アルメニアの税法とIT分野向け大型税制優遇措置(2025-2031年)

アルメニア共和国(以下、アルメニア)が導入した、世界的に見ても極めてアグレッシブな税制優遇措置は、日本企業にとっても見過ごせない選択肢です。まず、アルメニアの標準的な法人所得税(CIT)率は、課税所得に対して一律18%です。これは、「アルメニア共和国税法典」(TAX CODE OF THE REPUBLIC OF ARMENIA)第118条第1項に規定されており、日本の実効税率(大企業で約30%台)と比較し、既に大きな税制上の優位性があります。
さらに本命と言えるのが、2025年1月1日から2031年12月31日まで施行される、IT・ハイテク分野に特化した時限的な大型優遇措置パッケージです。この新制度は、認定を受けたハイテク企業に対し、以下の3つの柱を中心とする破格の選択肢を提供します。第一に、標準の18%法人税に代わり、利益ではなく「売上高全体に1%のみを課税する」という「1%売上税(Turnover Tax)」の選択肢です。第二に、認定されたR&D活動に従事する人材の「個人所得税(PIT)を標準の20%から10%へ半減」する措置です。そして第三に、標準の18%法人税を選択した場合に、R&D人材に支払った「給与の200%(2倍額)を損金(費用)として算入」できる措置です。
これらの措置の背景には、アルメニア政府が自国を、ペーパーカンパニーが跋扈する単なる租税回避地(Tax Haven)としてではなく、実態のあるR&D投資と高度人材が実質的に集積する「タックス・ヘブン(Tax Heaven)」(税制上の聖域)として国家的にブランディングしようとする明確な戦略があります。
本記事では、これらの新税制について、その具体的な法的根拠、そして優遇措置を享受するためにクリアすべき厳格な法的要件を、法務・税務の観点から詳細に解説します。特に、これらの破格の優遇措置が自動的に適用されるわけではなく、要件(例えば「90%収益要件」や「R&D認定」)を満たす必要がある点は、進出を判断する上で不可欠な法的論点となります。
この記事の目次
アルメニアの標準税制と日本法との比較
アルメニアの税制は、2020年の大幅な税制改正を経て、非常にシンプルかつ競争力のある構造を採用しています。まず、法人の課税についてです。アルメニアの居住法人(Resident corporate income taxpayers)は、その全世界所得に対して法人所得税(CIT)を納付する義務を負います。その標準税率は、「アルメニア共和国税法典」(TAX CODE OF THE REPUBLIC OF ARMENIA)に基づき、課税所得(Taxable profit)に対して一律18%と定められています。日本の法人実効税率が、国税である法人税に加え、地方法人税、事業税、住民税などを合わせ、標準的な大企業(資本金1億円超)の場合で約30.62%程度となることと比較すると、アルメニアの18%という税率は12%以上低い水準であり、標準税制の時点でも税務上のインセンティブは非常に大きいと言えます。
次に、個人所得税(PIT)です。日本が所得に応じて税率が上昇する累進課税制度を採用しており、給与所得者の場合、住民税と合わせると最高税率が55.95%に達するのに対し、アルメニアは2020年の改正により、所得額にかかわらず一律20%のフラットタックス(Flat Tax)を導入しています。この制度は、税務申告が簡素であるだけでなく、特に高額な報酬を得る高度専門人材(エンジニア、研究者、経営幹部など)にとって、手取り額が大幅に増加するという強力な誘因となります。標準税制の時点で、法人・個人ともに日本と比較して大幅に低い税率が設定されている点が、アルメニアの第一の魅力です。
アルメニアにおけるハイテク分野向け大型税制優遇措置(2025年)の法的根拠

アルメニア政府は、上記の競争力のある標準税制に加え、IT・ハイテク分野を国家戦略の柱と位置づけ、さらに踏み込んだ優遇措置を導入しました。この大型優遇措置は、アルメニア国民議会(National Assembly)が2024年12月4日に採択した一連の法律によって導入されたものです。
中核となる法律は、「ハイテク分野の国家支援に関する法律」(Law No. HO-498-N “On State Support of the High-Tech Sector”)、およびそれに伴う「アルメニア共和国税法典の改正および補足に関する法律」です。これらの法律は、優遇措置の施行期間を2025年1月1日から2031年12月31日までの7年間と明確に定めています。企業に対し、7年間という中長期的な税務予測可能性(Tax predictability)を与えるものであり、これは大型投資を呼び込む上で重要な法的安定性(Legal stability)を担保するものです。
