契約書作成等タイムチャージ型の弁護士業務の平均所要時間とは
当事務所をはじめ、多くの法律事務所では、契約書作成やレビュー・修正といった業務を、「タイムチャージ型」、つまり、弁護士が稼働した時間に応じた弁護士報酬で受けているケースが多いものと思われます。
当事務所の場合、
- 顧問契約は、例えば1ヶ月2時間まで5万円、という形で、かつ、顧問先優先対応を行う
- 非顧問先企業様からの案件は、1時間3.5万円~、という形で、顧問先企業を優先する形で対応する
という形となっています。
ただ、タイムチャージ型契約というのは、「弁護士が稼働した時間」によるものとして、ある意味分かりやすいものではありますが、しかし一方で、ある業務を行うために弁護士にどの程度の稼働時間が発生するのか、事前に分かりづらく、したがって依頼前の段階で弁護士費用の総額が見えづらいという欠点があります。例えば、上記のように顧問契約が「1ヶ月2時間まで」、つまり12ヶ月で24時間として、その24時間で実際にはどの程度の数の契約書作成が可能なのか、といった点が分かりにくい、という問題です。
あくまで「概算」にはなってしまいますが、当事務所で実際にクライアント企業様から受けることの多い類型の業務について、平均的な稼働時間を、以下、解説します。
この記事の目次
弁護士業務の稼働時間の目安
リーガルリサーチ
クライアント企業様の様々な業務について起こり得る法律問題について、関連法令、判例や裁判例などを調査し、当該企業が検討しているビジネスモデルの適法性や、発生する可能性のあるトラブルに関する法律的な帰結等について判断を行う業務です。
なお、本ページでは、当事務所が実際に直近約1年間の間に依頼を頂いた案件を、大まかに、
- 大型案件の典型である「大型」
- 平均的案件である「平均」
- 小型案件の典型である「小型」
に3分類し、それぞれの場合の中央値に近い所要時間を記載致します。もちろん実際には、例えば、単一の法律問題だとしても非常に調査量が多い案件などもあります。あくまで「3分類」した上での「中央値」であることをご理解頂ければと思います。
類型 | 小型 | 平均 | 大型 |
単一の法律問題 | 15分 | 1時間 | 4時間 |
ビジネスモデル全体 | 2時間 | 3時間 | 10時間 |
契約書作成
企業が行おうとしている取引等に関して、必要な契約書等を作成するという業務です。もちろん「契約書」には無限のパターンがあるのですが、本ページでは便宜的に、契約書を下記のように4分類します。
また、M&Aや第三者割当増資等の投資の場面では、例えば、
- 投資先企業側の弁護士として、第三者割当増資にかかるタームシートを作成し、交渉結果を踏まえて、投資契約書・株主間契約書など複数の契約書を作成する
- 事業譲渡の譲受側企業の弁護士として、必要なD&Dを行い、その結果を踏まえて表明保証条項等を設計し、事業譲渡契約書を作成する
といった業務も発生します。したがって大型案件の場合、どうしても稼働時間が必要となります。
類型 | 小型 | 平均 | 大型 |
業務委託契約書等一般的な契約書 | 45分 | 1時間30分 | 5時間 |
NDA等類型的な契約書 | 15分 | 30分 | 1時間 |
M&A・投資関連 | 6時間 | 12時間 | 30時間 |
利用規約 | 2時間 | 4時間 | 6時間 |
なお、特に新規クライアント様との関係では、ヒアリング・納品物に関するご質問への回答等で上記以上の時間を要するケースもあります。逆に言えば、契約書作成等のためには、どうしてもクライアント企業の基本的なビジネスモデル等に関する理解が必要であり、顧問契約とは、「顧問先企業のビジネスモデル等は常に把握しているため、ヒアリング等にあまり時間が必要でなくなる」という関係性を構築するためのものです。
契約書レビュー・修正
顧問先等に対する法律業務の中心と言えるでしょう。企業が締結しようとしている契約書をチェックし、リスクを分析して、必要な修正やコメントを行う業務です。
類型 | 小型 | 平均 | 大型 |
業務委託契約書等一般的な契約書 | 20分 | 40分 | 2時間 |
NDA等類型的な契約書 | 12分 | 20分 | 40分 |
M&A・投資関連 | 2時間 | 4時間 | 10時間 |
利用規約 | 1時間 | 2時間 | 3時間 |
紛争関連
裁判外交渉や訴訟・仮処分などの裁判所手続を用いる紛争関連の業務です。類型的な紛争の場合、タイムチャージではなく、「(旧)弁護士報酬基準」という基準に準ずる報酬基準にて、弁護士報酬を決定するケースもあります。「(旧)弁護士報酬基準」に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。
ただ、上記基準に馴染まない紛争もあり、その場合にはタイムチャージ型をご提案させて頂くこともあります。
類型 | 小型 | 平均 | 大型 |
和解契約書・覚書作成 | 40分 | 1時間20分 | 3時間 |
覚書等のレビュー・修正 | 20分 | 45分 | 2時間 |
報告書作成 | 30分 | 1時間30分 | 4時間 |
内容証明等作成 | 1時間 | 3時間 | 5時間 |
なお、「内容証明1通の作成及び郵送のみ」といった業務を、単発案件としてはお受けしておりません。上記は、顧問先企業様よりお受けした紛争案件における1場面としての内容証明等作成に関する平均稼働時間についての記載です。
実稼働時間の共有方法について
Googleスプレッドシートによる随時の共有
また、当事務所は、クライアント企業様との連絡手段として、ChatWork・Slack・Teams・Facebookメッセンジャー・LINE・電子メール等、様々なサービスを利用しておりますが、こうした連絡手段内にて、Googleスプレッドシートでのタイムチャージ管理表によって、当該クライアント企業様との関係での実際の稼働時間を、随時共有しております。
月次報告書によるご報告
さらに、稼働が多く顧問料を一定以上超過するケースの多い顧問先企業様(大まかな目安として1ヶ月平均15万円程度以上)に対しては、各月の稼働状況に関するご報告書を月次で作成し、月明け10日頃を目安に納品させて頂いております。
まとめ
タイムチャージ型の契約は、どうしても「何か仕事を頼みたいが、弁護士に仕事を依頼した経験があまりなく、稼働時間が分からない、したがって弁護士費用がどの程度になるか分からない」というIT・ベンチャー企業の経営者様等にとって、分かりにくいものだと思われます。また、「1ヶ月2時間まで5万円」といった顧問契約は、月の途中で現在の稼働状況が分からないと、「今月はあとどの程度の業務を依頼できるのか」という点が分かりにくいものだと思われます。当事務所はこうした問題について、上記のような形での改善を試みています。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務