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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

システムやソフトウェア開発の契約不適合責任とは?改正点を解説

システムやソフトウェア開発の瑕疵担保責任と民法改正

もし発注したシステムの納品後に契約内容と異なる仕様や不具合があることがわかったら、法律的にはどう対処すればいいのでしょうか?

操作方法が難しい、処理速度が遅い、発注した機能が備わっていない…。システムのこうしたトラブルに対して、発注者としては、システム開発を行ったベンダーに対して「契約不適合責任」を問うことになります。

「契約不適合責任」は、平成29年(2017年)の民法改正により廃止された「瑕疵担保責任」に代わって新設されました。そこで、この改正がシステムやソフトウェア開発に対してどう影響するのかに注意する必要があります。

しばしば起きる納品後のトラブル。こうしたトラブルを回避すべく、「契約不適合責任」の内容と改正による影響を解説します。

契約不適合責任の民法改正点

裁判官のイメージ画像

平成29年(2017年)6月2日に公布された「民法の一部を改正する法律」が、 令和2年(2020年)4月1日から施行されました。

民法の中でも、契約等に関する最も基本的なルールを定めた部分は「債権法」と呼ばれています。

債権法については明治29年(1896年)の制定以来、約120年にわたりほとんど見直しがされていませんでした。

そこで、現在の社会に対応するために大幅な見直しを図ったのが今回の改正です。

具体的な改正点は多岐にわたりますが、その中でも契約不適合責任という概念の新設は、主な改正点の1つです。

これにより、「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものは、「契約不適合責任」に代わりました。

契約不適合とは

契約不適合のソフトウェアが届いて戸惑う人たち

「契約不適合」とは、当事者の合意や契約の趣旨、性質に照らして、本来あるべき機能・品質・性能・状態が備わってないことをいいます。

この「契約不適合」は、民法改正により従来の「瑕疵(かし)」に代わって導入されました。

システムやソフトウェア開発では、完成したシステムがあらかじめ定めた仕様と一致していない場合や、システムやソフトウェアの性質に照らして通常有するべき機能や性能を有しない場合等が「契約不適合」にあたります。

「契約不適合」の有無を判断する際には、当事者の合意や契約の趣旨、性質が重視されます。

そのため、システムやソフトウェアの開発の目的や発注経緯などを書面に残して、発注者がどのような要望やイメージを持っていたのかを明らかにしておくことが重要です。

ソフトウェアの不具合等が「契約不適合」に該当するケース

不適合のイメージ画像

それでは、システムやソフトウェア開発においては、どのようなケースが「契約不適合」に該当するのでしょうか。ここでは具体的なケースを挙げて解説します。

ソフトウェアに支障を生じさせ、修補が遅延する場合

まず、ソフトウェアに軽微とは言えない不具合が発生し、その修正のために設計段階まで遡って見直しを要するなど速やかに対処することができない場合が考えられます。

例えば、導入した在庫照会システムの検索処理に30分以上要してしまうなどの支障が生じ、顧客からの問い合わせに別に手書きの在庫台帳を作成して対応せざるを得なかった事案について、現在の「契約不適合」にあたる「瑕疵」に該当すると認めた裁判例があります(東京地判平成14年4月22日)。

不具合が順次発現している場合

また、個々の不具合は軽微で修正に時間がかからなくても、繰り返し何度も不具合が発現してしまい、全ての不具合を修正して正常に機能させるまでに長時間がかかる場合も考えられます。

例えば、導入した在庫照会システムに繰り返し不具合が生じてしまい、今後どの程度不具合が生じるのか、その修正にどのくらい時間がかかるのか明らかでなく、システムを用いて通常業務を行うことができないような場合には、「契約不適合」と言えるでしょう。

ソフトウェアの不具合等が「契約不適合」に該当しないケース

法律相談をする人たち

納品後に発見された不具合のすべてが「契約不適合」となるわけではありません。ここでは、契約不適合に該当しない具体的なケースを解説します。

遅滞なく修補した場合または代替措置を講じた場合

裁判例では、ユーザーからバグなどの不具合を指摘されたとしても、遅滞なく補修した場合、またはユーザーと協議の上相当と認める代替措置を講じた場合には「瑕疵」に当たらないと判断しています(東京地判平成9年2月18日)。