これらの法律の立法趣旨は、「ハイテク分野の国家支援に関する法律」の条文からも明らかです。同法は、その目的として「競争力の向上」「新規労働力の誘致」「従業員の継続的な技能向上」、そして「(アルメニアの)ハイテク製品の輸出国としての地位強化」を明確に掲げています。アルメニアのハイテク産業大臣は、この立法プロセスにおいて「アルメニアはサービス提供国から、国際市場に(自国で開発した)製品を供給する国に移行すべきである」と述べており、R&D(科学研究)の促進が国家戦略の核心であることが示されています。
アルメニアにおける優遇措置適用のための厳格な法的要件
これらの破格の優遇措置は、アルメニアで法人を設立すれば自動的に適用されるものではありません。適用を受けるためには、法律に定められた要件を満たし、政府の認定・登録プロセスを経る必要があります。
要件1:ハイテク産業省への登録・認定
優遇措置(特に1%売上税や各種の給与関連サポート)を受ける大前提として、企業はアルメニアのハイテク産業省(Ministry of High-Tech Industry)が管理する公式のハイテク部門レジストリ(公式登録簿)に登録(Enrollment)しなければなりません。この登録プロセスは単なる届出ではなく、事業計画書(プロジェクト)、法定文書、従業員情報などを提出し、政府が設置する専門委員会による審査を受ける必要があるとされています。
要件2:「90%収益要件」(The 90% Revenue Test)
最も厳格かつ重要な実体的要件が、通称「90%収益要件」です。優遇措置の適用対象となる企業は、「総売上高(Turnover)の少なくとも90%」を、「政府が承認したハイテク活動のリスト」に含まれる活動から得なければならない、と定められています。
この要件は、日本企業にとって最大の法務・コンプライアンス上のハードルとなり得ます。なぜなら、この「90%ルール」は、企業が認定活動の「ほぼ専業(Pure-play)」であることを法的に要求するものだからです。例えば、ある日本企業がアルメニアに拠点を設け、認定対象の「ソフトウェア開発」(売上の85%)と、認定対象外の「一般的なITコンサルティング」や「ハードウェア販売」(売上の15%)を混在させて運営した場合、この企業は90%要件を満たせないことになります。その結果、1%売上税や200%損金算入といった全ての優遇措置の適用資格を失うという重大なリスクに直面します。
したがって、日本企業がアルメニア進出を検討する際は、既存の多角的な事業部門の一部としてアルメニアに支店(Branch)を置くのではなく、90%要件を確実に満たすための「専用の現地法人(子会社)」を設立するという、戦略的な法人設立(Corporate Structuring)が実際問題として不可欠となります。また、設立後も、クライアントとの契約書において提供する役務が「政府承認リスト」に該当することを法的に明確化し、経理上も収益を適格収益と非適格収益に明確に区分(Tagging)する内部管理体制の構築が必須です。
要件3:承認対象となる「ハイテク活動」
政府が承認する「ハイテク活動」のリストは、欧州で標準的に用いられる事業活動分類(NACEコード)に準拠していると見られています。具体的には、以下のような活動分野が含まれます。
- J58.2:ソフトウェア出版(Software publishing)
- J62.01:コンピュータプログラミング活動(Computer programming activities)
- J62.02, J62.03:コンピュータコンサルタントおよびコンピュータ施設管理活動
- J63.11:データ処理、ホスティングおよび関連活動(Data processing, hosting)
自社の事業がこれらの認定活動に該当するか否かの事前確認も、極めて重要です。
【アルメニア優遇措置の選択肢1】1%売上税(Turnover Tax)
利益ではなく総売上高に対する課税
上記の厳格な要件(ハイテク認定、90%収益要件)を全て満たした企業は、2つの主要な税務レジームから1つを選択することになります。その一つが、「1%売上税」という極めて強力な優遇措置です。
