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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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ウズベキスタンの税法と法的論点を弁護士が解説

ウズベキスタンの税法と法的論点を弁護士が解説

中央アジアの要衝に位置するウズベキスタン共和国(以下、ウズベキスタン)は、近年、「新ウズベキスタン」戦略の下で劇的な経済開放と法制度の刷新を進めています。かつての閉鎖的な規制経済から、市場原理に基づいた投資親和的な環境への転換は、日本企業にとっても無視できないビジネスチャンスを創出しています。特に税法分野においては、2020年の新税法(Tax Code)施行を皮切りに、税率の大幅な引き下げ、税務行政のデジタル化、そして国際標準への準拠が急速に進められてきました。

本稿では、ウズベキスタンへの進出や取引を検討する日本の経営者および法務担当者を対象に、同国の最新の税法制を解説します。主要なポイントは、国際競争力を意識した低い税率構造(法人税15%、VAT12%、個人所得税12%)、日本との租税条約による二重課税排除の仕組み、そしてIT産業や経済特区に対する強力なインセンティブ制度です。また、2025年11月に署名されたばかりの関税法改正により、長年の貿易障壁であった「二重関税」制度が廃止され、より予見可能な関税体系へと移行したことも特筆すべき変化です。一方で、移転価格税制の導入やデジタルサービスへの課税強化など、BEPS(税源浸食と利益移転)対応としてのコンプライアンス要求も高まっています。

本記事では、日本法との比較を交えながら、ビジネスの現場で直面する実務的な法的論点を網羅的に詳述します。

ウズベキスタンの税制改革と法的基盤

ウズベキスタンの法体系は大陸法(シビル・ロー)に属しており、成文法が主要な法源となります。税務に関する最高法規は「ウズベキスタン共和国税法(Tax Code)」であり、大統領令や内閣決議がこれを補完する構造となっています。

日本企業がまず留意すべきは、ウズベキスタンにおける法改正のスピードと頻度です。日本の税制改正が通常年1回であるのに対し、ウズベキスタンでは経済情勢に合わせて年度途中でも重要な法令変更が行われることが珍しくありません。しかし、近年は投資家の予見可能性を高めるため、遡及適用の禁止や、投資家に不利な変更に対する安定化条項(Stabilization Clause)の整備が進められています。

税務行政の最大の特徴は、高度なデジタル化です。税務委員会(State Tax Committee)はAIを用いたリスク分析システムを導入しており、納税者を「緑(低リスク)」「黄(中リスク)」「赤(高リスク)」に自動分類し、税務調査の対象を選定しています。これにより、恣意的な税務調査が減少し、コンプライアンスを遵守する企業にとっては透明性が向上していますが、一方で申告データの整合性が厳密に求められるようになっています。

また、2024年1月1日より、税務上の時効期間が従来の5年から3年に短縮されました。これは、過去の税務リスクに対する企業の不確実性を軽減する措置であり、日本の一般的な税務時効(原則5年、悪質な場合7年)と比較しても短い設定となっています。

ウズベキスタンの主要な税目と税率構造

ウズベキスタンの主要な税目と税率構造

ウズベキスタンの主要税目は、法人税(CIT)、付加価値税(VAT)、個人所得税(PIT)の3つに大別されます。全体として、周辺国や日本と比較しても低い税率が設定されており、投資誘致への強い意欲が反映されています。

法人税 (Corporate Income Tax – CIT)

ウズベキスタンにおける法人税の標準税率は15%です。日本の法人実効税率(約30%程度)と比較して半分程度の水準であり、これは企業の利益確保において大きなアドバンテージとなります。ただし、業種によっては異なる税率が適用されるため注意が必要です。

対象業種・区分税率備考
標準税率15%一般的な製造業、サービス業など大多数の企業に適用
特定業種20%商業銀行、モバイル通信事業者、セメント製造、ショッピングモール運営者など
電子商取引10%2024年の改正により7.5%から引き上げ。Eコマース事業者向け3
IT Park居住者0%2028年1月1日まで免税(要件あり)

