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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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トルコ広告規制の法的枠組みとその運用実態を解説

トルコ広告規制の法的枠組みとその運用実態を解説

トルコ共和国(以下、トルコ)における広告およびマーケティング活動は、急速なデジタル化とEU法への調和という二つの潮流の中で、極めて厳格かつ動的な規制環境に置かれています。トルコでビジネスを展開する日本企業の経営者や法務担当者がまず理解すべきは、トルコの広告規制が、消費者保護と公正競争の確保という目的において日本法と共通する理念を持ちながらも、その執行手段や特定の表現に対する許容度において決定的な差異を有しているという点です。特に、日本の消費者庁や公正取引委員会に相当する「広告委員会(Reklam Kurulu)」が有する権限は強力であり、2024年の法改正を経て、違反コンテンツを含むウェブサイト全体へのアクセス遮断命令を下す権限が再整備されるなど、行政による介入の度合いは日本よりも高いと言えます。

また、日本法の実務では一定の要件下で許容される「競合他社を明示した比較広告」が、トルコでは原則として禁止されている点や、医療機関による広告が実質的に全面禁止に近い状態である点など、日本企業のマーケティング常識が通用しない領域が多々存在します。本記事では、消費者保護法や商法といった基本法令から、2024年から2025年にかけての最新の法改正、インフルエンサー規制、そして具体的な摘発事例に至るまでを網羅的に解説し、トルコ市場におけるリーガルリスクの所在とコンプライアンスの要諦を明らかにします。結論として、トルコでの広告活動には、現地の行政運用に即した緻密な事前確認と、万が一の行政処分に即応できる体制構築が不可欠であることを示します。

本記事では、トルコにおける広告規制の法的枠組みとその運用実態について、日本法との比較を交えながら詳細に解説します。

トルコにおける広告規制の法的枠組みと基本法令

トルコの広告規制は、単一の法典ではなく、複数の法令が重層的に適用される構造となっています。その中心となるのが、消費者の利益を守るための特別法である「消費者保護法」と、事業者間の公正な競争ルールを定める「トルコ商法」です。

まず、広告規制の中核を成すのが「消費者保護法 第6502号(Law No. 6502 on the Protection of the Consumer)」です。同法第61条は商業広告および不公正な商慣行について定めており、広告は適法であり、一般的道徳、公序良俗、個人の権利、および広告委員会が定める原則に適合しなければならないと規定しています。ここで重要なのは、同法が「広告主」だけでなく「広告代理店」や「媒体主」に対しても連帯して責任を負わせている点です。日本の景品表示法では主として供給主体(広告主)が規制対象となりますが、トルコでは制作サイドやメディアも行政処分の対象となり得るため、契約関係における責任分界点の明確化が日本以上に重要となります。

次に、B2B(企業間)の側面を含めて市場の公正さを規律するのが「トルコ商法 第6102号(Turkish Commercial Code No. 6102)」です。同法第54条から第63条は「不正競争(Unfair Competition)」に関する規定を置いています。日本の不正競争防止法と同様に、虚偽の事実を告知して他人の信用を害する行為などを禁じていますが、トルコの商法は「不必要な誹謗中傷」や「攻撃的な販売手法」についてより広範な定義を用いており、競合他社への言及に対して極めて敏感な法的土壌を形成しています。

これらの法律を補完し、実務的な細則を定めているのが「商業広告および不公正商慣行に関する規則(Regulation on Commercial Advertising and Unfair Commercial Practices)」です。この規則はEUの不公正商慣行指令(UCPD)の影響を強く受けており、欺瞞的な行為や誤認を招く表示についての具体的な判断基準を提供しています。この規則の原文は、トルコの官報ウェブサイト等で確認することができます。

参考:商業広告および不当な商慣行に関する規則(トルコ共和国官報)

トルコ広告委員会(Reklam Kurulu)の権限と執行実務

トルコ広告委員会(Reklam Kurulu)の権限と執行実務

トルコの広告規制において最も特徴的かつ強力な存在が、貿易省(Ministry of Trade)の管轄下に設置された「広告委員会(Reklam Kurulu)」です。この委員会は、消費者からの苦情や競合他社からの通報、あるいは職権によって広告の審査を行い、違法と判断した場合には即座に行政処分を下す権限を有しています。

広告委員会が科すことができる制裁には、広告の停止命令、訂正広告の掲載命令、そして行政罰金が含まれます。特筆すべきは罰金額の高さとその調整メカニズムです。インフレが進行するトルコでは、罰金額が毎年の再評価率に基づいて改定されており、2024年の実績では、全国放送のテレビやインターネットを通じた違反広告に対し、1件あたり数百万トルコリラ(数千万円規模)の罰金が科されるケースも珍しくありません。

