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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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ノークレーム・ノーリターンは絶対に返品不可?法的効力を解説

フリマアプリやネットオークションサイトなどでしばしば「ノークレーム・ノーリターンでお願いします」等の記載を目にします。商品の概要欄などにこのような記載がされていた場合、買主は商品につきクレームや返品をすることは絶対にできないのでしょうか。

ここでは、「ノークレーム・ノーリターン」の記載の法的効力について解説します。

特約の効力に注意

ノークレーム・ノーリターンが有効な場合

売主が出品物について「ノークレーム・ノーリターン」という表示を行っている場合、一般には、「商品に関して一切のクレームを受け付けず、返品も受け付けない」ということに同意する人の申込みにだけ応じる、という売主の意思表示があったと解されます。これは売主の「担保責任を負わない旨の特約」と考えられます(民法第572条)。

担保責任を負わないとは、対象となる商品が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合していない場合等の売主(出品者)の責任が免除されることを意味します。例えば、「ジャンク品なのでノークレーム・ノーリターンでお願いします」とか、「中古で年数がたっているのでノークレーム・ノーリターンでお願いします」といった表記があったり、単に「ノークレーム・ノーリターンでお願いします」とのみ表記されていたりすることもあります。このような特約を定めること自体は、原則有効です。「ジャンク品なのでノークレーム・ノーリターンでお願いします」とある場合、正常に動作しないということを理由とする責任を、売主は免れることができる可能性があります。

ノークレーム・ノーリターンと契約不適合

ただし、ノークレーム・ノーリターンと表示されているから、この特約が常に有効であるとはいえず、個別具体的な事情の下でその効力が判断されることとなります。

2020年4月1日に施行された改正民法では「瑕疵」の文言が消え、これに代わって「契約不適合」と呼ばれることになりました。「瑕疵」の定義は、「通常備えるべき品質・性能を有しないか又は契約で予定した品質・性能を有しないこと」とされていましたが、「契約不適合」とは、「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」とされています。したがって、実質的な内容はほぼ同じです。

民法(買主の追完請求権)

第562条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

このように、法律的には、通常商品の売買契約が締結された際に、売主は「契約不適合」に対する責任を負います。具体的には、販売した商品の品質(出品者自らが知っていたキズや汚れ等)について十分に説明していなかった場合、また、売主が出品物の数量が不足していること等を自ら知っているにもかかわらず、これを買主に告げないで取引した場合には、免責は認められません。

上のような事実がある場合には、たとえノークレーム・ノーリターン表示がされていても、売主は責任を免れることはできません。買主は債務不履行責任に基づき契約の解除や、損害賠償の請求が可能であり(民法第564条)、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完や、代金の減額を請求することもできます(民法第562条、第563条)。また、場合によっては、錯誤や詐欺による取消し(民法第95条第1項・第2項、第96条第1項)が認められる可能性もあります。

売主と買主が留意すべき点

ノークレーム・ノーリターンと売主

個人の消費者が事業者から商品を購入した場合、つまり、ノークレーム・ノーリターンとする売主が個人ではなく事業者であった場合には、ノークレーム・ノーリターン特約はどのように扱われるのでしょうか。

消費者契約法(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)

第8条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

1 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

2 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

売主が事業者に該当するといえる場合、商品を出品する際には、特定商取引法によって、法定返品に関する事項及び責任につき特約がある場合の当該特約を広告上に表示することが義務付けられています。また、返品に関する表示については、それが法定返品権の特約表示であるのか、責任の特約表示であるのか、あるいは双方の表示であるのかを明確にする必要があるとされています。ノークレーム・ノーリターン表示が法定返品権についての特約及び責任についての特約の双方の意味を持つことを明確にしていたとしても、売主が業者であり、消費者が買主である場合には、責任特約としてのノークレーム・ノーリターンは、損害賠償義務の全部を免除し、かつ解除権を排除する特約であるとして、消費者契約法第8条により、原則的に無効となります。

ノークレーム・ノーリターンの注意点

フリマアプリやネットオークションでは、実際の商品を見たり触ったりせずに購入することとなるので、売主は“後から商品に傷がついていた”や“思っていたのと違う”などのクレームを受けたり、返品を要求されるリスクがあります。

そこで売主は、ノークレーム・ノーリターンと明記することで、苦情や返品を受けるリスクの低減を図ることとなります。これは便利な方策ではありますが、売主と買主の間でトラブルに発展してしまうことがたびたびあります。

売主は、あらかじめ商品のキズや故障を伝えておかないとノークレーム・ノーリターンが無効となる可能性があるので、明確に買主に伝える必要があります。売主にとっては些細だと思える部分でも、買主は重要な部分と思うかもしれません。クレームをつけられそうな部分については隠さずにすべてを伝えておく方が安全でしょう。

買主は、ノークレーム・ノーリターン特約が設定されているかどうかを必ず確認しましょう。特約がある場合は、後から責任を問うことは、原則としては不可能となるからです。可能な限り商品のキズや故障について質問し、商品の状態を把握した上で購入することが重要です。

まとめ

ユーザー間取引の市場規模は、年々、拡大し続けています。

売主と買主の双方が納得し、気持ちよく取引が成立することを目的として、ノークレーム・ノーリターンという特約が考え出されたのですから、双方が満足できる取引ができ、ユーザー間取引が、健全に発展することが望まれます。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、ネットオークションやフリマアプリをめぐっては、リーガルチェックの必要性はますます増加しています。当事務所は様々な法律の規制を踏まえた上で、現に開始したビジネス、開始しようとしたビジネスに関する法的リスクを分析し、可能な限りビジネスを止めることなく適法化を図ります。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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