弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

アートメイクは医行為?美容クリニックが注意すべき厚生労働省の新通達とは

アートメイクは医行為?美容クリニックが注意すべき厚生労働省の新通達とは

眉やアイラインのアートメイクは、美容クリニックで気軽に施術できて、水でも落ちず、メイクの時短にもなるため、人気を集めています。

令和5年(2023年)7月3日、厚生労働省から「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて」という新たな通達が出されました。

ここでは、アートメイクとは何か、新しい通達によってどのような影響があるのかについて詳しく解説します。

アートメイクは違法?厚生労働省の見解

アートメイクとは

アートメイクとは、美容の一環として行われる皮膚への色素注入の技術で、眉毛やアイラインを描く行為などが含まれます。

アートメイクでは、専用の針を使用し、皮膚の浅い層に専用の色素で色を描き入れます。これらの行為は、一定の侵襲性(皮膚に針を刺すことで身体に損傷や侵入を伴う処置)が認められ、医療従事者による安全性の水準確保がきわめて重要とされています。

このようなリスクを踏まえ、厚生労働省は令和5年(2023年)7月にアートメイクを「医行為」に該当し得るとの見解を示しました。

医師法第17条では、医師以外が医行為を反復・継続して行うことを禁じているため、医師免許を持たない者がアートメイクを業として行うことは、同法に違反します。

厚生労働省の見解にいたるまでには、類似の皮膚への色素注入行為であるタトゥー施術をめぐる法的議論がありました。次に、アートメイクと似た施術であるタトゥーを巡る判決の経緯を見ていきましょう。

アートメイクとタトゥー施術行為の違いをめぐる最高裁の判決

アートメイクとタトゥーの法的位置づけを理解するには、令和2年(2020年)の最高裁の判決を押さえておく必要があります。ここでは、裁判の経緯と判決内容について解説します。

争われた経緯

本件は、医師免許を持たない彫師が依頼を受けてタトゥー施術を行い、医師法違反で起訴された事件です。

問題となったのは、彫師が業として行った施術が「医行為」に当たるか否かでした。厚生労働省は令和3年(2001年)に「針先に色素を付けて皮膚に注入する行為は医行為である」と通知しており、この方針に基づき摘発が行われています。

一審の大阪地裁は、施術には感染症の危険があり、医学的知識が必要と判断して有罪としました。この判決に対し、二審の大阪高裁は、タトゥーが社会的に装飾や美術の一環として位置づけられている点を踏まえ、医療目的ではないとして無罪を言い渡しました。

結論が分かれたため、最高裁での審理に持ち込まれました。

第1審判決(大阪地裁)

第1審判決では、無資格者によるタトゥー施術が医師法違反に該当するとして、被告人に罰金15万円の有罪判決が言い渡されました。この判断の根拠は「医行為」の定義にあります。

医行為とは「医師でなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と解釈されており、裁判所はタトゥー施術がこの定義に該当すると認定しました。

裁判所が判断するにあたり、重視した点は以下のとおりです。

  • 被告人が行ったタトゥー施術は、医師が行わなければ皮膚障害などの健康上の危険を伴う行為であること
  • タトゥーが長年無資格者によって施術されてきた社会的実態があるとしても、それだけでは医師法違反を正当化する根拠にはならないこと

以上の理由から、裁判所は被告人の行為が医師法に違反すると認定し、刑事責任を問うのが妥当であると結論づけました。

第2審判決(大阪高裁)

第2審判決では、彫り師の控訴が認められたため第1審判決は破棄され、被告人に無罪判決が言い渡されました。この逆転判決の背景には、医行為の法的解釈の違いがあります。

第2審では医行為の定義をより厳格に解釈し、「保健衛生上の危害のおそれ」があるだけでは不十分で、「医療および保健指導に属する行為」であることが必要と判断しました。

判断の相違点は以下のとおりです。

  • 第1審:医行為を「保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」のみで判断
  • 第2審:医行為を「医療および保健指導に属する行為の中で、医師が行わなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と限定的に解釈

その結果、被告人のタトゥー施術は確かに皮膚障害などの危険性はあるものの、「医療および保健指導に属する行為」には該当しないと認定されました。

最高裁決定(令和2年9月16日)

最高裁第二小法廷は検察側の上告を棄却し、二審の無罪判決を確定させました。この決定により、タトゥー施術には医師免許を必要としないとする初の司法判断が示されました。

最高裁は「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師でなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」を医行為と定義しました。

そのうえで、行為の方法や作用だけでなく、目的、施術者と依頼者の関係、行為が行われる状況、社会的受け止め方などを総合的に考慮し、社会通念に照らして判断すべきと基準を示しています。

タトゥーは装飾的・美術的な性質を持つ社会的風俗であり、医療行為とは異質と評価されました。また、彫り師による長年の施術の実態や、医師が習得し得ない特殊な技能である点も踏まえ、医行為には該当しないと結論づけています。

