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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

YouTuber・VTuber法務

著作権侵害の「ファスト映画」 YouTubeに掲載された場合の法的措置は?

YouTuber・VTuber法務

映画作品を著作権者に無断で10分程度に短く編集した「ファスト映画」と呼ばれる動画がYouTubeで配信されることがあります。本物の映画のシーンをつないだ上に“ネタばれ”ありのファスト映画は、ほとんどが違法です。ファスト映画は著作権者の承諾を得ずに作成されており、放置しておけば映画業界にとっては大きな打撃になりえます。

2021年7月14日にも、映画5本を無断で編集してYouTubeに投稿した人が、著作権法違反で起訴されたとの報道がありました。

そこで、ファスト映画によって著作権を侵害された映画配給会社向けに、ファスト映画の著作権法上の問題点と訴訟手続の手順を説明します。

ファスト映画による著作権侵害

ファスト映画は具体的にどのような形で著作権を侵害しているのでしょうか。以下では、ファスト映画とはなにか、著作権侵害の実態について説明します。

ファスト映画とは

ファスト映画とは、1本の映画を映画配給会社などの著作権者に無断で10分程度に編集した動画をいいます。ファスト映画は主にYouTubeで配信されます。新型コロナにより外出自粛が長期化する中、自宅で楽しめる動画や映画の人気が高まっていることが背景にあると考えられます。

ファスト映画の投稿者はこのような閲覧者側の需要に乗じて、YouTubeに著作権者に無断で人気映画を編集して配信しています。有名なファスト映画のYouTubeチャンネルでは、ファスト映画の配信により月間で数百万円もの広告料収入を得ているともいわれています

ファスト映画は著作権者に無断で著作物をインターネット上で公開して広告料収入を得ています。こうした構造は、運営者が逮捕された「漫画村」事件と類似しています

ファスト映画によって映画業界が受けた被害は、1年で950億円にものぼるとも言われています。こうした事態を重く見た映画会社などの団体が法的手続きに乗り出す事態にまで発展しています。

ファスト映画と著作権

前提として、映画は著作物として著作権法によって保護されます。したがって、ファスト映画を無断で編集しYouTubeに投稿する行為は著作権侵害となります

もっとも、著作権自体は複数の権利からなります。そこでファスト映画が著作権のうち、どのような権利を侵害するかを説明します。

翻案権

著作権は複数の内容をもつ“権利の束”とイメージしてください。その一つに、著作物を翻訳、編曲、変形、脚色等をする権利である「翻案権」があります。映画を著作権者に無断で編集することは、著作権者の翻案権を侵害するものといえます。

翻案権に関しては、以下の記事でも詳細に解説しています。

公衆送信権

著作権のうち「公衆送信権」と呼ばれる、著作物を公衆向けに「送信」することに関する権利があります。ファスト映画がYouTubeなどインターネット上に無断で公開されている場合には、公衆送信権の侵害にもあたります。

ファスト映画は「引用」にあたるか

著作権法上「引用」にあたる場合には、著作権者の承諾を得ずに著作物を使用しても違法ではありません。では、ファスト映画は「引用」にあたるのでしょうか

「引用」として適法となるための要件として、よく知られているのは出所(出典)の明示です。ファスト映画はどの映画作品を編集したものかが明示されているため、出所の明示があり「引用」にあたると考える方がいるかもしれません

しかし、「引用」とは、自分の著作物の中に他人の著作物を利用することをいいます。「引用」といえるためには、「引用の目的上正当な範囲内」で行われる必要があり、出所の明示以外にも以下の条件を満たす必要があると考えられています。

  • 報道、批評、研究などのための「正当な範囲内」であること
  • 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
  • カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
  • 引用を行う「必然性」があること

つまり、適法な「引用」とは、自らの著作物の中でサブ的に第三者の著作物を利用するということが前提となっています。上であげた「主従関係」というのは、まさにこのことを指しています。

これに対し、ファスト映画は他人の著作物がメインで利用されているものです。したがって、適法な「引用」にはあたらず、著作権侵害にあたるという評価が一般的です。

著作権法上の「引用」に関しては、以下の記事でも詳細に解説しています。

映画会社による法的措置

実際にファスト映画によって著作権を侵害された映画配給会社などはどのような法的措置をとればよいのでしょうか。

刑事上の措置

ファスト動画が著作権侵害となる場合、その作成者などは刑事罰の対象となります。著作権侵害による罰則は、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金です。

実際に、ファスト動画と似た構造を持つ事件であった「漫画村」事件では、サイトの運営者に懲役3年、罰金1千万円、追徴金約6200万円の判決が出ています。懲役刑は執行猶予のつかない実刑であり非常に重い判決といえます。 

以上からすると、高額の広告料収入を得ているファスト映画の配信者もまた、同様に刑事罰が課される可能性が高いといえるでしょう。

著作権侵害については従来「親告罪」といって被害を受けた著作者自身が刑事告訴をしなければ起訴されない犯罪でした。もっとも、平成30年の著作権法改正によって、以下の著作権侵害は刑事告訴がなくても起訴されることになっています。

  • 対価を得る目的又は権利者の利益を害する目的
  • 有償著作物等(有償で公衆に提供され又は提示されているもの)を原作のまま譲渡・公衆送信又はこれらの目的のために複製
  • 有償著作物等の提供・提示により得ることが見込まれる権利者の利益が不当に害される場合

ファスト映画の場合には、上の要件を満たし、著作者の刑事告訴がなくても捜査や起訴がされる可能性はあります。ただ、確実に刑事告訴を求めたいという場合には、映画会社などの著作者が刑事告訴をした方がよいでしょう。 

民事上の措置

刑事上の責任追及とあわせて、民事上の措置を行うことができます。民事上の措置としては、著作権侵害行為をやめさせる差止請求と損害賠償請求などがあります。

差止請求

既に著作権を侵害するファスト動画が投稿されてしまっている場合には、すぐに動画の削除を求める必要があります。YouTube側に著作権侵害の申立てを行い、動画を削除して貰う方法がまず考えられます。

もっとも、ファスト映画配信者が複数のYouTubeチャンネルを保有している場合があります。著作権侵害を訴えて1つのチャンネルが削除されても、また別のチャンネルで新たにファスト映画が配信されることがあります。

そこで、YouTubeへの著作権侵害の申立と並行して、裁判所に対して侵害行為の停止を求める仮処分申立てを行うことも検討する必要があるでしょう。

損害賠償請求

著作権者はファスト映画の配信者に対して、損害賠償請求をすることができます。一般的には、損害賠償請求をする場合、請求する側が自分に発生した損害額などを証明する必要があります。しかし、著作権侵害の場合には損害額の算定が難しいことがあります。

そこで、著作権法は損害額を推定する規定を設けています。

例えば、適法に映画を配信する際のライセンス料が売上の○%というように決められている場合には、ファスト映画による著作権侵害の損害額は、その計算式で計算されるライセンス料相当額として損害賠償請求をすることができます。

また、ファスト映画の配信者がYouTubeなどから広告料収入などを得ている場合には、配信者が得た利益を損害額として請求することもできます。

まとめ

ファスト映画は最近になって急速に人気を集めていますが、ほとんどが著作権侵害にあたる違法行為です。

配信先がYouTubeの場合は、配信者の住所や本名等を調べるのに時間もかかります。このため、映画配給会社など著作権者がファスト映画の被害に遭った場合には、早急に法的措置を検討する必要があるでしょう。

著作権法は専門性の高い分野であるため、著作権の取り扱い実績が豊富な弁護士に相談することが重要です。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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