2ちゃんねる(2ch.sc)に誹謗中傷を書いた投稿者を特定する方法・手順を解説
平成11年(1999年)に「ひろゆき」(西村博之)氏の個人サイトとして開設された「2ちゃんねる」は、現在は、「PACKET MONSTER INC,PTE.LTD」(シンガポール法人)が運営する「2ちゃんねる(2ch.sc)」と「Loki Technology,Inc.」(フィリピン法人)が運営する5ちゃんねる(5ch.net)となっています。
2つになっても影響力が弱まったわけではなく、最大規模の匿名掲示板であることに変わりはありません。個人や会社に対する悪口や誹謗中傷が投稿され、名誉毀損やプライバシー侵害等を目にすることもしばしばあります。被害を受けたら早急に対応し、悪質な場合には投稿者を特定し、投稿を繰り返させないようにしなければなりません。
本記事では、2ちゃんねるでの誹謗中傷における投稿者特定の手順、注意点についても説明します。
この記事の目次
2chで誹謗中傷されたときの注意点
2chで誹謗中傷されたときの注意点を説明します。特に「長期間放置しないこと」と「焦って1人で対応しないこと」は、誹謗中傷問題を解決する上で重要なポイントです。対応を誤ると、後々の法的措置が難しくなってしまうリスクとなります。
長期間放置しないこと
2chでの誹謗中傷に対して、長期間の放置はとても危険です。その理由は、投稿ログの保存期間に関係しています。投稿ログとは、電子掲示板やSNS、メッセンジャーなどのサービスでユーザーが投稿やメッセージのやり取りを行った記録です。
投稿のログデータは永久に保存されているわけではなく、プロバイダによって保存期間は異なりますが3〜6カ月程度で削除されてしまいます。一度ログが消去されてしまうと「存在しないデータ」の開示を受けるのは不可能となり、投稿者の特定が著しく困難になります。
つまり、誹謗中傷への対応は時間との戦いです。投稿を発見したら、まず以下の対応を迅速に行う必要があります。
- 投稿内容、日時、URL、関連する前後の投稿を含むスクリーンショットで証拠を保全する
- できるだけ早期に、インターネット上の誹謗中傷に詳しい弁護士に相談する
- 弁護士と相談の上、発信者情報開示請求などの法的対応の検討を始める
放置してしまうと法的措置の機会を逃してしまう可能性が高くなるため、不安や迷いがあっても、まずは専門家への相談を検討してください。
焦って1人で対応しないこと
2chでの誹謗中傷に対して、焦って1人で対応するのは避けてください。なぜなら、法的措置の複雑さと失敗のリスクがあるからです。
特に発信者情報開示請求は、一見すると自分でも対応できると思いがちですが、実際には専門的な法的知識が必要な手続きです。1人で対応しようとすると、以下のようなリスクが発生します。
- 手続きの誤りにより、その後の法的措置が困難または不可能になってしまう
- 調査や対応に時間がかかり、投稿ログの保存期間(3〜6カ月)を超過してしまう
- 誤った対応により、かえって誹謗中傷がエスカレートしてしまう
- 焦って不用意な削除請求をしてしまい、重要な証拠が失われてしまう
誹謗中傷を発見したら、まずは証拠を確保した上で、早期にインターネット上の誹謗中傷対応に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士への相談により、状況に応じた適切な対応方針を立て、確実に法的措置を進められます。
焦りは判断を鈍らせ、取り返しのつかない結果を招く可能性があります。冷静に専門家の助言を求めるのが、解決への確実な近道です。
発信者情報開示請求が認められる見込みについての事前検討
投稿者を特定するためには、プロバイダ責任法に基づき、発信者情報開示を請求することになりますが、 2ch.scに対して発信者情報開示請求を行うには、前提があり、事前検討が必要です。
2ch.scへの投稿であること
2ch.scは、5ch.netのミラーサイト(コピーサイト)なので、基本的には5ch.netと同じ投稿内容ですが、別途の投稿も可能です。投稿のID表示が「.net」となっていれば5ch.netへの投稿です。
発信者情報開示請求を行う際には、どちらへの投稿であるかを区別し、どちらに請求するかを判断せねばなりません。ID表示が「.net」となっている投稿の削除や発信者情報開示を2ch.scに求めても、意味がありません。