適格ハイテク企業は、標準的な税制である「18%法人所得税(CIT)」と「20%付加価値税(VAT)」の納税義務に代えて、「売上税(Turnover Tax)1%」を選択することが可能になります。この制度は、企業の利益(Profit)に対して課税するのではなく、企業の総売上高(Gross Turnover)に対して一律1%のみを課税するというものです。
この制度は、売上総利益率(Gross Margin)が極めて高いビジネスモデルにとって、税負担を劇的に軽減する効果を持ちます。例えば、年間売上が5,000万円、経費を差し引いた利益が4,000万円の企業を仮定します。
- 標準税制(18%CIT)の場合:利益4,000万円 *18% = 720万円 の法人税(及び別途VATの納税義務)
- 1%売上税を選択した場合:売上5,000万円*1% = 50万円 の売上税(CITとVATは免除)
このように、利益率の高いIT企業にとっては、極めて大きい税務メリットを提供します。
売上高の上限に関する条文の適用有無
しかし、この「1%売上税」の選択には、法解釈上の重大なリスクが潜在しています。それは、アルメニアの既存の売上税制度(主に中小企業(SMEs)向け)に存在する、年間売上高の上限(Threshold / Cap)の適用の有無です。
アルメニアの税法典では、売上税制度の適用対象者を、原則として前年の売上高がAMD 1億1,500万(約4,500万円)を超えない事業者(納税者)に限定しています。アルメニア国内で議論されている模様ですが、今回の「IT向け1%売上税」は、既存の売上税制度の枠組みの中で、IT分野に限り税率を(従来のIT向け5%からも)1%に引き下げた特別措置と解釈されることが一般的であるようです。
すなわち、複数の現地法律専門家や会計事務所による分析によれば、この新しい1%優遇税制にも、既存の売上税制度の上限であるAMD 115Mが引き続き適用されると指摘されています。もしこの解釈が正しければ、年間売上がこの上限(約4,500万円)を超えた企業は、1%売上税の適用資格を失い、その時点から強制的に標準税制(18%CIT + 20%VAT)に移行させられることになります。
この上限額(約4,500万円)は、日本企業が設立する開発拠点や、急成長を目指すスタートアップにとっては、進出初年度または2年目には容易に超過しうる、非常に低い金額です。したがって、この「1%売上税」は、現状の法解釈が正しければ、ごく小規模なスタートアップや、進出初期の小規模オフィスに限定された優遇措置である可能性が高く、本制度を「大型」優遇措置として検討している中・大企業にとっては、致命的な制限(Critical Limitation)となり得ます。
進出を検討する企業は、このAMD 115Mの上限が、2024年12月の法改正によってハイテク企業に限り明確に撤廃されているか否か、進出前に(可能であれば書面で)確認することが絶対に不可欠です。
【アルメニア優遇措置の選択肢2】18%CIT + R&D人材給与の200%損金算入
R&Dに関する強力な優遇措置
前述の「1%売上税」が売上高上限のリスクにより適用困難、または適用が不利と判断した場合、適格ハイテク企業は、標準の18%法人所得税(CIT)を選択することになります。その場合、代替的に「R&Dに関する強力な優遇措置」を享受できます。
その中核となるのが、2024年12月の税法典改正により導入された「R&D人材給与の200%損金算入」措置です。これは、適格なハイテク分野の専門業務(政府定義リストに基づく)に従事するスタッフに支払った給与および同等の支払額の200%(つまり2倍の金額)を、課税所得の計算上、費用(損金)として控除(Deduct)できるという制度です。
例えば、ある企業が18%CITを選択し、年間の利益(売上から経費を引いた額)が1億円、R&D人材への適格給与支払額が年間6,000万円だった場合を考えます。
- 通常の場合:課税所得1億円に対し、1億円*18% = 1,800万円の法人税が課されます。
- 優遇適用の場合:支払った給与6,000万円は、通常の経費として既に利益計算(1億円の算出)上、控除されています。本措置により、さらに追加で6,000万円(支払額の100%分)が課税所得から控除されます(合計で6,000万円の200%が控除される)。
- その結果、課税所得は 1億円 – 6,000万円(追加控除) = 4,000万円 となります。
- この圧縮された課税所得に対し、4,000万円*18% = 720万円 の法人税が課されます。
このように、人件費がコストの大半を占めるR&D拠点において、支払った給与の2倍額を経費計上できる本制度は、課税所得を劇的に圧縮する効果を持ちます。
日本の「研究開発税制」との根本的な違い
