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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

医療分野におけるステマ等の広告宣伝活動に関する法規制

近年、インターネットの発展に伴い、Twitter、Facebook、Instagram及びLINEなどのSNSが急速に普及し、インフルエンサーなどがSNSで広告宣伝活動を行うケースが見られるようになりました。

また、YouTubeなどの動画配信サイトも急速に普及し、日々様々なジャンルの動画が投稿されるようになりました。

動画配信サイトでも、YouTuberなどが動画で広告宣伝活動を行うケースも増えています。

ここで問題となるのは、インフルエンサーやYouTuberが経済的対価と引き換えに、企業から広告宣伝活動を行って欲しいとの依頼を受けたにも関わらず、その事を秘して、広告宣伝活動を行ういわゆる「ステルスマーケティング(以下「ステマ」といいます。)」が違法なのではないか?という点です。

ステマといっても、広告宣伝活動の内容により法律の規制が異なることになりますので、本記事では、医療分野におけるステマに関する法規制についての解説をします。

ステマとはどのような行為をいうのか

ステマという言葉を聞いたことがある人は多いと思いますが、ステマの意味を正確に理解している人は必ずしも多くないように感じます。

ステマとは、ステルスマーケティング(Stealth Marketing)の略で、消費者に宣伝だと気付かれないように宣伝をすることをいいます。

「stealth」は、隠密、内密、隠れるなどの意味があり、広告や宣伝であることを隠して消費者に対し広告や宣伝を行うことから、ステルスマーケティングと言われます。

また、「stealth」と同様に内密、隠れるなどの意味があるundercoverという語との組み合わせで、アンダーカバーマーケティング(Undercover Marketing)と呼ばれることもあります。

ステマという用語は以下の2つの意味で使われることがあります。

  1. 事業者自身又は事業者から経済的対価を受けた者が口コミサイトに口コミを投稿しているにもかかわらず、純粋な第三者が口コミを投稿しているかのように誤認させる「なりすまし型」
  2. 事業者が第三者に経済的利益を提供して、商品やアプリなどの広告や宣伝などを行わせているのに、その事実を表示しない「利益提供秘匿型」

インフルエンサーやYouTuberとの関係では、主に2.の意味でのステマが問題となりますので、以下では2.の意味でのステマを念頭におき説明をします。

医療分野における広告宣伝活動はどのようなものがあるか

医療分野における広告宣伝活動とは、具体的にはどのような広告宣伝活動を指すのでしょうか。

医療分野における広告宣伝活動というと、例えば、特定の医院の紹介や薬の紹介などを想像する人も多いと思います。

医院や薬などに関する広告宣伝活動が、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」といいます。)などの法規制に関わることは比較的想像がしやすいと思います。

ただ、医療分野における広告宣伝活動の範囲は意外に広く、化粧品に関する広告宣伝活動、医療機器に関する広告宣伝活動、健康美容機器に関する広告宣伝活動及び健康食品に関する広告宣伝活動なども含まれます。

そのため、医療分野に関する広告宣伝活動ではないと思い込みステマを行い、意図せずに薬機法に違反するというような状況が生じないように注意が必要です。

ステマに関する一般的な法規制について

ステマに関する一般的な法規制としては、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます。)による法規制があります。

景品表示法とは

景品表示法とは、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを厳しく規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額を制限することなどにより、消費者がより良い商品やサービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守ることを目的とした法律です。

景品表示法については、優良誤認表示(景品表示法第5条第1号)や有利誤認表示(景品表示法第5条第2号)との関係が問題となりますが、景品表示法を含むステマに関する一般的な法規制については、以下の記事をご参照ください。

医療分野におけるステマ等の広告宣伝活動特有の法規制について

医療分野におけるステマ等の広告宣伝活動の法規制としては、主に薬機法との関係が問題となります。

そこで、以下では薬機法による法規制について説明をします。

薬機法の目的

そもそも、薬機法はどのような目的のために制定されたのでしょうか。

薬機法の目的については、薬機法第1条で規定されています。

(目的)

第一条 この法律は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品(以下「医薬品等」という。)の品質、有効性及び安全性の確保並びにこれらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行うとともに、指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか、医療上特にその必要性が高い医薬品、医療機器及び再生医療等製品の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより、保健衛生の向上を図ることを目的とする。

薬機法第1条

薬機法は、医薬品、医薬部外品及び化粧品等の品質、有効性及び安全性を確保し、保健衛生上の危害の発生や拡大を防止することを目的にしています。

例えば、薬が販売されていても全く効果がないのでは意味がありません。また、薬を服用することにより身体に重大な損害が生じるなどの状況が生じることも避ける必要があります。

薬機法は、簡単にいえば、安心安全で効果がしっかりと認められる医薬品等を人々に提供することを目的とした法律になります。

薬機法による規制の内容

以下では、薬機法で、広告宣伝活動に対してどのような規制がなされているかを説明します。

誇大広告等の禁止

薬機法では、第66条で誇大広告等を行うことを禁止しています。

(誇大広告等)

