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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

インドでの移民・外国人法の施行:就労ビザ取得とe-FRRO登録実務

2025年移民・外国人法の施行:就労ビザ取得とe-FRRO登録実務

インドは世界有数の経済成長率と巨大な市場規模を背景に、グローバル展開を推進する企業にとって最重要拠点の一つとなっています。こうした中、外国人駐在員やビジネス渡航者の受け入れ体制に関わる法制度が歴史的な転換点を迎えました。2025年9月1日に施行された「2025年移民・外国人法」は、過去100年間にわたり複雑に絡み合っていた関連法規を完全に刷新し、入国管理システムの一元化とデジタル化を強力に推進する画期的な新制度です。

本記事では、この新しい2025年移民法の下での就労ビザ取得要件や、e-FRROを通じたデジタル滞在管理の手順について、日本の法律との重要な違いを交えながら網羅的に解説します。さらに、厳罰化されたペナルティ制度やインド国内の最新判例動向を深く分析し、インドでビジネスを展開する日本企業が適法かつ円滑に事業を継続するための強固なコンプライアンス体制を日本本社側で構築する方法をガイドします。

100年ぶりの刷新となる2025年移民法とインド入国管理の一元化

インド政府が新たに施行した「2025年移民・外国人法(The Immigration and Foreigners Act,2025)」は、インドの入国管理システムを近代化し、国家安全保障を強化すると同時に、適法なビジネス渡航者の利便性を向上させることを目的としています。この法律の最大の意義は、1920年旅券法、1939年外国人登録法、1946年外国人法、そして2000年移民(運送業者責任)法という植民地時代から続く4つの古い法律を廃止し、包括的な単一の法体系に統合した点にあります。(※各法律の英語正式名称は参考リンクを参照)これにより法解釈の曖昧さが排除され、インドにおけるビザの取得から滞在管理、出国に至るまでの一連のプロセスが高度にシステム化されました。

この新法に基づく具体的な運用規則として「2025年移民・外国人規則」が公布されており、諸手続きの要件や罰則の詳細が定められています。新法の公式な条文は、以下の公式PDFで確認することができます。

参考:The Immigration and Foreigners Act,2025

制度改正方針の中心にあるのが、デジタル技術を駆使した入国管理の高度化です。インド政府は「移民・ビザ・外国人登録追跡システム(IVFRT)」の運用を2031年まで延長し、多額の予算を投じてシステムの近代化を図っています。企業実務への影響が極めて大きい変更として、2026年4月1日より従来の紙の入国カードが完全に廃止され、すべての外国人渡航者に対してデジタル化された電子入国カード(e-Arrival Card)の事前提出が義務化されました。出張者や就労ビザを保有する駐在員は、インド行きのフライトに搭乗する前にオンラインでパスポート情報やフライト詳細、滞在先住所を入力し、生成されたQRコードを保持する必要があります。このような徹底したデジタル化は、インド政府が外国人の動態をリアルタイムで把握し、不法滞在やビザの目的外使用を厳格に監視する意図を明確に示しています。

電子入国カードに関する公式な手続き概要は、インド政府の関連機関サイトで案内されています。

参考:インド総領事館ウェブサイト

インド就労ビザ取得における2.5万ドル所得要件と日本法との差異

インド就労ビザ取得における2.5万ドル所得要件と日本法との差異

インドで外国人が適法に就労するためには適切な就労ビザを取得することが不可欠です。2025年移民法の下においても、就労ビザの取得要件は極めて厳格に設定されており、専門的なスキルや資格を持つ高度人材であることが大前提とされています。単なる事務職や単純労働に対しては就労ビザは発給されません。企業実務において最も留意すべきコンプライアンス要件は、年間2万5000米ドル(約162.5万インドルピー相当)以上の給与所得が保証されていなければならないという絶対的な所得基準です。

2万5000ドルの要件には、現金で支払われる基本給や手当に加えて、所得税の計算対象となる家賃無償供与などの現物給与を含めることができますが、厳密な計算と雇用契約書への明記が求められます。ただし、語学教師やエスニック料理の調理師、大使館スタッフなど一部の特定の職種については、この最低所得基準の例外が認められています。この就労ビザの所得要件について、日本の出入国管理及び難民認定法に基づく就労資格と比較すると、制度の思想に根本的な違いがあることがわかります。

