薬機法の課徴金制度とは?対象となる行為や減免されるケースを解説
薬機法では、医薬品や化粧品などの虚偽・誇大広告を禁止しており、これに違反した場合、課徴金が課されることが規定されています。
課徴金の額は、薬機法に違反した広告による売上額に基づき算出されるため、額が大きくなる可能性もあり、注意が必要です。
本記事では、薬機法の課徴金制度の対象となる行為や、課徴金が減免されるケースについて解説します。
この記事の目次
薬機法における課徴金制度とは
薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)とは、医薬品等の品質や有効性、安全性の確保のために、製造・販売・表示・広告等について規制している法律です。
令和3年(2021年)8月、改正薬機法が施行され、医薬品や化粧品などの虚偽・誇大広告の禁止違反が厳罰化され、課徴金納付命令や措置命令が下されることになりました。
改正前は、薬機法に違反する広告をした場合には、懲役刑及び罰金刑が科されるとの規定がありましたが、罰金の上限額は200万円だったため、抑止力に乏しいのではという指摘がありました。
また、高血圧症の治療薬についての論文や広告が薬機法に違反していると争われた事件が相次いで起こるなど、虚偽・誇大広告の禁止に反する事件が増加していました。
そこで、欧米における是正措置や、国内の他の法律の規定を参考に、罰金刑より厳しい課徴金制度が設けられたのです。
課徴金の額は、従前の罰金刑と異なり上限額がなく、売上額に応じて額が決まるため、売上によってはかなり大きな金額になる可能性もあります。
対象行為
薬機法課徴金制度の対象となる行為は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の虚偽・誇大広告です。
何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
薬機法第66条1項
違反となる広告の具体例を挙げると、医薬品であれば、含まれていない成分を示した広告や、「この薬を飲めば糖尿病が治ります」といった表現を用いた広告、化粧品では、「シミが消える」、「塗るだけで美白」といった表現を用いた広告などです。
化粧品については、厚生労働省の通知において、化粧品が謳ってよいとされる効能の範囲が定められていますので、その範囲を超えるような表示がないか注意しなくてはなりません。
参考:化粧品の効能の範囲の改正について(平成22年7月21日薬食発0721第1号)
また、医薬品や医療機器等に該当しない製品であっても、医薬品のような効能・効果を標ぼうした製品などは、医薬品とみなされることから、薬機法の規制対象となります。
このように医薬品とみなされる製品については、薬機法第68条により規制されるため、虚偽・誇大広告をしても薬機法第66条第1項違反にあたらず、課徴金の対象とならないという見解もありますが、文言上は、「医薬品」と扱われる以上、薬機法第66条第1項違反として課徴金の対象となる可能性は十分にありますので、注意が必要です。
たとえば、サプリメントは医薬品ではありませんが、「飲むだけで○○病が治る」など医薬品のような効果を表示した広告をした場合、それが虚偽・誇大広告にあたれば薬機法第66条第1項違反として、課徴金の対象となる可能性があるということです。
薬機法における広告規制については、別記事もご参照ください。
関連記事:薬機法の広告規制とは?適法な表現で広告を作成するポイントを解説
課徴金が課される対象者
上述した薬機法第66条第1項をみると、「何人も(中略)虚偽又は誇大な記事を広告し(中略)てはならない」とあります。したがって、医薬品等について虚偽・誇大広告をした者であれば誰でも違反者となるため、製品を開発した企業から依頼を受けた広告代理店や新聞社、アフィリエイターまでもが課徴金の対象者となる可能性があるのです。
課徴金制度を定めた薬機法第75条の5の2第1項によれば、課徴金の額は、「課徴金対象期間に取引をした」対価に応じて算定されます。
ここでいう「取引」について、厚生労働省の事務連絡では、製造販売業者、卸売販売業者、販売業者等が行う取引が例として挙げられており、「新聞社、雑誌社、放送事業者、インターネット媒体社等の広告媒体事業者及びこれら広告媒体事業者に対して広告の仲介、取次ぎをする広告代理店、サービスプロバイダー等が行う取引」は含まれないと明示されています。
したがって、広告代理店や新聞社、アフィリエイターは、課徴金額の基準となる取引の対価が存在しないことから、課徴金が課されることは基本的にはないと解されています。
しかし、薬機法第66条第1項に違反した者に対しては、刑事罰や措置命令が下される可能性があるため、広告代理店などであっても虚偽・誇大広告をしないように注意しなければなりません。
課徴金額の算定方法
薬機法66条1項に違反した場合の課徴金額は、原則として、違反行為をおこなっていた期間における対象製品の売上額の4.5%です。
例外として、(a)違反行為をやめた後から6か月を経過する日、または(b)虚偽・誇大広告による誤解を生ずるおそれを解消するための措置をとった日、のいずれか早い日までの間に、対象製品の取引を行った場合には、違反行為を行っていた期間に加え、最長3年間の上限で、対象製品の取引を最後におこなった日までの期間における、対象製品の売上額の4.5%とされています。
このように、課徴金額は、虚偽・誇大広告をおこなった製品の売上額に応じて決定されるため、広告の影響により売上が伸びるほど高額となります。
また、虚偽・誇大広告をやめたとしても、対象製品の取引を続けている場合、課徴金額の算定の基準となる「課徴金対象期間」が長期化することになるため、虚偽・誇大広告をしてしまった場合、広告の停止だけでなく対象製品の取引まで止めるべきといえます。
