ノルウェーの特定ビジネス分野における許認可制度を解説

ノルウェー王国(以下、ノルウェー)は、手厚い社会福祉制度と豊かな天然資源を基盤とする、高い経済水準を誇る国です。この魅力的な市場への進出を検討されている日本の経営者や法務部員の皆様にとって、現地の許認可制度の正確な理解は、事業成功の第一歩となります。
ノルウェーの許認可制度の最大の特徴は、EEA(欧州経済領域)協定を通じて、EUの法制度と広範に調和している点にあります。金融、通信、環境といった多くの分野で、EU指令や規則が国内法に組み込まれているため、日本法のみを基準とした理解では不十分であり、EEA法全体の視点が不可欠です。
特に、ノルウェーならではの厳格な規制が適用される分野として、二つの側面が挙げられます。一つは、石油・ガスといった国家資源の管理です。資源の長期的な最適利用のため、生産量そのものが政府によって厳しく規制されており、日本の資源開発制度とは一線を画します。もう一つは、ギャンブル事業の国家独占です。公共の健康と秩序維持を目的として、オンラインギャンブルを含む大半の活動が独占企業に限定されており、外国企業のマーケティングも厳しく制限されています。2025年1月1日からは、違法サイトへのアクセスを技術的に遮断する措置も強化され、規制環境は一層厳格化しています。
本稿では、ノルウェーの許認可制度の基本構造を概説するとともに、日本企業が直面し得る、金融、資源開発、通信、ギャンブル、環境の各分野における具体的な法的要件と、日本法との重要な相違点について、具体的な法令を根拠として詳細に解説いたします。
この記事の目次
ノルウェーの許認可制度の基本構造と日本法との主な違い
ノルウェーは、北欧の他の国々と同様に、市場経済を基盤としつつも、公共の利益と社会的価値を守るために、特定の事業活動に対して厳格な許認可制度を設けています。日本でのビジネス経験を持つ経営者や法務部員にとって、許認可制度の存在自体は馴染み深いものですが、ノルウェーにおける規制の特徴は、その規制が欧州経済領域(EEA)法制と密接に調和している点、そして資源管理や社会保障に関する国家の関与が非常に強い点にあります。
特に、日本と大きく異なるのは、ノルウェーがEEA協定を締結しているため、EU加盟国ではないものの、EUの主要な法令(指令や規則)を国内法制に組み込んでいる点です。これにより、金融、通信、環境といった分野では、EU市場全体で適用される規則が、そのままノルウェーにも適用されることになります。日本の法務担当者がノルウェーでの事業展開を検討する際には、単に国内法のみならず、EU法の動向を把握することが不可欠となります。
日本法における許認可制度が、主に国内の公益性や消費者保護を目的としているのに対し、ノルウェーの許認可は、EEAの自由移動の原則(人、物、サービス、資本)を前提としつつ、特に国家の資源の管理や、特定の社会的なリスクの統制において、より厳格な国家独占や規制を維持している傾向が見られます。
EU法制との広範な調和
ノルウェーの許認可制度を理解する上で、EU法制との調和は最も重要な要素の一つです。EEA協定に基づき、ノルウェーは、例えば金融サービス分野における資本要件、情報開示義務、あるいはデータ保護(GDPR)といった広範な分野で、EU指令や規則を国内法に転換しています。
これにより、EEA域内の他の国で事業を展開している企業にとっては、一定の免許の相互承認やパスポート制度を利用できる可能性が開かれていますが、逆に日本の企業がノルウェーに進出する場合、日本法にはない複雑なEU法上の要件への適合が求められます。この点は、特に金融サービスや通信分野において顕著であり、単なる国内の法令遵守にとどまらない、より広範なリーガルリサーチが必要となることが言えるでしょう。
ノルウェーの主要分野における許認可制度の詳細

金融サービス分野の厳格な監督体制
金融サービス分野は、金融監督庁(Finanstilsynet)の厳格な監督下に置かれています。日本の金融庁が行う監督と同様に、銀行、投資会社、ファンド運用会社などは、それぞれ特定のライセンスを取得しなければなりません。