課税所得の計算において、日本法と同様に「益金から損金を控除する」方式が採られますが、損金算入の要件として「経済的に正当化されること(economically justified)」および「文書による証明」が厳格に求められます。特に、グループ会社間での経営指導料やロイヤルティの支払いは、実態性の証明が不十分であると否認されるリスクが高いため、契約書だけでなく、業務報告書や成果物の保存が不可欠です。

付加価値税 (Value Added Tax – VAT)

付加価値税(VAT)は、日本の消費税に相当する間接税です。政府は経済の活性化と地下経済対策として、VAT税率を段階的に引き下げてきました。

  • 税率:標準税率は12%です(2023年1月1日に15%から引き下げられました)。
  • 登録義務:過去12ヶ月の売上高が10億スム(約1,200万円)を超える場合、VAT課税事業者としての登録が義務付けられます。
  • 輸出免税:財の輸出および国際輸送サービスには0%の税率が適用され、仕入税額控除の還付を受けることが可能です。

近年の重要な論点として、非居住者によるデジタルサービスへの課税(いわゆる「Google税」)が挙げられます。海外企業がウズベキスタン国内の個人消費者(B2C)に対して電子サービス(アプリ配信、ストリーミング、クラウド等)を提供する場合、ウズベキスタンでVAT登録を行い、納税する義務があります。一方、日本企業がウズベキスタン法人(B2B)にサービスを提供する場合、リバースチャージ方式が適用され、現地の受領企業がVATを代理納付することになります。

個人所得税 (Personal Income Tax – PIT)

個人所得税は、所得の多寡にかかわらず一律12%のフラットタックスが採用されています。日本のような累進課税制度(最大45%+住民税10%)とは大きく異なり、高所得者や駐在員にとっては手取り収入が多くなる有利な制度です。

  • 居住者:全世界所得に対して課税されます。年間183日以上滞在する場合、居住者と判定されます。
  • 非居住者:ウズベキスタン国内源泉所得に対してのみ課税されます。従来、非居住者の税率は20%でしたが、2022年の改正により12%に引き下げられ、居住者と同率になりました。

ウズベキスタンの国際課税とコンプライアンス

日本企業が現地法人との取引を行う際、最も注意を要するのが国際課税のルールです。ウズベキスタンはOECDのBEPS包摂的枠組みに参加しており、急速にルールの整備を進めています。

移転価格税制 (Transfer Pricing)

2022年より、移転価格税制が本格導入されました。日本親会社と現地子会社との取引価格が、独立企業間価格(Arm’s Length Price)と異なる場合、税務当局は価格を再計算し、課税する権限を持ちます。

  • 対象:関連者間取引。関連者の定義には、持株比率20%以上の場合が含まれます。
  • 文書化:一定規模以上の取引がある場合、移転価格文書(ローカルファイル等)の作成と保存が義務付けられます。
  • リスク:日本側で利益を確保するために現地法人の利益を低く抑えていると、ウズベキスタン側で寄付金とみなされ、追徴課税されるリスクがあります。

過少資本税制 (Thin Capitalization)

現地法人が海外親会社から多額の借入を行っている場合、支払利息の損金算入が制限される制度です。

負債対資本の比率(Debt-to-Equity Ratio)が3:1を超える場合(銀行等は13:1)、超過分に対応する利息は損金不算入となり、さらに配当とみなされて源泉税の対象となる可能性があります。日本からの親子ローンを検討する際は、この比率を遵守した資本政策が必要です。

日本・ウズベキスタン租税条約の活用

2020年に発効した新租税条約により、投資所得に対する源泉税率が大幅に軽減されています。これは日本企業にとって最大のメリットの一つです。

所得の種類ウズベキスタン国内法税率 (非居住者)日・ウズ租税条約による上限税率適用条件
配当10%5%議決権の25%以上を365日以上保有する場合
利子10%5%一般的な貸付金
使用料 (ロイヤルティ)20%5%特許権、商標権、ノウハウ等