薬機法と景表法の課徴金の3つの相違点
薬機法と同じく、景表法(不当景品類及び不当表示防止法)でも課徴金制度が設けられています。
それぞれの課徴金は製品の表示や広告に対する規制に違反した者に課せられるという点で共通していますが、その対象行為や要件などに、いくつかの相違点があり、代表的なものは以下の3点です。
- 課徴金額の算定率
- 課徴金の減免制度
- 違反者の主観的要件
課徴金の算定率
薬機法の課徴金額の算定率は、上述のとおり、売上の4.5%とされていますが、景表法の課徴金額の算定率は、売上の3%とされています。
それぞれの課徴金の対象となる行為をした場合、景表法と薬機法のそれぞれに基づいて課徴金が課されることになりますが、その場合には、重複する額(売上の3%)について、減額が定められています(薬機法75条の5の3)。
課徴金の減免制度
景表法では、表示や広告規制違反による被害者に対して、自主的に売上を返金した場合、課徴金から返金額の分だけ減額される制度が設けられています。
一方、薬機法では被害者に対して売り上げを返金したとしても、課徴金を減額する制度は設けられていません。
違反者の主観的要件
主観的要件とは、違反者がどのような認識で違反行為を行ったかなど、違反者の内心にかかわる要件をいいます。
景表法では、表示や広告に違反した場合、違反者が不当表示に該当する表示であることを「知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者」であるときに限り、課徴金の対象となります。
つまり、意図的に違反行為をしたわけではなく、注意を払っていたのに違反行為をしてしまった者については、課徴金の対象となりません。
しかし、薬機法では、「何人も」広告規制に違反してはならないと定めるのみで、違反者がどのような認識でいたかにかかわらず、課徴金が課されます。
したがって、自分では虚偽・誇大広告にあたらないと思っていても、虚偽・誇大広告をしてしまった時点で、課徴金の対象者となってしまうのです。
これらの違いからも分かるように、薬機法では、違反した場合に人々の健康や身体に与える損害が大きいと考えられるため、薬機法の課徴金制度の方が、景表法よりも厳しいものになっているといえます。
課徴金納付が免除・減免されるケース
先ほど、薬機法の課徴金制度には自主返金による減免制度がないと説明しましたが、課徴金がまったく減免されないわけではありません。
具体的には、①虚偽・誇大広告をしたことについて、自主申告をした場合、②広告規制に違反したことによる売上金額が5000万円以下の場合には、課徴金は課されません。
また、③業務運営の改善の措置命令、違反広告に係る措置命令が出される場合や、許可や登録の取消しなどが行われる場合には、厚生労働大臣の裁量によって、課徴金が課されないケースもあります。
①の場合、課徴金額の50%が減額されることになりますが、厚生労働省や都道府県などの行政による監視指導が行われている時点で自主申告をしても、課徴金は減額されません(薬機法第75条の5の4)。
したがって、自主申告による減免を受けるためにも、虚偽広告や誇大広告による薬機法違反に気づいた場合には、いち早く厚生労働大臣に報告する必要があります。
アフィリエイターに措置命令が出る可能性
すでに述べたとおり、薬機法の課徴金は医薬品等の対価の合計額をもとに算出されるため、課徴金が課されるのは、違反した商品を製造・販売するなど商品の取引に関わって対価を得た業者です。
つまり、違反広告を掲載したメディアや違反広告に関わったアフィリエイターに課徴金納付命令が出ることはありません。
しかし、メディアやアフィリエイターに対して、薬機法第72条の5に基づく措置命令が出る可能性があります。
改正前の薬機法では、薬機法第68条違反、すなわち承認前の医薬品等について広告をした者が措置命令の対象とされていました。
令和元年の薬機法改正では、措置命令の対象として薬機法第66条第1項に違反した者が加えられたため、虚偽・誇大広告をした者すべてに対して、措置命令が課されるおそれがあります。
措置命令の内容としては、
- 虚偽・誇大広告の中止命令
- 虚偽・誇大広告の再発防止のために必要な事項またはこれらの実施に関連する公示
- その他公衆衛生上の危険の発生を防止するに足りる措置
とされています。
中でも、公示がされた場合、違法な広告をするような者であるということが広く知れ渡ることになるため、今後の活動に支障をきたす可能性が高いといえます。
これらの措置命令は、薬機法違反となる行為をやめたとしても下される可能性があるため、アフィリエイターなどであっても、自分の広告が薬機法に違反していないかどうかに細心の注意を払う必要があるといえます。
関連記事:商材の種類によって変わる?広告規制の違反表現の例を解説
まとめ:薬機法の課徴金制度でわからないことは弁護士へ
薬機法が改正され、虚偽・誇大広告違反に対する課徴金制度が導入されました。
課徴金は売上に応じて額が決まり、上限額がないため、違反した場合に支払う額は大きくなります。
また、課徴金が課されなかったとしても、措置命令を受ければ信用に大きく関わります。
どういった広告表現が薬機法違反になるのかや、どのようなケースが課徴金の対象となるのかはわかりにくい部分もありますので、医薬品、化粧品、医療機器その他サプリメントなど、薬機法の対象となりそうな商品について、広告を作成・掲載する場合には、専門知識や経験のある弁護士へ早めにご相談ください。
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