比較項目日本の就労ビザ(技術・人文知識・国際業務等)インドの就労ビザ(Employment Visa)
報酬基準日本人が従事する場合と同等額以上の報酬(相対的基準)年間2万5000米ドル以上の総所得(絶対的基準)
地域差の考慮勤務地の物価水準や企業規模に応じた柔軟性あり全国一律で適用され、地域差の考慮なし
例外措置職種等による明確な年収の例外規定は少ない語学教師や特定職種に対する明確な免除措置あり
滞在管理方式物理的な在留カードの発行および市区町村での住民登録物理カードは発行されず、e-FRROポータルでの完全デジタル管理

日本の入管法では、地域の物価水準や企業の賃金体系に応じた柔軟性が一定程度認められています。これに対し、インドの就労ビザにおける2万5000ドルという要件は、現地の一般的な給与水準や新卒社員の賃金相場とは完全に切り離された、外形的な絶対額のハードルです。インド進出を果たした日本企業が若手社員を駐在員として派遣する場合、この高い所得基準をクリアするために給与体系や手当の設計をインド向けに特別に調整する法務戦略が必要となります。

さらに近年の重要な実務上の変化として、給与の支払い場所に関する要件の厳格化が挙げられます。一部のインド領事館やビザ申請センターでは、就労ビザの申請者に対して、給与がインド国内で支払われることの証明を求める運用が始まっています。以前は日本本社からの直接支給であっても、インドの所得税法に従って適切に納税が行われていれば問題視されないケースが多数ありました。しかし現在では、スポンサーとなるインド現地法人からの直接支払いであることが求められる傾向が強まっており、日本本社側でのグローバルな給与計算プロセスや税務設計の根本的な見直しが迫られています。

就労ビザの所得要件に関する公式なガイドラインは、インド総領事館のウェブサイトに詳細が記載されています。

参考:在サンフランシスコ・インド総領事館就労ビザ要件

デジタル滞在管理の要となるインドe-FRRO登録実務の完全ガイド

インドに入国した後の最も重要なコンプライアンス要件が、外国人地域登録局(FRRO)への登録手続きです。就労ビザや学生ビザなど、180日を超える長期滞在を前提としたビザを保有する外国人は、インド到着後14日以内にFRROへの登録を完了しなければなりません。現在、この登録プロセスは「e-FRRO」と呼ばれる完全なオンラインポータルを通じて行われています。申請者はe-FRROポータルにアカウントを作成し、パスポート、ビザ、雇用契約書、住居の証明書などの必要書類をデジタルデータとしてアップロードします。書類に不備がなく承認されれば、滞在許可証として機能する登録証明書が電子的に発行されます。特別な面接に呼ばれない限り、FRROのオフィスに直接足を運ぶ必要はありません。

この滞在管理システムは、日本の在留カードシステムとは大きく異なるアプローチをとっています。日本では、中長期在留者に対して主要空港の入国審査場で物理的なプラスチック製の在留カードが即日交付され、その後の住所登録手続きは居住地を管轄する市区町村の役場で行う仕組みとなっています。つまり、入国管理機能と住民登録機能が国と地方自治体で分担されています。一方、インドのe-FRROシステムでは日常的に物理的なカードは発行されず、すべての手続きと住所登録が中央政府直轄の入国管理局が運営するオンラインポータル上で一元的に処理されます。インドでは地方自治体の役所に出向く必要がない代わりに、e-FRROシステム上での情報の正確性と迅速なアップデートが絶対的な条件となります。

また、2025年移民法の下では外国人を宿泊させる側にも厳格な報告義務が課せられています。ホテルやゲストハウス、さらには賃貸アパートのオーナーなどの宿泊施設提供者は、外国人がチェックインしてから24時間以内に「Cフォーム」と呼ばれる報告書をオンラインで当局に提出しなければなりません。就労ビザで入国した直後にホテルに一時滞在する駐在員の場合、このCフォームの控えがe-FRRO登録時の初期の住所証明として利用されることが多く、ホテル側の迅速な手続きが駐在員自身の登録手続きの成否を左右することになります。日本企業は、駐在員が滞在するホテルが適切にCフォームを提出できる施設であるかを事前に確認しておく必要があります。

インド2025年移民法の厳罰化とビザ登録遅延時のペナルティ回避策

インド2025年移民法の厳罰化とビザ登録遅延時のペナルティ回避策

2025年移民法の施行に伴い、ビザ条件の違反や不法滞在に対するペナルティはかつてないほど厳罰化されました。新法は外国人の動態監視を強化し、国家の安全を脅かす行為や不法就労に対して強力な抑止力を持たせています。