投稿者特定のためにはIPアドレスとタイムスタンプを入手しなければならないのですが、2ch.scは、2ch.scへの投稿のIPアドレスとタイムスタンプしか持っておらず、情報を共有しているわけではありません。これは5ch.netも同様です。どちらへの投稿であるかをまず確かめ、 2ch.scへの投稿の場合のときのみ、2ch.scに発信者情報開示請求をすることが可能となります。
2ch.scは、5ch.netのミラーサイト(コピーサイト)なので、基本的には5ch.netと同じ投稿内容ですが、別途の投稿も可能です。投稿のID表示が「.net」となっていれば5ch.netへの投稿です。
関連記事:「2ちゃんねる」と「5ちゃんねる」の違いとは?現在の状況も解説(2024年最新版)
違法な投稿であること
投稿記事の削除を請求する場合も同じですが、発信者の情報開示を請求するには、投稿記事が違法であることを主張・立証できなければなりません 。「不愉快である」とか「こんな投稿をするのはどんな人なのか知りたい」というような理由で情報開示を請求することはできません。
一般に、インターネット上の違法な投稿により名誉毀損や誹謗中傷を受けた場合、被害者は投稿者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。
ただ、掲示板への投稿は、匿名で行われることがほとんどです。投稿者が現実世界のどこの誰なのか、分からないのがほとんどです。そして、投稿者を特定できないとなると、名誉毀損や誹謗中傷を受けた被害者は、投稿者に対して損害賠償請求をすることができません。
この不法行為に基づく損害賠償責任を追及するために訴える相手を特定する場合には、発信者情報開示請求をすることが認められています。この場合、問題とする投稿が違法であるかどうかは重要なポイントとなります。
例えば名誉毀損の場合、「被害者の社会的評価が低下した」という客観的な事実が前提となります。インターネット上の言論についても表現の自由(憲法第21条)は保障されますから、問題の投稿の違法性よりも表現の自由が優越し、問題投稿が違法とはいえない場合もあります。
また、問題の表現行為が表現者の意見表明にとどまる場合、公共性、公益目的性の他、意見の基礎となった事実の重要な部分について真実といえるか、真実と信じたことについて合理的な根拠がある場合には、名誉毀損とはなりません。名誉毀損についての発信者情報開示請求では、この公共性・公益目的性・真実性の有無が争点となることがあります。
名誉毀損が成立するか否か、プライバシー侵害となるのか否か、信用毀損罪は問えないのかといったような、「違法な投稿であること」の見極めは難しいので、個人で判断するのではなく、経験豊かな弁護士の判断を仰ぐことが必要なときもあります。
関連記事:名誉毀損で訴える条件とは?認められる要件と慰謝料の相場を解説
投稿があまり古いものでないこと
投稿者のIPアドレスとタイムスタンプを得たら、次に経由プロバイダを訴えます。ソフトバンクのような携帯キャリアやニフティのような固定回線の経由プロバイダは、契約時にユーザーの住所氏名を得ており、また「〇〇日の〇〇時にあるIPアドレスをどのユーザーに割り当てていたか」という「ログ」を記録しています。
そのため、経由プロバイダを訴えて勝訴すれば、当該投稿を行った者の住所氏名を開示させることができるのですが、ここでは時間的限界が問題となります。このログは膨大な量となるので、経由プロバイダは一定期間でログを削除することが一般的で、その期間は携帯キャリアで3カ月程度、固定回線プロバイダで1年程度です。
例えば、「1カ月前の投稿に関して仮処分申し立ての依頼を受け、2週間で書類を整えて2ch.scに仮処分を申し立て、反論してきたので2週間かかり、その1週間後に2ch.scからIPアドレスとタイムスタンプを開示された」とすると、もう時間はほとんど残っていません。
投稿が古いものであるとログが消えてしまうので、投稿者を特定するのに間に合わなくなってしまう可能性があります。
ステップ1:2ch.sc へのIPアドレス等開示請求