特にロイヤルティの税率が国内法の20%から5%に引き下げられたことは、技術提携やブランドライセンス契約において大きなコスト削減効果をもたらします。ただし、この恩典を受けるためには、日本の税務署が発行する「居住者証明書」を現地の税務当局に提出する手続きが必須です。

ウズベキスタンの投資優遇措置と特別経済地区

ウズベキスタンの投資優遇措置と特別経済地区

ウズベキスタン政府は、外国投資を呼び込むために大胆な税制優遇措置を設けています。

ITパークとデジタル産業への優遇

IT産業の育成は国家の最優先事項であり、「IT Park」制度は世界的に見ても極めて有利な条件を提供しています。物理的にタシュケントのIT Parkに入居していなくても、国内で法人登記し要件を満たせば「居住者」として認定されます。

  • 法人税:0%(2028年1月1日まで)。
  • 社会税:0%。
  • 個人所得税:従業員の給与に対する税率が7.5%に軽減されます。
  • 配当:外国人株主への配当に対する源泉税が5%に軽減されます。

経済特区 (Special Economic Zones – SEZ)

製造業向けには、ナヴォイ、アングレンなど各地に経済特区(SEZ)が設置されています。投資額に応じて、以下の期間、法人税、固定資産税、土地税などが免除されます。

  • 300万ドル〜500万ドル:3年間
  • 500万ドル〜1,500万ドル:5年間
  • 1,500万ドル以上:10年間

ウズベキスタンの2025年関税制度改革と貿易環境

貿易実務において、日本企業を長く悩ませてきたのが、最恵国待遇(MFN)のない国からの輸入品や、原産地証明がない商品に対して課されていた「二重関税(Double Customs Duty)」制度でした。

二重関税制度の廃止と新制度

2025年11月27日に署名された法律(No. ZRU-1006)により、この懲罰的な二重関税制度は廃止されました。これに代わり、新たに「段階的加算税(Stepped Additional Duties)」制度が導入されます。

新しい制度では、標準税率の高さに応じて、以下の追加関税が上乗せされます。

標準税率 (Ad Valorem Rate)新たな追加関税率合計負担の目安
10%以下+5%標準税率 + 5%
10%超 〜 20%以下+10%標準税率 + 10%
20%超 〜 30%以下+15%標準税率 + 15%
30%超+20%標準税率 + 20%

以前は一律で税率が2倍になっていたため、例えば30%の関税率の品目では60%が課されていましたが、新制度では30%+20%=50%となり、負担が軽減されるケースが多くなります。また、コスト計算の予見可能性が高まった点も、ビジネスにおいては重要です。この法律は公布から3ヶ月後に発効します。

ウズベキスタンの紛争解決と司法制度

税務当局との見解の相違が紛争に発展した場合の救済手段も整備されつつあります。2025年7月の大統領決議により、商工会議所の下に「税務紛争専門家評議会(Expert Council on Tax Disputes)」が新設されました。この評議会は、裁判所への提訴や刑事手続きになる前の段階で、納税者の異議申し立てを審理する機関です。従来、税務当局内部の不服審査は機能不全が指摘されていましたが、中立的な専門家を含む評議会の設置により、実効的な解決が図られることが期待されています。

また、外国投資家は、投資法に基づき国際仲裁(ICSIDなど)を利用する権利も有しています。実際に過去、海外投資家がウズベキスタン政府を相手取り、ICSIDで勝訴した事例や和解に至った事例が存在します。

まとめ

ウズベキスタンの税法環境は、低税率と強力なインセンティブという明確なメリットを提供する一方で、移転価格税制やデジタル課税といった新たな国際ルールの導入により、コンプライアンスの難易度は上がっています。2025年の関税法改正に見られるように、法制度はより透明性が高く、WTO基準に適合する方向へ進化し続けています。

日本企業が成功を収めるためには、単に優遇税制を享受するだけでなく、頻繁な法改正をタイムリーに把握し、適切な文書化や手続きを行うことが不可欠です。モノリス法律事務所では、現地の最新の法改正情報を踏まえ、貴社のウズベキスタン事業展開を法務・税務の両面からサポートいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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