サプリメントの広告掲載に対する法律規制とは
サプリメントは、薬ではなく健康食品ではあるものの、消費者側としては、単に食事をするための通常の食品の場合と異なり、自身の健康や美容などに一定の期待を持って購入するものです。そして、法律は、通常の食品の場合とは異なり、「薬」に対しては厳しい広告規制を敷いています。また、薬以外の健康食品などに対しても、それが「薬」であること、つまり、例えばニキビを治す・便秘を治すといった効果を謳うことに対して、同様に厳しい広告規制を敷いています。
薬ではないが、しかし薬に準ずるような存在として認知されており、広告規制との関係を絶え間なく考えながら販売・宣伝しなければいけないもの、それがサプリメントなのです。
サプリメントを販売するとき、普通の食品などと異なり、お客様は、商品に対しある一定に期待を抱き購入するであろうこと、薬とは決定的に異なる内容を記載しなければならないだろうとはわかるものの、どれだけその商品に対する期待を高めてよいものか、その程度、内容について、具体的にどうなのか、悩ましいところです。
本記事では、普通の食品などでも、薬でもない、健康食品であるサプリメントに関する広告規制に関して解説します。
この記事の目次
サプリメントの法律的な定義とは
「サプリメント」には、行政的な定義がなく、一般に、「特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の製品」が該当すると考えられています。明確な定義がないため、一般人にとって、サプリメントは、医薬品と類似したもの、錠剤・カプセル状のもの、と極めて多岐に渡るものとのイメージがあることと思います。
この点、薬、法律上の区分としての「医薬品」には、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)」(いわゆる、改正前の旧・薬事法)、(以下「薬機法」と言います。)第2条第1項の規定により、明確に定義付けがなされています。したがって、形状にかかわらず、医薬品の定義にあてはまらないものは、医薬品とは全く異なるものとして分類されます。また、薬機法は、第1条の規定により、その規制対象を医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器と限定しています。このことから、これらの定義に当てはまらないものは、薬機法の規制対象とはなりません。
つまり、サプリメントは、錠剤やカプセル形態など、医薬品に似たような形態であったとしても、法律上は「医薬品」ではない、と扱われます。
医薬品とみなされる広告は不可能
サプリメントと称しているか否かに関わらず、人が経口的に服用するものつまり、口から摂取するもののうち、その本質、形状、表示された効能効果、用法容量等から判断して医薬品とみなされるべきものが食品の名目のもとに製造(輸入を含む。以下同じ。)販売されていることが、行政のチェックによって判明されたものは、「無承認無許可医薬品」と言い、「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(昭和46年6月1日薬発第476号各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知)により、厚生労働省が各都道府県の知事に対し、指導取締りを行うことが求められています。
同通知は、医薬品的な効果効能を標榜するものは原則として医薬品とみなす旨を定めています。そして、医薬品としての広告規制に服することになってしまうと、サプリメントにおいて適法な広告を行う余地はありません。したがって、以下のような表記は、医薬品ではないサプリメントにおいて、行うことは不可能です。
(一) 疾病の治療又は予防を目的とする効能効果
「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」
(例) 糖尿病、高血圧、動脈硬化の人に、胃・十二指腸潰瘍の予防、肝障害・腎障害をなおす、ガンがよくなる、眼病の人のために、便秘がなおる等
(二) 身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする効能効果
ただし、栄養補給、健康維持等に関する表現はこの限りでない。
(例) 疲労回復、強精(強性)強壮、体力増強、食欲増進、老化防止、勉学能力を高める、回春、若返り、精力をつける、新陳代謝を盛んにする、内分泌機能を盛んにする、解毒機能を高める、心臓の働きを高める、血液を浄化する、病気に対する自然治癒能力が増す、胃腸の消化吸収を増す、健胃整腸、病中・病後に、成長促進等
(三) 医薬品的な効能効果の暗示
(a)名称又はキャッチフレーズよりみて暗示するもの
(例)延命○○、○○の精(不死源)、○○の精(不老源)、薬○○、不老長寿、百寿の精、漢方秘法、皇漢処方、和漢伝方等
(b) 含有成分の表示及び説明よりみて暗示するもの
(例)体質改善、健胃整腸で知られる○○○○を原料とし、これに有用成分
を添加、相乗効果をもつ等
(c)製法の説明よりみて暗示するもの
