YouTubeで肖像権・プライバシー権を侵害されたら動画削除は可能か
動画投稿・共有サイトであるYouTubeは、会員登録をしなくても無料で視聴ができます。プロモーションビデオから⾳楽、健康法やハウツーものまで、幅広いコンテンツが投稿され、毎⽇世界中の人々が視聴しています。
YouTubeは、登録すればだれでも⾃由に動画を投稿することができます。⼈気の動画になると、何百万回以上も再⽣されてニュースやテレビ番組などに取り上げられることもありますし、YouTube動画から有名⼈や有名ペットが⽣まれたりすることもあり、今や巨大なメディアになっています。
本記事ではそんなYouTubeに関する様々な権利問題について解説しています。
この記事の目次
肖像権やプライバシー権などの権利侵害
YouTubeは投稿する⼈も視聴者も⼀般⼈が多く、法律に対する知識や意識が薄いことから、違法となるコンテンツが氾濫しています。
⼀般⼈であっても、YouTube動画によって、肖像権やプライバシー権などの権利侵害を受けることがあるので、注意が必要となります。また、自分が動画を投稿する場合、意図せずにこれらの権利を侵害してしまうことがないようにしなければいけません。
では、どのような場合には肖像権やプライバシー権などの権利侵害とならないのでしょうか。
肖像権侵害になるかどうかについては、以下の事情が考慮されます。
- 自分や家族の顔を特定できるかどうか
- 自分や家族がメインになっているかどうか
- 拡散可能性が高い場所に公開されたかどうか
- 撮影や公開の承諾があるかどうか
- 撮影されることが予測できる場所であるかどうか
なお、肖像権侵害に関しては下記記事にて詳細に解説しています。
このことを念頭におきつつ、以下で、いくつかの具体例をあげて説明していきます。
人ごみを撮影して投稿する
原宿竹下通りや浅草雷門前で人ごみを撮影して投稿しても、問題ないのでしょうか?特定の人物をメインにしたりせず、また写っている人物が小さかったり、ピントがあっていないなど、個人が特定できなければ問題ありません。
特に、原宿竹下通りや浅草雷門前のような場所であれば、撮影されることが予測できる場所でもあるので、特定人物をつけまわしたり、こっそり隠し撮りするのでなければ、問題にはなりません。
しかし、たとえば銀座界隈であっても、上記の記事において「肖像権侵害の例」としてご紹介した「街を歩く女性の写真をウェブサイトに掲載した例」の判決文にあった、
一般人であれば、自己がかかる写真を撮影されることを知れば心理的な負担を覚え、このような写真を撮影されたり、これをウェブサイトに掲載されることを望まないものと認められる
東京地方裁判所2005年9月27日判決
ような動画を投稿しないよう、注意する必要があります。撮影の態様などによっては、通行人が多いエリアでの撮影でも、違法になってしまうケースがあるということです。
結婚式2次会を撮影して投稿する
プライベートな場所でスマートフォン等によってビデオ撮影をし、そこにいた友人知人間で共有することは広く行われています。こうした場合、明確に撮影を拒否しているのでなければ、撮影に関しては、黙示の承諾があるとみなしていいでしょう。
撮影の承諾と公開の承諾
上の4にもあるように、肖像権侵害が起こるのは、被写体の承諾がないからであり、権利者である被写体が撮影や公開について許可をしている場合には、肖像権侵害になりません。
ただ、注意しなければならないのは、撮影と公開については別個の承諾が必要になることです。撮影の承諾をしていても、公開の承諾がない限り、例えば結婚式の2次会の動画をYouTubeに公開したら、肖像権侵害やプライバシー侵害になる可能性があります。
プロサッカー選手と有名女優が週刊誌に掲載された事例
世界的に著名なプロサッカー選手と有名女優とが、会員制のクラブ内で親しい友人以外の入場をシャットアウトした貸切パーティーという状況の下で、クラブ経営者によって撮影された写真を週刊誌が掲載したことが問題となったケースがあります。プロサッカー選手は、2人がキスをしている様子を撮影されていることは黙認していたが、公開することまでは許容していないとして、週刊誌を肖像権侵害及びプライバシー侵害で訴えました。
裁判所は、公表された内容が、
- 私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であって、