このアルメニアの制度は、日本の「研究開発税制」とは制度設計が根本的に異なる点に注意が必要です。日本の制度は、R&D費用(人件費、原材料費など)に一定率を乗じた金額を、算出された「法人税額」から直接控除する「税額控除(Tax Credit)」です。また、「法人税額の25%まで」といった控除上限(Cap)が厳格に設定されています。
一方、アルメニアの制度は、税額(Tax)から引くのではなく、税額計算の元となる「課税所得(Income)」から控除する「損金算入(Deduction / 所得控除)」です。しかも、その控除額が支払額の2倍(200%)に達するという点で、非常に強力です。赤字企業には効果がない(所得がないため)という点は共通ですが、利益が出ている企業にとっては、アルメニアの制度は日本の税額控除制度よりも遥かに強力なインセンティブとなり得ます。
200%損金算入の法的留意点
この200%損金算入措置にも、法務上の重要な制限があります。第一に、対象となる人材の制限です。この優遇措置は、「アルメニアの居住権(Residence Status)を持たない外国籍者および無国籍者」は除外される、と規定されています。これは、日本から派遣された駐在員が、アルメニアの居住権をまだ取得していない初期段階においては、その高額な給与が200%損金算入の対象外となる可能性が高いことを意味します。現地採用のアルメニア人技術者や、既に居住権を持つ外国人技術者の給与が主な対象となると解釈されます。
第二に、適用上限の存在です。一部の専門家の分析によれば、この追加控除分(支払額の100%相当額)については、「(追加控除前の)課税所得の50%」といった適用上限が設定される可能性があると指摘されています。この点についても、詳細な法令の確認が求められます。
アルメニアにおけるR&D人材の個人所得税(PIT)10%軽減措置

上記の法人課税の優遇措置に加え、アルメニア政府は高度人材そのものを誘致するための個人所得税(PIT)の優遇措置も導入しました。前述の通り、アルメニアの標準PITは一律20%ですが、特定の要件を満たすR&D(科学研究および実験開発)活動に従事する従業員の給与については、個人所得税(PIT)率が10%に軽減されます。
この措置は、企業が「1%売上税」を選択した場合でも、「18%CIT + 200%損金算入」を選択した場合でも、R&D活動が別途認定されれば適用可能と解釈されます。
「R&D活動」の認定プロセス
ただし、注意すべきは、この10%PITの適用を受けるための要件が、前述のハイテク産業省への一般登録よりも遥かに厳格である点です。
この措置の適用を受けるには、企業が実施するプロジェクトが「科学研究および実験開発(R&D)」に該当するとして、専門委員会から「肯定的結論(Positive Conclusion)」を取得しなければなりません。アルメニア政府は、この認定プロセスを管理するため、2025年2月13日付決定No. 195により、「科学研究および実験開発業務を認定するための専門家委員会」を高等教育科学委員会(Higher Education and Science Committee)の傘下に設立しました。
企業は、同委員会のポータルサイトを通じてR&Dプロジェクトを申請する必要があります。認定されるR&D活動は、国際的な基準(オスロ・マニュアルなど)に準拠し、「新規性(Novelty)」「創造性(Creativity)」「結果の不確実性(Outcome uncertainty)」「体系性(Systematicity)」「再現可能性(Replicability)」といった5つの厳格な基準を同時に満たす必要があると定められています。これは、一般的なIT開発(例:既存のフレームワークを用いたウェブサイト制作や業務システム開発)は対象外であり、真にイノベーティブな「研究開発」のみを対象とする、的を絞ったインセンティブであることを示しています。
60% PIT「還付」措置との違い
2025年の新法を理解する上で、上記の「10% PIT(税率軽減)」措置と、もう一つの「60% PIT(還付措置)」は、法務上、明確に区別する必要があります。
「60% PIT還付」措置とは、「ハイテク分野の国家支援に関する法律」第5条に基づき、認定ハイテク企業が雇用する「新規雇用者(初めてハイテク分野で働く従業員)」や「労働移民(外国人労働者)」の給与から(標準の20%で)源泉徴収したPITの60%を、四半期ごとに国が企業に対して還付(Reimbursement)する制度です。
