二次的著作物と利用権の範囲は?実際の判例を解説
私たちの周りには、小説やマンガを原作として映像化したテレビドラマや映画が、あふれています。ある著作物を「原作」として新しく創作された作品は、二次的著作物と呼ばれます。
近年では、SNSを通じて、特定のアニメやマンガ等を主題としたいわゆるファンアートなど、個人による二次創作も活発に行われています。
しかし、それに伴い、著作権に関するトラブルも多く生じています。
特に二次的著作物は、原作を基にして新たな創作行為が行われる点で、権利関係が複雑になりやすく、その創作・利用に際しては、著作権法に対する正確な理解が必要となります。
そこで、本記事では、二次的著作物に関する権利関係について、判例とともに解説します。
この記事の目次
二次的著作物とは
著作権法は、二次的著作物を以下のように定義しています。
二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。
著作権法第2条1項11号
すなわち、「著作物」を「翻案等」することにより新たに創作された著作物が二次的著作物です。
一つ一つ順番に見ていきましょう。
「著作物」とは、著作権法上、「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義されています(2条1項1号)。例えば、小説や漫画、音楽や映画等、その範囲は多岐に渡ります。
そして「翻案」とは、判例上、以下のように解されています。
翻案…とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
最判平成13年6月28日 民集55巻4号837頁(江差追分事件)
二次的著作物の定義で列挙されている翻訳や編曲等の行為は、通常、上記性質を有することから、「翻案」の典型例を列挙したものと言えます。
重要な点は、原著作物に対して、新たに創作的な表現を付与しているか否かです。新たに創作的な表現を付与しているからこそ、二次的「著作物」として保護されるわけです。
逆から言えば、単に原著作物を模倣(複製)したにすぎない場合には、新たに創作的な表現を付与していないため、二次的著作物には当たりません(この場合、原著作物の複製権侵害となります)。
二次的著作物の例
二次的著作物に当たる具体例としては、小説やマンガ等を映像化したアニメや映画といった商業的なものから、一般人が、アニメやマンガ等のキャラクターを主題としながら、当該原作品の文脈とは異なる任意の状況設定のもとでオリジナルの作品(いわゆる「ファンアート」等)を創作するような趣味的なものまで、例を挙げればキリがありません。
しかし、特に近年、後者のような個人による二次的著作物の創作(一般的に「二次創作」と言われます。)は、SNSの発展により、従来とは異なる法的問題を生じさせています。
すなわち、純粋に趣味として、私的に行われる二次創作は、著作権上も例外的に保護されている(30条、47条の6)のに対して、私的利用の範囲を超えた利用行為のために行われる二次創作及びこれにより創作された作品をSNSに投稿する行為は、著作権(翻案権・公表権)の侵害となります。
そのため、SNSに投稿される二次創作作品の多くは、少なくとも法的には著作権を侵害しているものと言えます(後述のとおり、事実上許容されているにすぎないケースがほとんどです)。
そこで、二次的著作物を創作し、これを利用する際には、常に原著作物の著作権者との権利関係に注意する必要があります。
そこで以下では、具体例と判例をもとに、二次的著作物における二次的著作者と原著作者の権利関係について解説します。
二次的著作物と利用権
Xさんが英語で書いた小説をYさんが日本語に翻訳して出版しようとする場合、原作者であるXさんは当該小説の著作者として著作権を有しています。
Yさんが創作する日本語版の小説は、原作品であるXさんの小説(「著作物」)を「翻訳」するものであるため、二次的著作物に当たります。
では、Yさんが創作する日本語版の小説について、XさんとYさんは、それぞれどのような権利を有しているでしょうか。
「創作」における権利関係
前提として注意しなければならないのは、二次的著作物に当たるからといって、原著作物の著作権を無視してよいわけではないという点です。
原著作物には、当然、原著作者の著作権が認められており、そこには「翻案権」(27条)が含まれています。
つまり、本来、二次的著作物を創作する行為は、原著作物の著作権を侵害する行為と言えるのです。
したがって、二次的著作物を適法に創作するには、基本的には原著作物の著作権者の許諾を得なければならない、というのが著作権法のルールです。
上記事例では、前提として、YさんがXさんから、Xさんの小説を翻訳することについて許諾を得ていなければ、翻訳する行為自体が著作権侵害となります(なお、創作行為が違法であるとしても、二次的著作物は成立すると解されています)。
「利用」における権利関係
では、創作行為については原著作権者から許諾を得たとして、適法に創作した二次的著作物を利用する際の権利関係はどうなるのでしょうか。
まず、著作権法には、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利について、以下のような明文の規定があります。
二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。
著作権法第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
要するに、原著作者は、二次的著作物の著作者と「同一の種類の権利」有するわけです。
では、二次的著作物の著作者が有する権利とは何かが問題となりますが、この点については判例があります。
二次的著作物の著作者の権利範囲
漫画「POPEYE」について著作権を有する原告会社らが「ポパイ」、「POPEYE」の文字と人物像の図柄を付したネクタイを販売していた被告会社に対して、販売の差止及び損害賠償などを求めた事例は、最高裁判所まで争われました。
判決文では、著作権法上の論点に対して、重要な判示が複数ありますが、ここでは二次的著作物の利用に関する箇所に焦点を当てて解説します。