2025年移民法に基づく違反行為罰則内容
有効なパスポートやビザを持たない不正入国最長5年の禁錮刑および最高50万ルピーの罰金
偽造された渡航文書やビザの使用・供給2年以上7年以下の禁錮刑および10万〜100万ルピーの罰金
ビザのオーバーステイや許可外活動(就労ビザ以外の就労など)最長3年の禁錮刑および最高30万ルピーの罰金

企業の実務において特に注意すべきは、就労ビザの期限切れによるオーバーステイや、ビザの目的に反する活動を行った場合の罰則です。e-FRROへの登録を14日以内に完了できなかった場合も深刻な違反とみなされ、高額な遅延損害金が発生するだけでなく、将来的なビザの更新拒否や出国時の足止めといった重大な事態を引き起こす原因となります。出張者が観光ビザで入国し、実質的な就労活動や技術指導を行ってしまった場合も、新法の下では厳しく処罰される対象となります。

しかしながら、インド政府はビジネスの継続性を阻害しないための現実的な法的救済措置も用意しています。それが、2025年移民法第25条に規定されている「違反のコンパウンディング(Compounding of certain offences)」と呼ばれる制度です。この制度は、ビザ条件の違反やオーバーステイなどについて、起訴前または裁判中のいずれの段階でも、中央政府が官報で指定した機関に申請し、当該違反の罰金上限額を超えない範囲で定められた金額を納付することで、正式な刑事裁判手続きによらずに法的に事案を終結させることができる仕組みです。企業や個人に対する刑事訴追の負担を軽減し、迅速に法的なクリーンステータスを回復させる機能を持っています。なお、コンパウンディングが認められるのは不法入国(第21条)、オーバーステイや条件違反(第23条)、これらへの幇助(第24条)に限定されており、偽造文書の使用・供給そのもの(第22条)はコンパウンドの対象外とされています。また、コンパウンディング制度は一度利用すると、その後3年間は同じ違反に対して再適用することができないという厳格な制限が設けられており、反復的な違反に対しては容赦なく刑事罰が適用されます。

日本企業としては、万が一e-FRROの登録遅延などの違反が発生した場合には、直ちに法務専門家を通じてこのコンパウンディング制度の適用を申請し、被害を最小限に食い止める防衛策を講じることが不可欠です。

インドの最新判例が示すビザ要件と雇用企業の厳格な責任

インドにおける外国人労働者の滞在資格は、スポンサーとなる雇用企業のコンプライアンス状況と極めて密接に結びついています。この関係性を明確に示した重要な判例が、カルナータカ州高等裁判所において2026年2月9日に判決が下された「Christopher Charles Kamolins 対 Union of India(W.P. No. 26412 of 2019 (GM-RES), 2026:KHC:8290)」事件です。この事件において、オーストラリア国籍の原告はインド国内の企業でゼネラルマネージャーとして就労ビザ(E-2)を取得していましたが、外国人地域登録局から「インド出国通知(Leave India Notice:LIN)」を受けました。原告は、LINの発出に先立って自身に対する個別の聴取や弁明の機会が与えられなかったことは自然の正義の原則に反し違法であると主張し、LINの取り消しを求めて提訴しました。

カルナータカ州高等裁判所のSuraj Govindaraj裁判官は原告の主張を退け、訴訟を棄却しました。原告がすでに2019年11月にインドを出国し、就労ビザも2020年1月に失効、その後インド政府からビジネスビザや観光ビザの発給を受けていたことから、本件は訴訟上の利益が消滅した学術的問題(infructuous)となったためです。実務上重要なのは、LIN自体についても違法性・自然的正義の違反・恣意性・憲法上の瑕疵はいずれも認められないと裁判所が明示した点です。裁判所の論理の核心は、就労ビザの発給要件である「インド人資格者が市場に見当たらないこと」などの法定申告を行ったのはスポンサー企業であり、当局がその企業に対して答弁書提出命令(Show Cause Notice)を発行し企業側に弁明の機会を与えた時点で、手続き的な公正性は十分に満たされているという点にあります。つまり、違反の根本的な事実関係が雇用企業の支配領域内にある場合、従業員個人に対して独立した聴取の機会を与える法的義務は当局にはないと判断されたのです。

この判決がインド進出企業に与える企業実務への影響は計り知れません。現地の雇用企業がビザ取得のために要件を誇張したり、不正確な法定申告を行ったりした場合、その責任は企業に対する罰則にとどまらず、駐在員本人へのLIN発出や国外退去処分という形で直接的に跳ね返ってきます。就労ビザはあくまで企業の適法なスポンサーシップの上に成り立つ派生的な在留資格であり、企業側のコンプライアンス違反はその法的基盤を瞬時に失わせることになります。日本本社は、インド現地法人の人事部や外部の申請代行業者任せにするのではなく、ビザ申請時に提出されるすべての申告内容が客観的な事実に基づいているかを厳格に監査する法務体制を敷く必要があります。