(例) 本邦の深山高原に自生する植物○○○○を主剤に、△△△、×××等の薬草を独特の製造法(製法特許出願)によって調製したものである。等
(d)起源、由来等の説明よりみて暗示するもの
(例)○○○という古い自然科学書をみると胃を開き、欝(うつ)を散じ、消化を助け、虫を殺し、痰なども無くなるとある。こうした経験が昔から伝えられたが故に食膳に必ず備えられたものである。等
(e) 新聞、雑誌等の記事、医師、学者等の談話、学説、経験談などを引用又は掲載することにより暗示するもの
(例) 医学博士○○○○の談 「昔から赤飯に○○○をかけて食べると癌にかからぬといわれている。」「癌細胞の脂質代謝異常ひいては糖質、蛋白代謝異常と○○○が結びつきはしないかと考えられる。」等
サプリメントなどの無承認無許可医薬品情報
サプリメントの法律上の位置付けは、実のところ、薬機法などの法律上では明確に示されていません。
厚生労働省は、サプリメントについて、特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の健康食品として分類しているようです。
詳しくは、厚生労働省ホームページ、健康被害情報・無承認無許可医薬品情報をご覧ください。
健康食品の種類
健康食品には、法律上の定義はなく、広く健康の保持増進に資する食品として、販売・利用されるもの全般を指します。
健康食品に含まれるのは、②③④⑤です。
①医薬品
②特定保健用食品(個別許可制)
③栄養機能食品(自己認証制)
④機能性表示食品(届出制)
⑤いわゆる「健康食品」
このうち、国の制度としては、「国が定めた安全性や有効性に関する基準等を満たした「保険機能食品制度」(②③④)があります。
つまり、サプリメントは、基本的には「健康食品」として扱われ、許可を受けた「特定保健用食品」、自己認証を得た「栄養機能食品」、届出がなされた「機能性表示食品」は、それぞれこれに対する例外として扱われる、という建付です。
サプリメント(健康食品)の広告規制
では、健康食品に分類されるサプリメントに対しては、どのような広告規制が行われるのでしょうか。
健康食品について、『「健康食品」に係る制度の見直しについて』という通知(平成17年2月1日付け薬食発第0201001号厚生労働省医薬食品局長通知) 中「第4 普及啓発等3健康の保持増進効果等に係る虚偽誇大広告等の禁止」において、健康増進法第32条の2の規定による虚偽誇大広告等の表示の禁止、そして、それらについての監視の強化、違反広告等の適正化について、厚生労働省は、都道府県知事、保健所設置市長及び特別区長に対し協力を求めています。
この通知は、「健康食品」の利用が増える一方、健康被害事例が報告されたことから、表示制度について表示内容の充実と表示の適正化が必要となり、表示制度のみならず、制度全般を見直しされたものです。
そして、特に、この制度見直し内容等の正確な理解を進めるため、厚生労働省は『「健康食品」に係る制度に関する質疑応答集について(平成17年2月28日食案新発第0228001号)厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課新開発食品保健対策室長』という、質疑応答集を作成し、事業者への指導及び関係者への周知を図っています。この通知の中において、誇大広告制度とは以下のとおりです。
【問56「健康食品」についての虚偽誇大広告等の禁止とはどのような制度か。
「健康食品」表示される健康に関する効果、食品の機能等が、科学的根拠に基づいた適正な内容である必要がある。従って、健康増進法第32条の2において、食品として販売に供される物について健康の保持増進効果等に関する表示をする場合は、著しく事実に相違し、又は著しく人を誤認させるような内容であってはならないこととしている。
(※なお、当該規定に違反しない内容であっても、医薬品として承認を受けていない「いわゆる健康食品」が医薬品的な効能・効果を表示することは、別途薬事法により禁止されている。)】
この部分は、厚生労働省が、「健康食品」と表示されるものについては、健康に関する効果、食品の機能などが、単なる食品とは異なり、科学的根拠に基づいた適正な内容であることを求め、このことから、健康増進法第32条の2の規定により、食品として販売される物の表示では、健康の保持増進効果等に関することについて、著しく事実と異なり、又は著しく人を誤って認識させるような内容であってはならないとしています。
(目的)
健康増進法 第1条(平成14年法律第103号)(以下「健増法」と言います。)
第1条 この法律は、我が国における急速な高齢化の進展及び疾病構造の変化に伴い、国民の健康の増進の重要性が著しく増大していることにかんがみ、国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに、国民の栄養の改善その他の国民の健康の増進を図るための措置を講じ、もって国民保健の向上を図ることを目的とする。