- 一般人の感受性を基準として他人への公開を欲しない事柄であり、
- これが一般にいまだ知られておらず、
- その公表によって被害者が不快、不安の念を覚えるものであるときは、プライバシーを侵害する行為となる
というべきであるとし、この場合にはプライバシー侵害に該当すると認めました。この判断は、過去の裁判例におけるプライバシー侵害の判断枠組みを踏襲したものと言えます。
ただ、
- 同選手が世界的に有名であること
- 記事掲載当時、当該記事とほぼ同内容の写真や記事が別の雑誌にも掲載されて紛争になっていたこと
- 記事はこの争いを伝えるという専ら公益を図るものであること
などを理由に、結論としては、肖像権侵害、プライバシー侵害のいずれも認めませんでした(東京高等裁判所2005年5月18日判決)。
YouTubeの場合も考え方は同様
この事件は写真と週刊誌の問題ですが、動画とYouTubeであっても同様です。この場合には、対象者が著名人であるため、また公共性及び公益性が認められる記事とともに掲載されたために、肖像権侵害、プライバシー侵害のいずれも認められなかったわけですが、結婚式の2次会等に公共性及び公益性が認められることは普通ありえないので、肖像権及びプライバシー権の侵害となる可能性があります。
お祝いの席とはいえ、また迷惑をかける可能性が考えられない状況でも、特定できる個人には投稿の許可を得る、もしくは顔にモザイクを入れる等の対応をしておくのがよいでしょう。
乗り物を撮影して投稿する
飛んでいる飛行機や走っている電車や自動車、バスを撮影し、YouTubeに投稿しても、問題ありません。ただ、自動車やバスなどの場合には乗客をアップで撮影するようなことがあったら、肖像権が問題となる可能性があります。
なお、乗り物を撮影して投稿する場合に、著作権を気にする必要は、基本的にありません。乗り物は、電車、車、飛行機のいずれをとっても、最近は特徴的な外観やカラーのものが増えていますが、これらは「実用品」です。
乗り物は効率よく、かつ安全に人や物を運ぶために設計されていて、デザインはその目的にかなうように決定されています。したがって、独創的な外観であっても美術工芸品と同視できるような美的な効果を有するものとまではいえず、著作権法の保護の対象となる美術の著作物に当たるとすることはできないので、特に許諾がなくても、YouTubeに投稿できます。例えば、トヨタ車を撮影して投稿する際に、トヨタ社の著作権を気にする必要は無いわけです。
なお、乗り物の運航者や所有者は、その乗り物の撮影や投稿を禁止できません。物に対する「所有権」「占有権」には、あくまで有体物としての乗り物それ自体を盗まれたりしない権利であり、対象物の撮影や公開を禁止する権利までは含まれていないからです。だから、乗り物の写真を公道上のような公の場から撮影して投稿しても構いません。
ただ、ナンバーにはモザイクを入れておきましょう。「あるナンバーの自動車が、どこをどのように走っていたか」という情報は、その自動車の所有者のプライバシーに関わる情報です。自動車の所有者のプライバシー権を侵害してはいけません。
ドライブレコーダで撮影した映像を投稿する
「あおり行為」や「幅寄せ」といった迷惑行為を繰り返す車や言いがかりをつけてきた運転手の様子などの、ドライブレコーダで録画した画像を、YouTubeに投稿することが一部で行われ、再生数を稼いでいます。迷惑運転であったとしても、肖像権の侵害や名誉毀損などに発展するおそれはないのでしょうか。
上にあげたように、走っている車を撮影しても、著作権や所有権の問題はありません。また、撮影が⾃動⾞の前後を⼀定時間撮影した上で、上書きされていくものであること、そして、特定⼈を殊更に追いかけて撮影するものでなければ、撮影⾏為⾃体が、プライバシー侵害などの理由で違法とされることは考えにくいでしょう。
撮影行為自体ではなく、撮影された動画を承諾なく公表する⾏為については、検討する必要がありますが、ドライブレコーダで撮影された⼈物が、悪質な⾏為を行うような⼈物であるとの事実を摘⽰することになるので、その⼈の社会的評価を低下させることになります。だから、名誉毀損⾏為となる可能性はあります。名誉毀損は、相手の社会的評価を低下させると成立し、ただ、公共性や公益性、真実性がある場合には不成立となる、という構造です。