ノルウェーにおける金融規制の主要な根拠法は、2015年金融機関法(Finansforetaksloven)や証券取引法(Verdipapirhandelloven)です。例えば、銀行免許を取得するためには、厳格な最低資本要件、ガバナンス体制、リスク管理体制の確立が求められます。日本法でも銀行法や金融商品取引法に基づき同様の要件が課されますが、ノルウェーでは、EUの資本規制指令(CRD IV/CRR)や市場指令(MiFID II)などが直接的に国内法に取り入れられているため、その具体的な内容や手続きは日本法と異なります。
特に注目すべきは、決済サービス分野です。EUの改正決済サービス指令(PSD2)が国内法に取り入れられており、従来の銀行以外のフィンテック企業に対しても、決済機関(Payment Institution, PI)または電子マネー機関(Electronic Money Institution, EMI)としての許認可を義務付けています。日本の資金決済法における規制と比較しても、PSD2に基づく許認可は、APIアクセスやオープンバンキングの義務付けなど、より詳細かつ技術的な要件を伴うことが特徴です。
石油・ガス分野における国家の資源管理と生産規制
ノルウェーの経済の根幹を成す石油・ガス分野では、許認可制度は極めて厳格であり、国家の資源管理の側面が強く表れています。
石油・ガス生産活動は、1996年石油法(Petroleumsloven)およびその関連規制によって包括的に規制されています。企業は、エネルギー省から生産ライセンスを取得することが必須であり、これは特定の地理的区域(ブロック)における探査、開発、生産を行う権利を付与するものです。さらに、実際の生産活動においては、ノルウェーオフショア総局(Norwegian Offshore Directorate, NOD)の監督下に置かれます。
日本における地下資源開発が、資源探査の自由を原則としつつ、特定の鉱区や保安基準に関する規制を設けているのに対し、ノルウェーでは、資源の長期的な最適利用という観点から、生産量自体が厳しく規制されています(Petroleum Act §4-4)。企業は毎年、生産計画(Plan for Development and Operation, PDO)を提出し、政府の承認を得る必要があります。この年間生産量の上限設定は、国際的な市場環境や資源の持続可能性を考慮に入れるものであり、日本企業がノルウェーで資源開発に参加する場合、この国家による資源管理の枠組みを深く理解しておく必要があります。
また、ガスや石油の注入、フレアリング(燃焼)、コールドベンティング(排出)といった特定の活動についても、個別の許可が必要となります。これらの許可は、環境保護および資源の効率的な利用を保証するためのものです(Petroleum Act §4-5)。
通信分野の登録義務と周波数ライセンス
通信分野における規制は、ノルウェー通信庁(Nkom:Nasjonal kommunikasjonsmyndighet)およびデジタル化・公共ガバナンス省によって管轄されています。
ノルウェーの電子通信法(Ekomloven)に基づき、公共電子通信ネットワークまたはサービスを提供する事業者は、免許を取得する必要はありませんが、活動を開始する前または開始と同時に、Nkomへの登録が義務付けられています(Ekomloven §2-1)。これは、日本における電気通信事業法の届出・登録制度に類似していますが、ノルウェーの制度は、EEA域内の規則に基づき、より簡素化された手続きを採用している点が特徴です。
一方で、無線周波数を利用するサービス(移動体通信や放送など)については、周波数ライセンスの取得が必須となります(Ekomloven §6-1)。これは、無線周波数が有限な公共資源であるため、その利用を厳格に管理する必要があるためです。周波数ライセンスは、オークションや比較審査を通じて付与されることが多く、そのプロセスは日本の電波法に基づく免許付与と同様に競争的かつ厳格であることが言えます。
ギャンブル事業の国家独占とオンライン規制の強化
