侮辱罪とは?具体的な言葉の例や名誉毀損罪との違いを解説
日常生活での何気ない一言や、軽い気持ちで投稿したSNSでの内容が思わぬトラブルに発展しかねない侮辱罪。「侮辱罪」と「名誉毀損罪」は混同されがちです。その違いはどこにあるのでしょうか。
この記事では、侮辱罪と名誉棄損罪の違いを理解するための具体的な例を交えつつ、どのような言葉や事例が侮辱罪に該当するのかについて詳しく解説します。また、侮辱された場合の対応方法についても紹介します。
この記事の目次
侮辱罪の成立要件とは
侮辱罪は、事実を摘示せずに公然と人を侮辱した場合に成立します(刑法第231条)。侮辱罪の成立要件は、以下の3つです。(※摘示とは、かいつまんで示すことを指します)
- 事実を摘示していない
- 公然と行う
- 人を侮辱する言動
ここでは、それぞれについて解説します。
事実を摘示していない
侮辱罪の成立要件の1つは、侮辱の内容が具体的な事実や理由を示さないことです。例えば「無能」「バカ」「アホ」などの抽象的な表現は、一方的な価値観に基づくため事実とはいえません。これらの表現は事実を示していないため、侮辱罪に抵触する要件の一つとなります。
一方で「Aさんは営業成績が悪いから無能だ」「Bさんは不倫している」など、具体的な内容(事実の真偽に関係なく)が含まれている場合には、侮辱罪ではなく後に解説する「名誉毀損罪」に該当する可能性があります。
公然と行う
侮辱罪の2つ目の要件は、公然と行われることです。不特定多数の人々が認識できる公の場で、「Aさんはブサイクだ」や「Bさんは頭が悪い」などと人を侮辱した場合、侮辱罪が成立します。
公然とは、具体的には多くの人が集まる公共の場所や誰でも閲覧可能なSNS、インターネット掲示板などを指します。反対に「手紙」「1対1のメール」「DM」など不特定多数の人々が認識しない手段で侮辱した場合は「公然性」がないため侮辱罪とは認められません。
人を侮辱する行為
侮辱罪の3つ目の要件は、他人を侮辱する行為であることです。公の場で他人の社会的評価を下げるような内容を述べた場合、侮辱罪が成立します。
例えば、「ゴミ」「クズ」といった言葉や、「デブ」「ハゲ」などの身体的な特徴をからかう行為は侮辱となり得ます。さらに、芸能人に対して「死ね」「消えろ」などと過激なコメントを投稿することも、侮辱罪となる可能性もあるため注意が必要です。
誹謗中傷による侮辱罪と名誉毀損罪の違い
名誉毀損罪は、事実を摘示し公然と人の社会的評価を低下させた場合に成立します(刑法第230条)。侮辱罪」と「名誉毀損罪」の主な違いは、事実の摘示があるかどうかです。
ここでは、それぞれの違いと侮辱罪が令和4年(2022年)に厳罰化された背景、侮辱罪や名誉毀損罪がそれぞれ成立する言葉や事例について詳しく解説します。
侮辱罪と名誉毀損罪の違いとは
侮辱罪と名誉毀損罪との主な違いは、以下のとおりです。
侮辱罪と名誉毀損罪の違い | 侮辱罪(刑法第231条) | 名誉毀損罪(刑法第230条) |
事実の摘示 | なし | あり(事実の真偽は関係なし) |
刑罰 | 1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料 | 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金 |
慰謝料相場 | 名誉毀損罪に比べて低い | 侮辱罪に比べて高い |
- 懲役:犯罪者を受刑施設に拘禁して、労務作業を行わせる刑罰
- 禁錮:労働義務のない身体拘束刑であり、一般的には懲役刑よりも軽い刑罰
- 拘留:内容的には禁固と同じであり、30日未満に限定されたもの
- 罰金:1万円以上の罰金刑
- 科料:1,000円以上、1万円未満の罰金刑
「事実の摘示」があるかどうかで区別する
「事実の摘示」は侮辱罪と名誉毀損罪を区別するための要件です。名誉毀損罪は具体的な事実を摘示することで成立しますが、侮辱罪はその必要がありません。
【具体的な事実を必要としない「侮辱罪」の例】
- 「チビ」「ハゲ」
- 「ブサイク」「ブス」
- 「クズ」「頭が悪い」
