料理動画をYouTubeで公開する場合、レシピは著作権で保護されるのか?

YouTubeでは、日々さまざまなジャンルの動画が投稿されていますが、その中でも料理動画は人気の高いジャンルです。料理動画にもさまざまなものがありますが、料理動画の中には、動画内で料理のレシピが紹介されていたり、盛り付け例が紹介されていたりします。イラストや音楽などを公開する際には著作権が問題となることは、法律に詳しくない人でもなんとなく想像ができると思いますが、実は料理動画でも著作権が問題となるケースがあります。
本記事では、料理動画をYouTubeで公開する場合に気を付けるべき著作権問題について、料理レシピの著作権をテーマに説明をします。
この記事の目次
料理のレシピに著作権が認められるか

料理動画をYouTubeに投稿する際、オリジナルのレシピで料理を作り、料理動画を投稿するケースもありますが、第三者が考えた料理レシピを用いて料理を作り、その様子を動画としてYouTubeに投稿するケースも考えられます。
この場合、第三者が考えた料理レシピに著作権が認められ、第三者が考えたレシピを勝手に動画内で紹介することは、第三者のレシピに関する著作権を侵害するのではないかという点が問題になります。まずは、料理のレシピに著作権が認められるかについて説明します。
著作権とはどのような場合に認められるか
著作権とは、著作物について、著作者に認められる権利のことをいいます。著作権は、特許権のように登録などの手続きを行わなくとも、著作をした時点で、何らの手続きを要することなく法律上当然に発生します。
著作権は、法律上認められるために、特別な手続きを要しないことから、無方式主義と言われます。そして、著作物について、著作権法2条1項1号では、以下のように規定されています。
(定義)
著作権法2条1項1号
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
この著作権法2条1項1号から、創作物のすべてが著作権法でいう著作物に該当するわけではなく、著作物と認められるためには、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するといえる必要があります。
料理レシピに関する著作権についての具体的検討
それでは、料理レシピは著作物といえるのでしょうか。以下では、ハンバーグのレシピを例に考えてみます。
まず、あなたがオリジナルのハンバーグのレシピを考えたとします。このハンバーグのレシピは、この段階であれば、あなたの頭の中だけに存在している状態で、このような状態をアイデア(idea)といいます。アイデアにとどまっている状態であれば、著作権法2条1項1号でいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」とはいえないため、著作物性は認められません。
また、ハンバーグのレシピの中には、使用する肉の分量、肉の種類、肉の配合割合、塩やコショウといった調味料の種類、調味料の分量、調味料を入れるタイミング、ハンバーグの形成の方法、火加減、加熱時間、加熱方法などの内容が含まれます。
これらの内容は、ハンバーグのレシピとして誰でも容易に思いつくため、この点からも、「思想又は感情を創作的に表現したもの」とはいえず、著作物性は認められないものと考えられます。
以上から考えると、料理レシピ自体は原則として著作権法上の著作物とはいえないため、著作権は認められません。
YouTube動画に料理レシピを利用する場合の注意点

