ソフトウェアをOSS化した場合の会計上・税務上の処理と実務上の注意点について解説

近年、企業が自社開発したソフトウェアをオープンソース化(OSS化)するケースが増加しています。これは、技術の透明性を高め、他の開発者や企業との協業を進めることで、自社のブランド力や技術力を示すための戦略的な取り組みです。そこで問題となるのが、企業が自社開発したソフトウェアをOSS化した場合、会計上・税務上どのような処理がされるかです。
そして、その処理の客観性や正当性を確保するためには、法的な問題の検討も欠かせません。本記事では、ソフトウェアをOSS化した場合の会計上・税務上の処理について、法務的な視点を含めて解説します。
この記事の目次
会計処理の基本原則:資産計上と費用処理の判断基準
会計処理において支出が「資産」として計上されるのか「費用」として計上されるのかその判断基準はどうなっているのでしょうか。
一般的に、支出が将来的に収益の獲得や費用の削減につながると合理的に見込まれる場合は、「無形固定資産」などとして資産計上されます。一方で、そうした見込みがなく、当該期のみに限った効果である場合には、費用としてその期に一括計上されます。自社で開発したソフトウェアのOSS化にかかるコストをが会計上どのように処理するかは、将来の収益獲得または費用削減の見込みの有無によって分かれます。
将来の収益獲得または費用削減の見込みがある場合
たとえば、ある企業がOSSを公開し、それを使った製品やサービスが市場に広まることによってライセンス契約や保守サービスなどのビジネスに繋がる場合、自社のソフトウェアのOSS化は戦略的な投資と評価できます。このようにOSS化による経済的利益の見込みが客観的に説明できる場合には、無形固定資産の「ソフトウェア」勘定として資産計上をします。
ただし、一般的に、ソフトウェア開発には長期間を要し、開発を始めたの時点では、実用的なレベルのソフトウェアの完成が確実に予測できるわけではありません。そのため、将来的な収益獲得また又は費用削減が確実であると認められた時点から後に発生した支出について資産計上し、それ以前の支出については費用処理します。
なお、無形固定資産とされる場合のOSS化するソフトウェアの耐用年数は5年です。
将来の収益獲得または費用削減の見込みがない場合の一括費用処理
一方、OSS化したソフトウェアが商業目的ではなく、企業の社会的責任やオープンイノベーション推進のためであり、明確な収益効果が見込めない場合、費用として処理します。このような支出は「研究開発費」や「広告宣伝費」としてその期の損益計算書に費用として全額計上されます。
法的地位の確立とOSSライセンスの重要性
会計・税務上の「将来の収益獲得の見込み」を客観的に立証するためには、そのソフトウェアの法的な権利関係が明確でなければなりません。
OSS化とは、開発資産の著作権を完全に放棄するわけではなく、特定のOSSライセンス(例:MIT、GPL、Apacheなど)に基づいて利用を許諾する行為です。
OSSライセンス選択の法的妥当性
企業が採用するOSSライセンスが、将来の収益化戦略やブランド戦略と矛盾しないかを検証する必要があります。不適切なライセンスの選択は、意図しない権利の喪失や、将来の商業展開を制限する要因となり、「将来の収益獲得の見込み」の立証を困難にします。
外部貢献者の権利関係(CLA)
外部の開発者からコード提供を受ける場合、そのコードの著作権が企業に帰属すること、または企業が商用利用する権利を確保するために、CLA(Contributor License Agreement)などの法的な契約を適切に締結する必要があります。これにより、無形固定資産としてのソフトウェアの完全な権利を確保し、資産価値の裏付けとします。
税務上の取り扱いと注意点