実際に、貿易省の発表によれば、2024年の最初の8ヶ月間だけで、広告委員会は誤解を招く広告や不公正な商慣行に対して合計1億6500万トルコリラ(約7億円以上)の行政罰金を課しています。この迅速かつ高額なペナルティの運用は、是正命令が中心となる日本の実務と比較して、企業にとって直接的な財務リスクが高いことを意味します。

参考:貿易省による2024年の活動報告

さらに、日本企業が最も警戒すべき権限として「アクセス遮断」があります。広告委員会は、インターネット上の違法な広告に対し、そのコンテンツへのアクセスを遮断する権限を持っています。この権限を巡っては、2023年に憲法裁判所が「表現の自由を過度に制限し比例原則に反する」として関連条項を違憲とし無効化する判決を下しました。しかし、この法的空白を埋めるため、2024年5月に消費者保護法が改正され、要件を厳格化した上でアクセス遮断権限が再整備されました。

具体的には、技術的に可能な限りURL単位での遮断を行うこととしつつも、それが不可能な場合や違反が是正されない場合には、ウェブサイト全体へのアクセス遮断も可能であるという枠組みが維持されています。これは、自社のECサイト内の一つの商品ページに違反があった場合、最悪のケースではサイト全体がトルコから閲覧不能になるリスクがあることを示唆しています。

参考:憲法裁判所の判決に関する官報(2023年10月27日)

日本法とトルコ法の主要な相違点:比較広告と立証責任

日本企業がマーケティング戦略を立案する際、特に注意が必要なのが「比較広告」と「表示の裏付け(立証責任)」に関するルールの違いです。

まず比較広告についてですが、日本では事実に基づいており、かつ中傷的でなければ、競合他社の商品名を挙げて性能を比較することは公正取引委員会のガイドラインでも認められています。しかし、トルコではこの点において非常に厳しい規制が存在します。かつては競合他社の名称やロゴを使用した直接的な比較広告を解禁する動きもありましたが、2019年の規則改正により、競合他社の名称、マーク、ロゴ、その他識別可能な要素を含む比較広告は実質的に禁止されました。現在許容されるのは、競合を特定しない一般的な比較(例:「従来の一般的な洗剤と比較して」といった表現)に限られると解釈するのが安全です。競合他社を特定した比較は、商法上の不正競争行為や広告規則違反として摘発されるリスクが極めて高いため、日本と同様の感覚で「No.1」や「A社製品との比較」といった表現を用いることは避けるべきです。

次に立証責任についてです。トルコでも日本の不実証広告規制と同様に、広告内の主張(クレーム)に関する立証責任は広告主にあります。重要なのは、広告委員会が要求する「科学的根拠」のハードルが高い点です。例えば、2024年に広告委員会は、大手ECプラットフォーム「Hepsiburada」を運営するD-Market社に対し、「トルコ最大のショッピングサイト(Türkiye’s Largest Shopping Site)」という表現について、客観的なデータによる裏付けがなく、単なる過去の商標登録のみを根拠としていたことを理由に、広告停止処分を下しています(決定番号2024/5637)。このように、「最大」「最高」「唯一」といった最上級表現を使用する場合、公的な機関や独立した第三者機関による最新かつ客観的な調査データが必須であり、自社調べのデータでは不十分とされる傾向があります。

トルコのデジタル広告およびインフルエンサーマーケティング規制

トルコのデジタル広告およびインフルエンサーマーケティング規制

デジタル領域、特にインフルエンサーマーケティングに関する規制は、現在トルコで最も頻繁にアップデートされている分野です。貿易省は「ソーシャルメディアインフルエンサーによる商業広告および不公正商慣行に関するガイドライン」を制定し、日本で言う「ステルスマーケティング」を厳格に規制しています。

インフルエンサーが報酬や物品提供を受けて投稿を行う場合、消費者が一目で広告と分かるよう、指定されたハッシュタグ(#Reklam(広告)、#İşbirliği(協力)、#Sponsor(スポンサー)など)を使用することが義務付けられています。これに加え、最新の規制動向では、単にハッシュタグを付けるだけでなく、「@[ブランド名]による提供」といった文章による明示や、動画コンテンツにおいては音声または目立つテキストでの開示も求められるようになっています。