この「60%還付」は、R&D認定を必要としない(ハイテク産業省の一般登録のみでよい)、「採用(Hiring)支援」を目的とした「国家支援金(補助金)」としての性格が強い制度です。一方で「10%PIT」は、厳格なR&D認定を必要とする「税率の軽減」です。両者の適用関係(例えば、R&D認定を受けた新規雇用者のPITは10%となり、さらにその10%から60%が還付されるのか、あるいは併用は不可なのか)については、今後の実務運用を注視し、法務確認を行う必要があります。
アルメニア進出を検討する日本企業が取るべきアプローチ
アルメニア進出を検討するハイテク企業は、2つの主要な税務レジーム(1%売上税 vs 18%CIT + 200%損金算入)のどちらを選択するか、法的要件と自社の事業計画に基づく判断を迫られます。
日本の税制と、アルメニアにおける2つの選択肢の長所・短所を比較すると、以下の表のように整理できます。
| 日本の標準税制 | アルメニア(選択肢1:1%売上税) | アルメニア(選択肢2:18%CIT + R&D) | |
|---|---|---|---|
| 法人課税 | 実効税率 約30.6%(利益に対して) | 売上の1% | 利益の18% |
| R&D費用(給与) | 税額控除(最大で法人税額の25%等) | (適用なし) | 損金算入(対象給与の200%) |
| R&D人材PIT | 累進課税(最大55.95%) | 10%(要R&D認定) | 10%(要R&D認定) |
| 主な要件 | R&D費用の定義合致 | ・ハイテク認定 ・90%収益要件 ・売上高上限 (AMD 115M) のリスク | ・ハイテク認定 ・90%収益要件 ・R&D認定(10%PIT適用時) ・(200%控除は)居住権要件 |
| 適した企業像 | 利益率が非常に高い、かつ、売上高が(当面)約4,500万円を超えないスタートアップ | 大規模なR&D拠点を設立し、現地で高度人材を多数雇用する企業 |
上記の比較から、企業が取るべき戦略は、その事業規模と事業内容によって明確に分かれます。
まず、利益率が極めて高く、かつ年間売上がAMD 115M(約4,500万円)の上限に当面抵触しないと見込まれる場合、「1%売上税」は最も税負担を軽減する強力な選択肢です。ただし、前述の通り、この上限適用のリスクについては、進出前の確認が不可欠です。
次に、日本企業が本格的なオフショア開発拠点やR&Dセンターを設立し、売上がAMD 115M(約4,500万円)を大幅に超えることが当初から想定される場合、「1%売上税」は(現状の法解釈リスクに基づけば)選択肢となりません。
この場合、必然的に「18%CIT + 200%損金算入」のレジームを選択することになります。この選択は、日本(税額控除)と比較しても、R&D人件費の2倍額を損金算入できる点で極めて強力な優遇措置です。特に、現地で多数のR&D人材を雇用(居住権を持つ者に限る)する計画であれば、実効税率を劇的に引き下げる可能性があります。
まとめ
アルメニアは、標準法人税率18%という低い基盤に加え、2025年から2031年までの時限措置として、IT・ハイテク分野に特化した世界でも類を見ない強力な税制優遇措置を導入しました。この優遇措置は、「1%売上税」という選択肢と、「18%CIT + R&D給与の200%損金算入」という選択肢を企業に提供するものであり、日本のIT・ハイテク企業にとって、アルメニアをオフショア開発・R&D拠点として活用する上で、世界で最も魅力的な法制度の一つと言えるでしょう。
しかし、これらの破格の優遇措置は、アルメニア政府の「タックス・ヘブン(Tax Heaven)」戦略の表れであると同時に、その適用には厳格な法的要件が伴います。本記事中で解説したとおり、進出前にクリアすべき法務・コンプライアンス上のハードルは非常に高いものがあります。
これらの優遇措置を最大限に活用し、同時に法的なリスクを回避するためには、現地法令の条文解釈と最新の運用(特に売上高上限の適用有無やR&D認定の実際)を深く理解した上で、自社の事業計画に合わせた戦略的な法人ストラクチャリングと法務レビューが不可欠です。
アルメニアへの進出や、本件のような海外の特殊な税法務・コンプライアンス対応の検討には、専門的な知見が求められます。当事務所は、こうした海外の先進的な法制度や税制に関するご相談、特にIT・ハイテク分野の国際展開における法務サポートを行っております。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務

































