YouTuberとクライアント企業広告案件の業務委託契約書に関するチェックポイント
YouTubeは誰でも気軽に投稿できる動画共有サイトとして世界的な人気を博しています。誰でもYouTubeにアカウントを開設することによりYouTuberとなることができますが、中でもチャンネル登録者数が多い人気YouTuberともなると有名芸能人に匹敵する影響力を持ちます。このような人気YouTuberの影響力に着目した企業が、自社の商品やサービスの宣伝のためにYouTuberに動画の制作・配信を依頼するケースがあります。特に、商品等をYouTuberが実際に使用してみた感想を撮影したレビュー動画は、テレビCMなどより時間数も長くかつ商品等に関する詳細な解説がテンポよくされるため閲覧者からの人気も高く、商品等の購入につながりやすいといわれています。
YouTuberがクライアント企業から広告を目的とした動画制作・配信を受託する場合には業務委託契約書を締結します。今回は、この業務委託契約書の重要なポイントについて解説します。なお、YouTuberの一種であるバーチャルYouTuber・VTuberのクライアント案件用の契約書に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。
この記事の目次
YouTuberがクライアント企業と締結する契約書とは
YouTuberがクライアント企業と締結する契約書の目的
YouTuberがクライアント企業と締結する契約書とは、冒頭で説明したようにクライアント企業が自社の商品やサービスの宣伝を目的として、YouTuberに動画制作・配信を委託するものです。YouTuberがマネジメント事務所に所属していない場合、YouTuber自身がクライアント企業との間で契約を締結する必要がありますので、契約の重要なポイントや交渉上の注意点について把握しておくことが重要といえます。これに対しYouTuberがマネジメント事務所に所属している場合には、クライアント企業からの広告案件に関してはマネジメント事務所とクライアント企業との間で契約が締結されます。そうだとしても自分が受けている案件について一般的にどのような条件で契約されるのか知っておくことは必要です。なお、YouTuberがマネジメント事務所に所属する際の契約に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。
YouTuberがクライアント企業と締結する契約書の法的性質
YouTuberがクライアント企業と締結する契約書は、多くの場合に業務委託契約となっています。業務委託契約とは、準委任契約と請負契約の性質を併せ持つ契約であると解釈されます。準委任契約ということの意味は、受託者となるYouTuberが委託者であるクライアント企業のために定められた業務を遂行することにあります。準委任契約では、受託者は成果物の納品などといった結果の発生を保証しないこととなります。
しかし、YouTuberがクライアント企業から広告案件を受託する場合には、当然ながら契約上決められた動画を制作し配信することが期待されています。この意味で一定の結果発生が想定されていることが通常であるため、YouTuberがクライアント企業から広告案件を受託する契約については、準委任契約としての性質だけでなく受託者が結果の発生を保証する請負契約としての性質も併せ持つということができます。
YouTuberがクライアント企業と締結する契約書のポイント
YouTuberが広告案件の依頼を受けて、クライアント企業と契約を締結する際に注意すべき契約条項や交渉上のポイントについてみていきます。以下で挙げる条項例のうち、「甲」はクライアント企業、「乙」はYouTuberです。
業務内容に関する条項
第○条(業務内容)
甲は乙に対し、別紙で指定する甲の商品を乙の制作・出演する動画において紹介し、当該動画を乙が運営するYouTubeチャンネルにおいて配信する業務(以下「本件業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。