さらに、AI技術の利用に関しても新たなルールが導入されつつあります。インフルエンサーがフィルターやエフェクトを使用して商品を宣伝する場合、その旨を明示しなければなりません。また、AIで生成されたバーチャルインフルエンサーが、商品を実際に「体験した」かのように描写することは消費者を欺く行為として禁止されます。子供をターゲットにした広告や、違法なベッティングサイトへの誘導などは、インフルエンサーを通じたものであっても厳しく処罰されます。日本企業がトルコのインフルエンサーを起用する場合、契約書においてこれらの遵守事項を詳細に規定し、投稿前にクリエイティブの法務チェックを行うプロセスを確立することが不可欠です。

トルコの厳格なセクター別規制:医療・化粧品・金融

特定の産業においては、一般的な広告規制に加えて、さらに厳しい特別規制が適用されます。ここでは特に日本との違いが大きい分野を取り上げます。

医療分野における規制は、日本と比較しても極めて厳格です。日本では医療法の下で一定のガイドラインを守れば広告が可能ですが、トルコでは、医師や私立病院による「広告(Advertisement)」そのものが原則として禁止されています。許容されるのは、専門分野、場所、連絡先といった客観的な「情報提供(Information)」のみです。特に注意すべきは、治療前後の比較写真(いわゆるビフォー・アフター写真)の扱いです。2024年から2025年にかけての規制強化により、患者の同意があったとしても、治療の効果を示唆するようなビフォー・アフター写真をウェブサイトやSNSに掲載することは、需要を喚起する「広告」に該当するとして禁止される傾向にあります。

アルコール飲料に関しては、テレビ、ラジオ、インターネットを含むあらゆるメディアでの広告が完全に禁止されています。ロゴやブランドカラーのみを使用して商品を想起させる「アリバイ広告」も厳しく取り締まられているため、マーケティングの余地は極めて限定的です。

化粧品やサプリメントについては、「健康強調表示(Health Claims)」が厳しく制限されています。化粧品であるにもかかわらず「治療する」「治す」といった医薬品的な効能を謳うことはもちろん禁止ですが、さらに「パラベンフリー」などの「〜不使用」表示についても、それを裏付ける科学的証明書が必要であるほか、本来含まれていない成分について「不使用」と強調することで競合製品を不当に中傷しているとみなされるリスクがあります。

金融分野、特に暗号資産(仮想通貨)については、決済手段としての使用が中央銀行の規則により禁止されています。また、外国為替証拠金取引(FX)や暗号資産取引所の広告については、トルコの資本市場委員会(CMB)のライセンスを持たない海外業者が、トルコ居住者をターゲットにマーケティングを行うことは違法であり、サイトへのアクセス遮断の対象となります。

トルコの違反事例と司法判断:行政処分の取消訴訟

広告委員会の決定に不服がある場合、事業者は行政裁判所に対して処分の取消訴訟(annulment action)を提起することができます。最終的には最高行政裁判所である「国務院(Danıştay)」が判断を下します。

例えば、国務院第10法廷の判決(2024年判決など)では、広告の内容が消費者を誤認させるものであったか否か、また科された罰金が比例原則に見合っているかが争点となります。過去の判例では、広告委員会が下した「サイト全体のアクセス遮断」等の重い処分に対し、裁判所が「違反箇所のみの削除で十分である」として処分を取り消すケースも見られましたが、前述の通り法改正により行政側の権限が強化されている現状もあります。重要なのは、裁判所も「平均的な消費者の認識」を基準に判断するため、専門的な表現であっても一般消費者がどう受け取るかが法的判断の分かれ目になるという点です。

参考:国務院(Danıştay)の判例データベース

まとめ

トルコにおける広告規制は、EU基準の消費者保護法制をベースにしつつも、広告委員会による強力かつ迅速な行政執行、競合他社比較の厳格な禁止、そしてデジタル空間への積極的な介入という独自の特徴を持っています。特に、誤解を招く表現に対する立証責任の厳しさや、サイトアクセス遮断という事業存続に関わるリスクは、日本国内でのビジネス感覚とは異なるレベルの注意を要します。

日本企業がトルコ市場で成功を収めるためには、単に現地の言語に翻訳するだけでなく、こうした法規制の差異を深く理解し、現地の最新のガイドラインや裁定例に即したクリエイティブの制作とレビューを行うことが不可欠です。モノリス法律事務所では、広告チェック、インフルエンサー契約のレビュー、万が一の行政調査への対応など、貴社のトルコにおけるマーケティング活動を法務面からサポートいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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