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【令和7年4月】「65歳定年」は本当?高年齢者雇用安定法の改正ポイントを解説

高年齢者雇用安定法

雇用を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。中でも、注目が集まっているのが「高齢者の雇用」です。現在経過措置として導入されている「高年齢者雇用安定法」の継続雇用制度は、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢(61歳)以上の高年齢者について、対象者を限定する基準を定めることが認められていましたが、令和7年(2025年)4月より65歳までの継続雇用が完全に義務化され、罰則規定も適用されます。ともすれば「65歳定年制度」のようにも思えますが、厳密には異なるため注意が必要です。

また、本法の改正に伴い、企業内では、雇用契約や就業規則をはじめとして、多くの制度の見直しが必要になります。

本記事では、「高年齢者雇用安定法」の改正点と事業主の講じるべき措置について、ポイントを解説します。

「高年齢者雇用安定法」の概要と改正点

高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)とは、高年齢者の就業機会の確保や労働環境の整備をし高年齢者の雇用促進を目的に制定された法律です。少子高齢化が進み、生産年齢人口(15~64歳)の減少が社会問題となったことから、労働意欲を持つ高年齢者を安定して雇用することで労働力の確保を目指したことが背景にあります。

昭和46年(1971年)に「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」が制定され、昭和61年(1986年)に現法令名に改称されました。

平成25年(2013年)度から老齢厚生年金における受給開始年齢の引き上げ(65歳)に伴い、年金受給の開始まで高年齢者が働けるよう、「65歳までの雇用確保」の義務化を目的とした改正法が平成25年(2013年)4月に施行されました。

この改正は、経過措置として、事業主には継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが認められていました。

さらに令和3年(2021年)4月には、「70歳までの就業確保措置」を努力義務とした改正法が施行されました。

そして企業の経過措置は令和7年(2025年)3月をもって終了し、令和7年4月より65歳までの継続雇用が完全に義務化されます。一見すると「65歳定年引き上げ」のようにも思えますが、厳密には違うので注意が必要です。

定年後の継続雇用制度の対象者を限定していた企業に対して、希望者全員を対象者としなければならなくなったということです。つまり、継続雇用の対象者を限定していなかった企業は何も変わりません。

また、注意が必要なのは、高年齢者雇用確保措置は、「希望者に対する措置」であり、雇用の継続を希望しない社員まで雇用する義務はありません。要するに「60歳を超えても働きたいと希望する社員は全員継続雇用しなければならない」ということです。

企業側は、高年齢者の雇用確保措置として、以下のいずれかの措置を講じる必要があります(高年齢者雇用安定法第9条)。

  1. 定年制の廃止
  2. 65歳までの定年の引き上げ
  3. 希望者全員の65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)

このうち、大半の企業が導入しているのは、3の継続雇用制度の再雇用制度です。

高年齢者雇用安定法の罰則

経過措置の終了に伴い、違反した事業主には、現行の罰則規定が適用されることになりました。

  • 指導・助言・勧告に従わなかった場合は、公表すること(高年齢者雇用安定法第10条)
  • 事業主の高年齢者雇用確保措置に対する給付金に関わる報告について、報告をせず、又は虚偽の報告をした場合、50万円以下の罰金に処され、個人・法人の両罰規定となっています(同法第55条, 第56条)。
  • 公共職業安定所長へ一定数(1か月以内に5人以上)の高年齢者の多数離職届出をせず、又は虚偽の届出をした者(法人であるときは、その代表者)は、10万円以下の過料に処せられます(同法第57条)。

次に「高年齢者雇用安定法」改正に伴う、企業の講じるべき措置と留意点について、詳しく解説します。

企業の講じるべき措置と留意点

企業の講じるべき措置と留意点

事業者は、高年齢者雇用確保措置(61歳~65歳)・高年齢者就業確保措置(66歳~70歳)を講じるに当たり、以下の手続きが必要です。

  • 高年齢者雇用状況等報告の準備
  • 措置の選択と対象者の設定
  • 助成金の活用の検討

事業者の講じるべき高年齢者雇用・就業確保措置の中でも、継続雇用制度を導入する場合の留意点について、詳しく解説します。

66歳以上に必要な就業確保措置

法改正により、65歳までの高齢者雇用確保の義務化に加え、66歳から70歳までの就業を確保するため、以下のいずれかの措置を講じることが努力義務として課されることになりました(第10条の2)

  1. 70歳までの定年引上げ
  2. 定年制の廃止
  3. 70歳までの継続雇用制度の導入
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入
    • 事業主が自ら実施する社会貢献事業
    • 事業主が委託・出資する団体が行う社会貢献事業

