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台湾の会社形態と機関設計を弁護士が解説

台湾の会社形態と機関設計を弁護士が解説

中華民国(台湾)は、地理的な近接性のみならず、経済的にも日本と極めて密接な結びつきを持つ重要な市場です。高度な技術力や整ったインフラ、そして親日的なビジネス環境を背景に、多くの日本企業が台湾への進出や現地でのビジネス展開を検討しています。しかし、国境を越えて事業を展開するにあたり、現地の法制度、特に企業活動の基盤となる会社法制を正確に理解することは、コンプライアンスの遵守および事業の持続的な成長において不可欠です。台湾の会社法は、歴史的に大陸法系の影響を強く受けており、日本の会社法と共通する概念や枠組みを数多く有しています。そのため、日本の経営者や法務部員にとって比較的理解しやすい構造となっていますが、近年の相次ぐ法改正により、台湾独自の柔軟で機動的な制度が多数導入されている点に注意が必要です。

特に2018年に施行された会社法の大規模改正は、全449条のうち148条が改正されるという過去10年間で最大規模の抜本的な見直しとなりました。この改正は、企業の資金調達の円滑化、コーポレートガバナンスの強化、国際的なマネーロンダリング対策への適合、そしてデジタル化の推進を目的としています。本記事では、この最新の法令に基づき、台湾における主要な会社形態と機関設計について詳細に解説します。

台湾における会社設立においては、主に日本の株式会社に相当する「股份有限公司」か、合同会社に類似する「有限公司」が選択されます。外国企業はこれらの形態を用いて100%の単独出資で現地法人を設立することが可能です。また、2018年改正により、非公開の股份有限公司においては、取締役(董事)1名のみで機関設計を行うことが認められるなど、設立および運営における柔軟性が飛躍的に向上しました。さらに、50人以下の株主で構成されるスタートアップ向けの「閉鎖性股份有限公司」では、労務出資や複数議決権株式の導入といった特例が認められています。外国企業の進出形態としては、現地法人のほかに支店や駐在員事務所が存在し、それぞれの目的や活動範囲に応じた選択が求められます。

実務上の注意点として、台湾では会社法上の最低資本金制度は原則として撤廃されていますが、外国人が現地で代表者を務めるための就労ビザを取得するためには、業種にもよりますが最低50万台湾ドル(約250万円以上)の資本金が事実上の目安となります。また、外国人や外国法人が株主や代表取締役となる場合には、経済部投資審議司による事前の厳格な投資審査を通過する必要があります。

本記事では、これらの制度の詳細から、取締役の忠実義務に関する最新の裁判例に至るまで、日本法との異同を交えながら網羅的に解説し、記事の最後には当事務所が提供できるサポート内容についてまとめます。ここから、台湾の法制度が持つ特有の柔軟性を最大限に活用することが、現地でのビジネス成功の鍵を握ります。

台湾における会社形態の基本構造と日本法との比較

台湾の会社法第2条によれば、会社は「無限公司(合名会社に相当)」「有限公司」「両合公司(合資会社に相当)」「股份有限公司」の4種類に分類されます。この中で、日本企業が台湾に進出する際、あるいは現地で新たな事業を立ち上げる際に利用されるのは、出資者の責任が出資額に限定される「股份有限公司」または「有限公司」のいずれかが大半を占めます。これらの形態は日本の株式会社や合同会社と似た特徴を持っていますが、設立要件や内部の意思決定プロセス、資本の取り扱いにおいて独自の規定が設けられています。

股份有限公司(株式会社)の特徴と資本政策の柔軟化

股份有限公司は、株式を発行して資本を調達し、大企業から中小企業まで、また上場・非上場を問わず最も広く利用されている会社形態です。会社法第2条第4号により、2名以上の発起人、あるいは政府または法人である1名以上の発起人によって組織されることが規定されています。日本の株式会社と同様に、株主はその引き受けた株式の引受価額を限度として会社に対する有限責任を負います。