この健康増進法とは、 国民保健の向上を図ることを目的とする法律です。このような法律ができた背景として、日本の急速な高齢化と疾病構造の変化に伴い、国民の健康増進の重要性が高くなっているという現状があります。そこで、そのための方策として、国民の健康増進を進めるための基本的な事項を定め、また、国民の栄養改善その他の国民の健康の増進を図るための措置を講じることを規定したものです。
そして、この法律は、食品として販売する者に対し、広告その他の表示を行う場合、健康の保持増進の効果その他厚生労働省令で定める事項について、著しく事実に相違するまたは著しく人を誤認させる表示を行うことを「虚偽誇大広告」とし、禁止しています。
(誇大表示の禁止)
健康増進法 第32条の2
第32条の2
何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他厚生労働省令で定める事項(以下「健康保持増進効果等」という。)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。
このように、虚偽誇大広告が禁止されるのは、昨今の健康意識の高まりに伴い、健康食品と認識される食品の利用が増え、長期的かつ継続的な摂取が推奨され、それを信じた国民が適切な診療機会を逸してしまうなど、国民の健康の保持増進の観点から重大な支障が生じるおそれが生じたという背景があります。
この条文で、表示をしてはならないと明確に禁止されている誇大表示とは、食品として販売されているものについて、健康の保持増進の効果などに関し、①著しく事実と違う、②著しく人を誤認させる、広告等の表示をすることです。
①著しく事実と違う又は②著しく人を誤認させる表示であるかどうかの判断は、表示内容全体から消費者が受ける印象・認識が基準となります。
まず、何が「著しく」に当たるかどうかの判断は、それぞれの広告などに合わせてされることとなります。例えば、一般の消費者が広告などに書かれた内容とその食品を摂取した場合に実際に得られる効果との違いを知っていれば、「その食品を購入することに誘い込まれることはない」と判断できる場合は「著しく」にあたる場合となります。
また、事実と異なるとは広告などにおいて強調されている表示と実際に得られる効果などが異なる場合をいいます。例えば、十分な実験結果などの根拠が存在しないにもかかわらず「3か月で〇キログラムやせることが実証されています。」と表示する場合などがこれにあたります。
一方、「人を誤認させる」とは、広告などから認識することとなる健康保持増進効果などの印象や期待感と実際に得られる効果などに相違がある場合をいいます。例えば、根拠となる学術データのうち、その食品にとって不都合な記載を無視し、有利なる記載のみを引用する場合とがこれにあたります。
具体的には、痩身効果をうたう食品に関し、「摂取しすぎた資質と糖質を包み込み、便と共に体外に排泄します」といった食事により摂取した糖質及び炭水化物などの体内吸収を阻害し、体外に排出できる旨の表示は、削除を求められることとなります(平成16年12月8日付け食安新発第1208001号)。
(勧告等)
健康増進法 第32条の3
第32条の3
厚生労働大臣は、前条の規定に違反して表示をした者がある場合において、国民の健康の保持増進に重大な影響を与えるおそれがあると認めるときは、その者に対し、当該表示に関し必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。
2 厚生労働大臣は、前項に規定する勧告を受けた者が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、その者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
3 省略
このような誇大表示をした場合、まず、厚生労働大臣は、「国民の健康の保持増進に重大な影響を与える恐れがある場合、その表示に必要な措置を取るべき旨の勧告がなされます(健増法第32条の3第1項)。
次に、厚生労働大臣は、この勧告を受けた者が、正当な理由なく、勧告の措置を取らなかった場合、当該表示に関し必要な措置をとるべきことを命令することができます(健増法第32条の3第2項)。
第36条の2
第 32条の3第2項の規定に基づく命令に違反した者は、六月以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
健康増進法 第36条の2
そして、命令に従わなかった場合、6月以下の懲役、又は100万円以下の罰金となります。
「健康食品」の表示を規制する法律としては、健増法のほかに食品衛生法、JAS法(法輪物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)、薬事法、景表法(不当景品類及び不当表示防止法)、特商法(特定商取引に関する法律)等があります。
まとめ
以上のように、「健康食品」であるサプリメントは、法律レベルでは扱いが必ずしも明確ではありませんが、厚生労働省の通知等によって、誇大表示等が禁止されます。医薬品でないからといってあらゆる広告が許される訳ではない、ということです。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務