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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

ストーカー規制法改正のポイントを解説~GPS機器の使用について~

風評被害対策

ストーカー規制法は「つきまとい等」を繰り返すストーカーを規制する法律で、正式な名称は「ストーカー行為等の規制等に関する法律」といい、2000年11月、その前年の「桶川ストーカー殺人事件」がきっかけとなって、成立しました。

このストーカー規制法は、時代の変化、特にインターネットの発展とともにストーカー行為が変化し、それに合わせて2度改正されてきましたが、2021年5月18日、3度目の改正が衆院本会議で可決、成立し、8月に全面的に施行されることとなりました

今回は、次の4点について改正が行われました。

  1. GPS機器を用いた位置情報の無承諾取得
  2. 相手方が現に所在する場所の付近における見張り等
  3. 拒まれたにもかかわらず連続して文書を送付する行為
  4. 禁止命令等の方法に係る規定の整備

今回のストーカー規制法改正のポイントを解説しますが、「GPS機器を用いた位置情報の無承諾取得」と「相手方が現に所在する場所の付近における見張り等」に関する改正を解説します

ストーカー規制法と過去の改正

ストーカー規制法では、ストーカー行為を、恋愛などの好意感情を満たすため、または、それが満たされなかったことへの恨みから、特定の人に「つきまとい等」を繰り返すことと規定されています。

また、「つきまとい等」としては、つきまとい、待ち伏せ、住居等への押しかけ、住居等の付近のうろつき、監視行為、面会や交際の要求、乱暴な言動、無言や連続の電話、汚物や動物の死体などの送付、名誉の毀損、性的羞恥心を害する行為等を規制対象としています。

このストーカー規制法は規制対象外の行為が問題化するたびに改正されてきました。

2012年に神奈川県逗子市で起こった「逗子ストーカー殺人事件」がきっかけとして、2013年に法改正が行われました。その際にはメールの連続送信が規制対象に加わりました。

また、2016年に東京都小金井市で起こった「小金井ストーカー殺人未遂事件」がきっかけとなった2016年の法改正では、TwitterなどのSNSの連続送信やブログへの執拗な書き込みなど電気通信を使ったつきまとい行為(ネットストーカー)も広く規制対象となりました。

それとともに、被害者からの告訴が必要な親告罪だったのが、被害者の告訴が要らない非親告罪に変更されました。

しかし、こうした改正後も技術の進歩に伴いストーカーの態様が変化していたところ、元交際相手の自動車にGPSをひそかに取り付け、その位置情報を取得するという事案が起こるようになりました。

こうしたGPS機器を利用した動静観察行為を、警察では「住居等の付近において見張り」を行う行為に当たり得るものと捉えて対処していたました。ですが、2020年7月に最高裁判所が現行のストーカー規制法が禁じる「見張り」に当たらないとの初判断を示したため、GPSを使った行為を同法で取り締まることが難しくなり改正が急がれていました

今回の改正と「見張り」

ストーカー規制法第2条1項1号は、

ストーカー行為等の規制等に関する法律
(定義)第2条 
この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
1 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。

とされています。今回問題となったのは、この中の「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所の付近」における「見張り」という行為の規定についてでした

問題となった事案

問題とされた事案は、被害者(当時28ないし29歳)に対して、被告が2016年4月23日頃から翌年2月23日までの約10カ月間、長崎県佐世保市の美容院駐車場などで、600回以上にわたり被害者が使用している自動車にGPS機能付き電子機器を密かに取り付け、同車の位置を探索して動静を把握する方法により、被害者の見張りをしたというものです

この美容室は、被害者が以前から利用していた店舗で、被害者は居酒屋でアルバイトをしていた期間にはアルバイト前に身支度を調えるためにこの美容室に立ち寄っており、利用する際にはその駐車場に自動車を駐車していました。また、2016年6月頃から2017年12月末までの間、被害者が別の居酒屋でアルバイトをし、その後も時々その居酒屋で仕事をしていた際に自動車を駐車していました。

本件GPS機器のバッテリーは約2時間の充電で最大240時間連続動作が可能な仕様であったので、被告は概ね1週間程度の間隔で友人と共に美容室の駐車場などに行き、自動車の有無を確認し、被害者等に見つからないように注意した上、GPS機器を充電するために被害者の自動車から取り外し、被告人の自宅等において充電をし、再度被害者の自動車に取り付けることを多数回繰り返しました。

被告人がGPS機器を取り外したり、取り付けたりする際、友人は現場に赴くのに使った自動車内で、誰かが近くに寄ってこないか、警察車両が付近を通っていないかを確認していたとのことです。

1審の判断

1審において弁護人は、被告人の行為は「ストーカー行為等の規制等に関する法律第2条1項1号」の「住居等の付近において見張り」をする行為に該当しないと主張しましたが、裁判所は、

GPS機器を自動車に取り付けて被害者の所在する場所の位置情報を検索する行為も「見張り」行為の一態様と解される。
そして、「見張り」行為は法文上「住居、勤務先、学校その他その(特定の者の)通常所在する場所付近において」なされるものとされているところ、被害者が日常的に使用している自動車は「住居、勤務先、学校」とは場所的移動を伴う点で異なっているが、本件のようなGPS機器を自動車に取り付けた場合、特定の者が行く先々の位置情報を何時でも検索・把握し得るものであるから、自動車が特定の者の場所的移動の手段として日常的に利用されている限り、自動車自体が「その他その通常所在する場所」と考えるのが相当である