日本の株式会社制度との顕著な違いとして、台湾の股份有限公司では2018年の会社法改正により資本政策に関する抜本的な規制緩和が行われました。かつて台湾ではすべての株式に額面を付すことが義務付けられていましたが、改正後の会社法第156条の1により、非公開会社であっても無額面株式(No-par value shares)の発行が全面的に認められるようになりました。これにより、企業は市場の評価額に合わせた柔軟な価格設定で機動的に資金調達を行うことが可能となりました。

さらに、日本の会社法にみられる種類株式の仕組みに相当する制度として、配当優先株、複数議決権株式、特定の事項に対する拒否権付株式、取締役の選任権が付与された特別株など、多様な条件を付した株式の発行が非公開会社において解禁されました。これらの法改正により、創業者の支配権を維持しつつ外部からの投資を受け入れやすい環境が整備されており、台湾の法制度が企業の成長段階に応じた多様な資金調達ニーズに積極的に応えているということが言えるでしょう。

有限公司(合同会社)の特徴とガバナンス構造

有限公司は、1名以上の社員(株主)によって組織され、各社員がその出資額を限度として会社に対する有限責任を負う形態です(会社法第2条第2号)。構造としては日本の会社法における合同会社(持分会社)に最も類似しており、大規模な資金調達を予定していない中規模から小規模のビジネス、あるいは外国企業の100%子会社として利用されることに適しています。

日本法における合同会社では、原則として社員全員が業務執行権を有し、所有と経営が一致する構造を基本としていますが、台湾の有限公司ではこれとは異なる独特のガバナンス構造が採用されています。台湾の会社法第108条によれば、有限公司は社員(株主)の中から1名以上3名以下の「董事(取締役)」を選任し、その董事が業務を執行し、会社を代表しなければなりません。すなわち、台湾の有限公司では社員と業務執行者が法的に分離されており、日本の合同会社よりも株式会社に近い内部構造を持っています。

また、有限公司の董事が自己または他人のために会社と同種の事業を行う場合(競業避止義務)、全株主の3分の2以上の同意を事前に得る必要があります(会社法第108条準用規定)。日本の合同会社における業務執行社員の競業避止義務の免除要件(他の全社員の承認など)と類似していますが、台湾では株主総会に相当する厳格な会議体を持たない有限公司であっても、重要事項に関する株主間の同意形成プロセスが会社法によって詳細に法定されている点に留意する必要があります。

スタートアップ向けの特例としての閉鎖性股份有限公司

台湾特有の非常に革新的な制度として、2015年の会社法改正で新設された「閉鎖性股份有限公司(Closely-Held Company Limited by Shares)」が挙げられます。これは会社法第356条の1から第356条の14に規定されており、株主数が50名以下であり、かつ定款において株式の譲渡制限を設けている非公開会社を指します。

この形態は、起業家やベンチャーキャピタルによる投資を促進するために、英米法のクローズド・カンパニーの概念を導入したものです。通常の股份有限公司では、現金、財産、技術、または会社に対する債権による出資しか認められていませんが、閉鎖性股份有限公司では、発起人全員の同意を条件として「労務(サービス)」や「信用」による出資が認められています(会社法第356条の3)。これにより、資金を持たない技術者やアイデアを持つ創業者が、自らの労働力を資本として提供し、適正な株式持分を確保することが可能となりました。

さらに、日本の会社法では株主間の議決権拘束契約(Voting agreements)の有効性について判例上解釈が分かれる余地がありますが、台湾の閉鎖性股份有限公司においては、会社法第356条の9により、議決権行使契約および議決権信託(Voting trusts)が明文で合法化されています。これにより、投資家と創業者間での経営支配権のコントロールを契約によって確実に行うことが可能となり、事業の安定性を重視する外国企業にとっても極めて使い勝手の良い制度となっています。

台湾股份有限公司における機関設計の柔軟化

台湾股份有限公司における機関設計の柔軟化

台湾の股份有限公司における機関設計は、日本の株式会社制度における取締役会や監査役制度と共通の基盤を持っていますが、2018年の会社法改正により、特に非公開会社に対する規制が大幅に緩和され、企業規模に応じた最適なガバナンス体制を構築できるようになりました。