第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。

2.医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。

3.何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画を用いてはならない。


薬機法第66条

例えば、インフルエンサーやYouTuberが、医薬品、医薬部外品及び化粧品等の効能や効果等について、虚偽又は誇大な広告、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事の広告等を行うと、薬機法第66条に違反する可能性が高いといえます。

承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止

薬機法では、第68条で承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告を行うことを禁止しています。

(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止)

第六十八条 何人も、第十四条第一項、第二十三条の二の五第一項若しくは第二十三条の二の二十三第一項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ第十四条第一項、第十九条の二第一項、第二十三条の二の五第一項、第二十三の二の十七第一項、第二十三条の二十五第一項若しくは第二十三条の三十七第一項の承認又は第二十三条の二の二十三第一項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。

薬機法第68条

コロナウイルスとの関係で、アビガンやレムデシビルなどの未承認薬が脚光を浴びることとなりましたが、薬機法第68条では、承認又は認証を受けていない医薬品等の効能や効果についての広告を行うことは禁止されています。

薬機法に違反した場合の罰則について

薬機法第66条第1項の規定に違反する行為を行った場合には、薬機法第85条により、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処されるか、又はこれが併科されることとなります。

ただ、現行の薬機法第85条による罰則では軽すぎることから、虚偽・誇大広告が防げないという状況が生じていました。

そこで、薬機法が令和元年12月に改正され、令和3年8月1日に、改正薬機法が施行されることとなりました。

改正薬機法第75条の5の2では、罰則について以下のように規定されることになります。

(課徴金納付命令)

第七十五条の五の二 第六十六条第一項の規定に違反する行為(以下「課徴金対象行為」という。)をした者(以下「課徴金対象行為者」という。)があるときは、厚生労働大臣は、当該課徴金対象行為者に対し、課徴金対象期間に取引をした課徴金対象行為に係る医薬品等の対価の額の合計額(次条及び第七十五条の五の五第八項において「対価合計額」という。)に百分の四・五を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。

2.前項に規定する「課徴金対象期間」とは、課徴金対象行為をした期間(課徴金対象行為をやめた後そのやめた日から六月を経過する日 (同日前に、課徴金対象行為者が、当該課徴金対象行為により当該医薬品等の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して誤解を生ずるおそれを解消するための措置として厚生労働省令で定める措置をとつたときは、その日)までの間に課徴金対象行為者が当該課徴金対象行為に係る医薬品等の取引をしたときは、当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間とし、当該期間が三年を超えるときは、当該期間の末日から遡つて三年間とする。)をいう。

3.第一項の規定にかかわらず、厚生労働大臣は、次に掲げる場合には、課徴金対象行為者に対して同項の課徴金を納付することを命じないことができる。

 一.第七十二条の四第一項又は第七十二条の五第一項の命令をする場合(保健衛生上の危害の発生又は拡大に与える影響が軽微であると認められる場合に限る。)

 二.第七十五条第一項又は第七十五条の二第一項の処分をする場合

4.第一項の規定により計算した課徴金の額が二百二十五万円未満であるときは、課徴金の納付を命ずることができない。


改正薬機法第75条の5の2

改正薬機法では、課徴金は、課徴金対象期間に取引をした課徴金対象行為に係る医薬品等の対価の額の合計額の4.5%が課されることとなります

薬機法の改正の詳しい内容につきましては、以下の厚生労働省のHPをご参照ください。

本ページは、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「医薬品医療機器等法」という。)における医薬品等の広告規制について紹介するものです。
医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の広告が適正を欠いた場合には、国民の保健衛生上、大きな影響を与えるおそれがあるため、 次のとおり医薬品医療機器等法により規制されています。

医薬品等の広告規制について |厚生労働省

まとめ

以上、医療分野におけるステマに関する法規制について説明をしました。

医療分野におけるステマについては、景品表示法だけでなく、薬機法に抵触する可能性があるため、ステマを依頼する企業及び広告宣伝活動を行うインフルエンサーやYouTuberは、法律に違反しないように注意をする必要があります。

また、法律に違反した広告宣伝活動により、消費者が薬等を購入し、それを服用した結果、重大な損害を被ってしまう可能性もあります。

インフルエンサーやYouTuberに広告宣伝活動を依頼する企業はもちろん、広告宣伝活動を行うインフルエンサーやYouTuberも医療分野におけるステマに関する正確な知識を持っておくことが重要となります。

医療分野における広告宣伝活動に関する法規制ついては、法律的な知識や専門的な判断が要求されますので、詳しい法律事務所に相談をするようにしてください。

この記事の内容を動画で知りたい方は、弊所YouTubeチャンネルの動画をご覧ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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