ確実に踏んでいく必要があります。

また、情報通信技術(ICT)やデータエコノミーが高度に発達しているフィンランドでは、事業モデルのデジタル化が急速に進んでいますが、特定の規制産業(金融サービス、医療、警備業など)においては、支店を設立せずに一時的にデジタル空間のみでサービスを提供することが禁じられており、物理的な拠点設立やライセンス取得が強制されるケースもあります。この点においても、EPAの枠組みと現地の国内法規制の交交差する領域について、高度な法的分析が求められます。

まとめ制

本記事では、フィンランドにおける許認可制度について、その法的枠組みから個別産業の規制、KHOの判例、そして日EU・EPAの影響に至るまで詳細に解説しました。フィンランドの許認可制度は、高度な行政のデジタル化(YTJ等の活用)により、適法な事業者に対しては非常に透明性が高く予測可能性のあるビジネス環境を提供しています。しかし同時に、EEA域外の居住者や外国法人に対する取締役の居住要件の厳格化、支店代表者の設置義務、そしてアルコールや運輸といった特定セクターにおける詳細なライセンス要件など、法執行の実効性とEU域内の秩序を担保するための堅固な防壁が存在しています。

また、最高行政裁判所(KHO)の判例から読み取れるように、フィンランドの法規範の解釈は極めて厳格です。行政権の逸脱を許さず事業者の自由を保護する側面がある一方で、市場支配力を有する企業や国民の安全に関わる事業に対しては、重い規制遵守が求められます。日本企業がこの魅力的な北欧市場で持続的な成功を収めるためには、EPAの枠組みを理解するだけにとどまらず、現地の「営業の権利に関する法律」等の個別法規に基づく許認可の要否を正確に特定し、遺漏なく手続きを遂行する高度なリーガルリスクマネジメントが不可欠です。

モノリス法律事務所では、こうしたフィンランドをはじめとする欧州市場へのビジネス展開における許認可要件の調査、現地法令に準拠した社内体制の構築、および複雑なクロスボーダー案件に関する法的なサポートいたします。事業の特性に応じた適切な法的プロセスを踏むことで、不測の行政処分やレピュテーションリスクを回避し、円滑なグローバル展開を実現するための一助としていただければ幸いです。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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