取締役および監査役の選任要件の緩和

以前の台湾会社法では、股份有限公司を設立する際、最低3名の董事(取締役)と1名の監察人(監査役)を選任し、取締役会を設置することが義務付けられていました。しかし、この画一的な要件は、実質的に所有者が1人である中小企業や、100%子会社を設立する外国企業にとって、名義貸しの役員を無理に用意しなければならないといった実務上の大きな負担となっていました。

2018年の法改正により、非公開の股份有限公司については、定款で定めることにより、董事を「1名または2名」とすることが可能になりました(会社法第192条)。董事が1名の場合、取締役会は形成されず、その1名の董事が取締役会の職権を単独で行使します。さらに、政府または法人株主が単独で全株式を保有する会社(日本企業が設立する100%子会社などが該当します)においては、会社法第128条の1の規定により、董事を1名とし、かつ監察人(監査役)を置かないという機関設計が法的に認められました。

この改正は、台湾に現地法人を設立する日本企業にとって極めて大きなメリットをもたらします。従来のように最低4名の役員を確保する必要がなくなり、日本の親会社から派遣する1名の代表者のみで台湾子会社を適法に運営できるようになったため、現地におけるガバナンス体制の簡素化とコンプライアンスに関わる維持コストの大幅な削減が実現したということが言えるでしょう。

株主総会および取締役会のオンライン開催と書面決議

コーポレートガバナンスの実務運用面においても、国際化とデジタル化に対応した大幅な要件緩和が行われました。非公開会社においては、定款に規定を設けることで、株主総会をビデオ会議(オンライン)で開催することが正式に認められています(会社法第172条の2)。ビデオ会議に参加した株主は、総会に直接出席したとみなされます。日本の会社法においても近年「バーチャル株主総会」の開催要件が整備されてきましたが、台湾ではより簡格な手続きで定款の規定のみによってこれを実施することが可能です。

さらに、取締役会に関しても、定款に事前の規定があり、かつ全取締役が同意した場合、実際に物理的な会議やビデオ会議を開催することなく「書面決議」によって取締役会の決議を行うことが可能となりました(会社法第205条)。これは日本の会社法第370条における「取締役会の決議の省略(みなし決議)」と実質的に同じ機能を持つものですが、国境を越えて取締役が点在する外資系企業にとって、迅速な意思決定を可能にする極めて有効な手段として機能しています。

外国企業による台湾進出の形態と投資審査プロセス

日本企業をはじめとする外国企業が台湾に進出する場合、主に「現地法人(子会社)」「支店」「駐在員事務所」の3つの進出形態から事業目的に応じて最適なものを選択することになります。各形態の法的性質や設立手続きは台湾の会社法および関連法規によって厳密に定められています。

現地法人、支店、駐在員事務所の比較

各進出形態の主要な特徴と法的位置づけを以下の表に整理します。

比較項目現地法人(子会社)支店(分公司)駐在員事務所(辦事處)
法的性質台湾の法令に基づく独立した法人格を有する外国企業(親会社)の一部であり独立した法人格はない外国企業(親会社)の一部であり独立した法人格はない
営業活動の可否可能(利益を追求するあらゆる営業活動が可能)可能(利益を追求する営業活動が可能)不可(市場調査、連絡業務等の非営利活動のみ)
法的責任の所在株主は出資額を限度とする有限責任を負う台湾で生じた債務や責任は最終的に親会社が無限責任を負う台湾で生じた債務や責任は最終的に親会社が無限責任を負う
課税上の取り扱い台湾源泉所得に対し法人税課税。配当の海外送金時に源泉徴収税あり台湾源泉所得に対し法人税課税。税引後利益の本店送金時には原則源泉税なし営業活動を行わないため原則非課税
事前審査の手続き経済部投資審議司による外国人投資許可(FIA)が必要会社法に基づく外国会社の認可および支店設立登記が必要会社法に基づく代表者の届出のみ(登記不要)

現地法人の設立と経済部投資審議司による投資審査

外国企業が台湾に現地法人を設立する場合、または既存の台湾企業の株式を取得する場合、「外国人投資条例(Statute for Investment by Foreign Nationals)」に基づく厳格な手続きが求められます。具体的には、会社設立の登記申請や資本金の払い込みを行う前に、台湾経済部(Ministry of Economic Affairs:MOEA)の下部組織である「投資審議司(Department of Investment Review)」から外国人投資許可(FIA:Foreign Investment Approval)を取得しなければなりません(外国人投資条例第8条)。