料理レシピ自体に著作権が認められないことから、料理研究家やタレントなどが出版しているレシピ本の内容をそのまま転載してYouTube動画に利用してもよいかというと、実は違います。料理レシピに著作権が認められないのに、なぜいけないのかと疑問に思う方もいるのではないでしょうか。その理由を以下で説明します。
料理のレシピ本は、料理のレシピだけで構成されるわけではなく、著者の工夫を凝らしたレシピや文章の配置、写真やイラストの掲載、著者によるコメントやコラムなど料理レシピ以外の記載も多く含まれています。これらの内容については、著作物性が認められる可能性があるため、無断転載を行うと著作権法に違反してしまう可能性があります。
そのため、YouTubeに料理動画をアップする際に、第三者の料理本のレシピなどを利用する場合には、著作権を侵害しないように注意をする必要があります。
もし、第三者のレシピを参考にする場合には、YouTubeの動画で紹介する範囲は、使用する材料や単純なレシピ内容にとどめるようにしましょう。より確実な方法としては、レシピ提供者から事前に利用の許可を得てから動画を作成することです。
YouTube動画で料理レシピを扱う際には、著作権以外にも注意すべき法的なポイントがあります。特に商標権や肖像権などの権利についても配慮が必要です。以下では、料理動画を制作する際に見落としがちな注意点について解説します。
料理名が商標登録されていないか
料理名の中には、商標登録されているものが存在します。たとえ一般的に認知されている料理名であっても、特定の企業や個人が商標権を取得している場合があるため注意が必要です。
商標登録された料理名を無断で使用し、YouTube動画のタイトルや説明文に記載し商業的に利用すると、商標権侵害にあたる可能性があります。特に、動画を収益化している場合や、商品・サービスの宣伝を行っている場合には注意が必要です。
料理名を使用する前に、特許庁のデータベースで商標登録の有無を確認することをおすすめします。
一般名称として広く使われている料理名であれば問題ない場合が多いですが、独自性の高い料理名や特定のブランドと結びついた名称については、事前に確認しましょう。
レシピと一緒に他人の写真を使っていないか
YouTube動画で料理レシピを紹介する際、インターネット上で見つけた他人の料理写真を無断で使用することは避けなければなりません。
写真には撮影者の著作権が発生しており、無断使用は著作権侵害となるほか、人物が写っている場合には肖像権を侵害する可能性もあります。
特に、プロのカメラマンが撮影した料理写真や、有名シェフが写っている写真などは権利関係が複雑です。料理動画を制作する際には、自分で撮影した写真を使用するか、著作権フリーの素材サイトから適切にライセンスされた写真を利用しましょう。
他人の写真を使用したい場合には、必ず撮影者や権利者から事前に許諾を得ることが重要です。
料理レシピはどのような場合に保護されるか
上記で料理レシピは原則として著作物に該当しないことを紹介しました。ただし前述のように、レシピ本として出版している場合には、著作物として保護される可能性があります。また、ブログなどに文章として掲載されているような場合には、著作物性が認められ、著作権法上、保護される可能性があります。
上記のように、法律上保護される可能性はありますが、絶対のものではなく、また、法律上保護されない範囲も存在します。そのため、料理レシピを保護するためには、法律上の方法だけではなく“事実上の方法”による保護も考えられるべきかと思います。
事実上の方法とは、例えば、料理レシピを掲載する際に、当該料理レシピを利用してYouTube動画をアップする場合には、料理レシピの考案者に連絡をしてほしい旨を記載する、またはYouTube動画の概要欄に料理レシピが記載されたホームページのリンクなどを貼ってほしい旨を記載するなどが考えられます。
この方法はあくまでも事実上料理レシピを保護する方法に過ぎませんが、このような事実上の方法をとることにより、当事者間のトラブルを防げる可能性が高まります。
レシピの著作権に関わる判例
料理レシピの著作権をめぐっては、これまでにいくつかの裁判例が存在します。ここでは、レシピブックの編集著作物性が争われた重要な判例を紹介します。
大阪地裁令和2年1月27日判決は、スペイン料理のシェフとコラボして制作されたレシピブックについて、編集著作物としての保護が認められるかが争われた事案です。
裁判所は原告のレシピブックについて、「編集物の素材である料理等の写真及びレシピの選択及び配列には、一応、編集者の個性が表れているものといえる」と判断しました。
ただし、被告のレシピブックと原告の作品を比較した結果、人物や料理の写真、レシピ情報の内容が異なることが確認されています。
さらに、配色や情報配置、フォント、イラストの有無などの構成にも相違が見られたため、被告のレシピブックは原告の編集著作物としての創作性を再現したものとは認められず、著作権侵害は否定されました。
この判例から、編集著作物として著作権法上保護の対象となるのは、素材の選択または配列によって具現された具体的な編集方法です。一方で、具体的な配列を離れた配置方針や分類といった編集方法(アイデア) は、保護の対象とはならないことが示されています。
参考:大阪地方裁判所令和2年1月27日判決
まとめ:レシピ利用のルールを理解し、トラブルのない動画制作を心がけよう
ここでは、料理動画をYouTubeで公開する場合に気を付けるべき料理レシピに関する著作権問題について説明をしました。料理動画は、YouTube動画のカテゴリーの中で人気が高いカテゴリーであるため、自分で考えた料理レシピが他者に利用されたり、他者が考えた料理レシピを自分が利用したりというケースがあると思います。
その際、料理レシピの著作権について正しい知識を持っていれば、当事者間のトラブルを避けられます。料理レシピに関しては、本記事でも紹介したように、著作物性が認められる可能性も著作物性が認められない可能性もあるため、著作物性の判断に関して専門的な観点からの判断が要求されます。著作物性が認められるかどうかの判断に不安がある方は、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。
この記事の内容を動画で知りたい方は、弊所YouTubeチャンネルの動画をご覧ください。
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