労働者保護の観点からも、1~3の継続雇用制度が望ましく、4と5の創業支援等措置についても、導入に当たっては「創業支援等措置の実施に関する計画」を作成した上で、労働組合等の同意を得る必要があります。 

61~65歳の高年齢者には、特にこれらの措置に関する制約はないため、導入しても差し支えないと考えられます。

これらに加え、高齢者労働災害防止対策を実施しなければなりません。具体的な取組は、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(通称:エイジフレンドリーガイドライン)を参考にします。エイジフレンドリーとは「高齢者の特性を考慮した」を意味する言葉で、WHOや欧米の労働安全衛生機関で使用されています。

例えば、

  • 高年齢者に関わる安全衛生管理体制の確立
  • 高年齢者が働きやすい職場環境への改善(ハード面・ソフト面)
  • 高年齢者の体力や健康状況の把握

といった、高年齢者が安心して自らの経験を活かして働くことのできる積極的な取組を実施することが、望ましいと考えられます。

継続雇用先の範囲

継続雇用制度の対象者を再雇用する企業の範囲は、自社に限らずグループ会社(議決権の過半数を有する子会社あるいは議決権の20%以上を有する関連企業)までとなっています。

グループ会社で従業員の継続雇用を行う場合は、事前契約が必要です。

雇用条件と就業規則の留意点

雇用条件と就業規則の留意点

高年齢者雇用確保措置を講じる場合あるいは高年齢者就業確保措置を講じる場合であっても、労使の十分な協議の上、高年齢者のニーズに応じた措置を講じることが望ましいといえます。

複数の措置を講じることも可能ですが、個々の高年齢者に配慮し、本人の希望を尊重することが重要であり、従前と異なる業務を行う場合は、リスキリング支援(研修・教育・訓練)を必要に応じて行うことが必要です。

継続雇用をする場合の労働条件については、福岡高裁平成29年9月7日判決(地位確認等請求控訴事件)の裁判例が参考になります。この事案では、期間の定めのない従業員としてY(惣菜販売会社)に勤務していたXが、定年退職に当たって、Yに継続雇用制度による定年後再雇用を申し入れ、Yが再雇用の条件を提示しました。ところが、Xはその条件に応じられないとして退職し,後に損害賠償等を求めた事件です。

高年法第9条に基づく「高年齢者雇用確保措置」を講じる義務は、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件の雇用を義務付けるといった私法上の効力を有するものではないものの、その趣旨・内容に鑑みれば、労働契約法制に係る公序の一内容を為しているというべきであるから、同法(同措置)の趣旨に反する事業主の行為、例えば、再雇用について、極めて不合理であって、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為は、継続雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有するものであり、(中略)当該高年齢者が有する、上記措置の合理的運用により65歳までの安定的雇用を享受できるという労働者の法的保護に値する利益を侵害する不法行為となり得る。(中略)

雇用確保措置のうち継続雇用制度についても、定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当であり、例外的に定年退職前のものとの継続性・連続性に欠ける労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには、同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要である。

福岡高裁平成29年9月7日判決

として、正当な合理的理由がない場合には、継続雇用制度の導入の趣旨に反し、裁量権を逸脱又は濫用したものとして違法であるという判決を下しています。

一方、「高年齢者就業確保措置」対象者(66歳~70歳)の基準については、高年齢者就業確保措置が努力義務であることから、対象者を限定して基準を設けられます。

まとめ:「高年齢者雇用安定法」に関わる労働問題については弁護士に相談を

「高年齢者雇用安定法」の改正点と事業者の講じるべき措置について、ポイントを解説しました。法改正によって「65歳定年」などと言われていますが、厳密には異なります。実際の法改正に適切に対応しなければ、罰則が科されることになるので、注意が必要です。

対応するために、企業側には、高年齢者の継続雇用に伴うリスクマネジメントが求められます。他にも雇用契約や就業規則や賃金体系など、多くのポイントで改定の必要があります。

「高年齢者雇用安定法」について不明な場合や、高年齢者が関わる労働問題については、弁護士に相談することをお勧めします。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。高年齢者雇用安定法の改正に対応するにあたっては、契約書の作成が必要になることもあります。当事務所では、東証プライム上場企業からベンチャー企業まで、さまざまな案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。もし契約書についてお困りであれば、下記記事をご参照ください。

モノリス法律事務所の取扱分野:契約書作成・レビュー等

 

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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