クライアント企業からの広告案件の代表的なものは、上の条項例のように自社の商品やサービスを紹介する動画を制作し配信するものです。具体的には、クライアント企業が指定する商品やサービス等についてYouTuberが紹介動画等を制作し、当該動画をYouTuberが運営するYouTubeチャンネルにアップロードし公開する業務です。また、動画制作に関わる案件としては他にPPL広告があります。PPLとはプロダクト・プレイスメント(product placement)の略語であり間接広告と呼ばれることもあります。商品やサービスを直接的に紹介するのではなく、広告目的ではない通常の動画内に小道具としてクライアント企業の商品等を登場させる広告手法です。有名YouTuberともなれば、「YouTuber○○がメイク動画で使用しているデスク」というだけで、商品を特定して同じものを購入しようとするファンがいます。このため、クライアント企業の商品等を小道具として登場させるというPPL広告案件にも一定の需要があります。
さらに、企業からの広告案件は動画制作・配信に関するものだけではなく、以下のような業務がYouTuberに依頼されることがあります。これらの業務は、動画の制作・配信とあわせて依頼される場合もあります。
- クライアント企業の指定するイベントに登壇し、司会やゲストとして出演する業務
- クライアント企業の指定する媒体からの取材
- YouTuberの運営するSNSにおけるプロモーション
クライアント企業からの広告案件については、単発で受託する場合と継続的に受託する場合とがあります。継続的に受託する場合は、例えば毎月1本動画を配信するといったように一定の配信時期を定めるケースや、配信時期は特定せず配信する動画の本数だけを定めるケースなどがあり得ます。このように、継続的に広告案件を受託する場合には以下のような条項として、具体的な業務内容は個別契約で定めることとする方法もあります。
第○条(業務内容)
甲は乙に対し、別途個別契約で定めるとおり甲の商品を乙の制作・出演する動画において紹介し、当該動画を乙が運営するYouTubeチャンネルにおいて配信する業務(以下「本件業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。
個別契約は正式な契約書形式である必要はなく、発注書・請書や電子メールのやりとりにより成立させることができます。
報酬に関する条項
第〇条(報酬)
甲は乙に対し、本契約締結時点における乙運営のチャンネル登録者数に○○円(消費税別)を掛け合わせた金額を本件業務の対価として支払うものとする。
クライアント企業からの広告案件における報酬の算定方法は、定額方式と成果報酬方式の2種類があります。定額方式における報酬の算定方法として比較的よくみられるのが、ある時点におけるYouTuberのチャンネル登録者数に単価を掛け合わせるものです。上の条項例は、この算定方式を採用する場合のものです。定額方式には他に、YouTuberのチャンネル上公開されている動画の平均再生回数に単価を掛け合わせる方式もみられます。単価は案件によりさまざまですが、概ね1円程度であることが多いようです。このような算定方法を用いる場合には、どの時点でのチャンネル登録者数を基準とするか明確に定めておくことも重要となります。成果報酬方式とは、いわゆるアフィリエイト広告のように、YouTuberの公開している動画を見た人が動画の摘要欄などに記載されたURLをクリックし、宣伝対象であるアプリをダウンロードする等の一定の成果が達成されたときにYouTuberに報酬が支払われるものです。このような成果報酬方式を採用する場合には、報酬発生の要件となる成果地点を明確に契約条項で定めておくことが重要となります。具体的には、摘要欄のURLを経由しない成果を報酬に含むか、ダウンロードや購入直後に解約があった場合を成果に含むか等を確認する必要があります。
動画の公開保証に関する条項
第○条(公開保証)
1.乙は、本件業務に基づき作成された動画を、公開日から6か月間継続して公開する。
2.乙は、前項の期間経過後も当該動画を公開し続けるよう努めるものとするが、動画の公開に関する一切の責任を負わないものとする。
クライアント企業がYouTuberに作成を依頼した動画は、あくまでもYouTuberが管理するチャンネルにおいて公開されます。したがって、クライアント企業側としては単に動画を制作するだけでなく、ある程度継続した期間、YouTuberの管理するチャンネルにおいて動画を公開する保証を求めることが通常です。クライアント企業としては、動画が公開されて初めてYouTuberに依頼した意味があるので、このような動画公開保証条項はYouTuber側としては受け入れざるを得ないところです。もっとも、YouTuber側としては永遠にYouTubeチャンネルを保持し続けるとは言い切れません。例えば、タレントや他の職業に転向してYouTuberとしての活動を終了する可能性もあります。このようなケースに備えて、YouTuber側としては上の条項例のように、動画公開を保証する期間を定めておくことが必要でしょう。