この判決に関する詳細な法的論理は、インドの判例データベースで判決文全文を確認することができます。

参考:カルナータカ州高等裁判所「Mr Christopher Charles Kamolins v. Union of India」W.P. No. 26412/2019(GM‑RES)2026年2月9日判決 Neutral Citation:2026:KHC:8290

適法なインド滞在と活動を担保するコンプライアンス体制を構築

適法なインド滞在と活動を担保するコンプライアンス体制を構築

2025年移民法の下で高度化・厳格化されたインドの入国管理制度に対応するためには、現地法人だけに手続きを委ねるのではなく、日本本社が主導して包括的なコンプライアンス体制を構築することが不可欠です。まず第一に、赴任予定者の選定段階から、就労ビザの2万5000ドルという最低所得基準をクリアするための給与設計を綿密に行う必要があります。インド国内での支払い要件が強化されている現状を踏まえ、日本での給与支給分とインドでの給与支給分の割合を見直し、現地の税務当局および移民局に対して明確に証明できる透明性の高い給与体系を確立しなければなりません。

第二に、デジタル化された手続きに対する厳格な期日管理システムの導入です。2026年4月から義務化された電子入国カードの搭乗前登録手続きや、入国後14日以内のe-FRROへの登録、さらには登録完了後のビザ更新期日などを一元的にトラッキングする社内データベースを構築するべきです。特にe-FRROの登録においては、提出書類の僅かな不備が深刻な遅延を招き、高額なペナルティや不法滞在リスクに直結します。日本の管理部門がプロセス全体を監視し、ホテル側によるCフォームの提出状況や、アパートメント賃貸時の契約書の適法性を迅速に確認できるワークフローを整備することが求められます。

さらに、現地での監査に備えた記録の保持も重要な防衛策となります。2025年移民法では、当局の職員が企業のオフィスに立ち入り、外国人従業員に関する記録を監査する権限が明記されており、この規定の運用が強化されています。企業はすべての外国人従業員のパスポート、就労ビザ、e-FRROの登録証明書、給与支払い記録、納税証明書を常に最新の状態でデジタルアーカイブ化し、当局からの提示要求に即座に応じられる体制を整えておく必要があります。

まとめ

2025年移民法の施行は、過去100年間のインドにおけるビザおよび滞在管理の概念を根底から覆し、徹底したデジタル監視網と違反に対する厳しい罰則を伴う新たな時代を幕開けさせました。就労ビザ取得における2万5000ドルの厳格な最低所得要件の順守や、到着後14日以内のe-FRRO登録といった法定要件は、わずかな手続きの遅延や企業の申告ミスが、直ちに駐在員の国外退去命令や企業のブラックリスト化といった致命的な事業リスクに直結する性質を持っています。前述のカルナータカ州高等裁判所の判例が示す通り、適法な滞在資格の維持は企業側の完全なコンプライアンスの上にのみ成立するものです。インドで事業を成功させるためには、日本の法令とは根本的に異なるこれらの厳格なルールを深く理解し、日本本社が主導して現地法人のガバナンスを効かせる予防法務の視点が欠かせません。

このような高度に専門的かつ流動的なインドの法制度において、事業継続を支える強固な法務戦略を立案するためには、現地の法令と実務に精通した専門家の介入が不可欠です。モノリス法律事務所は特にIT関連に専門性を有する法律事務所として、高度なコンプライアンス体制の構築を支援しています。当事務所はインドの法律事務所と提携しており、現地の最新法令や複雑な行政手続きに迅速かつ正確に対応することが可能です。インド市場への進出や事業拡大に伴う外国人従業員の適法な受け入れ体制の構築、給与体系のリーガルチェック、さらには予期せぬビザトラブル発生時の法的な防衛策の提供を通じて、グローバルに躍進する日本企業のビジネス展開を強力にサポートいたします。法律の改正が企業の推進力となるか、あるいは重大なリスクとなるかは、事前の法務戦略と適切なパートナー選びにかかっています。

モノリス法律事務所は、インド法務に関する調査および情報提供を目的として、現地法律事務所Quest IP Attorneysと非独占的な提携関係(Associate Firm / Correspondent Firm)にあります。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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