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裁量労働制とは?プログラマーに適用可能なのか?

裁量労働制とは?プログラマーに適用可能なのか?

近年、働き方改革が叫ばれ、テレワークや在宅ワークなど、様々な働き方が注目を集めています。そのような様々な働き方の中に、裁量労働制という働き方があります。裁量労働制という言葉について、聞いたことがある人も多くいるかと思いますが、どのような働き方であるかをしっかりと理解している人は必ずしも多くないと思われます。そこで、今回の記事では、まず、裁量労働制について説明をします。次に、プログラマーに裁量労働制が適用可能なのかということについての説明をします。

裁量労働制とは

裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制があります。専門業務型裁量労働制とは、「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度」のことをいいます。

一方、企画業務型裁量労働制とは、「企画業務型裁量労働制とは、企業の各部署において一定範囲の業務に従事する労働者について、業務の遂行手段や時間配分の決定などを労働者の裁量に委ね、成果をより重視することで業務効率や生産性の向上を図る制度」のことをいいます。プログラマーについては、専門業務型裁量労働制の適用が問題となりますので、以下、専門業務型裁量労働制の説明をします。

専門業務型裁量労働制については、労働基準法第38条の3第1項第1号で規定されており、「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度」とされています。
※参照(厚生労働省HP)https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/index.html

裁量労働制の対象業務とは

専門業務型裁量労働制について、厚生労働省より対象業務が規定されています。

専門業務型裁量労働制については、上記のように、厚生労働省令(労働基準法施行規則)及び厚生労働大臣告示によって定められた業務である必要があります。
厚生労働省令及び厚生労働大臣告示では、下記の19業務が対象業務とされています。

(1)新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
(2)情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務
(3)新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
(4)衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
(5)放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(6)広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
(7)事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
(8)建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
(9)ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(10)有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
(11)金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
(12)学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
(13)公認会計士の業務
(14)弁護士の業務
(15)建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
(16)不動産鑑定士の業務
(17)弁理士の業務
(18)税理士の業務
(19)中小企業診断士の業務

(厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/index.html)

上記の19の対象業務については、高度な専門性が要求され、労働者の裁量を広く認める必要があるため、特に規定されています。

プログラマーに裁量労働制を適用することは可能か

上記では、専門業務型裁量労働制が適用される対象業務について説明をしましたが、この対象業務の中に、プログラマーは含まれるのでしょうか。
以下、専門業務型裁量労働制の対象業務にプログラマーが含まれるかについて説明をします。

問題となる対象業務

プログラマーは、プログラムを作成する人や職業のことをいいます。プログラマーの主な職務内容は、ソフトウェアの仕様書を基に、プログラミング言語でソースコードを作成することになります。このプログラマーの職務内容から考えると、プログラマーに専門業務型裁量労働制が適用されるか否かは、プログラマーの業務が、「情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務」といえるかが問題となります。

情報処理システムの分析又は設計の業務の意義

「情報処理システムの分析又は設計の業務」と言われても、具体的にどのような業務を意味しているか、条文上明確に把握することはできません。そこで、東京労働局労働基準監督署は、「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」という資料を公表し、対象業務の具体的な内容について説明をしています。

「情報処理システム」とは

「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」の中で、「情報処理システム」とは、「情報の整理、加工、蓄積、検索等の処理を目的として、コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、通信ネットワーク、データを処理するプログラム等が構成要素として組み合わされた体系をいう」とされています。

まず、情報処理システムというためには、①「情報の整理、加工、蓄積、検索等の処理を目的」とされている必要があります。
次に、「コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、通信ネットワーク、データを処理するプログラム等が構成要素として組み合わされ」ている必要があります。

「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは

次に、「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは、「(ⅰ)ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、(ⅱ)入出力設計,処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等、(ⅲ)システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務」とされています。そして、「情報処理システムの分析又は設計の業務」には、「プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれない」と記載されています。このことから、一般的なプログラマーは、裁量労働制の対象業務には含まれないと考えられます。

プログラマーに裁量労働制が適用されるかを判断した判例

一般的なプログラマーが例外的に裁量労働制の対象業務に含まれた事例とは?

プログラマーに裁量労働制が適用されるかを判断した判例に、エーディーディー事件(京都地裁平成23年10月31日判決・労働判例1041号49頁)という判例がありますので、どのような判例か紹介をします。

事案の概要

まず、Xは、平成13年5月のコンピュータ会社Yの創業時より、システムエンジニアとして、みなし労働時間を1日8時間とする裁量労働制の下、Yで勤務をしていました。その後、平成20年9月頃から、カスタマイズ業務にX自身やXのチームメンバーのミスによる不具合が多く発生するなどしたことなどにより、Xは、平成21年2月には「うつ病」と診断され、同年3月にYを退職しました。Yは、Xが業務を適切に実施しなかったあるいは取引先とのルールを守らなかったため損害を被ったとして、2,034万円を賠償するよう提訴しました。これに対し、Xが、Yに対し、未払時間外手当・遅延損害金・付加金の支払いと安全配慮義務違反による損害賠償を求めて反訴したという事案になります。

本記事と関係のある争点

本事案では、いくつかの争点がありますが、本記事との関係では「専門業務型裁量労働制の適用(争点2)について」が重要な争点となります。つまり、Xが行っていた業務が、専門業務型裁量労働制の対象業務である「情報処理システムの分析又は設計の業務」に含まれるかが争点となりました。

裁判所の判断

エーディーディー事件において、裁判所は、「Xが行っていた業務が、労働基準法38条の3、同法施行規則24条の2の2第2項2号にいう「情報処理システムの分析又は設計の業務」であったということはできず、専門業務型裁量労働制の適用要件を満たしていると認めることはできない」と判断しています。

まず、前述の対象業務に該当するか否かについては、形式的に判断されるわけではなく、客観的にみて、「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なもの」(労働基準法第38条の3第1項第1号)と判断できる業務である必要があります。

エーディーディー事件において、裁判所は、「F社[Yに業務を委託した会社]のA課長が、システムを作る仕事の一部分をYに指示書を出して発注していたと述べているとおり、XらY従業員が行っていた作業が、ソフトウエアGのシステムの一部につき、F社の指示に基づき、1、2週間程度(緊急の場合は、翌日とか2、3日とかいった場合もある。)の納期までに完成させるものであり、業務遂行の裁量性に乏しいものであることは否定できず」と判断しています。

つまり、エーディーディー事件では、そもそもXが行なっていた業務は、業務遂行の裁量制に乏しく、Xに専門業務型裁量労働制は適用できないと判断したのです。この結果、未払残業代約600万円の存在が認められました。

まとめ

以上、専門業務型裁量労働制の概要とプログラマーに裁量労働制が適用されるのかということについて説明をしました。本記事でも説明しましたように、プログラマーに専門業務型裁量労働制の適用が認められるためには、厳しい要件をみたす必要があります。プログラマーで裁量労働制が適用されている方は、本当に裁量労働制を適用できる要件が満たされているのかを精査する必要があります。また、プログラマーに裁量労働制を適用している又はしようと考えている企業の担当者は、本当に裁量労働制が適用できるのかどうかをしっかり確認する必要があります。これらの判断については、専門家による判断が必要となるため、専門家である弁護士に相談をするようにしましょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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