不可抗力に関する条項
第○条(不可抗力)
本契約の一方当事者が、次の各号に定める事情に起因して本契約又は個別契約上の義務の履行を遅滞し又は履行不能となったときは、その責を負わないものとする。
(1)YouTubeその他の委託業務に関連する第三者サービスの、サービス停止、終了
(2)当該サービスにおけるYouTuberのアカウント又はチャンネルの停止、終了
(3)自然災害、火災及び爆発
(4)伝染病
(5)戦争及び内乱
(6)革命及び国家の分裂
(7)公権力による命令処分
(8)暴動
(9)その他前各号に準ずる事態
不可抗力といえる事態が生じたことによりYouTuberが動画制作等の業務ができなくなった場合にYouTuberが免責される旨の条項を定める必要があります。そもそも、不可抗力に関する条項は、YouTuberがクライアント企業と締結する業務委託契約書以外でも一般的に定められる一般条項です。通常は、免責の対象となる不可抗力として、自然災害、火災及び爆発、伝染病、戦争及び内乱、革命及び国家の分裂、公権力による命令処分、暴動等が契約上定められます。YouTuberがクライアント企業と締結する契約においては、これらの一般的な不可抗力条項のほかに、YouTube自体のサービス提供の終了やアカウント凍結についても免責の対象として明記しておくことをおすすめします。クライアント案件における動画制作および配信は、YouTubeというプラットフォームに依存したものです。したがって、YouTube自体が閉鎖されるたり利用できなくなる事態が生じればYouTuberがクライアント企業から受託した業務は遂行不可能となります。
また、より発生する可能性が高いものとしてYouTuberのアカウント凍結があります。YouTuberが配信している動画が他人の権利を侵害しているなどとして閲覧者からYouTubeにクレームが申し立てられた場合、YouTubeの審査次第ではYouTuberのアカウント自体が停止されてしまうことがあります。このような場合には、当然ながらYouTuberはクライアント企業のために制作した動画を配信することができなくなり、契約上の義務の不履行となってしまいます。アカウント凍結は有名YouTuberであっても実際にときどき起こっています。このため、YouTuberとしてはアカウントの停止や終了を不可抗力条項に追記することを可能な限りクライアント企業に求めたいところです。
クライアントのイメージ保持に関する条項
第〇条(禁止事項)
乙は、以下の各号に掲げる事項を行わないこととする。
(1)甲及び甲の指定する第三者の企業、商品、サービスのイメージを損なう言動
(2)犯罪行為、公序良俗に反する行為、あるいは社会的体制を受ける行為
(3)甲又は甲の取引先等の名誉又は信用を著しく毀損する行為
YouTuberがクライアント企業から案件を受ける場合、YouTuberの言動やイメージがクライアント企業の商品やサービスに影響を及ぼすことがあります。とはいえ、YouTuberの場合、芸能人と比較すると必ずしも清廉潔白なイメージを求められるわけではなく、現時点では芸能人ほど私生活に気を付けなければいけない状況は少ないでしょう。ただし、例えばクライアント企業から自社商品の宣伝動画の作成を依頼されたYouTuberが、プライベートで使用しているSNSの匿名アカウントでその企業や商品の悪口を投稿するような行為は当然に許容されないものといえます。匿名アカウントであっても、閲覧者からアカウント保有者を特定されることはあり得るからです。この他にも、クライアント企業やその商品等のイメージを明らかに損ねる行為については、契約書において上の条項例のように禁止事項とされることが通常です。
まとめ
YouTubeの閲覧人口が増加している現在、YouTuberがクライアント企業から広告案件を打診される機会は今後も増え続けると予想されます。YouTuberがマネジメント事務所に所属せず個人で活動している場合は特に、大手企業との契約に慣れておらず不利な条件で契約を締結してしまうリスクがあります。また、YouTuber特有の契約条項も多いため、クライアント企業から広告案件を受託する場合には、YouTuberに関する法務について経験豊富な弁護士に一度相談すると安心です。
カテゴリー: YouTuber・VTuber法務