投資審議司は、かつての投資審議委員会が2023年に改組されて誕生した機関であり、外国資本の流入が台湾の国家安全保障、公の秩序、善良な風俗、国民の健康に悪影響を及ぼさないかを厳格に審査します(外国人投資条例第7条)。特に、中国大陸からの資本(中資)が直接的または間接的に流入していないかについての審査は年々厳格化されています。第三国や地域の法人(香港やマカオの法人を含む)を通じて台湾に投資を行う場合であっても、中国大陸の投資家が30%以上の持分を実質的に支配している場合や、企業へのコントロール権を有している場合は、通常の外国人投資条例ではなく「大陸地区人民来台投資許可弁法」というさらに厳しい規制の対象となります。

日本企業が直接投資を行う場合、原則として100%の単独出資が認められていますが、投資審議司による出資構造の全階層(最終的実質的支配者:Ultimate Beneficial Ownerまで)にわたるバックグラウンドチェックが行われるため、純粋な内国法人の設立よりも完了までに時間を要し、通常8週間から10週間程度の期間を見込む必要があります。外国人投資審査に関する詳細な規定や申請書類については、経済部投資審議司の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:経済部投資審議司の公式ウェブサイト

支店および駐在員事務所の法的位置づけと制限

現地法人を設立しない場合の代替手段として、支店(Branch)駐在員事務所(Representative Office)が存在します。会社法第371条によれば、外国企業が台湾国内で継続して営業活動を行うためには、台湾政府からの認可(Recognition)を受け、支店の設立登記を完了しなければなりません。支店は日本の親会社と同一の法人格とみなされるため、台湾の支店で発生した法的責任はすべて日本の親会社に帰属します。しかし、税務上の観点からは、現地法人が利益を日本の親会社に配当として送金する際に原則21%(日台間の租税条約の適用により軽減される場合があります)の源泉徴収税が課されるのに対し、支店が税引後の利益を日本の本店に送金する行為は配当とはみなされないため、この源泉徴収税が免除されるという特有のメリットが存在します。

一方、会社法第386条に基づく駐在員事務所は、台湾国内で本格的な営業活動を行う意図がない場合に設置されます。駐在員事務所ができる行為は、市場調査、契約の交渉、見積もりの取得、購買手配などの「事実行為」や限定的な「法律行為」に厳しく制限されており、自ら売上を計上するような利益追求活動は一切禁止されています。過去の裁判例では、駐在員事務所の代表者が台湾国内で多額の越境契約の締結を恒常的に支援し、実質的な営業活動を行っていたとみなされ、会社法違反として処罰されるとともに未払い税金の連帯責任を問われたケースが存在します。したがって、駐在員事務所を設置する企業は、その活動範囲が純粋な連絡業務の域を超えないよう、現地スタッフの業務内容を厳格に管理する内部統制体制を敷く必要があります。

外国人投資家が留意すべき台湾における実務上の特徴

外国人投資家が留意すべき台湾における実務上の特徴

台湾の会社法制は総じて外資に対して寛容であり、外国人や外国法人が会社の株主や代表取締役(董事長)に就任することに対して、国籍上の直接的な制限は設けられていません。しかし、労働法制との絡みや、近年の国際的なコンプライアンス強化の波を受け、実務上必ず押さえておくべき特有の要件が存在します。

設立手続きに必要な最低資本金と就労ビザの要件

台湾の会社法上、かつて存在した一律の最低資本金制度(例えば株式会社は50万台湾ドル等)は2009年の法改正により撤廃されており、法律上は「設立にかかる直接費用を賄える合理的な金額」であれば、極めて少額の資本金であっても会社を設立することが可能となっています(会社法第7条関連)。しかし、外国企業や外国人が台湾に進出する場合には、就労サービス法(就業服務法)等の別の法規に基づく「実務上の最低資本金の壁」が立ちはだかります。外国人経営者や日本から派遣される駐在員が台湾に合法的に滞在し、就労ビザ(Work Permit)および外僑居留証(ARC:Alien Resident Certificate)を取得するためには、労働部の定める厳しい基準を満たす必要があります。設立1年未満の新設企業が外国人の管理職を1名雇用・派遣するためには、その会社の払込資本金が「50万台湾ドル(約250万円)」以上であり、かつ外国資本が総資本の3分の1以上を占めていることが必須要件とされています。