システムやソフトウェアの開発では、バグが一切発生しないようにプログラムすることは不可能であり、一定の不具合が生じてしまうことは致し方ありません。

そのため、不具合があったとしても、遅滞なく補修するなどの措置を講じていれば「瑕疵」とするべきではありません。

これは、現在の「契約不適合」でも同じように考えられるでしょう。

なお、ここでいう「遅滞なく」などの判断を基礎付けるのは、システム開発の過程で作成されていた議事録等の証拠です。

これらの重要性に関しては下記記事にて詳細に解説しています。

関連記事:法律的観点からみたシステム開発における議事録の残し方とは

特定個人が操作方法を容易に理解できなかった場合

操作性や使い勝手に関しては、主観によるものが大きいことから、一般的利用者を基準に使用に堪えられない場合に「契約不適合」に当たると評価されることになります。

特定個人が操作方法を容易に理解できなかったことのみでは、「契約不適合」に当たるとは言えません

ベンダーの仕事以外が原因で不具合が発生した場合

システムやソフトウェアの開発を行うベンダーの開発業務などとは関係のない原因により不具合が発生した場合は、このシステムやソフトウェア自体に「契約不適合」があるとは言えません

例えば、ベンダーが調達を担当しないハードウェアのトラブルが原因で不具合が発生した場合には、「契約不適合」に当たるとは評価されません。

ユーザーの指示により不具合が発生した場合

ユーザーの誤った指示により、完成したシステムやソフトウェアに不具合が生じた場合は、たとえシステム等に「契約不適合」があると認められても、ベンダーは原則として契約不適合責任を負いません

例えば、業務システムの開発に当たって、ユーザーのみが知り得る事情に関して誤った説明がされたため、この誤った情報を前提に合意した仕様に基づき開発したソフトウェアに不具合が発生した場合には、ベンダーに何ら責任は生じません。

こうした判断の背後には、ソフトウェア開発において発注者であるユーザー側も、「協力義務」を負っている、という考え方があると考えられます。詳細については、以下の記事をご参照下さい。

関連記事:システム開発の発注者であるユーザー側が負う協力義務とは

契約不適合責任の留意点

民法改正により瑕疵担保責任から契約不適合責任へと変わったことで、システム開発を受託する側の責任範囲や責任を負う期間が変化しました。しかし、契約不適合責任の適用にはさまざまな留意点があります。契約形態によっては適用されないケースや、検収後の対応についても正しく理解しておかなければなりません。

ここでは、システム開発における契約不適合責任の留意点について解説します。

契約形態によっては契約不適合責任に問われない

契約不適合責任は、主に売買契約と請負契約に適用されます。

システム開発の受託案件では、近年、請負契約とは異なる準委任契約の契約形態が用いられるケースも増えています。準委任契約は特定の業務を委任された側が業務を遂行し、発注側が業務に対する報酬の支払いを約束する契約形態です。

準委任契約の場合、報酬を支払う対象が成果物ではなく作業となるため、原則として契約不適合責任を負うことはありません。しかし、システム開発の受託案件で用いられる準委任契約は、ほとんどの場合「成果完成型」に該当します。

成果完成型準委任契約では、通常の準委任契約とは異なり、「成果物の完成」をもって契約の義務を果たすことになります。つまり、単に作業に対して報酬が支払われるわけではなく、作業の結果として完成された成果物と引き換えに報酬が支払われるため、受託側は成果物を完成させることが必要になります。

また、準委任契約では受託側は発注側に対して善管注意義務を負います。善管注意義務とは、システム開発のプロとして求められるレベルのスキルや専門知識をもって業務を遂行する注意義務を指し、この注意義務を怠った場合は損害賠償を請求される可能性があります。