【具体的な事実を摘示した「名誉毀損罪」の例】
- Aさんが会社の資金を不正に流用した
- Bさんが過去に刑務所に服役していた
- Cさんは不倫している
刑罰は名誉毀損罪の方が重い
侮辱罪の罰則は「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」であり、一方の名誉毀損罪の罰則は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。侮辱罪は令和4年(2022年)の改正で厳罰化されていますが、それでも名誉毀損罪の方がより重い罰則になっています。なお、侮辱罪と名誉毀損罪の公訴時効はともに3年です。
侮辱罪は令和4年(2022年)に厳罰化
令和4年(2022年)の刑法改正以前、「侮辱罪」の法定刑は、拘留または科料のみであり「名誉毀損罪」と比較して軽微でした。「事実の摘示」の有無により名誉を傷つける程度が異なるとされていたのがその理由です。
しかし、インターネット上の誹謗中傷の現状を考慮すると、事実の摘示の有無による刑の軽重は適切でないとの意見が寄せられるようになってきました。そのため、特に悪質な侮辱行為に対処するため、侮辱罪の法定刑が引き上げられたのです。
ただし、拘留・科料の法定刑も維持され、侮辱行為全体を一律に厳しく処罰するものではないとされています。また、法定刑の引き上げはあったものの、侮辱罪の成立要件は変更されていません。したがって、以前は侮辱罪で処罰できなかった行為が処罰可能になったわけではありません。
関連記事:令和4年刑法改正でどう変わった?侮辱罪の厳罰化を弁護士が解説
侮辱罪にあたる言葉と事例を紹介
法務省による『法制審議会刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会 第1回会議配布資料』には、令和2年(2020年)中に侮辱罪のみにより第一審判決・略式命令のあった事例が紹介されています。
※侮辱罪の事例集 (法務省)より抜粋
SNSやインターネット掲示板での侮辱的な投稿やコメントが掲載されています。科料の額は、ほとんどの事例で9,000円から9,900円の範囲です。
参照:法務省|法制審議会刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会 第1回会議配布資料
名誉毀損にあたる言葉と事例を紹介
名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損することで、その事実の有無にかかわらず問われる罪です(刑法第230条)。ただし、その行為が公共の利害に関する事実であり、公益を図る目的であって、真実である証明があったときには罰せられません(刑法第230条の2)。
名誉毀損罪に該当するケース(刑法第230条) | 名誉毀損罪に該当しないケース(刑法第230条の2) |
公然と | 公共性がある |
事実を適示 | 公益性がある |
人の名誉を毀損 | 真実性・真実相当性がある |
ここでは、名誉毀損にあたる言葉と事例を紹介します。
「○○の料理はまずい」とのレビュー
Googleマップや通販サイトのレビューは、基本的に名誉毀損にはなりませんが、感情的かつ攻撃的な言葉や嘘などを書き込んだ場合、名誉毀損になることがあります。
「○○の料理はまずい」といったレビューは、投稿者の実体験に基づいているため、名誉毀損とは認められません。しかし「こんなにまずいのに高評価だなんて、おかしいじゃないか」といった根拠のない事実を書き込むと、名誉毀損に問われるリスクがあります。
したがってレビューを書く際は、感情的になりすぎず事実に基づいたコメントを書くことが重要です。また「ウワサを書き込んだだけ」という言い訳も通用しないため、注意が必要です。
不倫を言いふらす
同僚の不倫事実を周囲に広める行為は、名誉毀損になる可能性があります。
名誉毀損は、公然と他人の評判を傷つける行為であり、摘示の事実が周囲に知られる可能性がある場合、名誉毀損の要件が満たされます。また、不倫は社会的評価を低下させる事実であり、その事実が真実であったとしても名誉毀損になり得ます。