もっとも、公共空間である道路上で行われた犯罪に関する事実を明らかにすることは、公共性や公益性があると⾔えるケースもあります。そして、どのような犯罪⾏為が⾏われたのかということを映像で明らかにしている以上、その映像が編集されたようなものでない限りは、その映像⾃体は、真実を明らかにしたものと⾔えます。
ただ、相手が一般私人である以上、プライバシーの問題は、やはりあり得ます。犯罪を告発するつもりの自分の行為がプライバシー侵害になってしまってはつまらないので、車のナンバーや運転手の顔にはモザイクを入れておくといいでしょう。相手は一般人なのであり、顔や身元をさらしてしまってはいけません。
YouTubeへの削除の申し立ての方法
他人が投稿した動画によって、肖像権やプライバシー権などの権利侵害を受けている場合には、拡散する前に速やかに当該動画を削除したいものです。
まず、YouTube運営に動画削除の申し立てを行う方法があります。
- 動画タイトルの右下にある「…」から「報告」をクリックし、「権利の侵害」から「1つ選択」のうちの「プライバシーの侵害」を選択し、「次へ」をクリックします。「YouTubeプライバシーガイドライン」文中の「プライバシーの侵害の申し立て手続き」をクリックし、「プライバシーの侵害の申し立て手続き」画面の「次へ」をクリックします。
- 「プライバシー侵害の申し立て手続き ステップ 2/6」で、「嫌がらせ行為の詳細を確認したい」「プライバシー侵害の申し立てを行いたい」のどちらかを選ぶとあるので、「プライバシー侵害の申し立てを行いたい」を選択します。
- 「プライバシー侵害の申し立て手続き: ステップ 3/6」で、「次へ」をクリックします。
- 「プライバシー侵害の申し立て手続き: ステップ 4/6」で、「既にコミュニティガイドラインを確認した」を選択します。
- 「プライバシー侵害の申し立て手続き: ステップ 5/6」で、「虚偽のプライバシー侵害を報告した場合、アカウントが停止される可能性があることに同意します」とあるので、「次へ」をクリックします。
- 「プライバシー侵害の申し立て手続き: ステップ 6/6」で、「自分の画像または氏名」「その他の個人情報」のどちらかを選び、次画面で書き込み、問題動画のURLを入力し、「報告したい内容」「表示される位置」を選択し、「映っている箇所(例2:14)」等を書き込み、送信します。
YouTubeへ削除の申し立てを行うと、スタッフが目視で確認をし、審査のうえで権利侵害があると判断した場合には、動画を削除してくれます。
この手続きは簡単ですし、申し立て者の情報が動画をアップしたユーザーに知られることはありませんので、まずはこの申し立てを行うべきでしょう。ただ、この手続きをして依頼をしても、必ずしも削除が認められるわけではありません。
弁護⼠に依頼してYouTube動画を削除する
YouTube動画によって権利侵害が⾏われた場合、YouTubeに対して削除の申し立てを行っても認められないことが多いのですが、その場合には、弁護⼠に依頼して違法動画の削除請求をすることができます。
弁護士は、何らかの権利侵害が行われている場合に、それが何故どのようにどの権利の侵害に該当するのかを主張構成するプロです。自分で申し立てを行っても消せなかった動画が、弁護士からの削除要請で削除されるケースもあります。また、裁判外での削除請求に失敗した場合は、仮処分という手続を用いることもできます。
YouTube動画の投稿者特定
動画を削除できたとしても、それだけでは、投稿者を特定することはできません。動画を投稿されて肖像権やプライバシー権を侵害され、精神的損害等を被っているので慰謝料請求をしたいという場合には、弁護⼠に依頼するなどして、投稿者を特定する必要があります。
具体的な手続きについては、こちらの記事等をご覧ください。
また、細かいですが、「先に動画の申し立てを行い動画が削除された後に、投稿者の特定を行うことはできるのか」という問題があります。この点に関しては下記記事にて詳細に解説しています。
まとめ
YouTubeは気軽に始められるコンテンツですが、 動画を作成する側も、コメントを書き込む視聴者側も無意識に他人の権利を侵害してしまうおそれがあり、法的な知識を持たずに扱うと危険です。また、万が一トラブルとなり、ネット上で炎上してしまった場合には容易に消すことは出来ません。
モノリス法律事務所ではこういったネット上の風評問題に強い、専門知識豊富な弁護士と対応実績が多くあります。是非早期の段階でご相談ください。