まず、本件で問題となった一話完結型の連載漫画における二次的著作物の成否については、
連載漫画においては、後続の漫画は、先行する漫画と基本的な発想、設定のほか、主人公を始めとする主要な登場人物の容貌、性格等の特徴を同じくし、これに新たな筋書を付するとともに、新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって、このような場合には、後続の漫画は、先行する漫画を翻案したものということができるから、先行する漫画を原著作物とする二次的著作物と解される。
最判平成9年7月17日 民集51巻6号2714頁 (ポパイネクタイ事件)
としました。つまり、原著作物は他人の著作物である必要はなく、自分の著作物の二次的著作物が成立することもありうる、ということです。
その上で、二次的著作物の著作者の権利範囲については、以下のように判示しました。
二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である。けだし、二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付与されているためであって(著作権法第2条1項11号)、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないからである。
最判平成9年7月17日 民集51巻6号2714頁 (ポパイネクタイ事件)
つまり、二次的著作物の著作者の権利は、原著作物に対して創作性が付与された部分のみに生じるのであり、それ以外の原著作物と共通する部分については原著作者の権利のみが及ぶこととなるというわけです。
原著作者の権利範囲
連載漫画「キャンディ・キャンディ」のストーリー原稿を小説形式で執筆していた原作者が、当該原稿に基づいて漫画の執筆を行っていた漫画家、及び、漫画家から複製の許諾を得ていた会社に対して、本件連載漫画は共同著作物ないし原作の二次的著作物にあたるとして、連載漫画の一部であるコマ絵、表紙絵、リトグラフや絵はがき(本件原画)の作成・複製・配布の差止を求めた事例があります。
この事例では、コマ絵等の複製について漫画家からしか利用許諾を得ておらず、原作者からの利用許諾を得ていませんでした。
そもそも本件連載漫画に原作者の著作権が及んでいる(二次的著作物に当たる)のか、及んでいるとして原作者からの利用許諾も別途必要か否かが問題となり、最高裁まで争われました。
最高裁は、まず、本件連載漫画は原作小説の二次的著作物に当たるか否かについて、以下のように判示しました
本件連載漫画は,被上告人が各回ごとの具体的なストーリーを創作し,これを400字詰め原稿用紙30枚から50枚程度の小説形式の原稿にし,上告人において,漫画化に当たって使用できないと思われる部分を除き,おおむねその原稿に依拠して漫画を作成するという手順を繰り返すことにより制作されたというのである。この事実によれば,本件連載漫画は被上告人作成の原稿を原著作物とする二次的著作物であるということができるから,被上告人は,本件連載漫画について原著作者の権利を有するものというべきである。
最判平成13 年10月25日 判時1767号115頁(キャンディキャンディ事件)
続けて、二次的著作物に対する原著作者の権利について、以下のように判示しました。
そして,二次的著作物である本件連載漫画の利用に関し,原著作物の著作者である被上告人は本件連載漫画の著作者である上告人が有するものと同一の種類の権利を専有し,上告人(二次的著作物の著作者)の権利と被上告人(原著作者)の権利とが併存することになるのであるから,上告人の権利は上告人と被上告人の合意によらなければ行使することができないと解される。
同上
つまり、二次的著作物の著作者が独自に創作した部分については、二次的著作物の著作者の権利と原著作者の権利が独立に併存している、ということです。
独立に併存している以上、二次的著作物の著作者から利用許諾を得ていれば二次的著作物の著作者の権利の侵害にはならないが、原著作者からの利用許諾がない限り、原著作者の権利を侵害することになる、というわけです。
以上の判例を踏まえて、二次的著作物における原著作者と二次的著作物の著作者の権利関係は、以下のように整理できます。
原著作者の権利:原著作物+二次的著作物の全部
二次的著作物の著作者の権利:二次的著作物の創作部分のみ
二次的著作物を利用するときの注意
以上のように、二次的著作物の創作・利用に際しては、二次的著作物の著作者だけでなく、原著作者の権利にも常に注意する必要があります。
特に、前述したファンアートのような二次創作は、原作品の売上げや知名度に積極的に貢献している側面もあるため事実上許容されていますが、事実上許容されているだけで、法的には著作権侵害であることには変わりません。
しかしこれでは、「今までは自由に利用できていたのに、突然に著作権侵害で訴えられた!」ということになりかねません。
そのため、二次創作が想定される原作品には、あらかじめ「二次創作ガイドライン」が公表されている場合もあります。
この場合、当該ガイドラインの範囲内であれば、著作権者の事前の許諾があるものと言えるので、その範囲内での利用は、法的にも著作権侵害となりません。
二次的著作物のトラブルに悩んでいるなら弁護士に相談しよう
以上から、まず第一に、二次創作に関するガイドライン等がある場合には当該ガイドライン等を事前にしっかりと確認すること、第二に、ガイドラインやその他著作権者からの事前の許諾がない場合には、端的に著作権法を順守することが必要となります。
もっとも、後者の場合には、著作権侵害に当たるか否かが極めて微妙なケースも多く、また、専門的な判断が必要なことから、著作権を専門とする弁護士の相談するのが良いでしょう。
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カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務
タグ: ビジネスモデルの適法化著作権