さらに注意すべき点として、設立から1年以上が経過した企業がこの外国人管理職の就労ビザを更新する場合、または新たに外国人を雇用する場合には、その企業の過去1年間または直近3年間の平均年間売上高が「300万台湾ドル(約1,500万円)」以上でなければならないという厳しい営業実績要件が課されます。したがって、会社法上の最低資本金が撤廃されているからといって少額の資本金で会社を設立してしまうと、設立直後に日本人代表者の就労ビザが取得できない、あるいは初年度に十分な売上を立てられずにビザの更新が拒否されるという致命的な事態に陥る可能性があります。このため、初期資本金は少なくとも50万台湾ドル以上を確保し、かつ初年度から確実な事業計画を立てることが実務上の鉄則であるということが言えるでしょう。

マネーロンダリング防止に向けた透明性要件と情報開示義務

2018年の会社法改正において、外国企業を含むすべての台湾企業の実務に多大な影響を与えたのが、マネーロンダリング防止(AML)を目的とした「会社透明性要件」の導入です。新たに新設された会社法第22条の1の規定により、一定の要件を満たす公開会社や国営企業等の例外を除くすべての会社は、毎年定期的に、自社の取締役(董事)、監査役(監察人)、支配人(経理人)、および「発行済株式総数または資本総額の10%を超える株式を保有する主要株主」に関する詳細な情報(氏名、国籍、生年月日または設立年月日、身分証明書番号、持分等)を、台湾政府(経済部が指定する台湾集中保管結算所:TDCC)が運営する「会社透明性情報プラットフォーム(CTP:Company Transparency Platform)」に電子的に申告しなければならなくなりました。

さらに、この年次申告だけでなく、これらの役員や主要株主の情報に変更が生じた場合には、変更の効力発生日から15日以内にプラットフォーム上の情報を更新する義務が課されています。申告を怠った場合や虚偽の申告を行った場合、会社法に基づき、会社を代表する取締役に対して5万台湾ドル以上50万台湾ドル以下の罰金が繰り返し科される可能性があり、指定された期限内の是正が行われない場合は、最終的に会社の登記そのものが抹消されるという極めて重いペナルティが用意されています。日本の実質的支配者リスト制度と比較しても、対象となる企業の範囲が広く、かつ直接的で即時性の高い申告義務が課されているため、台湾に子会社を持つ日本の親会社は、グループ内の役員変更や資本異動があった際に、台湾当局への申告漏れが生じないよう厳密なコンプライアンス管理体制を構築する必要があります。

会社責任者の忠実義務と最新の判例動向

台湾の会社法第23条第1項は、「会社の責任者(取締役など)は、業務を執行するにあたり、忠実義務を有し、かつ善良なる管理者の注意義務を尽くさなければならない。これに違反して会社に損害を与えた場合は、損害賠償責任を負う」と明記しています。この「忠実義務(Fiduciary Duty)」の概念は2001年の法改正で英米法を参考にして導入されたものですが、具体的にどのような行為が義務違反を構成するのかについては、長らく裁判所の解釈に委ねられてきました。

近年、取締役の忠実義務の判断基準に関して、実務に大きな影響を与える画期的な司法判断と行政解釈が示されています。台湾の最高裁判所に相当する最高法院は、最高法院112年度台上字第1306号民事判決(2023年)において、取締役の経営判断や重要な契約締結等に関する責任を評価する際、その行為の動機、契約内容の妥当性、さらには長期的な事業の利益などを総合的に勘案すべきであるという、英米法の「経営判断の原則(Business Judgment Rule)」に沿った枠組みを示しました。