OSS化にかかる費用については、税務上も適切に処理する必要があります。会計の視点と同様に、開発費用が損金として認められるか、あるいは資産として繰延処理するかの判断をすることになります。
資産として処理する場合
資産として処理する場合には、ソフトウェアを自社で製作する場合には、「製作等に要した原材料費、労務費及び経費の額+事業の用に供するために直接要した費用」を取得原価と考え、税務上の資産として処理します。
逆に、取得原価に算入しないことができる費用はタックスアンサーによると次のものが挙げられます。
(1)自己の製作に係るソフトウエアの製作計画の変更等により、いわゆる仕損じがあったため不要となったことが明らかなものに係る費用の額
(2)研究開発費の額(自社利用のソフトウエアに係る研究開発費の額については、その自社利用ソフトウエアの利用により将来の収益獲得または費用削減にならないことが明らかな場合におけるその研究開発費の額に限ります。)
(3)製作等のために要した間接費、付随費用等で、その合計額が少額(その製作原価のおおむね3パーセント以内の金額)であるもの引用
国税庁|No.5461ソフトウエアの取得価額と耐用年数
資産に該当する場合の減価償却における耐用年数は5年です。
損金に算入する場合
将来的な収益獲得又または費用削減が不明確・な無いような場合には費用は損金処理をします。例えばたとえばOSS が無償で利用許諾されるのみである場合には、上記の取得原価に参入しない(2)のケースにあたるので全額損金処理できます。もっともこの場合何らかの収益獲得又または費用削減が期待される場合には、それが明確でなくても資産計上して減価償却を行うのが基本なので、損金処理をするには税務署を納得させる合理的な説明が可能な場合のみ必要となります。
寄付に該当する場合の損金算入限度額と法的な防御
OSS化によって開発資産を無償提供する行為が、税務上の「寄付金」と判断されると、法人税法上の損金算参入限度額を超える部分は損金として認められなくなります。特に、公益法人や特定非営利活動法人などに対してソースコードや技術文書を提供した場合には、形式的には対価を得ていないため、寄付行為とされる可能性があります。
一方で、企業が有償サービスを提供するための、広告宣伝費や販売促進費的な位置づけとすることができる場合には、支出した費用を損金算入がすることは可能な場合もあります。
この際には、OSS化が無償の寄付ではなく「合理的な事業活動の費用」(対価性のある支出)であることを立証するために、対外的な広報戦略や事業計画を法的にレビューし、税務当局や株主に対して経済的合理性を説明する法的根拠を整備する必要があります。
OSS化に伴う会計・税務処理の実務上の注意点

自社開発ソフトウェアのOSS化は企業戦略の一環として行われることが多いですが、その背景には明確な目的や意図が存在するはずです。その目的と経済的効果が正しく評価されなければ、会計・税務上で不適切な処理となる可能性があります。
まず注意すべきは、資産計上を選択する場合の「使用可能となった時点」の特定です。これは減価償却の起算点となるため、適切に処理しなければ過少償却や過大償却といった問題につながります。
次に、研究開発費としての処理を行う場合には、商用段階との切り分けをどう判断するかが焦点になります。技術試験段階にとどまる場合は研究開発費で処理可能ですが、製品やサービスに結びつく明確な事業展開が始まった時点で、資産としての認識が求められます。これらを明確に判断するためにも、OSS化のタイミングや背景について記録を残すことが極めて重要です。
そのため、開発部門・会計部門・法務部門で連携して適切な会計・税務処理を心がけましょう。
まとめ:ソフトウェアのOSS化は専門家に相談を
本記事では自社で開発したソフトウェアをOSS化した場合の会計・税務上での処理について解説しました。会計処理の基本的な処理について確認しましょう。OSS化する目的やビジネス全体の収益との関係などによって、会計・税務処理も異なることがあり、かつそれを株主・投資先・税務署などのステークホルダーごとに客観的に判断できるようにしなければなりません。
そのためには開発の計画段階から会計部門や法務部門と連携し、OSSライセンスの選定や外部貢献者との法的契約(CLA)の整備など、法的な側面からも事前に専門家に相談しておくのが望ましいといえます。
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