さらに裁判長は、医師資格を必須とすれば施術者が消失しかねず需要を否定する理由もないとして、新たな立法による合理的な規制の必要性を指摘しました。

最高裁の決定を受けた後の厚生労働省の対応

最高裁は、タトゥー施術には医師免許は不要であると判示しました。この判断は、長年にわたり彫り師が行ってきた歴史的実情を考慮したものです。これを受けて厚生労働省は、令和5年(2023年)7月3日に新たな通達を発表しました。

通達では、タトゥー施術は医行為に該当しないと判示されたものの、アートメイクについては医療行為の一環として医師や看護師などの医療従事者が関与している実態があることから、医行為として否定されるものではないと述べています。

参考:令和2年9月16日最高裁決定

アートメイクが違法とされる根拠:「医行為」と「医療行為」の違い

通達中にある「医行為」とは、「医療行為」とどう違うのでしょうか。「医行為」という言葉は法令で定義されていませんが、厚生労働省通達では以下のように定義されています。

ある行為を行うにあたり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為は医行為とされ、当該行為を反復継続する意志をもって行うことは「医業」にあたる。医師法第17条においては、「医師でなければ、医業をなしてはならない」とされており、医師以外の者が医業を行うことはできないとされている。

厚生労働省「医行為範囲の明確化等について」

一方、「医療行為」の定義は必ずしも明確ではなく、「人間の傷病の治療・診断または予防のため、医学に基づいて行われる行為」を指します。これには、代替医療や統合医療を含めた医療全般の行為が含まれます。

つまり、「医行為」は特定の資格(例えば、医師免許)を持つ者だけが行える特別な行為を指し、「医療行為」はより広範で、一般的な健康管理から専門的な治療までを含む概念です。

これまでもアートメイクは医療の一環として医師・看護師等の医療従事者が関与している実態があり「医療行為」と考えられていましたが、この通達によって、アートメイクが「医行為」に該当するということが改めて確認されたという形になります。

なお、看護師は医師免許を持っていませんが、医師の指示のもとであれば、看護師もアートメイクの施術がおこなえます。准看護師については、医師法に明確な記載がないため、准看護師が施術をおこなうか否かは、美容クリニックの解釈に一任されているのが現状です。

厚生労働省の通達で医行為とされたアートメイクとは

厚生労働省の通達で医行為とされたアートメイクとは

令和5年7月3日、厚生労働省は「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて」の通知を出しました。この通知では、医師免許を有しない者がアートメイクを行うことについて、医行為該当性が肯定できるとされています。

具体的には、「医療の一環として医師・看護師等の医療従事者が関与している実態があることから、医行為該当性が否定されるものではない」というものでした。つまり、医師免許を有さない者がアートメイクを業として行う場合、それは医師法第17条に違反する可能性があるということです。

参考:厚生労働省|医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて

なお、医行為に該当し、医師免許を有さない者がこれを業として行うのであれば、医師法第17条に違反する行為としては、針先に色素を付けながら皮膚の表面に墨等の色素を入れて行う次の2つの行為が挙げられています。

  1. 眉毛を描く行為
  2. アイラインを描く行為

これらに加え、唇やヘアラインなど、他の部位へのアートメイクも同様に医行為とされます。無資格者による施術は法的リスクを伴うため、注意が必要です。

無資格者が施術した場合の罰則

医師免許を持たない者や、医師の指示を受けない医療従事者がアートメイクを施術した場合は医師法違反となり、刑事処分や行政処分の対象となります。

刑事処分

無資格者によるアートメイク施術は、医師法違反(医師法第31条)や業務上過失傷害罪(刑法第211条に問われます。

医師法違反の場合、3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金または併科、業務上過失傷害罪の場合には、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。

さらに証拠隠滅のおそれがある場合には、逮捕にいたるリスクも高まります。

行政処分

刑事事件で罰金刑や拘禁刑を受けた場合、医道審議会で行政処分を受けます。行政処分は、戒告、3年以内の医業停止、免許取消(医師法第7条です。行政処分の軽重は、事案の性質や刑事事件での量刑によって決定されます。

医師法違反で無資格者と共謀した医師の場合には、医師としての非難の度合いが高いため重い行政処分が科されるリスクがあります。長期の医業停止は、開業医にとって経済的に大きな打撃となるでしょう。

まとめ:医師免許のない者によるアートメイクは医師法違反

この通達は、従来の解釈や判例と大きく異なるものではありませんが、厚生労働省の見解が示されたものとなりました。アートメイクの施術を行っている美容クリニック等は、この通達に対応する必要があります。

また、エステサロンなどでは、医療行為と誤認させる表現を用いた広告をすることは違法となるため、これらのアートメイクと誤認させるような表現には注意が必要となります。広告における表現はさまざまな規制がありますので、弁護士によるリーガルチェックをおすすめします。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に豊富な経験を有する法律事務所です。当事務所では、メディア運営事業者・レビューサイト運営事業者・広告代理店・サプリメントといったD2Cや化粧品メーカー・クリニック・ASP事業者などに対し、記事やLPのリーガルチェック、ガイドライン作成やサンプリングチェックなどのサービスを提供しています。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る