この最高法院の判決に関する論理は、その後の行政当局の解釈にも反映されています。台湾経済部(商業司)は2025年3月12日に経商字第11401401940号通達(Interpretation Letter No.)を発出し、会社法第23条の忠実義務違反を客観的かつ合理的に判断するための具体的な基準を初めて明文化しました。同通達によれば、以下の会社法の明文規定に対する違反があった場合は、原則として取締役の忠実義務違反を構成するとされています。

  1. 会社法第209条(取締役の競業避止義務に関する株主総会等の事前承認違反)
  2. 会社法第196条(取締役の報酬決定手続きに関する規定違反)
  3. 会社法第206条(利益相反取引における取締役会での情報開示および議決権行使の制限違反)
  4. 会社法第223条(会社と取締役間の取引における監察人の代表権規定違反)

さらに、上記に列挙された明文規定の違反以外のケースにおいては、前述の最高法院判決の論理を引用し、「経営陣が誠実かつ信用をもって行動したか」「十分な情報に基づいて決定を下したか」「利益相反が存在しなかったか」「裁量権を著しく濫用しなかったか」といった基準を用いて、忠実義務の履行を総合的に審査すると明記されました。また、新北地方法院109年度訴字第2580号民事判決(2020年12月31日判決、当事者:天明製藥股份有限公司に関する事案)などの下級審判例においても、関連会社間の兼任取締役の競業避止義務違反を厳格に問う一方で、企業グループ全体のシナジー効果を考慮する判断基準が模索されるなど、司法の判断は日々精緻化しています。これらの通達と一連の判例から、台湾の裁判所および行政機関が、取締役の責任追及に関して、より予測可能で厳格な法的基準を適用し始めているということが言えるでしょう。

また、2011年の会社法改正により第8条第3項が追加され、名目上の取締役として登記されていなくても、事実上会社の業務を指揮し、取締役を実質的に支配している者(いわゆるシャドー・ディレクター:事実上の取締役)に対しても、正規の取締役と全く同様の民事、刑事、および行政上の忠実義務違反の責任が問われることになりました。日本企業が台湾に合弁会社等を設立し、台湾現地の役員を名代として立てて裏から日本の親会社が指示を出して事業を運営させるようなケースでは、日本の親会社の担当者や役員がこの「事実上の取締役」と認定され、台湾の会社法上の極めて重い損害賠償責任を直接問われるリスクがあります。そのため、グループ企業間でのコーポレートガバナンス上の権限と責任の所在を、契約や社内規程によって明確にしておくことが強く求められます。

これらの重要な判例や法令解釈の原文は、台湾の司法データベース等で確認することができます。

参考:法律人LawPlayer 無料判決書検索システム(新北地方法院 109年度訴字第2580号)

まとめ

台湾における会社設立は、日本の制度と親和性の高い「股份有限公司」と「有限公司」という二つの主要形態を中心に、事業規模や目的に応じた柔軟な選択が可能です。特に2018年の会社法の大規模改正は、非公開会社の取締役会要件を大幅に緩和し、1名の取締役のみでの会社運営を可能にしたほか、オンライン株主総会の解禁や無額面株式の導入など、時代に即した極めて機動的な機関設計を実現しました。これにより、日本企業による100%子会社の設立や、スタートアップ企業の資金調達が以前にも増して容易になっています。

一方で、外国人投資家に対する経済部投資審議司の厳格な事前審査、就労ビザ取得を前提とした実務上の最低資本金の壁、さらにはマネーロンダリング防止のための厳格な情報開示義務など、台湾特有の法規制が存在し、これらに違反した場合には重いペナルティが科されるリスクがあることも事実です。また、取締役の忠実義務に関する最新の判例動向が示すように、会社役員に求められる責任は年々高度化しています。

これらの制度を的確に理解し、最新の法令や裁判例に基づいた強固なガバナンス体制を構築することは、台湾ビジネスを安全かつ持続的に成長させるための不可欠な要素です。モノリス法律事務所では、こうした台湾の最新の法制度と日本法との違いを深く踏まえ、現地の法規に準拠した最適な会社形態の選択や、機関設計に伴うあらゆる法的課題の解決に向けた各種手続きをサポートいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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