つまり、準委任契約では受託側は契約不適合責任を負いませんが、受託側が負う実質的な責任の重さが軽くなるわけではありません。

検収完了後にも修正義務は発生する

システム開発の受託案件では、システム完成後に発注側がテストを実施し、検収を行います。検収で不具合が発覚した場合は発注側から受注側に対して検収不合格の通知がなされ、受注側が修正作業を行った後、再度検収が行われるのが一般的です。

しかし、こうした検収プロセスを経てシステムが稼働した後にも不具合が発覚する場合もあります。その際「検収が完了した後なので修正義務はない」と主張する受注側がいますが、これは誤りです。

瑕疵担保責任が問題となった判例では、システム稼働後に発覚した不具合の存在だけをもって損害賠償責任を負うことはないものの、受注側には遅滞なく不具合を補修する、もしくは、相当な代替措置が求められるとされています。(東京地方裁判所平成9年2月18日判決)

検収は報酬を支払うための条件であり、検収後に発覚した不具合を修正する義務を免除するものではありません。軽微なバグが発見された場合でも、遅滞なく補修を行わないと損害賠償責任を問われる可能性があるため、システム納品後も継続的なサポート体制を整えておくことが重要です。

契約不適合責任に基づいて施主・買主が請求できる事項

書類確認をする人たち

ここでは、システムやソフトウェア開発に関わる契約不適合責任の内容等を、改正による変更点も踏まえて解説します。

修補請求

不具合が契約不適合に当たると評価される場合には、発注者は不具合の修補請求ができます。

改正前は、問題となっている瑕疵が重要でなく、かつ修補に過分の費用を要する場合には修補請求をすることはできませんでした。改正により、このような限定は削除されました

もっとも、改正後も、「契約不適合が重要でなく、かつ、修補に過分の費用を要する場合」は、修補が不能であるとして修補請求が認められない可能性があります。

損害賠償請求

不具合のあるシステムやソフトウェアにより、通常の営業ができなくなったり余分な費用を支出したりした場合には、発注者は損害賠償請求ができます。

改正前は、特約のない限り過失の有無を問わず損害賠償請求をすることができました。

しかし、改正によって、履行者に免責事由(債務者の責めに帰することができない事由)があれば、損害賠償請求をすることができなくなりました。

そのため、ベンダーは免責事由を立証すれば、損害賠償責任を負いません。

契約解除

発注者は、システムやソフトウェアの契約不適合を理由に開発契約を解除できます

すでに紹介した裁判例では、在庫照会システムの検索処理に30分以上要してしまうなど処理時間があまりにも長く、端末自体の使用ができない等の支障も生じる不具合があり、導入したシステムの継続利用を断念せざるを得なかったことから、契約の解除を認めています(東京地判平成14年4月22日)。

改正前は、瑕疵により「契約をした目的を達することができない」場合に限り、契約の解除をすることができました。しかし改正により、このような限定は削除されました。
もっとも、改正法の下でも、契約不適合の程度が「軽微」である場合には、解除は認められない点に注意が必要です。

報酬減額請求

報酬減額請求権は、改正により新設されました。

システムに不具合がある際に、発注者がその修補を請求したにもかかわらず相当の期間を経過しても修補が行われない場合には、発注者から報酬減額請求ができます。

責任を負う期間

  • 修補請求
  • 損害賠償請求
  • 契約解除
  • 報酬減額請求

には、これらの権利を行使することのできる期間が限定されています。

具体的には、発注者がシステムやソフトウェアに契約不適合があることを「知った時から1年以内」にその旨をベンダーに通知した場合に限り、権利を行使をすることができます。

改正前は、権利行使期間がシステムやソフトウェアを「引き渡した時から1年以内」に限定されていました。そのため、改正により権利行使できる期間が長くなったと言えます。

なお、このような期間制限とは別に、契約不適合責任に基づいて認められる上記権利は消滅時効の規定も適用されます。

そのため、例えばシステムやソフトウェアの引渡しを受けてから11年後に不具合の存在を初めて知った場合には、損害賠償請求権などの権利は「10年」の消滅時効期間を経過しているため、契約不適合を「知った時から1年以内」に通知するか否かを問わず権利行使することができません。