佐賀地方裁判所2018年1月22日判決

として、被告は共犯者を巻き込んだ首謀者として、約10か月の間、多数回にわたり見張りをするというストーカー行為を行ったとしました。

また、被害者に与えた恐怖感や不快感は軽視できず、被告人は異種前科とはいえ2013年10月に窃盗罪により懲役1年6月、3年間執行猶予に処されながら、猶予期間中に本件犯行に及び始めたものであって、規範軽視の態度も明らかであるとして、懲役6か月の実刑判決を言い渡しました。

被告側はこれを不服として、控訴しました。

控訴審の判断

控訴審は、“事実認定”については検察側の主張をすべて認めたものの、結論は異なりました。まず、事実認定について、裁判所は、被告は約10か月の間、多数回にわたってGPS機器の位置情報の検索を行うことにより、被害者の自宅や勤務先付近、美容室の駐車場及びA付近のほか、被害者が本件自動車により立ち回った長崎県内及び佐賀県内等の各所の各位置情報を多数取得したことを認めました。その上で、「見張り」については以下のように判断しました。

「見張り」とは、一般に、視覚等の感覚器官によって対象の動静を観察する行為と解されるところ、上記のとおり、法は、「見張り」について、被害者の住居等の付近において行われるものに限って、規制対象にしている。そうすると、本件において、本件GPS機器を本件自動車に取り付け、同車の位置を探索して同人の動静を把握する行為は、被害者の通常所在する場所の付近から離れて、携帯電話を用いて、本件GPS機器による位置情報提供サービスを行う会社のホームページに接続して、本件自動車の位置情報を取得することによって行うもので、被害者の住居等の付近において、視覚等の感覚器官によって被害者の動静を観察するものではないから、法所定の「見張り」に該当しないと解するのが相当である

福岡高等裁判所2018年9月21日判決

としました。GPS機器を自動車に取り付け、同車の位置を探索して同人の動静を把握する行為は、被害者の通常所在する場所の付近から離れて、携帯電話を用いて行うものであり、被害者の住居等の付近において行うものではないからとし、ストーカー規制法の「見張り」に該当しないとして原判決を破棄し、佐賀地方裁判所に差し戻しました。

検察側はこれを不服として、上告しました。

最高裁判所の判断

検察側の上告に対し、最高裁判所は、

ストーカー規制法2条1項1号は、好意の感情等を抱いている対象である特定の者又はその者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近において見張り」をする行為について規定しているところ、この規定内容及びその趣旨に照らすと、「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するためには、機器等を用いる場合であっても、上記特定の者等の「住居等」の付近という一定の場所において同所における上記特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要するものと解するのが相当である

最高裁判所2020年7月30日判決

としました。被害者の車の位置探索は駐車場等の付近から離れた場所において行われており、駐車場等を離れて移動する車の位置情報は駐車場等の付近における被害者の動静に関する情報とはいえないと判断。

被告人の行為は上記の要件を満たさないから、「住居等の付近において見張り」をする行為に該当しないとし、第1審裁判所に差し戻した高等裁判所の判決を維持するのが相当として、上告を棄却しました。

ストーカー規制法3度目の改正

この最高裁判所判決を受け、GPS機器等を利用したストーカー事案に対処する必要性が生じました。そこで2020年10月に、「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会」が設置され、4回にわたる検討会を経て、2021年1月、冒頭であげた4点について検討した「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書(案)」が取りまとめられ、これを受けて、2021年5月18日、3度目の改正が衆院本会議で可決、成立したわけです。

改正では「規制対象行為の拡大」として、「GPS機器を用いた位置情報の無承諾取得」については、

  • 相手方の承諾なく、その所持する位置情報記録・送信装置(GPS機器等)に係る位置情報を取得する行為
  • 相手方の承諾なく、その所持する物にGPS機器等を取り付ける等の行為

が規制されることとなり、GPS機器やスマートフォンのアプリで居場所を把握する行為も対象となり、GPS機器等を取り付ける等の行為そのものが規制対象となりました

また、「相手方が現に所在する場所の付近における見張り等」においては、加害者による見張りや押しかけを規制する場所を、住居や勤務先、学校など被害者が普段いるところだけではなく、被害者が立ち寄った先の店舗など「相手方が現に所在する場所の付近」にまで広げました

今後は、「自動車にGPSをひそかに取り付け、その位置情報を取得するという事案」も規制することが可能となりました。それだけではなく、相手方のSNS上に書き込まれた当日の行き先、ネット上に公開されている行事に関する情報を基に「相手方が現に所在する場所の付近」への押しかけや見張りも規制対象となります。

まとめ

今回の改正における「規制対象行為の拡大」のうちの「GPS機器を用いた位置情報の無承諾取得」と「相手方が現に所在する場所の付近における見張り等」について、解説しました。

残る2点、「拒まれたにもかかわらず連続して文書を送付する行為」と「禁止命令等の方法に係る規定の整備」については、下記にて解説します。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。ストーカー被害が深刻化すれば個人情報、いわれのない誹謗中傷などがネット上に拡散するおそれがあります。こうした被害は「デジタルタトゥー」として大きな問題になりつつあります、当事務所では「デジタルタトゥー」対策を行うソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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