SNSやブログで不倫の事実を公開した場合、ネット上の情報は誰でも見ることができるため、「公然と」の要件が満たされ、名誉毀損が成立します。たとえ名前を伏せていたとしても、相手を特定できる情報(例えば、会社名や役職名、イニシャルなど)を公開した場合には、名誉毀損が成立する可能性があります。
したがって、他人のプライバシーに関する情報を公開する際は、名誉毀損の可能性を十分に考慮する必要があります。
「ブラック企業」であるとの批判
ただ単に「ブラック企業」というレッテルを貼るだけでは、名誉毀損とは必ずしもいえません。その理由は、「ブラック企業」という表現が抽象的で具体的な根拠がないからです。
名誉毀損が成立する可能性のある批判の例としては、「〜をしているブラック企業」といった投稿が挙げられます。その投稿が虚偽であれば、名誉毀損が成立しやすくなります。一方で、真実である場合には名誉毀損は成立しません。企業の不法行為を告発する行為は、公益に関わる情報として扱われるためです。
例えば「パワハラが日常である」という投稿は、真実であれば他の求職者に対する警告として有益なため、名誉毀損の対象から除外される傾向にあります。
侮辱された場合の対応方法
侮辱行為を受けた場合は、まず証拠を残しましょう。証拠がなければ、侮辱の罪を問うことは困難です。また、侮辱罪は公然と人を侮辱する行為であるため、その定義と要件を良く理解しておかなければなりません。
侮辱罪は「公然と」人を侮辱する行為であるかどうかがポイントです。公然とは、不特定または多数の人が認識できる状態を指します。インターネット上の掲示板やSNSでの侮辱行為は、この要件を満たしますが、DMや個別のチャット、1対1の場面では「公然と」の要件を満たさない場合もあります。また、特定の少数の人に対する発言でも、その話が外部に広がる可能性があれば「公然と」の要件を満たすと考えられます。
警察に相談する
侮辱罪は親告罪であるため、警察に動いてもらうためには告訴が必要です。また原則として、犯人を知った日から半年以内という時間的制約があります(刑事訴訟法235条)。
インターネット上での侮辱の場合、相手を特定しなければなりません。そのためには、サイト管理者や接続プロバイダーに投稿者の情報の開示請求が必要です。
ただし、情報開示の手続きは専門的な知識を必要とするため、告訴とあわせて弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士へ相談する
侮辱を受けたときに弁護士に依頼できることには、告訴などの刑事事件上の対応のほかにも、民事事件としての対応も可能です。これには「損害賠償請求」や「削除請求」が含まれます。
侮辱に対する慰謝料については、裁判上の相場では10万円以下と比較的少額ですが、相手に反省を促し同じ行為を繰り返させないための有効な手段でもあります。
また、インターネット上で侮辱された場合、弁護士は被害者を代理して侮辱的な言葉を削除するように投稿者やサイト管理者に要求できます。交渉しても削除してもらえない場合には、弁護士が代理人となって裁判手続を通じて削除を要求することも可能です。
まとめ:侮辱罪と名誉毀損罪の違いを理解し適切な対処を
誹謗中傷が侮辱罪に該当するかどうかを判断するのは難しい問題です。被害者が「侮辱罪で告訴したい」と考えていても、法的には侮辱罪が成立するかどうかは、客観的な判断を要します。
さらに、侮辱行為をした相手に対して損害賠償を求めるためには、まずその相手が誰なのかを明らかにしなければなりません。例えば、ネット上の誹謗中傷に対して法的手段を講じるためには、まず相手を特定するために発信者情報の開示請求が必要です。
これらの手続きを自力で行うのは困難であり、時間の経過と共に投稿ログが消えてしまう懸念もあるため、相手を訴えることが難しくなってしまうおそれがあります。まずは、証拠となるスクリーンショットなどを保存したうえで、早期に弁護士に相談することをおすすめします。
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