投稿者を特定する最初のステップは、2ch.sc に対するIPアドレスとタイムスタンプの開示請求です。IPアドレスとは、インターネットに接続している端末が固有に持っている「インターネット上の住所」であり、タイムスタンプとはWebサイトに記事の投稿をした時刻に関する記録です。
2ch.scは匿名掲示板です。したがって、2ch.scの運営者は、ある投稿を行った投稿者の住所や氏名を知りません。仮に「投稿者の住所や氏名を開示せよ」と求めても、「情報を持っていないので開示できない」となってしまいます。しかし、2ch.scは投稿を行った者のIPアドレスとタイムスタンプを記録しています。そこで、2ch.scに対して発信者情報開示請求を求めるのです。
まず、最初に2ch.scに「発信者情報開示請求書」を提出することが通常ですが、実際には発信者情報開示請求書を送っても、2ch.scから投稿者の特定に必要なIPアドレスなどの情報が開示されることはほとんどありません。これは、2ch.scにも投稿者の秘密を守る義務があるためです。2ch.scとしては、「裁判所の命令がなければ開示できない」という対応をするケースがほとんどです。
そこで、「発信者情報開示請求書」の発送と並行して、2ch.scに対して投稿者のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求める「仮処分」と呼ばれる裁判を起こす準備を進めることが必要になります。
「発信者情報開示仮処分命令申立」は、「発信者情報開示請求書」を2ch.scに送っても2ch.scがIPアドレスとタイムスタンプを開示しなかった場合に、裁判所から2ch.scに対して開示に応じるように命じる決定(「仮処分」といいます)を出してもらう手続です。
2ch.scの運営はPACKET MONSTER INC,PTE.LTDというシンガポール法人ですが、仮処分手続は東京地方裁判所で行える ので、順調にいけば「約1カ月」で、裁判所から仮処分を出してもらい、2ch.scからIPアドレスとタイムスタンプの開示を受けることができます。
仮処分の決定が出れば、2ch.scは速やかにIPアドレスとタイムスタンプを開示してくれます。
なお、「海外法人相手の裁判所手続」の場合、書面や証拠等の英訳が必要となり、当該外国法人の登記事項証明書等の取得が必要となるため、経費が別途必要となる場合があります。
ステップ2:経由プロバイダの特定
ステップ1でIPアドレスが開示されたら、URLを見て、もしくは「WHOIS」等のプロバイダ特定サービスを用いて、発信者が使用した経由プロバイダを割り出します。
2ch.scは、いわゆる「荒らし」が多い、匿名性の高い回線、つまり海外のプロキシサーバーや公衆無線LANなどをブロックしています。
また、会社の場合、会社内から2ch.scへのアクセスを仕事に関係のないサイトへのアクセスとして禁止しているケースも多いので、2ch.scは、匿名性の高い回線や会社回線からの投稿が少なく、自宅や個人携帯電話の回線からの投稿が多いサイトであると言えます。
ステップ3:ログの削除禁止の申し立て
経由プロバイダは、〇月〇日〇時〇分に当該IPアドレスを用いた利用者のログと、その契約者の住所氏名を保持しています。したがって次は経由プロバイダに住所氏名の開示を求めればよいのですが、上でも記したように、経由プロバイダは、無期限にはログを保持していません。そこで、経由プロバイダを相手に、「当該ログの削除を禁止せよ」という命令を出すために、新たな裁判所手続を用いる必要が生じます。
この手続を「発信者情報消去禁止仮処分命令申立」といいます。この手続きは経由プロバイダの本社所在地を管轄する裁判所で行う必要があります。多くの場合、東京地方裁判所になります。順調にいけば2週間ほどで、裁判所から、経由プロバイダに対して、投稿者の特定に必要な記録の消去を禁止する命令を出してもらうことができます。
ただし、実際のところ、多くの経由プロバイダは、「今から裁判所を通じて住所氏名開示を求めるので、しばらくログを消さずに保存しておいて欲しい」という通知を出せば、ログを保全しておいてくれます。したがって、この部分は通知のみで足りるケースが多いのですが、このときにも、対象とする投稿がどのように違法なのか、という主張・立証は必要となります。
ステップ4:経由プロバイダへの住所氏名等開示請求