ギャンブル事業に関するノルウェーの規制は、日本と比較しても非常に厳格であり、国家による独占が維持されています。ノルウェーでは、ギャンブル法(Spillov)に基づき、宝くじ、スポーツ賭博、競馬などのほとんどのギャンブル活動は、Norsk TippingとNorsk Rikstotoという二つの国家独占企業に限定されています。この独占構造は、ギャンブル依存症の防止やマネーロンダリング対策といった公共政策の観点から強く維持されています。
特に、オンラインギャンブルに関しては、ほとんどの外国企業によるサービス提供やマーケティングは違法とされています。この国家独占がEEA協定におけるサービスの自由移動の原則と抵触しないかという議論は、過去に欧州司法裁判所(CJEU)の判例において争われています(例えば、2007年3月6日のPlacanica判決や2009年9月8日のLiga Portuguesa判決など)。CJEUは、加盟国が消費者保護やギャンブル依存症対策を目的とする場合、独占制度を維持する根拠となることを認めていますが、その措置が一貫性があり、体系的でなければならないという判断を示しています。ノルウェーは、この公共の健康と秩序維持という一貫した目的のために独占を正当化しています。
ノルウェーの規制強化の動向として、2025年1月1日以降、ノルウェー賭博局(Lotteritilsynet)は、ライセンスを受けていない違法なオンラインギャンブルサイトに対するDNSブロッキング措置を強化する権限が付与されています。これは、違法なギャンブル提供者へのアクセスを遮断するための技術的措置であり、日本には類似の厳格な措置が現在のところ存在しないため、外国企業がノルウェー市場へのアクセスを試みる上で極めて重要な規制の違いとなります。
参考:ノルウェー賭博当局(The Norwegian Gaming Authority) (英語)
ノルウェーの環境保護を目的とした排出許可制度

ノルウェーは、環境保護への意識が非常に高く、汚染リスクを伴う産業活動には厳格な排出許可制度が適用されます。汚染管理法(Forurensningsloven)に基づき、汚染を引き起こす可能性のあるすべての産業企業は、ノルウェー環境庁(Norwegian Environment Agency:Miljødirektoratet)または郡知事(County Governor)に対して、排出許可を申請しなければなりません(Forurensningsloven §11)。この許可は、排出される汚染物質の種類、量、および排出方法に関する制限を定めるものです。
この制度の基本的な構造は、日本の環境関連法(大気汚染防止法、水質汚濁防止法など)に基づく特定施設の設置許可や排出基準の遵守義務と類似しています。しかし、ノルウェーの場合、EUの産業排出指令(IED)などの影響を受けており、最良利用可能技術(BAT)の適用が強く求められるなど、より高度な環境基準への適合が要求される傾向があることが言えます。
まとめ
本稿では、ノルウェー王国における主要なビジネス分野の許認可制度について、その特徴と日本法との相違点を詳細に解説いたしました。ノルウェーの規制環境は、EEA協定に基づくEU法制との調和、そして資源管理や社会統制における国家の強い関与という二つの大きな柱によって成り立っています。金融サービス分野ではPSD2やMiFID IIなどのEU指令への適合が求められ、石油・ガス分野では生産量の上限設定という厳格な資源管理規制が存在します。さらに、ギャンブル分野に見られる徹底した国家独占は、外国企業による市場参入の障壁として機能しています。
ノルウェーへの進出にあたっては、日本の常識や規制の枠組みだけにとらわれず、EEAの広範な法体系と、国家独占や厳格な資源管理といった特定の公共政策に基づく規制を深く理解することが肝要です。これらの規制への適合は複雑な法務手続きを伴うため、事前に専門的な知見に基づいたリーガルリサーチと戦略立案が不可欠となります。モノリス法律事務所では、こうした国際的な規制環境における進出戦略、許認可取得に向けた法務対応、および関連するコンプライアンス体制の構築に関するご相談を幅広くサポートいたします。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務

