報酬支払拒絶

発注者は、開発業者が修補や損害賠償を行うまでは報酬全額の支払いを拒絶することができます。

契約不適合を考慮した契約規定のポイント

契約締結し握手する人たち

契約不適合責任の規定は任意規定であり、当事者間の特約により、責任内容を限定したり権利行使期間を短縮したりすることができます。

そこで、ここではシステムやソフトウェア開発において、契約不適合責任との関係で注意すべき契約規定を解説します。

ポイント1:契約不適合の対象となる事象や範囲

システムやソフトウェアに不満がある場合、発注者はベンダーに契約不適合責任を追及したいと考えるでしょう。しかし、ベンダーとしては、単なる仕様に過ぎない場合でも、気に入らないからといって契約不適合責任を追及されることは受け入れられません。また、ベンダーは不当な契約不適合責任の追及に備えて見積もりを大幅に上げる可能性があり、発注者にも不利益となります。

そこで、契約不適合の対象となる事象や範囲を明確にするために、発注者がどのような目的で、どのような機能を備えたシステムを導入したいのかなどを書面に示し、または仕様書に反映させることが重要です。

また、仕様書に定められている事項について、その通りのシステムやソフトウェアを納品した場合には、仕様上なにかしら不都合があったとしても契約不適合には当たらない旨を明らかにしておくことも考えられます。

この規定により、仕様書のとおりに開発したにもかかわらず、発注者の好みにより契約不適合責任を問われることを防ぐことができます。

ポイント2:保証期間の明確化

契約不適合責任の権利行使期間は、製品を「引き渡した時」ではなく、契約不適合を「知った時から」起算されます。また、消滅時効が適用されるとしても、その期間は最長で「10年」であり、長期間に及びます。

ベンダーにとっては、場合によっては「10年」という長期間にわたり無償で保証しなければならないのは大きな負担であり、その分を見積もり段階で上乗せせざるを得ません。また、発注者としてもシステムやソフトウェアの使用期間などに応じて柔軟に保証期間を設定した方が費用などの点でむしろ利益になり得ます。

そこで、システム等の内容に応じて保証期間を柔軟に設定することが考えられます。

ポイント3:損害賠償額の上限設定

契約不適合責任における損害賠償請求の範囲は、従来の信頼利益(契約がなかったら被らなかった損害)だけでなく、履行利益(契約が適切に履行されていれば得られたはずの利益)も請求できるようになりました。

例えばシステム稼働予定日に稼働できなかったために得られなかった営業利益なども賠償対象となる可能性が生じ、受注者の賠償リスクが大幅に拡大しています。

この賠償リスクに対応するため、契約書において損害賠償額の上限を明確に定める重要性が増しています。上限額を設定すると、想定外の巨額な賠償責任を負うリスクの回避が可能です。

ただし、クライアントによっては損害賠償額の上限規定を受け入れないケースもあります。賠償範囲を限定するなど、代替的なリスク回避策をクライアントと協議して契約書に盛り込むのが望ましいです。

ポイント4:契約不適合が生じた場合の対応

契約不適合が生じた際に、損害賠償請求や解除等、民法上認められている権利のうち、行使できるものを、当事者間の合意によって、一部に限定することができます。

発注者としては、契約書においてどのような限定が付されているのかをきちんと理解しておく必要があります。

まとめ:「契約不適合責任」を含んだ契約書の作成は弁護士に相談を

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民法改正によって、システムやソフトウェアの開発の法律関係にも大きな影響が生じました。

納入したシステムに不具合が生じた場合、これが「契約不適合」に当たるのか、どのような責任を問うことができるのかは一概には言えません。

また、紛争を防止するために、開発契約の段階で発注者とベンダーとの間で十分な協議をし、契約書にその内容を反映させることが不可欠です。

契約書の作成について不安な点がある方は、ぜひ専門の弁護士にご相談ください。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。当事務所では、東証上場企業からベンチャー企業まで、さまざまな案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。契約書の作成・レビュー等については、下記記事をご参照ください。

モノリス法律事務所の取扱分野:契約書作成・レビュー等

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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