経由プロバイダがログを保全していた場合、次に、 経由プロバイダに対して、投稿者の住所氏名開示を求めます 。この部分は、迅速な仮処分ではなく、正式な裁判手続きとなります。
住所氏名は、もちろん重大な個人情報です。例えば、仮に2ch.scで、ある会社を「ブラック企業」と投稿したとしても、その投稿には十分な根拠があり、当該投稿は違法ではなく、その投稿者の個人情報は守られるべきなのかもしれません。そうした問題意識に立つので、裁判所は正式な手続きで違法と認めた場合に限り、住所氏名の開示を認めるのです。
この手続きも、経由プロバイダの本社所在地を管轄する裁判所で行う必要がありますが、経由プロバイダのほとんどは本社が東京にあるので、多くの場合、東京地方裁判所になります。
裁判所が「投稿記事により権利が侵害された」と判断し、民事上の損害賠償請求権の行使に必要であるため等の「正当な理由がある」と判断すれば、裁判所から経由プロバイダに対して、記事投稿の際に利用された契約者の住所氏名等を開示することを命じる内容の判決が出されます。そして、判決に基づき、住所氏名等の開示を受けることにより、投稿者を特定することができます。
関連記事:発信者情報開示請求とは?改正に伴う新たな手続きの創設とその流れを弁護士が解説
名誉棄毀損や名誉感情侵害(侮辱)による損害賠償請求
投稿者の特定後には、名誉毀損や名誉感情侵害(侮辱)による民事上の損害賠償請求を行えるケースがあります。
名誉毀損と侮辱では、請求できる慰謝料の相場に差があります。侮辱による損害賠償請求の場合の慰謝料相場は数万円程度となる場合が多いです。一方、名誉毀損の場合は個人で10万〜50万円、企業では50万〜100万円程度と比較的高額になります。
名誉毀損による損害賠償が認められるためには、以下の2つの要件が必要です。
- 公然性があること(2chの場合、不特定多数が閲覧可能なため通常満たされる)
- 具体的な事実を摘示して名誉を毀損したといえることの有無
なお、民事上の損害賠償請求とは別に、行為の悪質性が高い場合には刑事告訴(侮辱罪・名誉毀損罪)も検討できます。刑事告訴の場合は事実を知ってから6カ月以内に告訴が必要です。
損害賠償請求の際には、弁護士費用の一部を請求に含めることができれます。(原則は被害者負担)ただし、請求できる賠償金の見込み額と弁護士費用を比較検討し、費用対効果を考慮しなければなりません。そのため、具体的な請求方針については、弁護士に相談の上で決めてください。
2chの誹謗中傷による逮捕事例
2chでの誹謗中傷は、殺害予告など具体的な脅迫がある場合や、業務に支障が出るほどの深刻な誹謗中傷を繰り返し行った場合に逮捕される可能性があります。逮捕に至るケースには、以下の特徴があります。
- 繰り返し継続的に行われている
- 組織的な攻撃である
- 具体的な被害が発生している
なお、名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪であるため、被害者からの告訴が必要です。また、逮捕後の刑事裁判においては、表現の自由との兼ね合いも慎重に判断されます。警察や検察は、こうした要素を総合的に勘案しながら、逮捕や起訴の判断を行っています。
まとめ:誹謗中傷の投稿者特定は弁護士に相談を
2chでの誹謗中傷は、投稿者のIPアドレスの取得から、プロバイダへの開示請求まで、複雑な法的手続きが必要です。また、プロバイダのログ保存期間が3〜6カ月と限られているため、時間との戦いでもあります。
発信者情報開示請求を行う際には、投稿の違法性や権利侵害の事実を具体的に示さなければなりません。さらに、海外法人である2chへの請求には英訳文書の準備なども必要です。一方で、投稿の削除だけでは問題の根本的な解決にはならず、同様の誹謗中傷が繰り返される可能性も高くなります。
そのため、2ちゃんねるでの誹謗中傷被害を受けた場合は、証拠を保全した上で、早期にインターネット上の誹謗中傷対応に詳しい弁護士へ相談することがおすすめです。専門家による適切な法的対応により、効果的な問題解決と再発防止を図ることができます。
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モノリス法律事務所の取扱分野:デジタルタトゥー